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切り裂き魔ゴーレム

5.0 5.0 (レビュー1件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 2,520 円

切り裂きジャックに先立つこと八年、血も凍る連続殺人が霧深いロンドンの街を恐怖におとしいれた!史実と虚構を巧みに組み合わせ、批評家の絶賛を浴びた英国きっての知性派作家による第一級の犯罪小説。

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    「切り裂き魔ゴーレム」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

      【既に絶版。ほとんど知られていない作品かもしれないけれど】
       物語の冒頭は、エリザベス・クリーの絞首刑の場面です。
       エリザベスは、夫のジョンを砒素により毒殺した罪により、ニューゲイト監獄で死刑を執行されるところでした。
       エリザベスは、死刑執行人によってかけられた目隠しをふりほどき、「またもや、まかり出ました!」と叫んで死んでいきました。

       本書は、ビクトリア朝後期のロンドンを舞台にした連続殺人事件を軸として、当時の風俗や人物を織り込んだ、すこぶるペダンティックな作品です。
       ロンドンの深い霧の中で、娼婦をはじめとして様々な人々が惨殺される連続殺人事件が発生しました。
       被害者の死体は鋭利な刃物で切り刻まれ、内臓は引きずり出されるという陰惨な状態です。
       こう書くと、当然『切り裂きジャック』を連想しますが、作中の年代設定はそれよりも約70数年前の出来事とされています。

       捜査は遅々として進まず、また、ある被害者の切り取られた陰茎が開かれた書物の上に置かれ、その位置にちょうど『ゴーレム』という文字があったことから、新聞はこぞって『殺人鬼ゴーレム』と書き立てたのです。

       ゴーレム……。
       それは、ユダヤのラビ(律法学者)が操る人造人間。
       土塊から作られ、額にemeth(真実)という文字を書き付けて命を吹き込まれます。
       そして、土塊に返す時には、その額の最初の文字のeを消せばmeth(死)になり、ゴーレムの命は消える……
       これは作中には書かれていませんが、元来ゴーレムとはそういうもの。
       様々な作品で扱われていますよね。
       幻想文学好きな方には必須の知識。
       そういうことを知って読む方が、数倍その作品の、作者の意図が鮮明になります。

       作中では、ある人物がゴーレムとして殺人を繰り返す様子が描かれますが、ゴーレムは、被害者の前に「またもや、まかり出ました!」と言って姿を現し、惨殺するのでした。

       死刑に処せられたエリザベスとはどういう女性だったのでしょうか?
       狂信的な母親に虐げられ、その母親とも死別した彼女は、憧れていたミュージック・ホールの下働きをするようになります。
       そして、段々女優としての頭角を現し、遂にはミュージック・ホールの花形女優に上り詰めたのでした。
       そして、当時時新聞記者で、将来は作家を志望していたジョンと知り合い、結婚します。
       ジョンは、莫大な遺産を相続したこともあり、新聞記者を辞めて執筆に専念するのですが、なかなか作品を仕上げられないでいました。

       エリザベスも、女優の仕事を辞め、そんなジョンを支えて何とか作品を完成させてあげようと努力していました。
       というのも、ジョンが執筆中の作品は、『ミザリー・ジャンクション』というタイトルの、まさにミュージック・ホールの芸人達を描いた作品であり、エリザベスはこの作品が完成した暁にはそれを舞台にかけ、自分が主役を演ずることを夢見ていたからでした。

       しかし、ジョンは砒素中毒により急死してしまいます。
       エリザベスは、ジョンに砒素を盛ったとして裁判にかけられますが、最後まで犯行を否認します。
       終油の秘蹟すら拒否します。
       「私は夫を殺してなんていません。ですがもし私がジョンを殺した理由が、ゴーレムを消したかったからだとしたらどう思われるのですか?」
       でも、結局、有罪判決を受け、死刑に処せられてしまうのですね。
       「またもや、まかり出ました!」と叫びながら。

       この作品は、当時のロンドンの貧民街であるイースト・エンドの風俗や、労働者を対象にして絶大な人気を誇ったミュージック・ホールの猥雑な様子、実在の人物である、カール・マルクスやコンピュータの生みの親チャールズ・バベッッジ、実在の俳優でチャップリンにも激賞されたというダン・リーノらを織り込みながら展開していきます。

       要所要所で出てくる「またもや、まかり出ました!」(この作品では何とおどろに響く言葉でしょう!)という台詞は、『道化の王様』と呼ばれ、作中でも少しだけ触れられる実在の俳優、ジョゼフ・グリマルディが舞台に登場する時の名台詞なのだそうです。
       このような、重層的な、独特の雰囲気だけでも大変面白い作品と言えます。

       そして、何よりも、本作はかなり凝った造りになっています。
       著者は、作中で、明確にゴーレムの正体を書いており、その犯行現場も描写しているのですが、果たしてそうなのか?という疑問がふつふつと湧いてきてしまうのです。
       作者を信用できなくなるのです。
       ゴーレムは、実は○○なのではないのか?
       エリザベスは、否認しているけれどやっぱりジョンを殺害している。でもその理由は……だからなのではないのか?
       読了後も、様々な疑念が渦巻いてしまうような作品でした。
       既に絶版ですし、あまり知られていない作品かもしれませんが(efは、読書ツナガリでこの作品を見つけました)大変、密度の濃い、みっちりとした作品ですよ。
       再読、必至だなぁ。
      >> 続きを読む

      2019/07/26 by

      切り裂き魔ゴーレム」のレビュー


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