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マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)

4.0 4.0 (レビュー1件)
著者: ベス シャピロ
定価: 2,376 円
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    「マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 4.0

      いささか怪しげなタイトルだが、至って真面目な本である。

      数年前、シベリアの凍土から冷凍状態のマンモスのミイラが発掘され、話題になった。日本でも標本が公開され、ニュースになったので、ご記憶の方(あるいは実際展示を見たという方)もいらっしゃるかもしれない。
      冷凍マンモスから細胞を採取して、マンモスのクローンを作製するという試みについても話題になり、「すわ、絶滅したマンモスが復活するのか」と高揚感を覚えたり、あるいは逆に不安を感じた方もいらっしゃるだろう。
      その後、マンモスの復活計画はどうなっているのか?といえば、実はそれほど順調ではない。少なくともそう早い時期に巨大な毛の長いゾウがシベリアを闊歩することはなさそうだ。
      本書は「脱絶滅」研究の裏側を、研究者の視点から詳細に冷静に解説する本である。マンモスを復活させるとして、技術的に問題となるのはどのような点か。倫理面ではどうか。生態系に入れたら暴走しないのか。人々はこのアイディアを受け入れられるのか。論点が整理されて論じられている。

      著者は古生物DNAを専門とする研究者で、マンモスや、比較的最近(人の手によって)絶滅したリョコウバトやドードーなどの鳥類を研究対象にしている。
      絶滅生物の復活というと、『ジュラシックパーク』のように琥珀に閉じ込められた蚊の体内から恐竜の血液DNAを採取するというような手法なのかとなるわけだが、これは現実的にはほぼあり得ない。DNAはそれほど安定ではない。琥珀の中の数百万年前の蚊の姿がいかに完全に見えても、その蚊には恐竜のDNAはおろか、自身のDNAも残存していない可能性が高い。琥珀は気体も液体も通すし、高温に晒されている可能性も高く、これらはいずれもDNAに損傷を与えることが知られている。
      もう少し新しい時代の生物からたとえDNAを採取できたとしても、大抵は100bpあるいはそれより短い、ぶちぶちと切れた断片しか得られない。ヒトゲノムは全体で30億bpである。生物によってサイズにばらつきはあるが、いずれにせよ、桁が大きく違うため、全体を構築するだけのDNAを得ることは困難だ。仮に得られたとしても、パズルを組み合わせるように元の形にすることはまず不可能だろう。
      実験者自身や、周囲の環境から入り込むDNAが古代のDNAに混入する可能性も相当ある(もちろん、新しいものの方が検出されやすい)。
      またこれとは別に、近年、エピジェネティクスと呼ばれる、DNAの修飾の役割も重要視されてきている。単に遺伝情報が読めればよいというものではない可能性は高い。
      但し、マンモスの場合、完全な細胞の採取は出来なかったが、細胞から核が単離されたという報告もある。こうしたものを利用すれば、ゲノムの全体像が見える可能性はあるかもしれない。

      さて、いずれにしても古代の絶滅生物の細胞を採取してクローンを作るのは(倫理的問題をとりあえず置いておいても)困難であるようである。ではどのような手段がありうるのか。
      1つの手法は、例えばマンモスの場合であれば、近縁と考えられているアジアゾウとの形質の違い(例えば耐寒性)を担っている遺伝子を見つけ出し、それをアジアゾウのゲノムに組み入れるもの。これは遺伝子組換え生物になる。マンモスでもなければアジアゾウでもない。
      もう1つの手法は、やはりマンモスの場合であれば、アジアゾウの中から寒さに強く大型のもの(マンモスに近い性質を持つもの)を選り出し、交配させて、求める形質を持っているゾウに近づけていくというもの。改良しているのかどうかは難しいところだが、手法としては品種改良といってよいだろう。マンモスっぽいアジアゾウである。

      遺伝子組換えでゲノムを操作した後、個体を得るには、細胞核を卵子に移植することになる。この卵子の提供者やあるいはその後の代理母をどうするのかも大きな問題である。アジアゾウはそれ自体、種の存続が危ぶまれる存在である。過去に絶滅した生物を復活させるために、現在いる種を絶滅させるようなことは出来ない。

      さらには、集団の中に、ある程度の多様性がないと存続が困難であることも知られている。苦労して復活させたとしても、1個体ではダメで、それなりの多様性を持たせるために、何10種類、何100種類と作らなければならなくなる。そうでなければ、自律性のある集団にはならない。

      また、ひとたび絶滅生物(あるいはそれに似たもの)の復活が出来たとして、それを野に放つことに皆が納得するか、生態系へ悪影響を及ぼさないか、というまた別の大きな問題もある。

      いずれも大きな問題で、いや、脱絶滅なんて無理じゃないかと思えてくる。
      だが、驚くことに、著者はこれだけ不利な条件を冷静に述べながら、脱絶滅を支持する立場なのだ。
      著者が最後に語る部分を読むと、どうやらその姿勢は、「脱絶滅」を支持しているというよりも、「適応」や「生態系のバランス」に重点を置いているようである。
      かつていた頂点捕食者の絶滅によって、被食動物が増えすぎた地域がある。いびつになった生態系を改善するため、オオカミ導入がある程度の効果を上げている例がある。ある種の絶滅動物は、これと似た役割を果たせるかもしれない。
      また別の例として、菌の移入で多くが枯死しまった栗の木に耐性遺伝子を組み入れることで、コロニーが復活しつつある事例を挙げている。これは絶滅予備軍に新規形質を入れて絶滅を回避させたことになる。

      著者は、復活するかもしれないマンモスが古代のマンモスなのかマンモス「もどき」なのかはさほど気にしていない。そうではなく、絶滅したもの、現存するものを分けた形質は何なのかを知ること、そしてそれを未来にありうる変化に適応する手段として使うことにより大きな興味を持っているように見える。
      この立場にも異論はありそうだが、「脱絶滅」に賛同するにしろ、しないにしろ、もしこの方面に興味がある方であれば(多少ホネはあるが)読んでみて損はない1冊と言える。
      >> 続きを読む

      2016/05/09 by

      マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)」のレビュー

    • 絶滅してしまった種を単純に復活させるだけでは何の解決にもならないとは思いつつも、倫理的なところなどに目を瞑れば、夢が有るテクノロジーでは有りますよね。 >> 続きを読む

      2016/05/09 by ice

    • iceさん

      コメントありがとうございます。

      そうですね、慎重に進めていく必要はありますが、ロマンがありますよね。どこまで踏み込むのか、難しいところですが。
      そのあたりの論点が整理されていて、いろいろ考えさせられるよい本だと思いました。
      >> 続きを読む

      2016/05/09 by ぽんきち


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