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ダンシング・マザー

3.5 3.5 (レビュー1件)
著者: 内田 春菊
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    「ダンシング・マザー」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      内田春菊が25年前にドゥ・マゴ文学賞を受賞した小説『ファザー・ファッカー』は、色々な意味で衝撃だった。その後何度も繰り返し漫画の中で語られる、少女期の義父からの性的虐待というテーマもさることながら、「漫画家」内田春菊の「文筆」における類稀なる才能を示したという点においても。

      しかし、その後彼女が発表したいくつかの小説は、あまりに筆が生々しく、つまり、小説に欠くべからざる「客観」がどんどん失われていくという点で正直「読むのがしんどい」ものになっていった(もちろん、その中にはとても心を奪われるものがあったのも事実だ)。と同時に、彼女のライフワークといって差し支えない漫画『私たちは繁殖している』シリーズにおいても私生活の赤裸々な暴露が綴られていくのだが、大方の反応とは違って、私自身はそれらには彼女の小説に抱いたようないたたまれなさを感じることはなく、やはり内田春菊は「漫画家」だという思いを強くしていったのだった。

      そんな風に内田春菊の様々な作品を追っていた私にとって、本作は、あの25年前に味わったような、いや、それを上回る「衝撃」を与える作品だった。つまり、再び(と、私には思える)「文筆家」としての内田春菊がその才能を存分に発揮したのだ。

      題材は『ファザー・ファッカー』と同じ、自らの少女時代の性的虐待の体験。だが今回、その視点は、彼女の「母親」に移っている。十代の春菊を、義父、つまり自分の内縁の夫の「相手」に差し出した実の母親だ。
      『ファザー・ファッカー』やその後繰り返し描かれた漫画作品からは、到底受け入れることのできない「ありえない毒親」としか思えなかった女が、ここでは、人生の様々な地点で色々なことを感じ、考え、悩み、つまり「確かに生きている生身の女」として描写される。と同時にそこからは、時代、生まれ育った土地、ジェンダー規範、様々な外的要因に翻弄され、思うがままの人生を生きられなかった犠牲者としてのすがたも浮かび上がってくる。そこに、複数回の結婚・離婚を繰り返しながら4人の子供を育て、最近では大病も経験した内田春菊の自らの母親に対する「同情」を読み取ることも可能かもしれない。
      だが私は、主人公逸子の娘である静子、すなわち春菊自身の描かれ方が、ある意味自分自身を描写しているとは思えないほど突き放したものであることに注目したい。

      幼稚園の先生が興奮するほどの高い知能指数を示す静子。テストで1番を取り続け「東大も夢じゃない」と思わせる静子。「お母さまの脚を治すために医者になる」という言葉が現実味を帯びてくる静子。一方、小学校で見知らぬ中年男性に体を触られる体験をする静子。「いやらしい」静子。「お父さま」に反発してふてくされた態度をとる静子。嫌なことがあるとすぐ子供部屋にこもってしまう静子。「自分のことしか考えていない」嫌な子どもである静子。そして、中学生で妊娠する静子。

      主人公である母親の視点から描かれる静子は、とても頭が良いけれども可愛げのない女の子だ。母親の苦労をわかろうともせず、分かち合おうともせず、それどころかどこか自分を見下しているような娘。だがそのような「描かれ方」こそ、この母親が「毒親」であることの証左なのだ。なぜなら彼女は、内縁の夫の欲望の相手に自分の娘を提供することに自ら積極的に加担するのだから。彼女はずっと思い続けている、「私は悪くない、この娘がもっとちゃんとしていたら、私はもっと幸せになれたはずなのに、私にはもっと別の人生があったはずなのに」。例えそれがこの時代の女性のマジョリティであったとしても、この徹底的に自己を持たない生き方が別の女性(=娘)の人生を破壊していい言い訳になるはずはない。

      だからこの小説は、決して内田春菊の「母親目線」が書かせたものではないのだ。むしろ、母親の立場に立って書かれていることで、一層母親への断罪は圧倒的だ。小説では、静子は初めて義父とセックスをさせられたあとで泣きじゃくるが、その後、月に1回ずつ義父の寝室に呼ばれる描写は驚くほどあっさりとしている。だがそこから、静子が負った死を願うほどの深い傷を読み取ることは、決して難しいことではない。淡々としているからこそ一層深い。

      小説は静子の家出で幕を閉じるが、この先の「静子の物語」はこれまでに発表された内田春菊の作品を読めばよい。だが、静子が家を出て行った後の「母親」の物語は紡がれない。紡ぎようがないのだろう。それは、絶望と諦念の支配した荒涼たる平野が広がっているばかりの風景なのだろうから。
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      2018/11/25 by

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