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【とことん削ぎ落したソリッドな作品】 本作は、『天使』の姉妹編というかスピン・オフ作品というか、外伝というか、そんな位置づけの作品になります。 全部で4つの中・短編が収められているのですが、時制はまちまちで、ある作品は『天使』よりも前の出来事を書いており、ある作品では『天使』以後の話だったりしますので、単純に『天使』の続編とは言えません。 私が本書を読んで感じた最大の特色としては、極めてソリッドな小説であるということでした。 余計なことは(いや、中には必要と思われることさえ)どんどん削ってしまっているのです。 無駄な言葉など一切ないというほどに。 幸い、私は『天使』を先に読んでいましたので何とかついていくことができましたが、それでも結構大変で、「これはどういう人なんだ?」、「これはいつの話になるのかな?」などなど、どうもはっきりしないながらも読み進めなければならないところが沢山ありました。 もっと両作品を精読すればちゃんとつながっているのだろうとは思うのですが、だいぶ以前に『天使』を読了したその記憶だけとではなかなか脳内リファレンスがうまく働きませんでした。 ですから、『天使』を読まずにいきなり本作から読み始めようものなら、「一体何の話なんだ?」とワケワカになってしまうと思うのです。 これから佐藤亜紀さんのこの作品を読んでみようとお思いの方は、必ず『天使』から読むように強くお勧めします。 さて、『天使』では、顧問官スタイニッツに拾われてスパイとして育てられたジェルジュ(ゲオルク・エスケル……名前が二つあることも混乱するんですよねぇ)の物語でした。 スタイニッツやジェルジュらには『感覚』と呼ばれる特殊な能力が備わっているというお話でしたね。 この『感覚』というのは、他人の思考や記憶を読み取ったり、自分の思考を他人に送り込んだり、他人の感覚を利用してその周囲の状況を把握したりすることができる能力なのです(大体こんな説明で合ってますかね?)。 前作『天使』では、この『感覚』という能力を持つ人間がまれにいるという設定だったのですが、本作になるとまぁ、出るわ出るわ。 『感覚』の能力を持った人間が山ほど沢山登場してきます(世の中にはこんなにいたんかい!と思うほど)。 大まかに収録作品の内容というか位置づけをご紹介しておきましょう(本書に収録されている順番にご紹介しますが、この順番ですら時制的には前後しているのでややこしいのです。〇 王国 時は第一次世界大戦の最中、オーストリア軍に従軍しているオットーとカールという二人の兄弟を描いています。 この二人とも『感覚』の持ち主なんですね。 塹壕戦の中で二人はロシアの異常とも言える企みに遭遇します。 また、その背後ではオーストリア諜報機関の策動も……。〇 花嫁 これはシリーズ中最も古い時代の話になるのでしょうか。 ジェルジュの出生秘話的な位置づけになります。 ジェルジュの父親であるグレゴール・エスケルは、その父が馬泥棒の首領をしているはなはだ粗野な一団で生活していました。 グレゴールも『感覚』の持ち主だったのです。 長じたグレゴールは、『感覚』の力を使って裕福になり、その過程で強い『感覚』を持つヴィリという人妻を知ります。 なんと、グレゴールはヴィリの夫に大金を約束し、その金でヴィリを抱かせて子供を孕ませてくれなどということを持ち掛けるのです。 そうやって生まれたのがジェルジュというわけなんですね。〇 猟犬 ブダペストに派遣されたジェルジュを描きます。 ここは異能戦の様相を呈しており、『感覚』を持つ者同士の異様な戦いが描かれます。 ジェルジュは、ほとんど潰されてしまいそうになるのです。〇 雲雀 ついに顧問官スタイニッツが亡くなります。 その後のオーストリアの諜報機関の帰趨とジェルジュの行く末、選択が描かれる作品。 いや、とにかく「お願いだからもう少し説明してくださいよ~」と泣き言を言いたくなるほどに説明を省き、背景事情の描写を拒否している作品群なのです。 その意味でソリッドですし、文体自体がまたソリッドなんですよねぇ。 まぁ、そこが格好良かったりするのですが。 決して読みやすい作品ではありませんが、独特の雰囲気を持った、私としては大好きな領域の作品でございました。読了時間メーター□□□□ むむっ(数日必要、概ね3~4日位) >> 続きを読む
2021/02/07 by ef177
「雲雀」のレビュー
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雲雀 | 読書ログ
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