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春にして君を離れ

4.3 4.3 (レビュー12件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 714 円
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2018年04月の課題図書

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる...女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

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    「春にして君を離れ」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      【クリスティだけどミステリではない。しかし、とても恐ろしい作品である。】
       以前、『アガサ・クリスティー完全攻略』という本をレビューしましたが、その本では著者がクリスティの邦訳されている全作品を読破した上で、ベスト10を選出していました。
       著者が選んだベスト10は、私の感覚とは異なるものではありました。
       ただ、その中には私が読んでいない作品が上位にランクされていたことから、「そんなに高評価ならば読んでみなくては」とも思ったのです。
       ということで、本作は第5位にランクインしている作品で、図書館にもありましたので借りてきてみました。

       さて、本作はクリスティの作品ではありますが、ミステリではありません。
       殺人などの何の事件も起きません。
       強いて言えばサスペンス的な要素を持っているとはいえるかもしれませんが、それもさほど強いものではなく、一般小説として読まれるべき作品でしょう。

       主人公のジョーンは、弁護士の夫と3人の子供を持った主婦で、これまでうまく人生を生きてきた、自分はあれこれのことに気を配り、子供を上手に育て上げ、幸せな家庭を築いてきたという自負を持った女性です。
       彼女は、結婚して嫁いでいった末娘が急病になったという知らせを受け、単身ロンドンを発って末娘家族が住むバグダッドへ行ってきた帰りでした。
       末娘の容体はそれほど案ずるほどのことでもなく、あれこれと世話を焼いてロンドンに帰るところなのでした。

       ジョーンは、帰路の途中で立ち寄った鉄道宿泊所で、偶然、女学生時代の同級生のブランチと再会します。
       ブランチは、女学生時代、生徒たちの憧れの的であり、家柄も良く、幸せな将来が約束されたような女の子だったのです。
       ところが、実際には、ブランチはろくでもない男に夢中になり、また、自分が生んだ子供の面倒をみることを放棄して別の男に走るなど、ジョーンからすれば散々な人生を歩んだ女性でした。

       今、こうしてブランチの姿を見ると、年齢の割にはすっかりくたびれ果てて老け込んでおり、服装もみすぼらしく思えました。
       それに比べて、鏡に映る自分の姿は、まだ若々しく、身なりもちゃんとしているではありませんか。
       結局、本当の幸せをつかんだのは自分なのだと思うジョーンでした。

       ジョーンを見かけたブランチは気さくに声をかけてきて、一緒にお茶を飲もうと誘ってくれました。
       ブランチは、自分の人生がどういうものだったかについてあけすけに語るのですが、どうも大して後悔もしていないようにジョーンには感じられました。
       あるいは露悪趣味?
       そんなブランチの姿を見るにつけ、ジョーンはつくづく自分はしっかりと生きてきたんだと安心するのでした。

       ジョーンは、ブランチに対して、自分は毎日毎日、地区病院の理事職、施設の評議員、ガールスカウトのリーダーその他もろもろの仕事で忙しくしているので、一週間でも良いから何もせずにぼんやり過ごしてみたいなどとも言うのです。

       翌朝、ジョーンはブランチと別れて一人で自動車で鉄道駅へ向かうのですが、生憎の雨のため旅程が遅れてしまい、駅に着いた時には乗るはずだった列車は既に出発してしまっていました。
       仕方なく、駅の宿泊所に泊まることになったのです。
       列車は週に三便しかありません。
       宿泊所周辺は良い天気なのですが、その他の地域では雨が降り続いているらしく、列車は遅れに遅れていて、いつ到着するか分からないというのです。

       それなら、ブランチに話したような、何もすることがない時間が望み通り手に入ったのだからと考え、ジョーンは宿泊所近くで無為な日々を過ごし始めたのです。
       最初のうちは、こういう何もしなくても良い時間は良いものだなどとも考えもしましたが、すぐに飽きてしまいました。
       持ってきた本もすべて読んでしまい、何もすることが無くなってしまいます。

       ジョーンは有り余る時間を潰すために色々なことを回想し始めるのです。
       ところが、思い出すことは不愉快なことばかり。
       幸せな人生を歩んできたはずの自分なのに、何故こんなに嫌な事ばかり思い出してしまうのだろう?
       それとも、自分の人生というのは本当は幸せなものではなかったのだろうか?

       子供たちはみんな良い子で、私を愛してくれていたのに、幸せじゃないなんていうことはあり得ない。
       でも……、あの時、あの子が言った言葉の意味は、本当は……。
       私は、愛する夫をしっかりと支え、夫がろくでもない農園を経営したいなどと言い出した時も、しっかり引き留めてちゃんと弁護士事務所に勤めさせた良い妻ではないか。
       でも、本当は、夫は……。

       ジョーンは、徐々に、自分の人生が本当に正しかったのか、自分は良い妻だったのか、自分は幸せだったのか等について疑いを抱くようになっていきます。
       自分一人だけが何も分かっていなかったのではないか、と。

       これまで確固たるものと信じていたことが、突然根底からぐらつき始めるというプロットは、クリスティはミステリの中で使ったことがありましたが、本作は、それを何の犯罪も起きない一般小説の中で語っているのです。
       これは、大変恐ろしいことではないですか。

       さて、本作についてどう評価するか。
       まず、ラストがどうなるのかが読んでいる途中から気になり始めました。
       あっちへ持っていくのか、それとも……。
       そして、読み終えた後、最後に書かれているエピローグは必要だったのだろうかとも考えました。
       もちろん、エピローグを書いた方がクリスティの意図は明確になるでしょう。
       ですが、私は、あるいはエピローグは不要だったのではないかとも思えました。

       大変恐ろしい、また、読んでいて辛さを伴う作品だったと思います。
       本作に高い評価を与える読者がいることも理解できるところです。
       ただ、私がこの作品を好むかというと……。

       なお、蛇足ですが、文庫版の表紙に描かれている女性(これってジョーンですよね?)って、何故ビーサンのようなサンダルを履いているんでしょうか?
       私、どうもそこが気になってしまって、気に入らない点の一つなんですが……。


      読了時間メーター
      □□□     普通(1~2日あれば読める)
      >> 続きを読む

      2020/10/13 by

      春にして君を離れ」のレビュー

    • 評価: 4.0

      2018年4月の課題図書。
      終盤までずっとつまらなかったのに、ラストに向けて急激に引き込まれた。私の読んだ中でこんな作品は初めて。できるなら★4.5をつけたい。

      ちょっと気分を変えて書いてみます。
      皆さんロドニーを責めていますので、彼の立場になって考えました。
      でもね、妻に気付かせるとか、妻を変えるとか、無理ですよね?できるなら具体的に方法を教えてほしいです。話さえ聞いてもらえないでしょ?こっちが向き合ってもそっちは向き合ってくれないではありませんか。変えられるのはやはり自分だけなんですよ。
      結果、死ぬまでひとりぼっちだと気づかないまま幸せに過ごしてもらう、という結論になるのもアリかと思います。
      ただし、それであればプア・ジョーンなんて間違っても言うなよ!と思います。
      うん、やっぱりロドニーも人としてまだまだですね。
      ええ、私もまさにロドニーですよ。いや、ジョーンなのかもしれない。どうすればいいんですかね?ジョーンなら心を入れ替えるだけ(だけっていうのもアレですけど)でいいけど。
      >> 続きを読む

      2020/02/23 by

      春にして君を離れ」のレビュー

    • 評価: 4.0

      久しぶりの読書。
      良妻賢母、幸せに生きてきたと語る主人公のジョーン。しかし、体調の悪い娘に会うためバクダッドへ旅をし、帰り道列車が遅れたため何日も足止めに。何もすることがない砂漠の街で、人生を振り返ると、次々に彼女にとって悪い考えが浮かぶ。


      全てをコントロールしていたはずの自分が実は何も知らなかった。向き合う勇気を持ち合わせず、夫や子供たちを理解していなかった。新しい自分に気がつき、帰国するジョーン。不思議とそんな彼女を応援する気持ちが芽生えるのだが、、、結末は、、、。

      救いは結局ジョーンのみならず、夫ロドニーや子供たちも彼女と向き合う勇気がなかったことかな。彼女だけのせいではない。そう考えているうちに、影の主役はレスリーではと思ったりも。

      女性向けの本何でしょうか。その辺はわかりませんが、夢中になり一気読みでした!
      >> 続きを読む

      2018/05/21 by

      春にして君を離れ」のレビュー

    • 評価: 4.0

      旅の本質は「非日常」です。
      生まれて初めて足を踏み入れた場所にいる。それだけで特別な気分になるものですが、もっとも日常とかけ離れた環境――沙漠にたった一人で向き合わなければならなかったとしたら、心はどこへ彷徨いだすことでしょう?

      主人公ジョーンは英国の中流階級の専業主婦。
      弁護士事務所を営む夫の収入で豊かな暮らしをし、子どもを育て上げ、日々様々な用事をこなしそれなりに多忙な充実した人生を送っている良妻賢母。

      「物思いにでもふけるしかすることがないようなところでにっちもさっちもいかなくなったら」
      旧友とのこの会話が現実になるとは!

      交通網が不備な時代の旅行には遅延はつきものですが、
      よりによって砂漠の真ん中の駅のレストハウスにただ一人の滞在客として取り残されるハメに陥ります。

      駅とレストハウスと国境の鉄条網。
      それ以外ははるかかなたまで広がる漠とした砂の世界。
      もし目印を見失うほど遠くまで歩いてしまったら、方角を失い遭難の危険も大です。

      静寂、日光、そして孤独……

      それは果てしなく広がる牢獄

      なんとも奇妙で恐ろしく魅惑的な設定です。
      文明人は果たしてこの環境に何日耐えられるものでしょう?

      ジョーンは家族への献身が実は自己満足と無理解による押しつけであったことに気づき、愕然とします。
      「愛するだけでは十分ではないのだ」

      人は信じたいことだけを信じ、理解できないものや不都合な真実に目と耳をふさぎ、知らなかったことにしがちです。
      正論には保身や自己都合の裏が隠れています。

      「あなたのためだから」というCMがありましたっけ。
      まさにあれが表現しているのが真相ですね。

      ジョーンは、子どものためという伝家の宝刀を振りかざし、今迄自分を疑う事なく家族を隷属支配してきました。真の姿を知り、新たな関係性を築くことができるでしょうか?

      人間性をするどく見つめるクリスティの非ミステリー小説。
      考古学者の夫と共にアフリカや中東へ実際に旅をした経験が生きています。
      男性なら歴史や自然や哲学に目が行くことでしょう。
      リアルな自己の内面へと向かうという切り口が新鮮です。
      それもエッセイという形ではなく、ドラマティックな小説に作り上げてしまうなんて。クリスティの才能を見せつけられた気がします。

      でも、以前この小説を読んだ時、正直結末にとっても不満だったのです。
      再読すれば、この結末が所詮大方の人生の姿なのだという意味で、書き手としては当然こう書くべきだったと気づきます。
      でも、物語を読んだ時のカタルシスが全然なかったのですよね。
      小説には、現実ではないものも求める場合がありますから。要するに、せめて小説ではハッピーエンドになってほしいとか、そんな希望がありますよね。
      それがどこにもいかないというエンディング。(今風かも)

      今回特に強く感じたのは、妻ってのは男にとってペットなのね。ということでした。
      「愛だけではだめ」というのは妻の立場からの問題だけではない。
      「大事にするだけではだめ」なんですよ。
      夫婦が互いに人生のパートナーであるか否かという大切な問題です。
      ロドニーにとって、子どもたちは自分の人生をかけた大事な存在でした。しかし妻は、結婚した責任はあり、護るべき大切な女でありながら、共に生きる相手ではありません。
      心を打ち明け、人生を分かち合う事をとうの昔に諦めたのか、最初から期待していなかったのかはわかりませんが、人として認められていないことは間違いないです。
      これは夫婦のあり方としてどうなのか?というクリスティの問いかけがあります。
      オースティンの「高慢と偏見」の父も妻に対してこういう態度でしたから、英国のジェントルマンの伝統的な男像なのかしら?

      ここにはジョーンと真逆の女たちが登場します。
      彼女らは客観的に見て幸せな人生ではありませんが、本人は精一杯自分らしく生き、あがきつつも幸せだと考えています。
      簡単にこの生き方が正解、と、決めつけてはいないのですが、読者は彼女たちから何かを感じ取ることでしょう。

      アガサ・クリスティーは心の底から本物の作家なのです。
      流行作家ではなく。
      >> 続きを読む

      2018/05/09 by

      春にして君を離れ」のレビュー

    • わー月うさぎさんのレビュー!
      楽しみに待っていました^^

      >小説には、現実ではないものも求める場合がありますから。要するに、せめて小説ではハッピーエンドになってほしいとか、そんな希望がありますよね。

      私の場合はここでハッピーエンドだったら☆評価3くらいだったかもしれません。「いつでもやり直せるよ!」みたいなメッセージの本になってしまったらそれこそ普通~と私は思ってしまうかもと思うのです。

      >この結末が所詮大方の人生の姿なのだという意味で、

      そうなんです!!!人が変わることがいかに難しいことなのか。残酷なようですが、人間の本質がものすごい鋭く描かれているような気がして。

      でもジェーンみたいな人生絶対嫌ですけどね(T T)
      >> 続きを読む

      2018/05/16 by chao

    • chaoさんのレビューでそのお話し、しましたよね♪
      〉「いつでもやり直せるよ!」みたいなメッセージの本になってしまったらそれこそ普通~と私は思ってしまうかもと思うのです。
      ですよね!
      今回は結末がわかっているので、じっくり展開を読み込めました。
      この小説こそが、作家の目だと思います。
      人ってなかなか変われないものです。
      まして人を変えるなんて至難の業ってことですね。
      自分の人生に不満のある人は、好き好んで不満な人生を選んで生きているのだとそう思い知らされます。
      ぞっとしますね。
      >> 続きを読む

      2018/05/16 by 月うさぎ

    • 評価: 4.0

      他の方のレビューの評価が非常に高く、
      かつ2018年4月の課題図書だったため、恐る恐る手にとってみました。
      おかげで新しい読書ができました。


      お金に不自由することもなく、
      優しい夫と子供3人に恵まれているというのに、
      なんという不幸なジョーン・・・

      過去にも他人からの忠告はたくさんあったはずなのに
      すべて自分の都合の良いようにしか解釈せず
      問題に正面から向き合ってこなかったのだから自業自得とはいえ、
      この先の彼女の人生が気の毒で仕方ありません。

      でもせっかくの気付きを無駄にして、また同じ選択をしたのですからどうしようもない・・・

      夫も夫だ、と思わなくもないですが、
      でもロドニーもきっと今まで多くの助言をしてきた上で、
      あきらめの境地に至ったのだろうな、と思わずにはいられません。
      だって、いくら夫婦とはいえ、他人の心を変える事は相当に困難ですから。

      独りよがりな人生の孤独さ、空しさを恐ろしいほどに感じました。
      >> 続きを読む

      2018/05/07 by

      春にして君を離れ」のレビュー

    • >上から見下ろしつつ、ある意味可愛がっているというか^^;
      私も自分のレビューで書いていますが、ロドニーは妻をペットと思っていますね。
      かわいい動物。
      かわいがって、贅沢させて、気持ちよく過ごさせてあげて、そりゃあ時には馬鹿!って思うけれど、所詮動物。言葉が通じないから我慢我慢…。
      飼った以上死ぬまで責任もって見てあげるからねって感じよね~。
      >> 続きを読む

      2018/05/11 by 月うさぎ

    • ペット!ペットですね!!!
      でも人として認められていない妻って・・・
      なんて気の毒な(涙) >> 続きを読む

      2018/05/14 by アスラン

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