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日の名残り

4.6 4.6 (レビュー12件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 798 円

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

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    「日の名残り」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0


      ノーベル賞作家カズオ・イシグロの「日の名残り」を再読しました。

      この物語の語り手は、人生の大半をダーリントン卿の執事として送ったスティーブンス。

      召使いたちの長として、大邸宅の運営に務めてきた彼だったけれど、今は屋敷を買い取った新しい主人であるアメリカ人に、わずか四人のスタッフで伝統的なサービスを提供しようと苦労している。

      そんなスティーブンスに、小旅行の機会が訪れます。
      田園風景の中、車を走らせながら彼の胸に去来するのは、20年以上も前に結婚して屋敷を去ったミス・ケントンが、女中頭として働いていた頃のこと。

      そんなミス・ケントンとの再会に、淡い期待を抱くスティーブンスだったが-------。
      そんな話なんですね。

      この小説を読む前は、もの凄く格調高い小説じゃないかと、少し腰が引けていたのですが、読みながら思ったのは、けっこう笑えるダメ男小説だったんですね。

      このような視点で読み進めると、この小説は俄然、面白いんですね。
      この主人公の執事のスティーブンスは、車を借りたのはいいけど、まずラジエーターの水がなくなるまで気づかないわ、翌日はガス欠で立ち往生してしまうわと、とにかくこの男は、執事以外のことは何にもできないんですね。

      運転免許を持ってたことが驚きのダメキャラ。
      それなのに、自分のダメさ加減にまったく気づいていないという、愉快な男でもあるんですね。

      ダーリントン卿の外交や社交の仕事を陰で支えることで、民衆のために貢献してきた自分というものが、都合のいいセルフイメージなんですね。
      だから、必然的に「信用できない語り手」にならざるを得ない。

      このスティーブンスは、やはり執事だった父親から、品格のある偉大な執事になれと育てられてきたせいで、自分の感情や意志を押し殺すというのが習い性になっている人だと思う。

      自分もほんのり好きだったミス・ケントンの好意にも気づけなかったし、父親の臨終に際しても優しい言葉のひとつもかけられなかった。
      でも、そういう人生の悔いを認めたくない。
      つまり、スティーブンスが一番騙したがっているのは、実は自分自身なんですね。

      そんなわけで、常に彼の語りの背後には、語られなかったことが数多く隠されることになるのだと思う。
      その意味では、この小説は、我々読み手が想像力をもって読んで初めて完成する、インタラクティブな作りの作品なのだと思いますね。

      この隠された意味が読み取れなかったら、これは単なる老人の回想小説でしかなくなると思う。

      例えば、ラストのところで、スティーブンスは、夕日を見ながら涙を流して、アメリカ人の主人に合わせられるようジョークを勉強しようとしますね。

      あれは、一見、希望を語っているようにも読めますが、だけど、そうではなくて、ここで語られているのは、絶望なんだと思う。
      なぜなら、この人は、手袋は変えたかもしれないけれど、中身の手は何にも変われていませんからね。

      読み終えて、あらためて思うのは、この小説は、もう生き方を変えようのない老齢になって、"アイデンティティ・クライシス"を経験した人間を描いた、もの凄く、苦くて哀しい物語なんだと思う。

      最初は、この気取り屋で鈍感なキャラクターのダメさ加減を、笑いながら読んでいけるのですが、読後感はしみじみ切ない。

      ほんとに、この小説は凄い傑作だと思いますね。
      この小説を、35歳の時に書いたというんですから、カズオ・イシグロ恐るべし、ですね。

      >> 続きを読む

      2018/07/13 by

      日の名残り」のレビュー

    • 評価: 評価なし

       日本には「執事」という職業はないと思える物語。
      それだけ、この物語は執事という職業を語り尽くしていますし、英国独特の文化をきちんと描き、さらに過去から現在へと変わりゆく姿をも描いています。

       かつてダーリントン卿に使えた執事のスティーブンス。
      3年前にダーリントン卿が亡くなってから、屋敷を買ったのはアメリカ人のファラディ氏。

       決して悪い人ではないのですが、お金で「イギリスの伝統」は買えない、ということがわからない人なのです。

       ファラディ氏は、スティーブンスに休暇を与えます。
      そこで考えたのがドライブをして、20年前に辞めた女中頭、ミス・ケントンに会って人手不足の屋敷に戻ってきてもらうよう話してみよう、と言う事でした。

       ドライブの道中、去来する過去のダーリントン・ホールの栄光。
      戦争をはさみ、外交の場としてもダーリントン・ホールは存在しました。

       ミステリではないのですが、一人称の使い方がすばらしく上手く、自分の考えと冷静に執事として1歩下がって何事も見てきた観察力。

       ミス・ケントンへの淡い恋心が自分で理解できないちょっと不器用で堅苦しい人柄がよくわかる物語の流れというのが実にスムーズ。

       「品格の有無を決定するものは、みずからの職業的あり方を貫き、それに堪える能力だと言えるのではありますまいか。並の執事は、ほんの少し挑発されただけで職業的あり方を投げ捨て、個人的なあり方に逃げ込みます。(中略)偉大な執事が偉大であるゆえんは、みずからの職業的あり方に常住し、最後の最後までそこに踏みとどまることでしょう」
       
       最後に、「一日の内で一番美しいのは夕方だ」という言葉に重みが出てくるのは、後悔しないようにしてきた人生でも、悔いは残るし、誰でもそういうことを多かれ少なかれあるからだと思います。

       解説の丸谷才一さんは、「男がこんなに哀れ深く泣くイギリス小説を、ほかに読んだことがない」と書かれていますが、その通り。

       やはりスティーブンスは偉大なる執事だったのだ、ということがよくわかります。

      >> 続きを読む

      2018/06/27 by

      日の名残り」のレビュー

    • 評価: 4.0

      この本は、「古き良き時代」を懐古するという退屈な小説では決してなく、単純に泣けるとか笑えるとかいう類の作品でもありません。ただ静かに、しかしとても心の奥深いところに語りかけてくる作品です。特に終盤Mr.スティーブンスが人生を振り返るような部分にはジワッとくるものがあります。

      Mr.スティーブンスが語る過去のエピソードの中に見え隠れするのは、徹底したプロ意識とそれに対する自問自答であるような気がします。でもMr.スティーブンスはMr.スティーブンスであって、そのようにしか生きられない人なのだと思いますし、その中でこそ高貴なる品格を失わなずに生きることが彼の生き様だったのだろうなあと思います。

      誰しもきっとある程度の年齢になれば「あの時こうしていれば」とか「他に違う生き方があったかもしれない」とどこかで思うところがあるのではないでしょうか。

      Mr.スティーブンスも多分ちょっとだけそう思っていながらも、最後に「これで良かったんだ」と、そして「自分の生き方は間違っていなかった」と振り返ります。
      それは彼が彼自身である理由を見失わずに、ストイックに生きたからこそそう思えるのでしょう。

      きっとMr.スティーブンスのように、いつか見知らぬ海岸沿いでそんなことをつぶやけることが幸せなことなのかもしれません。

      設定が現在の日本から遠いのは確かです。例えばMr.スティーブンスのような「執事」はもう英国にさえいないのかもしれず、もしかしたら日本の侍のように、本当にその人達が過去にどんな精神性を持っていたのかは誰にもわからないような、もう消えた人種なのかもしれない。時代も国も違うし、少なくとも自分の周りに「〜ではありますまいか。」なんて言う人はいない。

      でも300ページ以上に亘るMr.スティーブンスの語りかけに耳を傾けていると、こんなことを思うのです。「自分はこうあらねばならない」と思って生きている人って、とても一生懸命で、真面目で真っ直ぐで、だからとても不器用で頑固で誤解されることもあったりして、人生損してるような感じですよね。で、大抵アメリカンな時代感覚からかけ離れていたりしますよね。良い悪いとか好き嫌いではなくて、いますよね、そういう人。

      自分はそこまでストイックに生きていないと思うのだけれど、少なくとも後悔はしないように、できるだけ自分にできることや自分が大切にすることを見失わないように、生きていたいと思うのです。

      そんなことを、執事というペルソナに当てはめて語らせるカズオ・イシグロさんはさすがです。

      他の方のレビューで翻訳が良いと書かれていたのですが、期待を裏切らないきれいな言葉ばかりでした。堅苦しくならずに品格を維持する語りは本当に凄いと思います。
      思わず、「〜ではありますまいか。」っていう言い回しが日常でも口をついて出てきそうなほどに、素敵な翻訳でした。(皮肉ではありません笑)
      >> 続きを読む

      2018/05/16 by

      日の名残り」のレビュー

    • 評価: 5.0

      執事である主人公スティーブンスが短い旅をしながら回想をしていくお話しです。
      強烈なメッセージがあるわけでもなく、大げさな盛り上がりがあるわけではない。
      なのに、とてもとても良い本でした。

      スティーブンスの回想は主に「品格」に関連するエピソードです。良く言えばとても真面目で誠実、悪く言えば融通が利かなくて頑固ともいえる彼の人柄ですが、ラストのエピソードによって好感がもて、爽やかで満たされた気持ちにさせられます。

      絶対泣く!とか、みんな騙される!とか、そういう流行ものとは全くかけ離れた存在の本ですが、ノーベル賞を受賞したことで本屋に平積みされ、私をはじめ多くの人が読むことになったことが素晴らしいと思いました。そして、本書を良い本だと感じる方々とここでレビューやコメントを交換できることがとても幸せだなと思いました。

      しかし、短期間で結果を出すことや小手先のテクニック本が描かれたビジネス書に溢れている今の時代、スティーブンスのような品格を持った人はどれだけいるでしょうか。スティーブンスとは考え方も生き方もまったく違い過ぎる私ですが、でも品格を持った大人でありたいと心から思いました。
      >> 続きを読む

      2018/03/22 by

      日の名残り」のレビュー

    • あすかさん
      私もあすかさんのレビュー読むのが楽しみです♪
      派手さはなく、むしろ地味なんですけど、とっても良いんですよ。(ハードルあげすぎてたらごめんなさい笑)回想のシーンがセピア色で目の前に浮かぶようで。

      ちなみに私は村上春樹を読み終わり、今はディケンズいってます♪
      >> 続きを読む

      2018/03/27 by chao

    • lafieさん
      私の拙いレビューやコメントで読んでみたいと感じてくださった方がいらっしゃるのはとっても嬉しいですー。レビュー書いてよかった!!

      翻訳、素晴らしいですよ。普段はそこまでこの翻訳はどうだとか意識せずに読んじゃったりもするんですが、この本はこの翻訳でこの本の良さが最大限引き出されているような気がします!

      ぜひlafieさんの感想も聞かせてください^^
      >> 続きを読む

      2018/03/27 by chao

    • 評価: 4.0

      初読。遠い昔の英国が舞台だが、久しぶりに川端や谷崎を味わっているような文学の美しさを堪能。

      最近「品格」を問う出来事が後を絶たないが、経済、国勢が傾くと、品は二の次になるようだ。

      英国のように歴史、文化、伝統が成熟し切った国でも「品格」が揺らいだ時代性と、人生の終焉へ向かうの主人公の心境がシンクロするラストの日の名残りが実にほろ苦く、美しかった。

      2017/11/24 by

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