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伊藤真の憲法入門

講義再現版
5.0 5.0 (レビュー1件)
著者:
カテゴリー: 憲法
定価: 1,785 円
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    「伊藤真の憲法入門」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      「自民党憲法草案」を見て不安になったため本書を手に取りました。法律というと無味乾燥なイメージを持っていましたが、この本は憲法が身近なものであることを実感させてくれるので親しみやすいと思います。内容としては憲法の三大原理、立憲主義、三権分立等の基本的なものの解説になっています。僕は読後に「自民党憲法草案の条文解説」という条文比較+解説しているサイトを読んだのですが、この草案のどこが問題かというのが大雑把ながら分かるようになりました。憲法というと9条ばかりが争点にされますが、僕が危機感をもったのは他の点です。

      一番の問題点は立憲主義に反しているという点だと思います。立憲主義とは憲法で国家権力を制限することで国民の権利を守るという考え方です。現行憲法は立憲主義に基いて制定されています。だから、国家権力に対して、国民の思想や表現の自由等の基本的人権を侵害しちゃだめよときちんと明文化することで、おいそれと国家権力を濫用できないようになっているんですね。つまり、現行憲法は国家を縛るためのものですから、「国家」が尊重しなければならないものとなっており、国民が守れとは明記されていません(第99条)。一方自民党憲法草案では「国民」が尊重しなければならないものとなっています。さらに国民が負う義務の条文も追加されています(新前文、新第9条の3(領土等の保全等)、新第24条、他多数)。

      現在の憲法では個人の尊重という価値観が根底にあります。ですから、個人の権利が制限されるというのは他の個人の権利を侵害した時、つまり公共の福祉に反した時(個人の権利の衝突)なんですね。個人の権利が制限されるのは他の個人の権利によってしかありえないと一応憲法上ではそういうことになっているらしいです。

      しかし、自民党憲法草案では公益及び公共の秩序に反しない限りと変更されています。ですから、僕達の発言や創作などの表現行為も「公益や公共の秩序」に反すると判断された場合それを取り締まる法律ができる可能性があります。国にとって不利益なことは制限するよと解釈できるんですね。そして、その匙加減も政府が決めるわけです。つまり、恣意的に国家権力を行使できるようになりえます。

      そして、なによりの問題は表現の自由などの精神的自由権が規制されうるということです。なぜこれが重大かというと、時の政権にNoを突きつけられなくなるからです。前述したように「公益や公共の国にとって不利益なことも制限できるという前提にたつと、政権批判をする発言は取り締まられる可能性があります。ですから、政治についての議論や世論で国家を動かすことはできなくなります。つまり、独裁が始まる恐れがあるんです。現代日本でそんなこと起こらないだろうと思う人もいるし、僕もそう思いたいですが「そうなりえる条文」だということです。無辜の民が強大な力を持つ国家を縛る条文としては少々ゆるいのではないかなとそう思うんですね。また、その時にはあらゆる創作物の表現も規制されるでしょう。

      まとめると立憲主義に反していること(憲法を遵守する対象が国家から国民に)、基本的人権の制限、義務の増大、恣意的に権力を行使できてしまうこと、表現の自由の規制により国民主権が失われてしまうことが問題点ですね。個人主義から全体主義へなんて問題もあるようです(第13条)。この草案で得するのって直接、あるいは間接的に国家権力を行使できる極一部の上層の人間だけでは……と思ってしまいました。

      それと注意したいのが、これは「護憲派」か「改憲派」かという二項対立ではないというところです(右か左かでもないです)。なぜなら一部改憲の必要を感じるけれど、この草案は却下という人間もいるからです。ですから、参議院選挙にしても、もし改憲の国民投票が行われることになったとしても「自民党憲法草案」に賛成か反対かということを冷静に考える必要があると思います。なぜこんなことを言うのかというと、この草案の反対派に対して、周辺国の脅威が高まっている状況下で9条を変更しなくて大丈夫だと思っているのか?という意見があったからです。

      9条については今自衛隊が憲法の下で微妙な立場に置かれていること、周辺国の脅威、外交問題などを考慮し、現行の9条の問題点はなにか、変更する必要があるか否か、あるいは変更するならばどの点をどのように変更するのか等慎重に議論する必要のある問題でしょう。9条を堅持すれば平和を守れるわけでもなければ、改憲すれば国民が守られるわけでもないと思います。そして、「自民党憲法草案」では前述した意外にも9条の他に多数改定された条文があり(例えば第96条や緊急事態の要項ほか多数)、憲法のあり方が劇的に変更されています。それは間違いなく僕達一般市民に大きく関わってくる問題なので、9条以外の変更点も含めて、慎重に考える必要があると思います。

      〈雑記〉
      ・自民党サイトのQ&AのQ4で立憲主義に反するものではないという返答をしています。なぜなら、憲法に国民の義務を定めることは立憲主義違反でないからだとあります。確かに現行憲法でも国民の三大義務はあります。しかし、本来国を縛るための憲法を国民が義務を負う憲法へと変え、義務を負う条文を多く追加し、国家権力を恣意的に利用できる憲法はもはや立憲主義に基づいてるとは言えないのではないでしょうか。

      また、Q15では「公共の福祉」を「公益及び公共の秩序」といいかえたのは、曖昧さを解消するためであり、「反国家的な行動を取り締まる」ことを意図したものではありませんとありますが、憲法改正後にはこのQ&Aはなんら効力を発揮しないものとなってしまうことには注意したいところです。国家が気に入らない表現を取り締まる、あるいは規制することができると解釈可能な条文であるという点が、なにより問題なのですから。

      ・私見ですが、国民の三大義務が定められているのは「最低限」これらがないと「国家が成立しないから」ではないでしょうか。また教育を受けさせる義務については、子供という個人の権利を守るための義務であるとも考えられます。勤労の義務については無職でも罰則を受けることはほとんどないという事実があります(弁護士ドットコムによると奈良県警が住居を持たない無職の人間を軽犯罪法で摘発した事案があるらしいが、超レアケースだと思われる)。ですから、必要以上に国民に義務を課すのはやはり立憲主義に反するのではないでしょうか。

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      2016/06/30 by

      伊藤真の憲法入門」のレビュー


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