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秋のホテル (ブルックナー・コレクション)

5.0 5.0 (レビュー1件)
著者: アニータ・ブルックナー
カテゴリー: 小説、物語
定価: 1,785 円
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    「秋のホテル (ブルックナー・コレクション)」 の読書レビュー (最新順)

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    • 評価: 5.0

       (注) 下に小エッセイを付けました。お時間のある方はどうぞ。


          遅れてきた秋の余韻

       
       掛け値なしに第一級の小説を紹介できることがあまりにも愉快で、ペンを握る手もやや強張っているのは、きっと多くを語りたくないからだろう。書物の世界だからこそ味わえる「愁い」を実感したのである。わたしにとっての文学的な陶酔とは、明瞭に捉えることができない愁い、あるいは、肩を揺らせばそれで十分な可笑しみ、それから凪いだ海のような穏やかさといえる。この三つは麻雀の役牌よりもきれいに並ぶことは稀なのだが、このアニータ・ブルックナーの『秋のホテル』はうまく揃えてきた。ちなみに、本作はブッカー賞を受賞している。話が脇道に逸れるけれど、この文学賞はこういう愁いのきいた作品が貰うことがあって、カズオ・イシグロの『日の名残り』やぺネロピ・フィッツジェラルドの『テムズ河の人々』などを思い出します。
       物語の舞台はジュネーブ湖畔に立つ「ホテル・デュ・ラック」。女性作家イーディス・ホウプは、これまでの人生をふいにして、祖国イギリスから追われるようにシーズンオフのホテルへやってくる。そこで風変わりな人たちと交流しつつ、ホテルでの日々やこれまでの生き方を内省する。愛人であるデイヴィッドに手紙を書くこともある。自分の女性としての幸福を考えるたびに、それがつねに矛盾しがちであることに戸惑い、いつはじめても手遅れのような虚脱感に襲われる。イーディスは若い奥さんに逃げられた壮年の裕福な男に言い寄られ、まるで契約のようなプロポーズをされたりもする。そして彼女はある決断をするのだが……
       とりわけ第七章のやり取り、イーディスとネヴィル氏(壮年の裕福な男)とのながい対話がおもしろくて、これほどウィットに富んだ会話はエリザベス・ボウエンの小説でもそうそうないと舌を巻いた。この七章だけでも十二分にお釣りがくると思う。
       たぶん人間の一生には秋のひとときがあって、その季節がめぐると人は内省的にならずにはいられないのだろう。しかしその時期はいつも手遅れで、遅れてきた余韻はたちまち厳しい冬に搔き消される。


         「団体さま、通ります!」

       
       駐車場での危なっかしさを考慮して、図書館には自転車で行くことが多い。両足を規則的に動かしながら、頭のほうでは借りる本の計画をめぐらし、あ、休館日かどうか確認するのを忘れたと後悔しても遅く、やはり朝だからどちらの回転も鈍いと嘆くのだ。休館日のときは返却だけしてスーパーマーケットに行きます。
       ある日、自分はあの図書館の利用者のなかで、一年間の貸出数のランキングの上位に入っているか気になって、おそるおそるカウンターの職員に訊ねると、
      「週に五、六冊借りるほどでは百位にも入られてないでしょうね」
      とあっけらかんと言われ胸をなで下ろして帰宅することにした。よし、これからもどんどん借りることができるぞ。正直にいって、たとえ読まなくても、ただ借りて返すだけで愉しいと思うのはたぶん自分だけではないはず、『耳をすませば』の聖司くんだって絶対にすべての本を読破してはいない、そういえば小中学校の図書カードの名前欄って素敵な符牒だったなあと感傷に浸るうちに広大な交差点へ出た。
      なにやら横断歩道のまえが混んでいると思ったら、幼稚園児だか保育園児だかの可愛らしい子供たちがきちんと整列して、スムーズに渡るために「おしくらまんじゅう」しているみたいだった。子供たちの手には丸い把手のついた縄があって、それを握ってさえいればみんな安全に渡ることができる。歩道の信号が青になった。急いではいないので、子供たちの航海を見守ることにすると、うしろの子の靴が脱げた。
      「○○くんの靴が脱げたけどそのまま渡ってください、センセイが拾います」
      「○○ちゃん止まらないで、センセイが拾うから」
      「ちゃんと丸いところを持ってね」
      などなど、数人のセンセイの声と青のときに流れるメロディとが入り交じり、大通りから右折してくる車はすこしイライラしているようだった。そのとき、今日はほんとうに自転車で来てよかったと悠長に構えていたわたしは、にぎやかな後ろ姿と青点滅の信号をほのぼのと見届けた。
      >> 続きを読む

      2015/12/15 by

      秋のホテル (ブルックナー・コレクション)」のレビュー

    • >文学的な陶酔とは、明瞭に捉えることができない愁い
      ちょうど『日の名残り』を読んだばかりで、自分では言い表せなかった感覚を表す言葉を発見した気分です。

      >「週に五、六冊借りるほどでは百位にも入られてないでしょうね」
      !! 
      ……世の中は驚きで溢れていますね!
      なかなか身近に本好きを見つけられないでいるのですが、彼らは身を隠しているのでしょうか……笑
      >> 続きを読む

      2015/12/15 by あさ・くら

    • あさ・くらさん、コメントありがとうございます。
      >ちょうど『日の名残り』を読んだばかりで、自分では言い表せなかった感覚を表す言葉を発見した気分です。

      あははは、それはありがとうございます。しかしもうちょっと上手く表現できるような気もするんですがね(笑) 言葉探しは終わらない。

      >彼らは身を隠しているのでしょうか

      おそらく日々の勤めから解放された方々でしょう。それに、カゴいっぱいにしてカウンターに来る人もいますし。それともぼくと一緒で借りて返すのが趣味なのかもしれない。はては能ある鷹は爪を隠すか……。
      >> 続きを読む

      2015/12/16 by 素頓狂


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