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地図と領土

3.0 3.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 2,835 円
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    「地図と領土」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 3.0

      【硬質な自伝的小説】
       主人公のジェドは、裕福な家庭に生まれ、美術の道に進んだ男性です。
       あまり人と交わることをせず、また、恵まれた環境にあることもあって、とくにあくせく作品を作るというようなこともしていません。
       かといって、怠惰なすねかじりかと言えばそういうわけでもなく、基本的に真面目な青年なのでしょう。

       当初は、工業製品を写真に収めるという作品を製作し、これが美術品というよりも商業界において一つの便利な製品として需要があったという程度でした。
       ところが、ある日、偶然目にしたミシュランの地図に衝撃を受けました。
       これまでに何度も目にしていたただの地図なのですが、その美しさに魅了されたのですね。

       そこで、ミシュランの地図を写真に写してそれを加工するという作品を製作し始めました。
       それがたまたまミシュランの社員である、ロシア人の絶世の美女オルガの目に留まります。
       作品の芸術的価値が高かったことももちろんですが、ミシュラン社としては自社の地図をテーマにしてこれだけの美術品を制作しているアーティストがいるという点に関心を抱き、作品の販売について全面的にバックアップするというオファーをします。

       その結果、ジェドの地図シリーズは爆発的に売れ、ジェド自身が相当な稼ぎを得ることになりました。
       そしてまた、オルガとも結ばれ、恋人になります。

       非常に順調に思えるのですが、ジェドはどこか一歩引いているようなところがあり、その後、オルガがミシュランの仕事でロシアに行かなければならなくなった時も、引き留めようともせず、ただ諦念のようにしてその現実を受け入れてしまうのでした。
       「人生はときにチャンスを与えてくれるが、あまりに臆病だったり優柔不断だったりしてそれをつかめなければ、配られたカードは取り上げられてしまう。」
       そういうものです。
       ジェドは、あれほど好評を博した地図シリーズの制作をやめてしまい、何の制作もせずに時を過ごす様になってしまいました。

       その後、ジェドはふとしたきっかけから油絵を制作するようになり、様々な仕事に従事する人物像を描くようになりました。
       それは、もはや消えかかっている職業に従事している者であったり、時代の最先端のIT企業の寵児だったりの肖像画でした。
       作品を描きためてはいたのですが、展覧会を開こうとはしませんでした。
       しかし、ある想いから遂に展覧会を開いたところ、ジェドの油彩画には莫大な値段がつき、若くして億万長者になってしまうのでした。

       というのが、中盤辺りまでの粗筋です。
       私が、「自伝的小説」と書いた理由の一つは、本作が主人公のジェドの一生を描いた小説であるからです。
       しかし、そこにはもう一つの意味があります。
       それは、著者のウェルベックが実名で本書に登場するからです。
       ウェルベックは、ジェドから展覧会のパンフレットに寄せる文章を依頼されたことからジェドと関わるようになります。

       関わると言っても、それは消極的な関わりであり、当時、ウェルベックは世捨て人のようになっていると描かれているのです。
       自ら積極的に交わりを求めているわけではなく、かといってジェドとの交流を拒むわけでもなく。
       むしろ、ジェドの方がウェルベックとは友人になれるかもしれないというそこはかとない予見を抱いているという具合です。

       著者のウェルベックは、本作中で、自分を殺害します。
       それも相当にひどいやり方で。
       その葬儀の様子も描き出しています。
       著者が自分自身を作中に描き、それを抹殺するというのは、どういう気持ちになるものなのでしょうか。
       
       大変淡々とした文体で綴られる、「硬質」の作品という印象を受けました。
       ラストの処理は、やや説得力に欠ける部分があるように思われますが、急展開を見せるところの衝撃は強いものがあります。
       作品の全体像がつかめるまでは、やや退屈するかもしれませんが、その後は一気に読めます。
       良作ではないでしょうか。
      >> 続きを読む

      2019/10/10 by

      地図と領土」のレビュー


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