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邪悪の家

3.0 3.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 861 円

名探偵ポアロは保養地のホテルで、若き美女ニックと出会った。近くに建つエンド・ハウスの所有者である彼女は、最近三回も命の危険にさらされたとポアロに語る。まさにその会話の最中、一発の銃弾が...ニックを守るべく屋敷に赴いたポアロだが、五里霧中のまま、ついにある夜惨劇は起きてしまった。新訳決定版。

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    • 評価: 3.0

      【読者へのデータ提供が足りないですよ、クリスティーさん/ポアロしらみ潰し企画6】
       ミステリを読む醍醐味、楽しさは読者によって色々だろうと思うのですが、私は『騙される楽しみ』なのではないかと思っています。
       特に、真剣に犯人やトリックを当てに行って、それでも騙された時に感じるカタルシスがミステリの大きな魅力ではないかと思っているのです。
       騙されたら悔しいですか?
       いや、読者が真剣に推理して、それでもその推理の上を行くような結末を見せられたら、それは悔しいというよりも鮮やかな手品を見せられた時と同様、私は拍手喝采してしまうのです。

       ただし、それには条件があります。
       あくまでも作者がフェアであり、犯人やトリックを十分推理できるだけの情報が与えられている場合に限ります。
       それでも見抜けなかったという点に作者の技量の冴えを認めることができると思うのです。
       例えば、どう考えたって読者に与えられた情報だけでは犯人やトリックを見破ることが不可能な作品であれば、結末でどれだけ驚くような真相を明かされたとしても、「あ、そう。でも、それは推理できっこないよね。」で終わってしまい、カタルシスも感じなければその作品を素晴らしいとも評価できないように思うのです。

       そういう点からも、あくまでもフェアな態度を貫き、すべての情報を読者に与えたと豪語する国名シリーズの頃のエラリー・クイーンを、私は一番推すわけです。
       さて、では本作はどうだったのでしょうか?

       本作は、通常のミステリとやや違った様相を呈します。
       多くのミステリは、事件が起きてしまった後で名探偵が登場し、その犯人を推理するという展開になります。
      ただ、これが連続殺人事件だったりすると、名探偵は、最初の殺人はともかくとして、その後に続く殺人を目の当たりにしながら阻止することができず、犯人のやりたい放題になってしまうという弱点があります。
       これは、どこか探偵がヘボなのではないか?という疑念を読者に抱かせかねないというリスクを負ってしまうことになるわけですよね(金田一耕助など、こういう点から「本当に名探偵なのか?」と揶揄されることもあったようです)。

       本作では、そういうリスクを回避した作品のようにも読めます。
       探偵業からの引退を宣言し、ヘイスティングズとホテルで休暇中のポアロは、偶然出会ったニックという若い女性が狙撃される現場に居合わせます。
       幸い、銃弾はニックの帽子のつばを貫通したものの、ニックには当たらず、ニックは撃たれたことにすら気付かずにいました(モーターボートの音がうるさかったため銃声も聞こえなかったのだと説明されています)。

       もちろん、ポアロは狙撃されたことに気付き、ニックに狙われる心当たりはないか?等々問いただすのです。
       そうしたところ、ニックは最近三回にわたっておかしなことがあったと言います。
       一度目はベッドの脇の壁にかけていた重たい絵が落ちてきて、もしベッドに寝ていたら頭を砕かれるところだったと言います。
       二度目は、散歩の途中で大きな岩が落ちてきたけれど当たらなかったと。
       三度目は車のブレーキが故障して事故を起こしそうになったというのです。

       でも、ニックはそれらはすべて偶然だと思っていたと言うのです。
       第一、命を狙われるような心当たりは全くないのだからと。
       しかし、今回狙撃されたことは間違いないことであり、ポアロは何とかしてニックの命を守ろうと捜査を始めるというプロットになっています。
       つまり、まだ殺人が起きる前に犯人を推理して捕まえようという作品になっており、これは上述したような『事件の発生を阻止できない名探偵』にならないようにという工夫が見られるわけですね。

       ポアロは、ニックが住んでいるエンド・ハウスと呼ばれる屋敷は物騒なので、誰か信頼できる人に来てもらうように勧め、ニックも心配になり、いとこのマギーを呼び寄せることを承知しました。
       これで一安心と思っていたところ、エンド・ハウスで開かれた花火を見るパーティーで、ニックのショールを借りて身につけていたマギーが射殺されるという事件が起きてしまったのです。
       その場にはポアロもヘイスティングズもいたというのに。
       マギーは、おそらくニックと間違えられて殺されたものと思われました。
       ニックは無事だったにせよ、ポアロは結局殺人を阻止できなかったのですね。

       ニックも、自分のせいでいとこのマギーが巻き添えを食って殺されてしまったことにショックを受けてしまいます。
       ポアロは、ニックの身を守るために、ニックに療養所に入院するように命じ、ニックもこれを受け入れました。
       そして、ポアロは医師とも相談して、ニックへの一切の面会を許さない措置を取りました。
       ところが、ニックに宛てて届いたチョコレートにコカインが仕込まれており、それを食べたニックが危うく命を落としそうになるという事件が起きてしまいます。

       ポアロは、外から送られてきた物は一切食べるなと注意していたにもかかわらずニックは食べてしまったんですね。
       「何故食べたのですか!」と叱るポアロに対して、ニックは「だってあなたが送ってくれたチョコレートじゃないですか」と言い返しました。
       そう。確かにチョコレートにはポアロの筆跡で書かれたカードが添えられていたのです。
       そのカードは、おそらくポアロがニックに花を送った時に書いたカードをもとにして偽造されたものなのでしょう。

       さて、この一連の事件の犯人は誰か、そしてその動機は?というのが本作の謎になります。
       さて、では私は冒頭に書いたカタルシスを感じることができたでしょうか?
       残念ながら私にとってはそうはなりませんでした。
       なぜなら、犯人や動機を論理的に特定できるだけの情報は、最後の最後になるまで読者には与えられなかったからなのです。

       確かに、本作には犯人の意外性はあると思います。
       しかし、私は確たる証拠は無かったものの、物語の中盤位からその犯人を相当怪しいと疑っていたのです。
       ただし、その決め手はありませんでした(だってクリスティは情報を与えてくれないのですから)。
       ですから、最後にやっぱりその人物が犯人だったという結末を示されても、私にはサプライズではなかったのです。

       もしすべての手がかりが与えられていたのに、私が疑っている人物を犯人であると、そしてその動機がどういうものかを論理的に推理できなかったのであれば、私はクリスティをほめたたえていたことでしょう。
       さすがにクリスティだと。
       しかし、本作はそうではなかったので、「やっぱりこの人物が犯人だったのか。でもそれを読者が推理するのは無理だよね。」という感想しか抱けなかったというわけです。

       また、ある手紙の文面が真犯人を推理する一つのヒントになることは事実であり、その文面は確かに読者に示されてはいるのです。
       ほら、じゃあ、フェアじゃないかですか?
       いいえ、そうは言えないと思うのです。
       ポアロはその手紙を読んである事実に気付くのですが、その手紙の文面は読みようによっては別の意味に取ることも十分可能なものであり、ポアロのように読むことが論理必然とは言えないのです。
       ですから、その点をもってフェアであるというのはいささか苦しいし、それだけで決め手になる証拠とも言えないのです。

       あるいは、毒入りチョコレートに添えられていたポアロ名義のカードもかなり大きな証拠になると私は思ったのですが、それが決め手になるほどには論理的には詰められておらず、ポアロもそれは自分の推理では使っていないのです。

       という具合で、やや辛口のレビューになってしまいましたが、本作はそういう意味で必ずしもクリスティの他の名作に匹敵するほどの出来には至らなかったというのが私の読了しての感想でした。
       とは言え、犯人の意外性はありますし、筋の通った解決が示されるという点では一応の水準には達している作品と評価できると思いました。


      読了時間メーター
      □□□     普通(1~2日あれば読める)
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      2020/02/08 by

      邪悪の家」のレビュー


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