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ユートピア (中公文庫)

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: トマス モア
定価: 823 円
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    「ユートピア (中公文庫)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      前回レビューしたエラスムスの親友トマス・モアを年明けにすると、なんだか彼らに怒られそうな気がしないでもないので、年も押し迫ってきましたが、トマス・モアの「ユートピア」をレビューします♪

      トマス・モア(1478年~1535年)はロンドンに生まれ、法律家、政治家、イギリスの大法官を歴任した知識人で、親友エラスムスの「痴愚神礼讃」(1511年)に大いにインスパイアされ、「ありえない国」=「ユートピア」(1516年)を執筆しました。

      この作品タイトル「ユートピア」はモアの造語です。作中主人公のモアが、「ユートピア」に滞在したことのある(と設定した)ポルトガル人からその様子を尋ねる又聞き、回想録形式の物語になっています。

      ――ユートピアとは?
      赤道下にある島で、その周りのリーフ(岩礁)によって、水先案内なしでは容易に近づくことができない地形になっているようです。
      基幹産業は、農業、養鶏、畜産、養蜂、羊毛、亜紗などの第一次産業。共産制を採用して島民内の格差はなく、国民全員の食料や生活必需品を2年分確保した上で、余分があれば輸出します。国をあげて農業を重視し、どうやら独立採算可能な実り豊かな国のようですね。

      国民は勤勉で質素堅実な生活を常識としています。大人は6時間の労働をすることが基本のようで、その余の時間は自由。とくに公開講座や音楽に触れるのが人気。なるべく多くの時間を肉体労働から解放することをモットーとしています(なんと羨ましい~)。

      金銀宝石も産出しますが、国民がこれに価値を認めていません。ただの自然産物として、金銀は受刑者を繋ぐ鎖やトイレの便器に使用し、宝石類は、光り物が好きな幼児の飾りやおもちゃになります(笑)。

      政治は、30世帯ごとに1人の部族長を選出して寄り合い、200人余の部族長から秘密投票により都市統領を1名選出し、部族長が寄り合って協議を基本として評決するシステム。名文の法律はなく、ごく限られた基本法以外存在しません(この点はモアのイギリスを意識しているよう)。国民の教育・教養レベルが高いため、協議と人間の理性から導かれるコモンセンスにより解決可能。

      宗教は、信教の自由が保障されています。ユートピアは非キリスト国。特定の信仰が他の信仰を迫害・抑圧することを禁じています(日本の憲法でも認めていますね)。
      医療レベルは高く、患者の格差もなく、最高水準の医療を受けることができます。また、本人の安楽死の自由も認めています。
      教育・教養レベルは高く、女性は18歳、男性は22歳から婚姻できます。婚姻は自由ですが、基本的に離婚は制限されています。

      平和主義を堅持しているため、他国とは外交により解決しています。やむなく戦争状態になる場合は、自国民ではなく、まず傭兵を活用します(そのための国家備蓄をしている)。
      また、戦争時の逃走兵や庶民の殺戮および略奪行為を厳しく禁じています(これは現代のハーグ陸戦条約に似ていますね~)。

      ――そんなこと、ありえません!? でも凄いかも……。
      すっかり現世に毒された私ですが、これが500年前に書かれたことをつらつら思いますと、時間やノルマやお金に追われまくる現代…はたして人間の尊厳とか真の豊かさとは何なのだろう? という素朴な疑問や思索が広がって、壮大で楽しい作品となりました。

      ふと、井上ひさしさんの「グロウブ号の冒険」(本棚掲載中)を想起しました。
      東大法学部卒の元力士「山田山」は、船旅の途中のカリブ海で遭難してある島に漂着するのですが、そこはくしくもカリブ海ユートピア諸島のトニホキョン島。第一次産業が盛んで――井上さん曰く――権力の発生を防止するため、余剰生産物を生み出してはならないというタブーがあります。じつに奇想天外な島で、「ユートピア」を彷彿とさせます。残念ながら井上さん逝去により未完となりましたが、文豪の遺志を継いで、誰かがこの作品を完成させてくれないかな~

      さて晩年のトマス・モアは、イギリス王ヘンリー8世の離婚に強く反対しました。宗教対立が後々の政争と平和の破壊の火種になることをひどく嫌悪したからです。しかし王は離婚を認めないローマ・カトリック教会と決裂。そこから脱退して、あらたに国教会を設置し、王妃と離婚して別の女性(確か王妃の侍女…)と婚姻しました。

      1535年、王と国権は、大法官まで重用して酷使してきたトマス・モアを反逆罪のかどでロンドン塔に幽閉し、斬首刑に処したのです(57歳)。
      モアがエラスムスにあてた最期の書簡(自分の墓碑に刻む言葉)を読みますと、まさに痛恨の極み。溢れる才気は儚くも断頭台に潰えてしまい、その翌年、彼の後を追うように親友エラスムスも病死しました。

      激動の500年前……人間の理性と学問の大切さと人類の平和や共存を訴えてきた二大巨星は没しました。でも当時の人類の歴史や思想をひもといてくれる作品を残してくれたことを思いますと、はるかな時も場所も超えて、ゆる~りとでも確実に繋がっているようで心温まります。きっとこの先も脈々と読み継がれていくことでしょう。
      最後に、いつもそっと肩を叩かれるような心もちで眺めるお気に入りの言葉をご紹介します♪

      ――明日死ぬかのように生き、永遠に生きるかのように学問する――(トマス・モア)

      皆さまにとって良い年になりますように…🌠
      >> 続きを読む

      2015/12/27 by

      ユートピア (中公文庫)」のレビュー

    • 政治経済で受験したこともあって、作品名と著者名は知っています。

      受験と言う目的から解放された今こそ、フラットな気持ちで読めるのかなぁと思ったりしました。 >> 続きを読む

      2015/12/28 by ice

    • iceさん、コメントありがとうございます♪
      >受験と言う目的から解放された今こそ、フラットな気持ちで読めるのかなぁ

      ほんとに仰るとおりですね。無味乾燥な暗記の目的から解放された古典の本たちは、なんだか別の本のようです……渋く光って見えます(笑)。
      私の下手なユートピア国の紹介より、モアのそれがずっとワクワクできますので眺めてみてくださいね♫
      >> 続きを読む

      2015/12/28 by アテナイエ


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