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度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)

4.7 4.7 (レビュー2件)
著者: ディック・フランシス
カテゴリー: 小説、物語
定価: 819 円
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    「度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      「馬に乗っていると、自分のすべてをそこに感じる。自分が大きくなったような気がする。新たに一組の手足と脳を得る。スピード、力、勇気が倍増する……勇気……それに神経の反射が敏感になる」

      ディック・フランシスのデビュー第2作目「度胸」
      この作品にはフランシスが本当に書きたかった事が、つまり、騎手はなぜ馬に乗るのか?という問いの答えが描かれていました。

      あなたは馬に乗ったことがありますか?
      たった数回ですが、私はあります。
      馬上の高みから見る景色、乗り物とは異なる生き物の力と意思を感じ、忘れ得ない魅力を感じたものです。
      落馬で骨折が日常茶飯事で、それでも平気で馬に乗り続ける騎手という人種には、到底及びもつきませんが。

      主人公のロバート・フィン(26歳)は障害競馬のプロ騎手。素質十分なものの、まだ2シーズン目の駆け出しです。
      障害競馬の騎手として高みを目指す、野心あふれる青年です。
      そんな彼が踏んだり蹴ったりの目にあってボロボロになって、やがて甦る話です。
      フランシスなので!

      レースシーンもたっぷり描かれていますので、競馬ファンならばより楽しめそう。
      日本と異なる競馬事情も解ります。
      何より驚いたのはアマチュア騎手とプロの騎手が一緒のレースに出て賭けの対象になっている事、
      プロ騎手のほとんどはフリーで、1回いくらという騎乗料で生活を立てているという事でしょうか。
      信用を失った騎手は仕事の依頼がなくなりたちまち困窮してしまうでしょう。
      一流の騎手には技術の他にも「信頼」「度胸」と言った人間性の部分も非常に大切なのです。

      主人公は「興奮」のダニエル・ロークと異なり「孤高のヒーロー」ではありません。
      騎手仲間に親友も友人もいますし、両親も健在、助けを求めるべき大人も周囲にいる。
      いとこのジョアンナにずっと昔から実らぬ初恋を片想い中。

      その上、ロッブには弱点があります。
      コンプレックスです。
      父は世界的に名の通ったオーボエ奏者、母は有名なピアニストというクラシック音楽家の一族に生まれつきながら彼だけが音楽音痴という肩身の狭さ。

      そんな両親の元に生まれたことについて、彼の言葉を長いけれど引用します。

      「母は、子供の頃の私にとって慰安を求める対象ではなかったし、大人となった今の私にさして愛情にみちた関心を示さないが、自分自身の行ないによって、人間として大切にし尊敬すべき数多くの資質を現実に見せてくれた。例えば、専門家気質(プロフェッショナリズム)である。目的に対する単純、強固な意志がある。たんに努力することによってより高度なものに到達しうる時、低い水準における満足感を拒否する。彼女が母としての役割を拒絶したがゆえに、私は若くして徹底的な自主独立の精神を身につけた。そして、聴衆の面前における栄光のかげの骨身を削る努力を見ているがゆえに、自らの努力なくして人生の果実を期待してはならないことを知りつつ成人した。母親として息子にこれ以上の教えを与えることができるだろうか?」p.102

      音楽という形ではなかったけれど、彼の性格を形作ったのは両親です。
      理性ではわかっていても心の奥に疎外感が残っており彼を解放してくれないという精神的葛藤がこの小説の一つのテーマです。

      なので、単なるミステリーや冒険小説とは別格の読み応えがあるんですよ。

      ロッブは落ち込みもするし、やけにもなる。
      でも素直で優しく嘘の無いロッブの生きざまを追ううちに、きっと彼を応援してあげたくなることでしょう。
      悪役の罠にはまって、絶体絶命のピンチに陥るフィン。
      その時も無敵のヒーローでもなんでもない彼は、あがき、泣き、苦しみます。しかし「どんなことがあっても、彼を今のままでのさばらせておくことはできない」との思いで復活します。
      そして一回り大きな男として帰ってきてくれるのです。

      特筆したいのは、本作のヒロイン、ジョアンナ。
      彼女もプロの声楽家なのです。
      その生き生きとした存在感は格別です。
      こういう女性を選ぶロッブも褒めてあげたい。

      敵の邪悪さは、フィンの姿の裏返しでもありました。
      この設定がまた秀逸なのです。
      彼の使った手段の卑劣さは単なる暴力とは異なる歪んだ悪意があって、むしろ非常に現代的な問題提起でもあると思います。

      人を評価するとき、何をもって、彼を判断するのか。

      私としては、この敵さんがみっともなさ過ぎて、そこがちょっとマイナスなのですが…。
      とはいえ、人物のバックグラウンドの設定も筋が通っていて、ロッブとジョアンナの関係の微妙な変化もとても上手に描かれています。
      作家としてのフランシスの力量に感服することは間違いないと思います。
      これがデビュー2作目だなんて!!
      (早川文庫では5冊目に出版されています)
      >> 続きを読む

      2019/04/16 by

      度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)」のレビュー

    • 待ちに待った月うさぎさんのディック・フランシスへの限りなき愛に満ちた作品レビュー。やはり、予想した通り「度胸」でしたね。

      一読して、唸り、共感を覚え、そして的確な分析と、さすが月うさぎさんのレビューは読み応えがありますね。

      私もつい最近、フランシスの作品を全作読み終えて、何気なく彼の作品歴を時系列に見ていると、晩年は別にして、1962年にシリーズ1作目の「本命」を発表してから、1965年の同年に3作目の「興奮」と4作目の「大穴」が2冊出版された以外は、ほぼ毎年一冊ずつ、きちんと出版されているんですね。

      だが、1作目の「本命」と2作目の「度胸」の間だけ、1年の空白の期間があるんですね。
      この空白には、いったいどんな意味があるのだろうかと考えてみると、おそらくデビュー作の「本命」で作家としてやっていけるという手応えのようなものを感じたフランシスは、2作目の「度胸」にかなり慎重に時間をかけたのではないかと思うんですね。

      文壇にデビューした新人作家にとって、2作目というのは世の東西を問わず、まさに作家としての真価と力量を問われる大事な作品になる訳ですから、構想を練りに練ってプロットを構築し、文章も推敲に推敲を重ねて、プロの小説家として俺はやっていくぞという、強い決意と意志を込めて、新たなスタートとして書き上げたのが、この「度胸」だと思うんですね。

      つまり、仕切り直しの時間が、この1年間の空白の期間だったのだと思います。
      そして、事実そう思って改めて読み直してみると、作品全体の印象として、確かにきちんと丁寧に話がまとまっていて、フランシスという作家の真剣さ、気合の入れようまでが、行間の隅々から立ち昇ってくるようで、ピリッと引き締まった作品になっていると思うんですね。

      この「度胸」の主人公の駆け出しの障害競馬騎手のロバート・フィンが、自分に襲いかかってくる見えない魔手に、敢然として立ち向かうというフランシス小説の得意の構図も、その敵はまさしく正体不明、どの人間社会にもつきものの噂話、風聞という実体のない化け物で、そういう悪意に満ちた影の存在に迫っていくという話は、一歩間違えると、理屈っぽく回りくどいだけの話になりがちですが、この一番難しいテーマをまったく破綻なく、簡潔でスッキリした文章でまとめ上げ、見事な作品に仕立てているのは、さすがにフランシス、うまいし、読ませますよね。

      こういうものが書ければ、もうあとは大丈夫といったお手本のような作品で、フランシス小説の精髄がこの「度胸」にはギュッと凝縮されて詰まっていると思いますね。

      とにかく、この「度胸」は、読み返せば読み返すほど、輝きが増してくるフランシス小説の原点、プロとしてのスタートを飾る、まさに記念碑的な作品だと思いますね。

      >> 続きを読む

      2019/04/16 by dreamer

    • dreamerさん!! なんて素敵なコメント。
      コメント欄ではもったいないです。ああ、みんなに読ませたい。
      フランシス、全作品読まれたんですね!私も頑張って再読からスタートします。
      dreamerさんは実に多くの本を読まれていますね。
      頼もしいお友達ができて嬉しいです

      今回の再読ではかなりじっくり読み込んでみました。
      >「度胸」は、読み返せば読み返すほど、輝きが増してくるフランシス小説の原点、プロとしてのスタートを飾る、まさに記念碑的な作品
      まさにそうなんです。初読の時は、それほど強い印象を残した作品でもなかった。
      だって「興奮」と「大穴」の後に読んでしまっていましたからね。
      これが2作目であることを知って読めば、練り上げたテーマ設定に感嘆しました。
      人が自律するとはどういうことか。実に深い問題だと思いました。

      「悪評」「風評」の被害は現代ではだれの身にも降りかかりかねない災難です。
      メディアリテラシーに関していち早く問題提起をしているフランシスの意識の高さに驚きです。
      単なる悪意で人を破滅させる卑劣さ。
      情報を受け取る側も自らの曇らぬ目で人や状況を見抜かないといけませんね
      >> 続きを読む

      2019/04/17 by 月うさぎ

    • 評価: 5.0


      ディック・フランシスの「興奮」を夜寝る前に軽い気持ちで読み初めたところ、一睡もせずに、それこそ、"興奮"して一気に読み終えた事が、彼の小説との出会いでした。

      主人公のオーストラリアで牧場を経営するダニエル・ロークが、英国の競馬の障害レースで謎の興奮剤を使用した不正事件が発生し、その証拠を上げるために、理事のオクトーバー卿に依頼され極秘の調査に乗り出す事に----。

      そして、英国に渡り、厩舎に潜入し、自ら馬丁に身を落とし、この陰謀渦巻く世界で、その卑劣な陰謀を不屈の魂で暴いていくという、ハラハラ、ドキドキ、ワクワクするような、血沸き肉躍る、"興奮"を味わった小説でした。

      このディック・フランシスは、一貫して競馬にその題材を得た作品を書き続けた作家で、主人公は騎手だったり、牧場主だったり、競馬記者だったりするのですが、彼が紡ぎ出す豊穣な物語の世界は、いつも"競馬界"に何らかの関わりを持っていると思います。

      フランシス自身が騎手出身なので、彼が熟知した世界を描いているのでしょうが、それがフランシスの世界に"競馬ミステリー小説"という枠組みを与え、結果として特殊なジャンルにはなっていますが、彼の一連のこのシリーズは、紛れもなく"男の誇りと勇気とストイシズム"を描いた、イギリスの"冒険小説"の系譜に属するものであると思うのです。

      デビュー作の「本命」に続く、彼の第2作目のこの「度胸」は、このシリーズ中でフランシスの特徴が最も良く出ている作品だと思います。

      この小説の主人公は競馬の騎手。新米騎手がレースを勝つ事の充実感、騎手仲間を襲うアクシデントをめぐる謎、そしてラブ・ロマンス。そのどれをとっても描写がみずみずしく、生き生きとしていて、その躍動感は彼の初期の作品の中では群を抜く素晴らしさだと思います。

      そして、この小説が素晴らしいのは主人公の設定にあるような気がします。彼は音楽家の家に生まれながら、一族の中で彼だけ音楽的な才能がなく、騎手になってしまったという設定なのです。つまり、彼は家庭から疎外されていて、この疎外感、特に、"父親不在"というものが、フランシスの作品を貫くキーワードだと思うのです。

      父親と対立していたり、愛情の触れ合いがなかったり、天涯孤独の身であったり、とフランシスの作品には、"父親喪失"のドラマが非常に多く、しつこい程このパターンを守り続けているような気がしています。

      それは何だろうといつも考えるのですが、多分それは、フランシスが作品の主人公に与えたい"深い失速感"というものではないかと思うのです。

      冒険小説というものは、ハードボイルド小説と同じように、"男の復権の物語"だと私は思っています。挫折し、何かを失った地点から男が敢然と立ち上がってくる姿を、冒険小説は、"ヒーローの再生物語"として描いているのです。

      そして、この「度胸」という小説がフランシスの小説の原型となっているのは、闘うべき敵は弱くて脆い自分自身であるとの視点が、この小説の中にきちんと表われているからだと思います。すなわち、"度胸喪失の苦悩"から主人公がいかにして這い上がるのか----という過程が、この小説の重要なポイントになっていると思うのです。

      >> 続きを読む

      2016/09/09 by

      度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)」のレビュー

    • 月うさぎさん

      月うさぎさんのディック・フランシスへの溢れんばかりの"愛とリスペクトとオマージュ"が、いただいたコメントの行間から熱く熱く伝わってくるようで、こちらこそ、月うさぎさんへ、"ありがとうございます"と言いたいくらいです。

      こんなにも、ディック・フランシスをお好きな方がこの世にいらっしゃる、しかも全作手元にあるという素晴らしさ----。これがわかっただけでも、フランシス作品の初心者である私は月うさぎさんの足元にも及びませんし、また、同じ気持ちを共有されている方がおられると思うだけで、私の心は高揚してきます。

      これ程、我々読者を魅了してやまないフランシスのこの小説の魅力というのは、"男の誇りと勇気とストイシズム"を父親喪失の背景に、主人公の鬱屈を重ね合わせ、そこから立ち上がってくる"男の復権"のドラマだったと思いますが、更にもう一歩深化させたのが、3作目の「興奮」に続く4作目の「大穴」ではないかと思っています。

      「度胸」が肉体的な危機はあるものの、どちらかと言えば、誇り勇気、そういう"精神の闘い"であったのに比べ、この「大穴」では"肉体"が核になっているような気がします。

      元チャンピオン・ジョッキーが過去を引きずって、死んだように生きているという設定で幕を開けるこの小説は、二週間の冒険を通して主人公のシッド・ハレーが"自己を解放"するまでの力強い物語になっていたように思います。

      それは、つまり"心の鬱屈"を抜け出る闘いなのですが、クライマックスでの拷問シーンに見られるように、「度胸」より肉体の色調が遥かに色濃くなっていて、"闘うべき敵は弱音を吐く自分自身の肉体"であるとの視点"になっていたと思います。

      そして、この「大穴」の主人公シッド・ハレーが、シリーズ18作目の「利腕」で再登場して来ますが、この「利腕」のテーマは、"男の恐怖心"であったと思うのです。

      "闘うべき敵は弱くて脆い自分自身であるとの視点"は、「度胸」を貫くテーマでしたが、その線を一歩進めて、"闘うべき敵は自分自身の体の裡にひそむ恐怖心"であるとの視点"に辿りついているのだと思います。



      >> 続きを読む

      2016/09/09 by dreamer

    • フランシスを語りあえる人がどこにもいなくて~。ホント嬉しいです。
      「大穴」名作中の名作ですよね。これより痛い小説、これほどに痛みを我がものとして考えた作品はありませんでした。
      シッド・ハレーは全部で4作に登場します。最新作は晩年の作品なのであまり有名ではありませんが。唯一複数作品に登場するキャラクターでシッドはフランシスの最も愛する主人公なんです。そして男性ファンが最も多いのがシッドです。

      私は…。シッドは当時はちょっとオヤジキャラに思えたんですね。
      要するにダイ・ハードのブルース・ウィリスのように。
      今から考えると赤面しますが。ダニエル・ロークが最も印象的な主人公で、でも一番好みだったのは「血統」のジーンだったりするんです。
      若いころはね。こういうのが好きだったのよね。ははは。
      きっと今ならシッドが若者に思えると思います。
      (それが怖いってのも再読していない一つの理由だったりして)
      >> 続きを読む

      2016/09/09 by 月うさぎ


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