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百貨店で〈趣味〉を買う: 大衆消費文化の近代

3.0 3.0 (レビュー1件)
著者: 神野 由紀
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    「百貨店で〈趣味〉を買う: 大衆消費文化の近代」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 3.0

      【百貨店はターゲット顧客に何を売ろうとしたか?】
       明治末から三越等の百貨店は誰を顧客ターゲットとし、何を売ろうとしたのかについて考察した興味深い一冊です。
       この本の視点では、それは『良い趣味』を売ろうとしたのだというのです。

       まず、百貨店は誰を顧客ターゲットにしていたかというと、それはこの時代、地方から都市部に流入してきた新中間層であったと言います。
       それなりの収入があり、消費生活ができる立場にあったものの、では何を買ったら良いのかが分からない新中間層に対して、百貨店で買えば『良い趣味』の物が簡単に手にはいりますよという商売が重要であったというのです。

       その前提として、実際に百貨店を訪れていたのはどういう客層だったのかを考えてみましょう。
       今では、消費行動は男性よりも女性の方が盛んだと考えられているのではないでしょうか?
       現在のデパートに行ってみても、1Fにあるのは化粧品売り場や女性向けの雑貨などが大きなスペースを取っています。
       デパートの1Fというのは、メインとするターゲットに対して訴求力のある商品を並べるスペースだと、それは今も昔も考えられているのだとか。

       ところが、昔の百貨店の1Fに並べられていたのは、ほとんどが男性用商品だったのだそうです。
       それは何故か?
       昔は、外に出る機会は男性の方が圧倒的に多く、また、金を握っていたのも男性だったというのですね。
       男性は、稼いできた給料の一部を生活費として妻に渡し、妻はその金で日々の生活をやりくりしていたのであって、女性は百貨店で買い物をするような機会はまず無かったというのです。
       百貨店で取り扱っているようなそれなりの高額の商品は、夫に買ってもらうものであり、妻が自分の判断で百貨店に行って買ってくるようなものではなかったのだそうです。

       となると、そういうメインの顧客であった男性に何を売ろうとしたか?
       そのためにまず、目指すべき『紳士像』が提示されたのだそうです。
       紳士たる者、これこれの服装を揃えなければならない、書斎にはこういった物を備えるべきである等々。
       もちろん、そういう物に慣れ親しんでいる者であれば、別にあれこれ言われなくても自分の判断で選び、誂えることは可能だったのでしょうけれど、新たな消費の担い手であった新中間層にとってはそれらは新奇な物であり、一体どこで何を買ったら良いのか分からなかったのです。
       でも、自分は恥ずかしくない紳士たる男にならなければならないと。
       そういう意識をくすぐったのでしょうね。
       そこで、百貨店に行けば間違いの無い物が揃っていますよということで男性顧客を誘い込んだのだと言うわけです。

       この辺りの実例も交えて書かれているのですが、非常に興味深いです。
       服装に関しては、現在の男性雑誌とさほど変わりはありません。
       ワードローブとして必要な物は○○であり、それは××の素材でなければならない、△△のアイテムは必須である等々です。
       また、紳士たる者書斎を構えなければならないとされており、自分が読むための本ではなく、書斎に並べるための本として辞書、地図、全集などが勧められています。
       笑ってしまったのは、書斎には石膏半身像を備えることが必須とされていて、ゲーテやシラー、ワーグナーの半身像が売られていたのですね~。

       この辺りの事情は、服飾に限りません。
       今でもそうですが、デパートには美術品売り場がありますよね。
       あれって何だか不思議な感じがしませんか?
       絵画等が欲しければ専門の画商や画廊があるのに何故デパートでも扱っているんだろうって。
       これにも歴史があるのですね。
       
       品の良い美術品を家に飾るという事も豊かな生活のためには必要なことであるとされていたそうです。
       でも、地方から都会にやってきた若い世帯は、賃貸住宅を借りたばかりで、家に飾る美術品など持っていませんし、どこで買ったら良いのかも知りません。
       また、美術品には贋作がつきものですが、真贋を見分ける鑑定眼なんて備わっているわけもありません。
       そこで、百貨店に行けば間違いのない、しかも質が保障された『趣味の良い』美術品が、額装済みで手に入りますよというパッケージ販売をしたのが始まりだというのです。

       また、ご存知の通り、百貨店の前身は呉服店ですから、着物の下絵を描く絵師と百貨店との間には太いパイプがあり、百貨店は美術品を扱うことが可能な立場にあったという点も指摘されています。
       さらには、美術品を展示する場所の問題もありました。
       当時は、美術館や画廊などは少なく、わずかに展示可能なスペースは官展が押さえてしまっていたのだそうです。
      そこで、私的な団体の展覧会を引き受けたのが百貨店であり、そこでは美術品の展示即売も行ったということもあり、百貨店における美術品販売ということが可能だったようです。

       同様に、様々な商品について、『良い趣味』の物が百貨店に行けばお手軽に、パッケージ商品として、間違いなく手に入りますという商売が行われていたというのですね。
       それは、家具もそうですし、趣味の雑貨や人形などの販売もあったというのです。
       今でもありますが、様々な商品について、会員になって一定額を支払えば毎月そのジャンルの商品の色々な物が届けられるというシステムも、どうやらこの辺りが発祥だったようです。

       近代の大衆消費文化がいかにして形成されてきたのかという、非常に興味深い問題について考察されている一冊です。
       なかなか面白かったですよ。
      >> 続きを読む

      2019/07/26 by

      百貨店で〈趣味〉を買う: 大衆消費文化の近代」のレビュー

    • デパートはその時代背景を反映しているんですね。
      奥が深いですね!
      デパートと美術展示の関係も、なるほどー。 >> 続きを読む

      2019/07/26 by taiaka45

    • 私もなかなか目から鱗でした。

      2019/07/26 by ef177


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