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沖で待つ

2.8 2.8 (レビュー2件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 1,000 円
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第134回 芥川龍之介賞
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    「沖で待つ」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 3.0

      この本におさめられている短篇2作とも、歯切れがよくて小気味よくて、勢いを感じる好きな作品だった。

      特に「勤労感謝の日」の主人公が、私はとても好きだ。
      総合職のキャリアをリタイアして、現在36歳無職。
      なにが勤労感謝だ、私に世間様に感謝しろとでもいうのか、冗談じゃない。と悪態をつき、見合いの席で子供は好きですかと聞かれ、「嫌いです。」ときっぱり答える。
      そうそう。
      子供は天使なんかじゃない。ってみんな気づいているのに、子供が好きな女性はやさしく見えて、嫌いな女性は意地悪く見える。
      これに限らず、潜在的に感じていることを活字で表してくれて、スッキリする。
      >> 続きを読む

      2016/06/04 by

      沖で待つ」のレビュー

    • 評価: 3.0

      仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。
      そう思っていた同期の太っちゃんが死んだ。
      約束を果たすため、私は太っちゃんの部屋にしのびこむ。
      仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く芥川賞受賞作『沖で待つ』、『勤労感謝の日』の2編。
      すべての働くひとに。

      第134回(平成17年度下半期)芥川賞受賞

      短編2本。
      いずれも「文學界」誌に掲載されたものです。
      世間はピース又吉さんの芥川賞受賞にわいていますが、僕の最近のお気に入りの作家さんも芥川賞作家さんなんだぞ、という妙な対抗心から1時間ほどで読み終えました。
      絲山さんの原点が、早稲田卒業後に勤めた住設メーカーの営業職であるということを、改めて実感させてくれる、男気あふれる女性の小説です。

      表題作、芥川賞受賞作『沖で待つ』
      同級生とも違う、同期入社という関係は妙なものだね。
      山梨出身で東京の大学を卒業、晴れて企業人として社会人人生を歩みだした私(及川・性別 女)は、早速、組織人の不条理を嘆くことになります。
      九州・福岡支店勤務。
      人事から配属先を告げられた私は、研修の間中ずっと憂鬱で、同期同士との酒の席でも荒れに荒れていました。
      ただでさえ見えない将来に不安を抱えているのに、まったく知らない、住むなんて想像したことも無い土地で暮らすなんて。
      不安たっぷりで臨んだ出社日、声をかけてきたのはやはり同期で、茨城出身の小太り男・太っちゃん(牧原太・性別 男)でした。
      住めば、都。
      職場での人間関係にも恵まれ、社会人としての出だし好調のふたり。
      太っちゃんは、その名の通りますます太り、そのデブさ加減が顧客に愛され仕事は順調。
      わたしと太っちゃんは性別を越え、何でも言い合える同期仲間でした。
      「なんでわたしら同期って、恋愛に発展しないかねぇ?」
      「そりゃ無理だよ、だってお互いいちばんみっともないことを知っちゃってるもん」
      太っちゃんは家族にも恵まれ、私は埼玉へ転勤。
      時は移り、今度は東京本社へ単身赴任してくることになった太っちゃんとの久しぶりの邂逅。
      バーの止まり木で、太っちゃんがひとつの提案をしてきます。
      「どちらかが、先に死んだ方のパソコンに保存してあるすべてを消し去る同盟」
      おう、いいよと気軽に応えた私に、太っちゃんはパソコン分解用の工具をくれました。
      「死んだあと、自分の秘密を見られるなんて、耐えられないからな」
      そんな太っちゃんは、間もなく、飛び降り自殺に巻き込まれて亡くなってしまいます。
      わたしは、同期の約束を静かに、慎重に、それでも涙はとめられないまま、実行に移しました。

      男性的な文章で、とても読みやすい佳作です。
      タイトルの「沖で待つ」とは、作中で太っちゃんが書きつけた詩の一節。
      自分を、愛する妻を沖で待つ大船になぞらえた詩が、主人公の心に残ります。
      当然、この詩を書いたとき、太っちゃんは自分の死について、予感なんか無かったはず。
      それでも、奥さんのことを“待つ”と謳った同期の死を悼みます。
      悼みすぎて、いよいよ明日、浜松へ再び転勤になるわたしの前に、五反田の騒がしい国道裏のアパートで、太っちゃんがあらわれます。
      「死んでから、少し太った?」
      「な、わけねーだろ」
      軽口をたたくラストは爽快。
      2003年に文學界新人賞を受賞、文壇デビューし、着々と作品を重ねた3年後の芥川賞受賞作に相応しい、新人らしい才気ある作品です。
      キレがあり、何より女性をこうも男性らしく描ける作家さんは、何人もいらっしゃらないと思いました。
      独特の、絲山さんの世界、を確立されているので、安心感を持って物語と対峙することができます。
      諧謔的な表現や、野卑な描写も、嫌みなくあるがままの様子で、むしろ好感が持てますし、むしろそういった負の表現が作品の風通しを良くしてくれていて、さっぱりとした余韻を残します。

      もう1本の『勤労感謝の日』も秀作。
      俗にいう「いい大学」を出て「いい会社」に勤めた、男性気質の女性が、父親の葬式に参列してくれた上司(部長)の頭を、お清めの席上ビール瓶で殴り倒し流血沙汰を起こした挙句、理不尽にも会社側から解雇のような措置をとられます(事の発端は部長の酔った上でのセクハラにあり、彼女に落度は無いのですがやり過ぎました)。
      36歳・無職の伊達女は、ある日、強硬に勧められて仕方なく見合いをするのですが、あらわれた男がサイアクで。
      見合いを途中で放り出し、渋谷に呑みに出ます。

      主人公の心の声は見合いの最中も、呑みに出た渋谷の街中でも、読者に届けられるのですが、実に愉快。
      世の幸せを謳歌している人たちへ向けられるひねくれた感情。
      虚無感、孤独感、あきらめ…といった悲しい思いを、朗らかに、高らかに言い募ります。
      くどいくらいなので、好まれない方には辛いだけで面白くないかも。
      でも、たいがいの女性は共感できると思います。

      渋谷を後にした主人公は、見合いを台無しにした後ろめたさから、まっすぐ家に帰りにくいので、近所のうらぶれた呑み屋に道草します。

      マスターはまるで商売よりテレビがいいかのように面倒くさそうにこっちを向いて、らっしゃい、と言う。それから、
      「何かいいことあった?」と、陰気な声で言い、私は、
      「あるわけないっしょ。お湯割り」
      と答える。ラジオ体操のように正確だ。この挨拶がもし崩れてしまったら、私はこの店に来なくなるだろう。
      「どっか行ってきたの?綺麗なカッコして」マスターがちょっと冷やかすように言った。
      「見合い。たこぶつ」

      自分の現状を、注文と一緒にしかこたえようとしない、主人公のヤケ酒の様子がいいです。
      たいがい焼酎を呑んでトイレに立つのですが、下着を下ろした時に生理が来たことに気付きます。
      携行していた生理用品を使うあたりは、さすがに男性作家には書くことができない、女性作家ならではの描写で、感心しきり。
      やって来た生理にまで毒づく、36歳独身・無職女は面白いです。

      中出しでもしてれば生理は神様からの授かりもののようにありがたいが、何もない月はただ気持ち悪くて、女って嫌だなと確認するだけだ。生理なんかなくても私は一生に何百回も女は嫌だと思うんだろうが。
      汚してしまったパンツを忘れるためにお湯割りを呑んだ。

      そのあと彼女は、虎の子の夜を懐におさめて、ふらつく足で家路に着きました。
      >> 続きを読む

      2015/07/19 by

      沖で待つ」のレビュー

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      著者: 絲山秋子

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      • 評価: 3.0

        なんて、カッコいいタイトルなんだろう。装丁も超Cool またひとつ読み逃していた刺激的な本と出会えてラッキー!

        総合職とがジェンダーとか行政用語にふりまわされながら奮闘している女性たちの熱量が男より男前。

        組織に蔓延する不倫やセクハラ、パワハラの男社会構図すら、凌駕してしまうサバサバした女子力の進化。

        色恋なしで男と女が認めあい、渡り合える新たな社会図に拍手! 自身も死ぬ前にハードディスクをどう処分しようか?マジ考えた。他2収録作もスカッと痛快!パンクな読後感! >> 続きを読む

        2018/03/18 by

        沖で待つ」のレビュー


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