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虚栄の篝火

5.0 5.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 2,243 円
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    「虚栄の篝火」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      「ここはニューヨークの一法律事務所。依頼人を捜す弁護士たちがポン引きのように声をかけてくる。エレベーターの前で半日は、非白人系の落ち込んだ様子の者を物色しているので、ミッキー・エレベーターと呼ばれる弁護士さえいるのだ。相手が五十ドルもっていれば、五十ドル分の仕事を依頼人のために請け負ってやる。要するに、裁判にかける以前に、簡略な手続きで事件を処理する取引に立ち会ってやるのだ。」

      この一節は、アメリカの伝説的なニュージャーナリズムの旗手・トム・ウルフが書いた長編小説に描かれた一場面です。

      主人公は、ウォール街のエリート・ディーラーで、高給取りの白人のエスタプリッシュメントたる彼にとって、法律が庇護する境界線上の駆け引きに右往左往する人々が群れる場所は、本来は無縁なはずだった。

      人並みに愛人も持ち、充実したと言える毎日を送っていた。ところが、ある夜、黒人のホールドアップに遭い、車で逃げる際に相手を跳ね飛ばしたところから、彼の転落が始まっていくことに----。

      相手は悪質な轢き逃げ事件の被害者に仕立て上げられてしまい、公民権運動の指導者が警察に圧力をかけ、そこにマスコミがキャンペーンを張り、轢き逃げ犯人を捜し始める。

      人種差別反対論者、検事、ジャーナリスト、その中から功名心にはやる者が、どんどん事件を肥大化させていく。そして、いつの間にかその事件の渦中に立たされていることに気付いて、愕然とした主人公は、弁護士を雇うことにする。

      アメリカ社会においては、犯罪はあまりにも多く、それに対して、裁判の処理能力はあまりにも小さい。刑事事件の起訴件数のわずか1割が裁判所にまわされるのだと言われています。

      おまけに、社会的弱者、つまり非白人がそのわずかな立件能力の対象に最後まで残ってしまう確率はすこぶる多い。全くこれでは司法による人種差別そのものではないかと、心を痛める検事がいて、彼は白人を微罪によってでも公平に厳罰に処して、人種平等の範を示さんという使命感にかられる。

      こうして、この検事は、まるで白い巨大な鯨を探し求めるエイハブ船長のような存在になるのです。こうして主人公は、"アメリカの良心という虚栄の篝火"が照らし出した、"白い巨大な鯨"の役割を強いられることになるのです。

      作者のトム・ウルフは、気鋭のジャーナリストらしく、このドラマをそれのみとして提示する方法をとっていないと思うのです。それは従来からあるニュージャーナリズムの処理であり、それでは「よくある話」的に消費されないからです。

      つまり、白人であるゆえに、人種差別社会の生贄に仕立て上げられるという逆説では、私を含む数多くの読者を驚かすことにはならないのです。

      作者は、ニューヨークという大都市の全体をパノラマのように俯瞰し、展開することに主眼を置き、そのディテールを、彼得意の饒舌体でぎゅうぎゅうに詰め込んでいるのだと思う。ニューヨークという大都市は生き物のように、その全てを飲み込んでいるのです。

      そして、作者はその現在の"のたうつさま"を、そのまま小説内に引き込もうとしたのだと思う。こうして、パノラマである大都市の巨大な海にうごめき、やがて仕留められてしまう"白鯨の笑劇"でもある物語が、騒々しくもここに提示されることになるのです。

      トム・ウルフのこの都市小説とも言えるものは、その全体に関わっていると思う。しかし、それはステータスのアメリカ、破滅させられる白人のアメリカ、巨大なイルミネーションが照らし出す地上のアメリカの姿そのものなのです。
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      2017/03/08 by

      虚栄の篝火」のレビュー


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