こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)

きみの血を (ハヤカワ文庫NV)

4.3 4.3 (レビュー3件)
著者: シオドア スタージョン
いいね! Tukiwami

    「きみの血を (ハヤカワ文庫NV)」 の読書レビュー (最新順)

    最新のレビュー順 | 人気のレビュー順
    すべてのレビューとコメントを開く
    • 評価: 4.0

      【人は皆、傷ついたり苦しかったりする時に、それぞれの解消法を持っている】
       SFの大御所スタージョンの作品ですが、本作はSFではありません。
       じゃあ何なのか?と言うと、ジャンル分けすることに意味があるかどうかは別として、強いて言えばホラーであり、ミステリであり、文芸小説であるとでも言いましょうか。

       本作で主要な役割を果たすのは、ジョージ・スミス(仮名)という若い男性です。
       彼は軍に所属していたのですが、何の理由も無いのに突然少佐を殴ってしまったことから、精神に異常があるとされ、軍病院に送られて来たのです。
       大変無口な男でしたが、主治医の精神科医フィリップの求めに応じて(素直に言うことをきけば早く病院から出られると考え)、自分の生い立ちを書き始めます。

       ジョージは、貧しい家に生まれ、アル中で粗暴な父親と、身体が不自由で父親からいつも殴られている母親のもとで育ちました。
       彼は、父が酒を飲み、理由もなく母を殴るのが嫌でたまりませんでした。
       そして、大きくなるに連れてそんな場面を見るのを避けるため、森に逃げ込むようになったのです。
       森には沢山の動物達がおり、ジョージはそんな動物を狩る術を身につけていったのです。
       ジョージは、父が暴力を振るう場面だけではなく、嫌なことがあると森に出かけて狩をするようになったのでした。

       母親は愚痴っぽい女性でもあり、いつも「自分の身を削ってお前を育ててきたんだ。全てをお前に与えて、与えて、与え尽くしたんだ。」とジョージに繰り返し訴えるのでした。
       そんな母親も遂に亡くなってしまいます。

       父親は有り金全部を飲んでしまうことも度々で、家に金を入れることは一切ありませんでした。
       それでも家に食料があることがあり、当然ジョージが盗んで来たのだということは分かったのですが、それをとがめるようなことはしませんでした。
       むしろ、ジョージを連れて食品店の倉庫に行き、その倉庫から食料を盗んで見せたのです。
       それ以後、ジョージは店頭からではなく、様々な店の倉庫から食品を盗むようになりました。
       ジョージが13才の時、肉屋の倉庫から肉を盗もうとして誤って冷蔵庫の中に閉じこめられてしまったことがあり、盗みに入ったことがバレてしまいました。

       ジョージはこの盗みの件で2年間施設に収容されることになったのです。
       施設での生活はジョージにとって苦痛でも何でもありませんでした。
       これまでの生活よりずっと快適だと感じ、自分を守るために無口を貫き通し、身体も大きかったことからいじめられることもなく、嫌なことは何もありませんでした。
       ですから、森に行きたいという気持ちも全く起こらなかったのです。

       施設での2年間が終わろうとしていた頃、父親が亡くなったと教えられました。
       叔母がジョージを引き取りたいと申し出てきたのですが、ジョージはこれを拒否します。
       自分は施設から出たくないのだと訴えたところ、彼が独り立ちできる16才までの1年間、特別に施設で生活することが認められました。

       ジョージは、父のことが大嫌いでした。
       ですが、亡くなったと知ると、それはそれでショックなのでしょうか。
       再び森へ行きたいという気持ちが湧いてきて、しばしば施設の敷地内にある森へ出かけるようになっていったのです。

       1年が過ぎ、いよいよ施設を出て行かなければならなくなった時、ジョージは叔母に引き取られることを承知しました。
       そして、ジョージは叔母夫婦の手伝いをして農園で働くようになったのです。
       農園の手伝いをしている間に、近くの農家の娘のアンナと知り合いました。
       アンナはお世辞にも美しいとは到底言えない娘であり、スタイルが良いわけでもなく、少々愚鈍な少女でしたが、既に男性経験があり、アンナはジョージを誘ったのでした。
       ジョージとアンナは、それ以後、隠れるようにしてお互いを求め合うようになりました。

       ある時、ジョージはアンナが妊娠したと知らされます。
       アンナは家に閉じこめられてしまい、ジョージとも会えなくなりました。
       ジョージは森に出かけ、罠をしかけて動物を捕るようになりました。
       ある時、ジョージの罠にどこかの子供がかかっていました。
       ジョージはその子供を見て激怒します。
       それは、罠を台無しにされたということもあるのでしょうけれど、それよりも、その子供がまるでアンナのお腹の中にいる子供のように思えたのでした。
       自分が望みもしなかった子供のためにアンナと会えなくなった。
       そう考えたジョージは……。

       その後、ジョージは突然軍に入隊してしまいます。
       軍での生活も、施設での生活同様、ジョージには苦しいものでも何でもありませんでした。
       ところが、ある日、少佐に呼ばれてその部屋に行った時、冒頭に書いた少佐を殴るという事件を起こしてしまうのです。

       ここまでは、ジョージが書いた自分のこれまでの人生の要約です。

       人間、誰しも嫌なことがあったり傷ついたりした時、その人それぞれにそれを解消する方法を持っているものです。
       その方法は人によって様々です。
       ジョージの場合は、その方法は森へ行って動物を狩ることだったのでしょうか。
       ジョージに殴られた少佐は、殴られる前にジョージに対して、「何故森へ行って狩りをするんだ?」と尋ねたのです。
       そうしたら突然殴られたのでした。
       それは何故なのでしょう?

       この作品はミステリだと書きました。
       それは、ジョージは何故特段の理由もなく少佐を殴ったのか?ジョージは精神に異常を来しているのか?という謎をフィリップ医師が徐々に解き明かしていくところがそういう趣があると思います。
       ホラーだとも書きました。
       その理由はここでは書けませんので、どうかご自身でお読み下さい。
       文芸小説であるとも書きました。
       それは、人間心理に深く踏み込んだ描写があり、読了した時に抱く感動があるからです。

       そして、本作はスタージョンらしい、やさしさも漂う佳作だと付け加えておきましょう。


      読了時間メーター
      ■■      楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)
      >> 続きを読む

      2020/03/28 by

      きみの血を (ハヤカワ文庫NV)」のレビュー

    • 評価: 4.0


      幻の名作と言われているシオドア・スタージョンの「きみの血を」を読了。

      東京郊外の米軍駐屯地で、そのささやかな事件は発生した。

      ジョージ・スミスという兵士が、精神科医である少佐の質問を受けている最中、突然グラスを握り潰し、少佐に襲いかかろうとしたのだ。
      だが、自分の手から流れ落ちる血を見るや、兵士は少佐のことも忘れて血の匂いを嗅ぎ始めた。

      彼はおぞましい吸血鬼なのか? 本国に送還された彼に関心を抱いた精神科医アウターブリッジ博士は、彼の心の奥に潜む秘密に迫ってゆく。

      この小説の大部分は、アウターブリッジ博士とその友人であるウィリアムズ大佐との間でやりとりされる夥しい書簡によって占められており、それらを読み進めることで、ジョージの生い立ちを知らされることになるんですね。

      暴力的な父、母の死、逮捕、伯母夫婦のもとでの暮らし、恋人アンナとの出会い、軍隊への志願-----と進む彼の人生は、ただならぬ暗鬱さを漂わせてはいるものの、それすらも"表の物語"にすぎないのだ。

      後半、博士の心理分析と推理によって暴かれてゆく"裏の物語"は、より一層深い闇に覆われている。

      ジョージは、教育からも道徳からも取り残された田舎で、あらゆる人間的感情と無縁のまま育ったために、常人とは異なったスタイルでしか愛を表現することの出来ない不幸な存在なのであり、繁栄を謳歌する米国が置き去りにした周縁部が、文明に対して突きつけた剣であるとも言える。

      物語の真偽を宙吊りにした上で、ジョージのようなアウトサイダーを嫌悪する、我々読者に対して問いを投げ返してくるラストが、何とも言えない余韻を残すんですね。

      吸血鬼ホラーの常套を逆転させると同時に、謎を解くことで別種の戦慄を紡ぎ出した構想は、著者の深い洞察に基づいているのだと思いますね。


      >> 続きを読む

      2019/01/06 by

      きみの血を (ハヤカワ文庫NV)」のレビュー

    • 評価: 5.0

      世の中に数あるヴァンパイア(ホラー)小説のなかでも、本作は異色さと不気味さでは抜きに出る作品だと思います。映像化はある意味不可能に近いので、是非とも手にとって読んでいただきたい。

      とはいえ、異色すぎて好き嫌いはハッキリ分かれるかも(っていうか、分かれるでしょうね)知れませんが、スタージョンの傑作ですし、人間性は疑われても私は強く一読をオススメします。

      2017/07/24 by

      きみの血を (ハヤカワ文庫NV)」のレビュー


    この本に関連したオススメの本

    取得中です。しばらくお待ちください。

    きみの血を (ハヤカワ文庫NV) | 読書ログ

    会員登録(無料)

    今月の課題図書
    読書ログってこんなサービス
    映画ログはこちら
    読書ログさんの本棚

    レビューのある本

    最近チェックした本