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甦るロシア帝国

4.5 4.5 (レビュー1件)
著者:
カテゴリー: 個人伝記
定価: 810 円

外交官としてソ連崩壊を目の当たりにした筆者は、新生ロシアのモスクワ大学で神学を講義し、若者たちに空恐ろしさを感じる―「ロシアはいずれ甦り、怪物のような帝国になる」。プーチン大統領の出現でその恐れは現実化した!今後のロシア帝国主義政策を理解するために必須の、ロシア知識人たちの実像を描き出す。

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    「甦るロシア帝国」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      佐藤優氏が、外交官としてソ連の崩壊前後の出来事を内部から報告したリポートです。歴史の教科書の知識しかない私には知らないこと、誤解していることがたくさんあったと思いました。佐藤氏が宗教を専門としている関係で宗教の話がたくさん出てきますが、政治と宗教が特に密接に関わり合っていることを改めて確認しました。この辺の事情は戦後の日本に生まれ育った人間としては肌感覚としては理解しにくいところです。また、ソ連崩壊の原因ともいうべき民族問題について、「民族」という枠組みそのものが新しくつくり出された幻想であるというのは、今から見るとわかりにくい部分があります。これはやはりフーコーなどが言っている、自明と思われていて、はるか昔からあるように思われていることが、実は最近つくられた常識に過ぎないということを示す好例だと思います。

       筆者がモスクワ大学で教鞭を執り、学生達と親密なつきあいをする様子が多く出てきます。筆者の該博な知識と、バイタリティに驚きます。外交官として勤務しながら大学の授業の講義をし、学生のアルバイトの世話をしたり、議論を楽しんだりしている。基本的に人が好きな人間だなと思わされます。それ以外にも人脈作り(佐藤氏はどこまでが人脈作りなのか、興味関心からなのか判然としない。おそらく両方だろう)を日々行い、普通の日本人が手に入れることのできない情報を手に入れたり、会えない人に会ったりしています。そういうことが結果的に佐藤氏を外務省から追い出していく要因になるのですが(それは筆者自身が指摘しています)。

       ロシア人がマルクスを理解したことは一度もなかったと多くの知識人が言っているのは興味深いことです。私自身マルクスをちゃんと理解できているわけではないので、「なるほど」と言える基盤はないのですが、ありそうなことだと思いました。それは日本の学生運動の時代にマルクスを読んだ人間がいたのかということと規模は違うながらも同じような感覚を持つからです。

       ソ連は社会主義国だから宗教は禁止だというのも、表向きはそうであっても広いソ連の中ではかなり地域差があることや、イスラム教との対立を望まないソ連はイスラム教に対してはだいぶ寛容だったというようなことが詳しく書かれていて興味深いです。

       ソ連体制後のロシアについて、知識人達が様々な予測を立てて考えていることが、これからの日本を考えるヒントにもなりそうです。たとえば、社会的格差是正に関して「国家機能による経済格差是正と社会秩序の維持が政治の基本目標に据えられるとどういう政治体制になるだろうか。想像してみて欲しい……ファシズムだ。」「佐藤さん、ナチズムとファシズムは別のものです。私が言っているのはイタリアでムッソリーニが展開したファシズムです。国家神話を形成して、それに対して国民を動員する。要するに『ロシアのために一生懸命努力している者が真のロシア人だ』というスローガンで、国民を束ねていこうとします」

       ソ連自壊のシナリオとして佐藤氏がまとめていること。「マルクス主義に民族政策はなかったこと。レーニンとスターリンの思想は、民族問題を含め、連続性が高いこと。ヨーロッパにおける社会主義革命の展望がなくなったため、ボリシェビキは中央アジアとコーカサスのムスリム(イスラーム教徒)を味方につけ、そのためにマルクス主義とイスラームの奇妙な融合が生じたこと。二級のエリートが、支配権を握るために、ナショナリズム・カードを弄ぶという一般的な傾向があること。そして、このカードは、社会・経済情勢が不安定なときには大きな効果をあげること。」

       本書を読んで、最近の日本への挑発的な国境侵犯の問題を考えると、かなり今はおそろしい(面白い?)時代だと改めて思います。二級のエリートというのは、安定の時代には決して指導的地位に就けなかった人たちのことです。幕末にはそんな人たちが次々とトップクラスに登用され、藩政改革が行われ、結局江戸幕府そのものが自壊してしまったのでした。現代はどうでしょうか。国家の中枢は地方のコントロールをできなくなりつつあります。ナショナリズムの扇動者、カリスマ的な成り上がり者が出れば、国が大きく変わる土壌はもうできています。ちなみに、ロシアが再び強大な影響力を持つ国になることは、ソ連崩壊前から予測されてしました。現在のシリア情勢などを見ると、冷戦構造が復活したかのようです。超大国アメリカの一国主義は陰りを見せ、中国の躍進もしばらくは続くでしょうけれど、やや鈍化し、ロシアがだんだんとかつての力を取り戻しつつあるようです。その要因をソ連崩壊前後に学生として本気で国のために学問を積んだ人たちに求めています。思えば、日本が明治維新の頃どれだけ一生懸命勉強したかは様々な文献から推測できます。幕府がまだ生きていた時代には処刑されるのを覚悟で学問をした人たちがいたのです。

       筆者は本書を日本の大学生に是非読んでもらいたいと言っています。さて、日本の大学生は次の時代の主役になれるでしょうか。
      >> 続きを読む

      2012/08/20 by

      甦るロシア帝国」のレビュー

    • Tsukiusagi様、示唆的なコメントありがとうございます。地球がクローズド・サークルという意見に賛成です。その中で誰と手を結ぶか、という「区割り」の問題が今は主流ですね。まるで冷戦です。TPPなどもそういう枠組みと本書でも指摘しています。佐藤氏の立ち位置についてはレビューで触れませんでしたが、「境界線上の人間」という章を割いて書いています。ロシア知識人から、君は少数民族出身の知識人みたいだと言われ、それが沖縄にルーツがあるからではないか(母方が沖縄の島嶼の貴族の血を引くとか)と言われています。また日本で圧倒的に少数派のキリスト教徒であること、神学部出身の外務省職員はおそらく彼ひとりであったことなど、どちらでもない位置にいてどちらも見える位置にいるというようなお話でした。彼自身は「愛国主義者」と言っています。 >> 続きを読む

      2012/08/21 by nekotaka

    • nekotakaさん、疑問にお答えいただいてありがとうございました。
      やはり佐藤氏は複雑な人なんですね。ますますわからなくなったような。
      境界線の人。というのには、興味が湧きました。
      それなのに「愛国者」ってところがやっぱり不思議なんですよねえ。
      非常に参考になりました。信頼できるかたから聞く情報って一味違いますd(-_^)good!!
      >> 続きを読む

      2012/08/21 by 月うさぎ


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