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今回読了したのは、青来有一の第124回芥川賞受賞作「聖水」。この小説集には、表題作の「聖水」を含む4篇の短篇が収録されいて、いずれの小説も原爆と隠れキリシタンの「受難の地・長崎」を舞台に展開していきます。「聖水」の主人公たちは、長崎の浦上に住む隠れキリシタンの末裔。しかも、彼らの先祖は、一度、隠れキリシタンを裏切り、逆にキリシタン弾圧に協力した背教者で、「ウノスケの末裔」と言われている。この屈折した信仰を持つ一族のひとり、語り手の「ぼく」の「父親」を中心に物語は展開する。スーパーの経営者として辣腕を振るっていた父親は、癌で死を宣告されるや実業の世界を捨て、信仰に生きようとする。そして、家族全員を引き連れて浦上の生家へ帰っていく。そこに現われるのが、この父親の幼馴染みでいとこにあたる人物。この男は母親の胎内で被爆した経験を持ち、今は地下水を神のお告げで発見した「聖水」と称して売り出している。しかも、一族を中心に「聖水会」というミニ教団まで率い、教祖に納まっている。父親も母親もこの怪しげな男を信じ込んでしまうのだ。しかも、会社の経営権までをこの男に譲ろうと画策するのだった。しかし、社員たちの反撥は強く、結局、この男は社長就任の役員会で裏切られ、逆に会社から追放されてしまうのだった。死の床で、社員たちの裏切りを知り、怒り狂う父親。うろたえる家族。しかし、その父親の怒りを鎮めたのは、怪しげな聖水会の会員たちの唱和するオラショ(祈り)と聖水だった。そして、父親は静かに息を引き取っていく-------。この父親は、考えてみれば、カルト教団にすべてを捧げ、そして、すべてを失うことによって救われたと言えると思う。しかし、一部始終を見ていた「ぼく」は、このカルト教団から離れることを決意する。この小説は「受難の地・長崎」を舞台に、既成の宗教に絶望した現代人の宗教的危機意識を描いていると思う。そして、人は信仰なしに死ねるか----と問い掛ける、一種の過激なカルト的宗教小説になっていると思いますね。 >> 続きを読む
2018/08/11 by dreamer
「聖水」のレビュー
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セイスイ せいすい 聖水 | 読書ログ
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