こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)

バビロン行きの夜行列車 (ハルキ文庫 フ 1-1)

5.0 5.0 (レビュー1件)
著者: レイ・ブラッドベリ
定価: 1,015 円
いいね!

    「バビロン行きの夜行列車 (ハルキ文庫 フ 1-1)」 の読書レビュー (最新順)

    最新のレビュー順 | 人気のレビュー順
    すべてのレビューとコメントを開く
    • 評価: 5.0

       本書はレイ・ブラッドベリ(1929-2012)が、1997年に出版した短編集である『Driving Blind』を翻訳したものです。著者は、アメリカを代表するSF作家、幻想文学作家です。『火星年代記』や『華氏451度』、『たんぽぽのお酒』などの有名な作品を書いたこともあり、ご存知の方もいるかもしれません。

       さて、SFや幻想的な物語を描く者として、不動の地位を獲得しているといってよい彼がどんな短編集を書いたのでしょうか。ここからは、いくつかの短編を要約したあと、個人的に気になった点を指摘していきたいと思います。

      ①「やあ、こんにちは、もういかないと(Hello,I Must Be Going)」
       ある日、スティーヴの家に信じられない人物が訪ねてきた。それは、4年前に死んだ親友のヘンリーだった。なぜ、死んだはずのヘンリーがスティーヴのところにやってきたのか。それは、ヘンリーの恋人だったイヴリンが、墓参りにも来なくなり、また、泣くことも少なくなったことに疑問を覚えたからだという。ヘンリーはイヴリンのところに向かおうとする。スティーヴはヘンリーの行動を止めるのか…。

       死者との邂逅。よくあるテーマですが、ブラッドベリが手がけると「あってもいいよね」となるから不思議。死者との出会いが過去への執着ではなく、未来への一歩になることを描くのは、素敵です。

      ②「分かれたる家(House Divided)」
       12歳の男の子のクリスは、兄といとこの女の子2人と真っ暗な部屋で怪談話をしている。病院に運ばれた伯父さんの様態が悪化して、親族が集められたのだが、子どもたちだけは別の部屋で過ごすことになったのだ。クリスが怪談話をしているときに、なんと、いとこのヴィヴィアン(15歳)がクリスの唇を奪う。しかも、ベルトを外し、ズボンを脱がせようとする。クリスは今までしらなかった「肉体」を知る。それは、肉欲と官能の知覚。クリスはどうなってしまうのか…。

       非常にエロティック、官能的、艶かしい。でも、上品で、節度がある。少年が自らの「肉体」を自覚していく過程を、これほどまでに感覚的に描き出すとは…、さすがブラッドベリといったところでしょうか。というか、ヴィヴィアンは年下の少年に何をしているのかわかっているのでしょうか(笑)

      ③「窃盗犯(Grand Theft)」
       80過ぎの老女の姉妹の家に、泥棒が入り込む。盗まれたのは、20代のころにもらったラブレター。幾日かたったあと、その盗まれたのラブレターが、再び家のポストに投函されていく。果たして、窃盗犯はだれなのか、再びラブレターを投函しているのは誰なのか…。

       本当に盗んだのは、あなたの心でした。老人の恋も、若者の恋と同じようにみずみずしい。

      ④「覚えているかい、俺のこと?(Remember me?)」
       フィレンツェへ旅行しにきていたレナードは、ハリーという男に急に呼び止められた。レナードは見覚えがないのに、ハリーは懐かしそうに話しかける。あれよあれよというまに、ハリーにディナーの約束までさせられた。ホテルに帰ってから、レナードは、話しかけてきた男が地元の肉屋の店主だと思い出す。とはいっても、買い物のやりとり以外の付き合いはなかったはずなのだが。レナードはディナーを断る電話を入れようとするものの、相手には通じない。結局、ハリーとディナーをする羽目になる。さて、2人は上手く会話が続くのか…、そして、彼らの関係はどうなるのか…。

       そんなに関係が深くない人間同士が、どうにか関係をつなごうとする努力が面白い。最終的に、お互いの本音をさらすことになるのですが、それによって関係が壊れるのではなく、新たな関係性が生まれることになります。これは、優しいコメディです。 

      ⑤「目隠し運転(Driving Blind)」
       少年のクィントが住む町に、覆面を被った男が、大きな目立つ車に乗ってやってきた。かれは覆面をしているのに、していないかのように運転をする。その覆面男は、クィントと知り合い、クィントからミスター・ミステリアスと呼ばれるようになる。覆面男は、車を売るためにこの町にきたらしいが、覆面を被る理由は語らない。単に目立つためなのか、真意はわからない。
       クィントと仲良くなるにつれて、覆面男はクィントに覆面を被る理由とこの町に来た本当の理由を明かす。覆面は、いつからしているのかは記憶がないらしい。覆面は肉体の一部と考えてきたようだ。しかし、覆面の下はのっぺらぼうかもしれないし、あるいは、醜い顔かもしれないと思うと、漠然とした恐怖や不安が生まれ、覆面を外せずに生きてきたという。この町に来た理由の方はなにか。それは、人々との交流を取り戻すことだという。人々との交流を重ねれば自己が変わる。自己が変われば覆面の下の顔も回復するはずだ、そうすれば覆面を外せる……、そう思ったらしい。
       クィントは数日後、覆面男にこういう。もし、自己が変わって、覆面の下の顔が元通りになったと実感できたなら、覆面を外す必要もないんじゃないか、と。「覆面をしてもいなくても、関係ないもん。覆面の下が何も問題ないってことが、本当にわかっていれば、ね?」覆面男はうなずく。「そしたら、あと100年だって覆面をかぶったままでいればいい。覆面の下がどうなっているかはぼくたちだけの秘密にして、だれにもいわないし、気にもしない」そして、覆面の下はハンサムに違いないよ、ともクィントは言う。その時、覆面男は涙をこぼす。その涙は、うれし涙。覆面男は、もしかしたら自分の思い込みだけで覆面を被ってきたのではないかと悟る。覆面男はクィントを散歩に誘う。物語の初めのように車は使わない。自らの力で歩む足があるのだから。覆面もはずさない。覆面の下の「暗闇」は以前とは違う明るい「暗闇」なのだから。

       ああ、これは本書のなかで最も印象に残った話です。謎の覆面男が、クィントとの交流の中で、自らの認識を変化させていく過程は見事。覆面男は変化を願ってたのですが、変化しなくてもいいし、変化する必要すらないんじゃないかと、意識が「変化」していったのです。あるいは、クィントのおかげで既に「変化」していたことを、心のどこかで悟ったともいえるでしょうか。クィントの言葉は「いまのままの君でもいいんじゃないかな」と言っているように聴こえました。それは、諦めではなくて、「自己肯定」に似ているのかもしれません。ちなみに、謎の存在と少年との交流は、SFで頻繁に見かける設定ですね。映画の『ET』が有名でしょうか。類似した話を比較してみてもよいかもしれませんね。

      ⑥「ミスター・ペイル(Mr.Pale)」
       宇宙船に乗っていた医者の男が、治療に呼ばれた。患者は、青白い、骨ばった老人だ。老人は自らをミスター・ペイルと呼んでほしいという。老人は、自分は地球で調子に乗っていたが、今では死にかかっていると述べた。医者は老人の発言を理解できないでいたが、老人が地球の方向を見ろといってために、地球を見ていたら、なんと地球が爆発し消滅したではないか。
       老人は生命が生まれた時から存在し、生命と共に生きてきた。しかし、生命が住む地球が消えたために、自分は死にかかっているのだという。自分が助かる道は、治療を受けた後、生命がいくらか住んでいる火星に移住すること。老人は医者に早急な治療を頼む、果たして医者は老人の言葉を信じて治療するのだろうか…。

       SFの王道を行くような話。老人の正体は最後まで明かされないのですが、恐らく「死」の象徴、あるいは擬人化された「死」ではないでしょうか。生命の住む地球が消えた今、「死」も死にかかっている。医者が「死」を救えば、火星に移住した生命にも死が適用される、救わなければ、生命は不死を手に入れる。最後に医者はどちらを選択したのか…。気になる方は本書に向かわれんことを。

       さて、SF、ラブストーリー、コメディ、ホラー、様々なジャンルの話がひとつの短篇集として編まれている本書は、様々な彩色が施されながらも統一感を失わない絵画のようです。しかも、どんな話でも、ブラッドベリの文章はどこか詩的で、感覚的で、どの話も空想をかきたてる。彼の話に触れる度に、人間の想像力の可能性を再認識する…とまでいったら大げさでしょうか。他者への想像力、世界への想像力が問われている現在、彼の物語の持つ想像の力こそが必要なのかもしれません。
      >> 続きを読む

      2014/12/29 by

      バビロン行きの夜行列車 (ハルキ文庫 フ 1-1)」のレビュー

    • 何となく表紙のデザインが、森博嗣さんのシリーズに似ている気がしました。色調かなぁ

      http://www.dokusho-log.com/a/00188979/
      >> 続きを読む

      2014/12/30 by ice

    • To ice
       確かに、似ていますね。ですが、作者(翻訳者)が装丁にどこまで関わったのかは、浅学にしてしりません。また、デザイン担当が同じなのかどうかもわかりません。ただ、森博嗣さんとブラッドベリの作品に何かしらの共通性があるならば、ただの偶然でデザインが似たのではないのかもしれませんね…。 >> 続きを読む

      2014/12/31 by ゆうぁ


    最近この本を本棚に追加した会員

    この本に関連したオススメの本

    取得中です。しばらくお待ちください。

    バビロン行きの夜行列車 (ハルキ文庫 フ 1-1) | 読書ログ

    会員登録(無料)

    今月の課題図書
    読書ログってこんなサービス
    映画ログはこちら
    読書ログさんの本棚

    レビューのある本