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屠場

5.0 5.0 (レビュー2件)
著者: 本橋 成一
定価: 3,024 円
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    「屠場」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 評価なし

      大阪松原の旧屠場(=屠殺場、食肉処理場)を中心としたモノクロ写真集である。
      現在、屠場は建て替えられて分業化が進み、工場のようにコンベアで運ばれる牛を解体していく形が取られているという。
      旧屠場では、熟練集団が手作業で解体を進めていた。その技術員たちは、生物を食肉に変えていく現場で働いてきた。大柄な牛を扱う作業は重労働である。牛が暴れることもあり、鋭利な刃物を使う作業でもあり、大きな危険も伴う。
      さらに作業に当たる彼らは、作業所を出れば、差別の対象となる部落の住民でもあった。

      著者の前書きの後、重厚なモノクロの写真が続く。
      雄弁なモノクロ写真を、まずは生で受け止めて欲しいということか、途中には解説は一切入らない。牛であったものが肉塊となり、屠場が清掃されてまた明日を待つ姿まで辿り着いて、巻末の写真解説を参照しながら、もう一度見直す。

      屠場へと引き出される牛の中には危険を察知して抗ったり、へたり込んでしまうものもいる。脳に鉄棒を撃ち込む特殊な銃で意識を奪い、素早く放血させる。
      皮を剥ぎ、内臓を抜き、背割りをする。こうして、セリに出される枝肉が出来上がる。
      一連の作業は、迅速に適確に行わなければならない。作業員の安全のためという意味もあるし、肉の味にも関わるからだ。
      動物の体温で、屠場の空気は冬でも湯気が立つほど熱気に包まれる。
      苛酷な労働環境の中、作業に当たる彼らにはある種の誇りがみなぎる。
      それは、命と向き合い、時には自らの命も危険にさらしながら日々を送る人のみが知るものなのかもしれない。

      最後に作家の鎌田慧と部落解放同盟の吉田明の解説が収録される。
      日本の屠場にカメラが入ることはなかなか難しかったのだという。それは作業員の大半が部落出身者で、差別を受ける職場であり、顔を出すことを嫌がる人も多かったからだ。そこに入り込み、特に旧屠場での、人の労働力に頼る形の解体を記録できたことは、著者の人柄に負うところが大きいようだ。
      解説を読んでまた写真を見直す。
      形状の多様な刃物。「少し前までは牛だった」吊される肉。ケース一杯の内臓。壁に残る牛の蹴り跡。牛たちが残した鼻木の紐の山。
      残酷にも見えるが、肉を食う、ということはこういうことなのだ。

      かつて著者は子供時代、戦後の厳しい時期に、家で鶏の群れを飼っていたという。卵で栄養を取るためだが、卵を産まなくなった雌鶏、増えすぎた雄鶏もときに、家族のタンパク源となった。鶏を絞める際、餌係として鶏たちをかわいがっていた著者を、父親は必ず立ち会わせた。特別に著者に与えられる2つの手羽先に肉が少しでも残っていると、「しっかり食べてあげなさい」と諭されたという。
      肉を食う、ということはそういうことなのだ。

      屠畜を被差別部落の人たちが担っていたということ、他者の命の上に自分の命をつなぐということ、さまざま考えさせる静かで雄弁な写真集である。
      >> 続きを読む

      2016/07/09 by

      屠場」のレビュー

    • 〉屠畜を被差別部落の人たちが担っていたということ
      それ、大学の時に長野出身の子に聞いて初めて知りました。
      なんでも姓でわかるようになっているんだそうで。
      部落差別は中学の時に大分から引っ越して来た子から聞いて。
      江戸時代のことで現代にそんな因習や差別が残っているなんて信じられなくて驚きました。
      今では逆差別的な優遇政策もあって、意味がわかりませんね。

      命と向き合うことで仕事に誇りを持てるようになっている彼らがいてくれることは、別次元で素敵なことだと思いますし、思いたいですね。
      >> 続きを読む

      2016/07/09 by 月うさぎ

    • 部落問題は地域による温度差が大きいかもしれないですね。
      東京から関西に越してきて、子供の学校で人権週間があったりするのに驚きました。東京でも(逆の意味で関西でも)地域によると思いますが。

      この写真集は少し前の写真が多いので、今の食肉処理場は分業化・自動化がこれより進んでいるのではないかと思います。作業する人たちも多様化しているかもしれません。
      いずれにしても、貴重な記録という意味で、またさまざま考えさせられる点で、意義ある本だと思います。
      >> 続きを読む

      2016/07/09 by ぽんきち

    • 評価: 5.0

      ますます、いのちが遠くなってきている今。
      あえて、それをタブー視しているとすら、感じてしまう。
      我々は、その上に生きながらえているということ。
      それにしても、ここで働く人たちの表情豊かななことかと思う。
      そこには、深みすらあるように思う。
      やはり、いのちに接しているからだろうか。
      みかけのかっこよさや、派手さとは正反対の世界のように思うが、はたして、どちらが望ましいのだろうか。
      生きる密度が違うのかな。
      しかし、このモノクロームの世界の、なんと訴える力の強いことか。
      >> 続きを読む

      2014/08/12 by

      屠場」のレビュー

    • 3Dプリンタで「肉」を作る技術がマジメに研究されているそうですね。

      これが実用化に至れば、屠殺が不要になるのもメリットと言うことですが、臆病かも知れませんが、何となく人間が越えてはならない領域のような気がしないでも有りません... >> 続きを読む

      2014/08/12 by ice

    • 果たして、それは食べものとしての肉なんでしょうか?
      栄養素とか・・・まあ、理屈上はありえますけどね。
      この世の終わりのように思います。
      >> 続きを読む

      2014/08/12 by けんとまん


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