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新潮日本古典集成〈新装版〉 本居宣長集

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: 日野 龍夫
定価: 3,564 円
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    「新潮日本古典集成〈新装版〉 本居宣長集」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      「本居宣長集」 新潮日本古典集成 日野龍夫校注

      江戸時代の国文学者、本居宣長が宝暦十三年(一七六三年)、三十四歳の時分に著した、「源氏物語」についての注釈書である「紫文要領」、そして未完の歌論である「石上私淑言(いそのかみのささめごと)」が、所収されています。 「紫文要領」では、「源氏物語」の登場人物や事件を宣長が紐解いていくことによって、この物語がいかに「もののあはれ」の妙なる発露であるか、文学として優れているかという持論が力強く展開されます。

      歌論である「石上私淑言」では、その論調はさらに激化し、ことに中国思想(儒教)という、議論的性格を持つ、それを顕現させた「詩」と、神道由来ともいえる、たゆみない感情の発露である「もののあはれ」を顕現させた日本の「歌」との対比は、興味深いです。「儒教思想」と、古文辞学派の儒学者、荻生徂徠の「先王の道」と、「詩」と歌」について、日野龍夫氏は「石上淑私言」、四五一頁の注釈にて、下記のように論じます。

      ーーー「議論による説得を旨とする孟子や朱子学と、相手のおのづからの納得を待つ先王の道との対比は、文学論の分野での、議論を主とする散文と、感情を表現する詩との対比とほぼ対応している。(略)孟子・朱子学と先王の道との対比、散文と詩との対比を、宣長は詩と歌との対比に移したのであるーーー 「源氏物語」を、儒教由来の、勧善懲悪の道徳論から解放した宣長ではありますが、彼の、宣長のその中国(儒教)批判は、目に余るものがあります。
      宣長によると、日本は神代の時代には、天照大御神の統治による、いわゆる「惟神(かんながら)の道」が行き届いた国で、人民の心は雅やかで真っ直ぐであったのが、儒仏の教えが伝来してからは、賢しぶった、偽善的で、人間の情を理解しない国民性となってしまった。故に宣長は、神代の大和民族の心を取り戻すため、「古事記」や「源氏物語」、「新古今和歌集」などの古典に学ぶ必要があるとして、その「古典回帰」の思想は、ひいては「神道への絶対回帰」という風采を思わせます。

      それだけならまだしも、宣長の儒教批判は、漢民族へのヘイト・スピーチの様相すら呈しており、「中国人は『道』などという賢しぶった道徳を必要とするほどに、奸悪狡智であった。」という主張を執拗に展開する点は、さすがに辟易しました。この時代の認識として、社会的通念として、こうした考えは学者の間にまかり通っていたのかもしれませんが……。 この二作の著書のみにおいて、宣長は「もののあはれ」を立て続けに唱え、儒教の教えのように実情を偽る、偽善性を批判していますが、「もののあはれ」とは、要約すると以下のような言葉に集約されると思います。
      「嬉しい時は嬉しいと喜び、悲しい時は悲しいと嘆く。人の心はどんな勇ましい男、益荒男(ますらを)であろうと、その心は女々しく、弱々しいもの。だから、感情を偽らずに『あはれ!(この語が促音化したものに『天晴れ』があります)』と感じたことを、心が動いたことを動いたままに、感じたままに表現する。」
      宣長はその人間的情緒こそが人として正しいあり方であると説いているのです。そして、和歌では「花(ことば)」を先とし、「実(こころ)」をあとにするというのも、「まず花咲かで実のなることはなきものなれば、」とし、修辞によって「ことば」を飾るのも、「美しく見せたい」という人情の発露の当然の結果として、この点においては和歌にはある程度の「偽り」を要するとも説きます。
      宣長が「たをやめぶり(手弱女ぶり)」の、豪華絢爛な修辞と、繊細な余情美を見せる作風で知られる歌集、「新古今和歌集」を最上の歌集としたのも、人間の心は「女々しく、繊細」であるという宣長自身の了見に起因するのでしょうか。

      そして、同じく新潮日本古典集成の「源氏物語 一」の解説段に「宣長の説いた『もののあはれ』とは、要するに色好みの心ということであり、それは、平安末から中世を通じてこの物語が読みつがれてきた精神の基盤、具体的には代々の歌詠みの心ーーー平たく言えば、日本の古典文学の伝統ーーーを、明確に言い表そうとしたものにほかならない。」とあります。

      代々の歌詠みの心ーーーしがない歌詠みである私も「もののあはれ」の感度をこれからも高めて、「日本の古典文学の伝統」を大切にしていきたく思いました。

      追記
      源氏物語、途中で挫折してしまいましたが、宣長のこの論説を踏まえた上で、また再び読み返そうかなと思います。
      >> 続きを読む

      2019/01/11 by

      新潮日本古典集成〈新装版〉 本居宣長集」のレビュー

    • 「もののあはれ」は、もののあっぱれで、素晴らしいと感じたもの、ことなどの感動した心や感覚、その対象のことで、繊細さに特定されることではなく、繊細さと同時に寛容さ、など複数の「あはれ」が豊かに入り交じる、和歌に表れる詠み人の感受性のことなんですね。

      間違えて解釈していました。
      >> 続きを読む

      2019/01/25 by 月岩水

    • こちらの読書ログのレビュアーで、素頓狂さんという方がとても見識が深く、レビューを読むと豊かに愉しくなると思われますので、是非とも読んでみてください。 >> 続きを読む

      2019/01/25 by 月岩水


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