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スキャナーに生きがいはない (人類補完機構全短篇1)

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: コードウェイナー・スミス
定価: 1,296 円
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    「スキャナーに生きがいはない (人類補完機構全短篇1)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      【壮大な宇宙の歴史を背景に持つ『人類補完機構』シリーズ作品集】
       本作及びその続刊である『アルファ・ラルファ大通り』、『三惑星の探求』は、コードウェイナー・スミスが発表した『人類補完機構』という壮大なシリーズを構成する全ての中・短編を作中の時代順に再編成して収録した本です。
       この『人類補完機構』というものがどういうもので、宇宙はどういう歴史を辿ったのかについては、作中でも系統だって明確に述べられてはいません。
       それぞれの作品の中に垣間見える断片から、読者が組み立てて理解していかなければならないのです。

       私が本書を読んだ範囲で理解し得た内容を整理してみると、およそ人類の宇宙における歴史は以下のような経緯をたどったように思えます。
       まず、地球上で壊滅的な世界戦争が勃発します。
       ロシア、アメリカ、ドイツ、中国などが中心となり、全世界を巻き込んだ破壊的な戦争が起きたようなのです。

       その結果、地球上の文明は破壊され、人類は暗黒時代に突入してしまいます。
       放射能その他の影響でしょうか、人類や他の生物も生態的影響を避けられず、人類の中にはかつての文明社会の遺物を引きずる『真人』もいれば、退化してしまったのか、『愚人』と呼ばれる文明を失った存在も見られます。
       あるいは、熊や犬、猫などの動物が知能を備えて進化・変容したように思われる生物も登場します。
       はたまた、世界中に『マンションニャッガー』と呼ばれる、旧ドイツが野に放った殺戮機械がいまだに徘徊しており、ドイツ人ではないと判断した生物を殺し回っています(これは、ドイツ語のメンシェンイエーガー:人間狩猟機がなまった呼び名なのです)(『マーク・エルフ』)。

       そのような混沌とした暗黒時代にも光がもたらされ始めます。
       それは、破滅的な戦争の最中に宇宙に打ち上げられ、冷凍睡眠に入ることにより生き長らえてきた過去の文明人が地球に帰還することなどがきっかけとなり、人類は再度文明化への道を歩き始めるのです(『昼下がりの女王』)。

       そして、もはや国家が無くなった世界を統一し、人類の保護に乗り出した組織こそが『人類補完機構』でした。
       その後、人類は再び高度の文明を築き上げ、恒星間飛行技術をも手に入れ、過剰に膨れあがった人口に対処するため、遠い星々への植民を始めたのです。

       しかし、初期の宇宙航行技術は過酷なものでした。
       初期の宇宙船は、巨大な帆を張り、そこに恒星などの光を受けてこれを推進力として進む光子帆船だったのです。
       進路に応じて適宜帆を操作する乗員を必要としました。
       その乗員は、自己の寿命を越える超長期間の航海に耐え得るように、主観速度を恐ろしく低下させ、できうる限り自己が排泄するもので生命を維持するような身体改造を施され、冷凍睡眠も併用しつつ、宇宙船が引っ張っていくポッドの中で冷凍睡眠状態にある何万人もの植民者を連れて旅立っていったのでした。
      これは絶望的な航海でもあり、宇宙飛行士は、その本来の寿命を越えて生き続けはするものの、肉体的な老化は避けられず、主観時間では1か月程度が経過したとしか感じられない間に、実際には40年もの時間が経過してしまうという現実にも耐えなければならなかったのです(『星の海に魂の帆をかけた女』)。

       その後、さらに深宇宙への航行が行われるようになり、宇宙飛行士は、更に徹底した身体改造をしなければ到底耐えられない状況になっていきます。
      視覚以外の感覚器を脳から遮断し、機械による身体を持った『ヘイバーマン』へと改造されなければならなかったのです。
       そのような非人間的な身体改造は、犯罪者や狂信者に対して施され、それらのヘイバーマンにより深宇宙への航行が実現したのですが、それらヘイバーマンもトラブルに見舞われる場合があります。
       そのような時、ヘイバーマンの身体を走査し、異常を修復し、その生存を守る存在が必要となり、志願によりそのような能力を備えたヘイバーマンへの改造を申し出た者達が『スキャナー』となったのでした。
       本書のタイトルになっている『スキャナーに生きがいはない』は、このスキャナーの命運について書かれた作品です。

       その後、さらに宇宙航行術は進化し、遂に宇宙船ごと二次元化し、亜空間に潜入してジャンプを繰り返し、長大な距離へと到達する技術が確立しました。
       ところが、亜空間には人間には竜に見える何かが存在していたのです。
       当初は、この竜に遭遇すると宇宙船や乗組員は壊滅的なダメージを受けたことから、二次元化による宇宙飛行は非常にリスキーなものでした。
       しかし、その後の技術革新により、猫から進化したパートナーと航行士が組むことにより、竜を制圧し、ほとんど無傷で亜空間を航行できるようになったのです。
       猫のパートナーから見ると、どうやら竜ではなく鼠に見えているようなのですが(『鼠と竜のゲーム』)。

       遂に人類補完機構は、遙か彼方の深宇宙へまで人類を植民させることに成功し、人類は様々な星で独自の文化を形成していくようになります。

       とまあ、とんでもなく長い悠久の時間にわたる壮大な宇宙誌なのですが、私が驚愕したのは、このような作品が書かれたのが1940年代だったということです。
       当初、完成した作品を出版社に持ち込んでも、当時の出版社は興味を示さず、「極端すぎる」などの理由で原稿を突き返してきたそうです。
       そして、ようやくこれらの作品が陽の目を見たのが、1950年以降だったというのです。

       1950年以降と言えば、SFの黄金期と言われた時代ではありましたが、当時の作品には、今から見れば随分牧歌的な、のどかとも言うべき作品が多く見られ、『人類補完機構』シリーズのような先鋭的な作品はなかなか理解されなかったのだろうと推察されます。
       だって、今読んでも『人類補完機構』シリーズはかなりとんがった作品であり、現在の水準からしても十分に鑑賞に耐える作品なのですから。
       いかにコードウェイナー・スミスの一連の作品が時代を先取りした奇抜なものであったかということがよく分かります。

       この度、冒頭で書いた3冊が再編集・出版されたわけで、これは是非この機会に読むべき作品と思い手に取ってみました。
       続けて読んでいきたいと思います。


      読了時間メーター
      ■■■     普通(1~2日あれば読める)
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      2020/06/03 by

      スキャナーに生きがいはない (人類補完機構全短篇1)」のレビュー


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