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択捉海峡

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: 畑山 博
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    「択捉海峡」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0


      希望の失われた時代からの逃亡を描いた、芥川賞作家・畑山博の「択捉海峡」を読了。
      逃亡を描いた"逃亡小説"は多いと思いますが、要するに、何かから逃げる人間を描く小説ですね。

      このような内容の物語が、我々読者の共感を呼ぶのは、表層に展開するストーリーとは関係なく、日常に閉じ込められた、我々読者の"脱出願望"を満たしてくれるからかもしれません。

      そして、その底にあるのは、身を縛るものすべてから解き放たれたいという欲求に他ならない。

      とはいっても、主人公が簡単に逃亡に成功しては、読者の共感は呼びにくい。
      そこで、作家は主人公の逃亡を困難にするために、あらゆる障害を用意するんですね。
      そして、それが多ければ多いほど、このタイプの小説は成功すると思う。

      主人公の眼前に次々と立ち塞がる困難に、読者はそのたびに絶望するので、主人公がその困難を克服していく過程に濃い感情を抱くのだ。

      この「択捉海峡」は、題名通りに舞台が択捉なので、最初の困難は酷寒だ。
      ただの寒さではない。想像を絶する酷寒とまず闘わなくてはならない。

      次は、主人公がヒロインであること。その希望のない島から逃げ出すために、ともに逃げてくれる力強い男を探す必要がある。
      ところが、北の島にはもともと人間が少なく、そのチャンスが限られている。
      ヒロインは、そういう現実と闘わなくてはならないのだ。

      その次は、ようやく見つけた男が囚人に近い存在で、つまりは迫ってくる官憲に捕まらないように、必死に逃げなくてはならないという展開になる。
      さらに、密猟者の船に乗って脱出するも、その密猟者も仲間ではないという現実との闘いも待っている。

      そして、最後は、ようやくたどり着いたウルップで待ち構えている、過酷な自然との闘いだ。
      食料をどうやって自足するか。畑を作り、食料を自分たちの手で生み出すことができるのかどうか。
      こうしたサバイバルの試練が待ち構えているのだ。

      そうして、逃亡小説の定石通り、著者の用意した障壁を「択捉海峡」のヒロインは、ひとつづつ克服していくが、それだけなら珍しいわけではない。

      この物語を特異なものにしているのは、最も大きな障壁が、明治三十年代という時代背景であることだ。
      日清戦争に勝ち、次なるロシアに向けて国全体が準備していた時代だ。

      その近代国家への歩みは同時に、辺境の地に住むヒロインにとって希望の失われた時代であり、出口のない時代であることを意味している。

      強烈な自我を持ったヒロインが生きにくい時代という障壁が、この物語の底に流れているので、緊迫感も最後まで緩まないのだろう。

      たとえ、北の島を脱出して、どこかの都会に行き着くことが可能だったとしても、彼女のエデンではあり得ない。

      ヒロインにとっては最初からどこにも行き場がないのだ。
      そういう構造を持つからこそ、この物語がいつまでも胸に残るのだと思う。

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      2019/04/06 by

      択捉海峡」のレビュー


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