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日の名残り

4.4 4.4 (レビュー17件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 798 円

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

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    「日の名残り」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      カズオ・イシグロの1989年度のブッカー賞受賞作品「日の名残り」を読了。

      この作品は、スティーブンスがコーンウォールへ車で旅行しながら、ダーリントン・ホールが華やかなりし頃の出来事を回想するだけの物語なのですが、とても美しい作品です。
      良い小説とは、こういった作品のことを言うのかもしれませんね。

      スティーブンスの執事としての誇り、執事に大切な品格の話なども興味深いですし、気さくにジョークを飛ばす新しい主人に戸惑い、もしやジョークを言うことも執事として求められている仕事なのかと真剣に考えてしまうスティーブンスの姿が微笑ましいです。

      ここには、慇懃でもったいぶっていて、少々頑固な、古き良き英国の執事の姿が浮かび上がってきます。
      20数年前、ダーリントン・ホールに来客が多かった時期の回想では、第二次世界大戦前から戦時中に行なわれた会議のことも大きく語られます。

      世界的に重要な人物たちを招いた晩餐での、スティーブンスの仕事振りは、実に見事です。
      慌しい中で冷静沈着に全てを取り仕切り、そのプロ意識は、父親の死さえ看取ることを彼に許さないほどなのです。
      回想ながらも、その緊迫感や、見事に仕事をやり遂げたスティーブンスの高揚感が十分伝わってきます。

      そして、一番面白かったのは、スティーブンスとミス・ケントンのやりとりですね。
      最初はことごとく意見が対立し、冷ややかなやり取りをする二人ですが、カッカしている二人の姿が、実に可愛いのです。

      美しい田園風景が続いたドライブ、そして最後の夕暮れの中の桟橋の場面に、スティーブンスの今までの人生が凝縮されて重ね合わせられているんですね。

      最高の執事を目指し、プロであることを自分に厳しく求めすぎたあまり、結局人生における大切なものを失ってしまったスティーブンス。
      老境に入り、些細なミスを犯すようになったスティーブンスは、恐らく今の自分の姿を父親の姿とダブらせていたことでしょうね。

      今や孫もいるミス・ケントンに対して、自分はあとは老いるだけだということも-----。
      もちろんスティーブンスの中で美化され、真実から少しズレてしまっている出来事も色々とあるのでしょうけれど、無意識のうちにそうせざるを得なかったスティーブンス自身に、英国という国の斜陽も重なって見えてきます。

      第二次世界大戦後のアメリカの台頭と英国の没落。ダーリントン・ホールの今の持ち主もアメリカ人。
      こうなってみると、戦前に行われた重要会議でのやりとりが、実に皮肉です。

      そして、英国では最早、本物の執事が必要とされない時代になりつつあるのです。
      そんな中で「ジョークの技術を開発」するなどと言ってしまうスティーブンスの姿が、切ないながらも可笑しいですし、作者の視線がとても温かく感じられます。

      >> 続きを読む

      2021/02/24 by

      日の名残り」のレビュー

    • 評価: 3.0

      【一流の執事というものは……】
       イギリス以外の国には召使いはいるが、執事はいない。
       これは作中に出てくる言葉です。
       本作は、一流の名家であるダーリントン・ホールに執事として勤めた、主人公スティーヴンスの物語です。

       一家の主ダーリントン卿は3年前に他界し、屋敷は現在アメリカ人の富豪の持ち物になりました。
       新しい家主は、イギリスの一流の執事を所望したため、スティーヴンスも屋敷に残ったのすが、屋敷を去る使用人も多くいました。
       時代が変わった今では(1956年が本作の時代になります)優秀な使用人を得ることは困難だということで、少ない人数で屋敷を切り盛りすることになったのですが、いかんせん人手不足は否定できません。

       ある時、新しい主人から、「しばらくアメリカに帰るから、その間スティーヴンスも旅行でもしてくれば良い」と言ってくれたことを機会に、スティーヴンスはある計画を立てます。
       それは、かつてダーリントン・ホールに努めていた女中頭を再度屋敷に呼び戻そうというものでした。

       主人が貸してくれた車に乗り込み、この計画の実行に着手するスティーヴンス。
       本作は、旅行の過程での、スティーヴンスの執事論、回想録といった内容になります。
       優れた執事たるものこうあるべきであるという話が主となりますので、一風変わった内容の作品になっています。

       ダーリントン卿は、ナチス・ドイツ・シンパであるということで、かなり批判もされているのですが、卿を尊敬してやまないスティーヴンスは、それは誤解であり、真実は違うのだと力説します。
       そして、その様な素晴らしい主人に仕えられたことは執事として大きな幸せであり、自分は一流の執事として常にベストを尽くしてきたのだと自負しています。

       しかし、物語のラストでは……。

       一人称で淡々と語られる執事の回想録であり、何か大きなできごとがあるという作品ではありません。
       英国執事とはどういうものなのかを得意気に語るスティーヴンスの語りを負う作品ですが、最後の最後でもの悲しさを味わうことになるでしょう。

       本作は、アンソニー・ホプキンス主演で映画化もされたそうです。
       見てはいませんが、おそらく静かな渋い映画になったのではないかなと想像しちゃいます。

      >> 続きを読む

      2019/09/12 by

      日の名残り」のレビュー

    • 評価: 5.0

      格調高い文章に、背筋が伸びる思いがする。主人公は英国人の執事スティーブンス。アメリカ人の主人から休暇をもらい、短い旅に出る。旅のなかで語られる、前の主人に仕えていた日々が物語の軸になっている。

      スティーブンスは誇り高く、有能な執事だ。かつては頻繁に重要な会議が開かれるお屋敷で、采配をふるっていた。しかし、執事としての品格や偉大さを大事にするあまり、相手の気持ちや自分の気持ちにすら思いが至らない堅物な面もある。その頑なさは、ときに滑稽に映る。

      語られるのは、かつての主人であるダーリントン卿を敬愛し、ダーリントン卿に仕えることがすべてだったスティーブンスの輝かしい日々とその終焉だ。物語の終盤、旅の途中で出会った男に昔話をしているうちに、自分の誇りや信じたものはいったい何だったのだろうと涙を流す。人生の黄昏時にさしかかって、自分の大事にしてきたものがむなしいものだったのではないかと思うのは、あまりにも切ない。そんなとき、話を聞いていた男が言う言葉に、スティーブンスはそっと背中を押してもらうのだ。後ろばかり向いてちゃいけないよ、と。

      人は簡単には変われない。特に年齢を重ねてからはなおさらだ。そんな自分を受け入れつつ、前を向こうとするスティーブンスが愛おしい。最後の数行に、胸がいっぱいになった。
      >> 続きを読む

      2019/08/15 by

      日の名残り」のレビュー

    • 評価: 5.0

      執事のスティーブンスは、新しい主人であるファラディがアメリカに5週間帰ることを機に、5~6日の休暇を与えられます。
      イギリスの田園風景の美しさを見ながら、長年仕えたダーリントン卿や父、女中頭との思い出を振り返り、スティーブンスの人生が語られていきます。

      この主人公の印象としては、一緒にいたら息がつまりそうになる程の真面目さ、頑固さを感じました。
      せっかくの休暇ですら、「偉大な執事とは」「執事の品格とは」と仕事のことばかり考えているのですから。
      仕事人間ですね。
      仕える主人が変わり、最大二十八人の召使が雇われていたダーリントン・ホールを四人で切り回す職務計画にも取り組んでいました。
      かなり悩ましい働き方改革だと思います。
      頑固だな、融通が利かないなと思いながらも、執事の品格を常に考え続ける彼にくすりとさせられました。

      ※以下、ネタバレのためご注意ください。





      そんな執事の人生を振り返る旅行記が最後まで描かれていると思っていたのですが、最後の最後でこの本の印象をひっくり返す仕掛けがありました!
      五日目の空白後の、六日目。
      仕事人間の旅の終わりは、実は長年仕えた主人に何もできなかったこと、私生活での失敗で自分を見返り、男泣きの姿が描かれていました。
      読了して読み返すと、初読の時とは違った目で彼を見るようになります。
      回想していた頑固で真面目なスティーブンスというより、旅先で垣間見えた不器用で滑稽な姿が再生されてしまいますね。
      印象ががらりと変わるっておもしろい。
      後悔はあるかもしれないけれど、それでもあなたがやってきた仕事は立派だったよ、と声をかけてあげたくなりました。

      初めてのカズオ・イシグロ作品、とても良かったです。
      続けて「わたしを離さないで」を読んでいます。
      読書ログでchaoさん、弁護士Kさんと語り合えたから読もうと思った本書。ありがとうございます!
      >> 続きを読む

      2018/09/30 by

      日の名残り」のレビュー

    • 美空さん
      私の拙いコメントにやさしい言葉の数々!
      こちらこそ、ありがとうございます!

      2018/10/16 by あすか

    • 月うさぎさん
      ありがとうございます!
      空白後の6日目が本当に見事で、いたたまれなくなっちゃいました。
      >作家の皮肉な目線と大きなやさしさの両方にしばし呆然としました。
      ですね!!!
      皮肉に描きながらも、決して突き放したりはしない。そんな作者の気持ちが伝わってくるようでした。
      そういわれてみれば、「春にして君を離れ」と同じですね。どちらの作品もガツンと衝撃がありました。

      「わたしを離さないで」、続きを読むのがますます楽しみになりました!!!読了後に月うさぎさんのレビューを読むのが待ち遠しいです。
      >> 続きを読む

      2018/10/16 by あすか

    • 評価: 5.0

      「私にはダーリントン卿がすべてでございました。もてる力をふりしぼって卿にお仕えして、そして、いまは……」
      時は1956年7月
      語り手のスティーブンスは、執事の中の執事。

      執事が旅行するという設定は新鮮ですね。
      お屋敷を離れ初めてのドライブ旅行に出かけたスティーブンスの胸中に去来する様々な記憶や思い。
      初老の男の回想録、もしくはロードムービーのような旅小説、と思えますが、実はそれだけではありません。
      読者は言葉の裏にある意味、事件の背景、敢えて語られないことに注目して読み進めなくてはなりません。
      まるで、謎ときゲームのように。
      すると全く別のストーリーが浮かび上がってくるのです。

      小説のテクニックという点でいえば、「日の名残り」がカズオ・イシグロの最高傑作であるという意見も当然ですね。
      テーマも複層的で深いです。
      何通りものアプローチが可能な、文学としてとても楽しい作品だと思います。
      翻訳も申し分なく、まるで初めから日本語で書かれていたかのようです。

      スティーブンスの分析によれば「品格」とは「公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないこと」。
      つまり克個心を持ち高潔で裏表のない態度を常に保てる意識の高さとでも言えましょうか。
      偉大な執事を目指して奮闘努力のあまりに、身も心も執事になり切ろうと、個人的感情や意見や欲望をすべて抑圧してきた彼。
      それが、お屋敷を離れ初めて「自分」と向き合います。

      私は学生時代、日記を書いていたことがあります。
      思いのたけを誰に向けてでもなく、でも読者を想定して書くのが日記。
      この場合、読者とは後日の自分自身。
      真相を知る当事者であり、かつ第三者の目を獲得した読者。
      この作業において、自分のありのままの本音を書くのがどれだけ難しいかに直面せざるを得ませんでした。
      自分に正直になり善きも悪しきも受け止め赤裸々に告白することはフィクションを書くよりも難しい…。
      誰しも自分に嘘をつき、ごまかしながら生きています。
      都合の悪いことには目をつぶり、良心の声に耳をふさぐこともあります。

      スティーブンスの場合は執事の職に邁進することで自己から逃避していたといえるでしょう。
      日々忙しく、これぞ充実人生と考えている人は、多かれ少なかれ同じ過ちをしているはずです。
      人間性というものを追及したり自分を見つめるなんて、ヒマ人にしかできないのですから。


      彼の回想は第1次大戦以後、第2次大戦をまたいで語られていきます。
      ヨーロッパの動乱期という背景の中、彼のお屋敷、ダーリントン・ホールでは多くの秘密会議が開かれ、重要人物たちが出入りします。
      それを身近に眺め、その一員になったかのような自己満足を得る彼。
      それでいながら彼は何の批判も感想も意見も持ちません。
      「それは私のお役に立てる事柄ではないようでございます」
      そうやって日常にのみかかずらわって毎日を送り、他者を思いやることを怠っていました。
      それでいい訳がない!と読者は思いますが、果たしてそれを責める資格が自分にあるでしょうか?
      大きな問題は自分に責任はないと?

      ダーリントン卿という敬愛するご主人を持てた幸せを想いつつ
      彼の心には別の感情が常に重低音のように鳴り響いています。
      それはダーリントン卿が社会からはナチの協力者として非難されている現実によるものでした。

      スティーブンスが口を閉ざしている事実はいつも他者の口から語られます。
      カーライル医師やレジナルド・カージナルズ、ミス・ケントンらによって語られる物事の別の側面、一つの真実を知らされるとき、突如、スティーブンスの語る物語の「嘘」が暴かれ、世界が崩壊するのです。

      カズオ・イシグロは、失われてしまった人生に対し、決して厳しく弾劾するようなことはしません。
      物語はどこへも行きません。
      スティーブンスも哀れに残照に涙を流すのみです。
      彼は新しいアメリカ人のご主人のため、執事道を再び歩みゆくでしょう。
      生き方を変えることも、自己再生もなし、です。

      部分的には誇張された「執事キャラ」に、あり得ない!と笑わされながら、ラストに味わうこの苦い思いは何?
      旅行記スタイルなのに「肝心」の「五日目」の章が「書かれていない」衝撃!
      多くの想いが沸き起こることでしょう。
      そしてきっと個々人の胸の中にスティーブンスに対する共感が。

      う~~ん。うまいな~~!!
      小説として、カズオ・イシグロのすごいなと思うのは特にこういう部分ですね。

      スティーブンスの独りよがりがここで一気に人間の普遍のテーマへと昇華します。

      盛り上がりには欠ける小説ですが、味わいは天下一品
      そんなおすすめの小説だと思います。


      ところで、翻訳者の土屋さんに指摘されるまで無知でしたが、1956年7月といえば「スエズ動乱」
      英仏にとって戦後最大の大事件であり直接かかわった大きな戦争で、かつ失敗した戦争です。
      英国人にとっては何も示されなくともその年だとピントくるはずで、言及されないことの作為に気づかない人はいないでしょう。
      自然「日の名残り」とは、大英帝国の栄光が、没落していく最後の残照であると読み取れることでしょう。
      これは英国の古き良き時代の終焉の物語でもあるのです。
      2つの大戦の戦勝国である英仏が新興勢力の米ソに歴史の表舞台を乗っ取られる皮肉な運命
      そういう時代の流れを考えれば、ダーリントン・ホールの新しいご主人様がアメリカ人なのも、当然なのです。


      まるで多面体やだまし絵のように、注目ポイントを変えるだけでいろいろなフォルムが浮かび上がってくるこの小説。
      もちろん恋愛小説として読むのもよし、です。

      あなたにはどんな絵が見えてくるでしょうか?
      >> 続きを読む

      2018/08/08 by

      日の名残り」のレビュー

    • 読書ログをしばらくあんまり見れずにいたのですが、その間に月うさぎさんのレビューがたくさん♡「日の名残り」のレビューも見落とすところでした、危ない!!!

      とーってもよかったと思ったこの小説を「盛り上がりには欠ける小説ですが、味わいは天下一品」と月うさぎさんがレビューされていてなんだか嬉しい気分です♪(感想が違うときもそれはそれで勉強になるのですが♪)

      ただ私、なんと

      >旅行記スタイルなのに「肝心」の「五日目」の章が「書かれていない」衝撃!

      この事実に今まで気が付いていませんでした!他の方のレビューって本当に多くのことに気づかされます。
      >> 続きを読む

      2018/08/21 by chao

    • chaoさん コメントお久しぶり。どうもありがとうございます。
      お勧めいただいた本書、ようやく読みました。この小説もよかったです♪
      小説らしい小説を読んだ満足感がありますね。

      そうなんですよ、ミス・ケントンにあった当日のことが書かれていないのです。
      「書けなかった」のです。書くためには1日間の虚脱期間が必要だったという事で、胸がつぶれる程の感情の動揺があったと推測することができるのですね。

      この「旅行記」の中身は実はスティーブンスの言い訳に過ぎないのです。
      その言い訳もできないほど完膚なきまでに叩きのめされたのでしょう。

      ミス・ケントンはダーリントン・ホールには「戻りません」よね。
      すべては「遅すぎた」のです。
      残照は美しいですが、陽が輝きを取り戻すことはなく、沈むのみです。
      この後悔の念を書かないで表現する。渋いな~~と私は嬉しかったです。

      カズオ・イシグロ作品はどうやら、書かれていることは嘘で、書かれていないことを発見するというのがお約束みたいですよ。
      だからその解釈には読者の数だけ、バラエティがあるのです。面白いわ。
      >> 続きを読む

      2018/08/21 by 月うさぎ

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