こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)


カテゴリー"芸術史、美術史"の書籍一覧

      古寺巡礼

      和辻哲郎

      5.0
      いいね!
      • (中宮寺の思惟観音像について)
        --私達はただうっとりとして眺めた。心の奥でしめやかに静かに止めどもなく涙が流れるというような気持ちであった。ここには慈愛と悲哀との杯がなみなみと充たされている。まことに至純な美しさで、また美しいとのみでは言い尽くせない神聖な美しさである--

        --およそ愛の表現としてこの像は世界の芸術の内に比類の無い独特なものでは無いか--

        --愛らしい、親しみやすい、優雅な、そのくせいずこの自然とも同じく底知れぬ神秘を持った我が島国の自然は、人体の姿に現せばあの観音となるほかはない--


        仏教界では、苦に満ちたこの世、此岸と、そうした苦しみや煩悩から解放された世界、彼岸の間に、一筋の、しかしとても大きな川が流れているようです。

        彼岸に渡れ、とは釈迦の言葉。
        此岸から彼岸に渡る船を漕ぐ仏僧。
        修行僧が自力で、自分一人乗れる船で渡るのが、小乗。
        衆生と共に渡る大きな船を用意するのが、大乗。

        そして、衆生の苦しみの声を、遍く拾い救うのが観音菩薩。

        大乗の精神は、浄土真宗(蓮如)で完成されたと個人的には感じています。
        阿弥陀仏と言うだけで、否、言わずとも、一切衆生を救うのが仏の精神。
        救われたいと、思った時に初めて救われるのではなく、既に救われている自分を自覚する契機が、念仏の一言に過ぎないと。

        いささか都合が良いように聞こえる気もしますが、我が子への親の愛を考えれば深く頷ける精神です。
        我が子が、どっちを向いていようとも、親を忘れようとも、常に親は子を見続けています。
        我が子が、苦しみにぶつかり助けを求めたとき、その手を差し伸べない親はないでしょう。

        その慈愛の精神を、仏像として完成させたのが、あの中宮寺の思惟観音菩薩像、と、和辻はうたいますし、私自身、間近で観て圧倒され、深く頷く次第です。

        はじめて、仏像を観て、美しいと感じました。
        時間を超えたどこかに連れて行かれたような感覚で、見とれ続けた記憶があります。


        非常に味わい深い和辻の古寺巡礼の名著、法隆寺の回は何度もありながら、最後にこの思惟観音への一筆で終わるところも心を打ちます。

        繰り返し行きたい名刹です
        >> 続きを読む

        2018/06/07 by フッフール

    • 2人が本棚登録しています
      イタリア古寺巡礼

      和辻哲郎

      5.0
      いいね!
      • 私が初めて読んだ和辻哲郎の本。
        和辻哲郎の名前とその代表作である「古寺巡礼」の名前は耳にした事があったが、これまで和辻氏の著作を読んだ事がなかった。
        この本は、戦前に欧州留学をしていた和辻氏が妻の照夫人に留学先から送った手紙を体裁を整えて本にしたものである。
        まず感じたのは、和辻氏の美術に関する表現の素晴らしさである。
        それは独特でしかもその作品の本質を見事に言い表している。
        頭で理解するというより感覚的に分かると言ったほうが良いかもしれない。
        例えば和辻氏が絶賛している”シヌエッサのヴィーナス”については、以下のように表現している。


        肉体の表面が横にすべっているという感じは寸毫もない。
        あらゆる点が中から湧き出してわれわれの方に向いている。
        内が完全に外に現れ、外は完全に内を表している。
        それは「霊魂」と対立させた意味の「肉体」ではなく、霊魂そのものである肉体、肉体になり切っている霊魂である。
        人間の「いのち」の美しさ、「いのち」の担っている深い力、それをこれほどまでに「形」に具現化した事は、実際に驚くべきことである。


        現代日本において、この様に美術品を表現する事ができる人間がはたしているのだろうかとも思ってしまった。


        また、ローマ建築とギリシャ建築の違いを評して、前者はメカニズム(機構)の美しさであり、後者はオルガニズム(有機体)の美しさであるとも書いているが、非常に的を得ていると感じた。
        >> 続きを読む

        2017/12/28 by くにやん

    • 2人が本棚登録しています
      芸術のパトロンたち

      高階秀爾

      4.0
      いいね!
      • 高階先生の著書を久しぶりに
        パトロンという言葉に甘い誘惑のような魅力を感じていたが
        むしろ小姑のような、必要だけれども鬱陶しいものであった
        現代におけるパトロン
        現代アートで街を彩るのはなんと難しいことか
        日本でもたびたび報道を目にし
        専門的な助力なしに右往左往する行政に悲しくなる
        専門職に対価を、文化事業は御荷物ではない
        >> 続きを読む

        2018/11/13 by kotori

    • 2人が本棚登録しています
      Freestyle 大野智作品集

      大野智

      4.5
      いいね!
      • 「ニッポンの嵐」が良かったので、こちらも友人に見せてもらった。

        嵐の中での大野くん。実は特に強い印象はなかったのだけど、この本を見てすごく好きになった。

        この本は大野くんの作品集ではない。
        大野くんが作品を作っている過程を見れる。

        今まで芸能人でアートをしていること自体、実はあまり良い印象を持っていなかった私。でもこの本で彼の人となりや作品への向き合い方を見て、その考えを改めようと思った。

        嵐ファンが多い理由がわかった気がします。
        >> 続きを読む

        2012/12/27 by mahalo

      • コメント 3件
    • 3人が本棚登録しています
      マニエリスム芸術の世界

      下谷 和幸

      4.0
      いいね!
      • ルネッサンスからマニエリスム芸術の時代については縁あって大学で勉強したため、
        この本も当時に買い求めて読みました。
        読み易いので、入門書に向いています。
        新書版で、写真や図像が小さめでモノクロなのが(表紙以外)残念ですが、
        今はいくらでも画家名、作品名でネットを使えば即検索できるから、画質の良くない印刷で見るよりもいいかもしれません。

        この本の特色は、著者、下谷 和幸氏は自身もおっしゃっている通り「門外漢」な点です。
        実は本職は英文学者で、18世紀イギリスのテイスト論なんていうのを大学で講義していらっしゃるそうです。

        なぜ「マニエリスム芸術論」を執筆するに至ったのかは不明ですが、なかなか良い本です。

        芸術の流れと歴史の中における「時代精神」の果たす役割、
        時代精神と個人の世界観の関連、それを表現する芸術といった大きな枠組みで作品を位置づけ読み解いていきます。
        マニエリスムの時代と現代は、人間存在のあやうさ、社会の不安定さを共通項にしているといいます。

        彼の芸術論は絵画芸術の枠を超え、文学をも含む全体の流れとして捉えられ、
        時代とその精神が芸術のスタイルに反映しているという論理から語られていきます。

        古典主義と反古典主義の間を行きつ戻りつする時代の流れを眺めると、
        そこには、人間元来の姿さえ顕になるような思いさえしてきます。
        マニエリスム芸術を知ることだけではなく、この書は哲学をも思わせる広がりを持っています。


        個々の作品の読み解きという点から見ると、それほど深く細かい部分まで追求したものではなく、
        特に後半の章においては、マニエリスムの精神と現代という時代の精神との共通性というテーマになっていきますので、
        作品をメインに謎解きを楽しみたい方はより本格的なマニエリスム絵画論をお読みになってみてください。

        マニエリスムの画家たちの残した絵を読み解くのって、心理テストやパズルみたいで楽しいですよ。
        >> 続きを読む

        2014/07/20 by 月うさぎ

      • コメント 4件
    • 2人が本棚登録しています
      レオナルド・ダ・ヴィンチ 芸術家で科学者で発明家…"万能の天才"

      菅谷淳夫 , 小林たつよし , 池上英洋

      5.0
      いいね!
      • 私が世界一の天才だと思っているレオナルド・ダ・ヴィンチ。
        意外にその生涯は地味なものだった。

        彼が成功するのは30歳すぎてからという遅咲きだったこともわかった。
        それは、およそ10年ほどに渡る長い修行時代もあったからだろう。

        驚いたことは、彼は十分な基礎教育を受けていなかったことだ。それをずいぶん後になってから学び始めて、高水準まで辿り着いた。
        彼の努力は凄まじいものだ。素晴らしい絵を描くには、知識や学問が欠かせない。それに加え、未開の学問にまで手を出し極めたことが、彼がここまで有名になった理由の一つでもあるのだろう。

        たくさんの名作を残したが、未完のまま終わった作品も多かった。
        一作描くのに数年かかるだろうに、もったいないと思った。当時の状況もあって仕方ないことかもしれないけれども…。

        イタリア・フランス各地を転々としながら保護者のもとで芸術活動をする。安定しない住居は落ち着かないだろうなあ。
        家族よりも、弟子や師匠、ミケランジェロなどのライバル、雇い人に囲まれながら生涯を過ごした。こういう生涯も案外楽しそうだなあと思ったり。
        >> 続きを読む

        2015/01/05 by Nanna

      • コメント 1件
    • 1人が本棚登録しています
      日本美術の歴史

      辻惟雄

      4.0
      いいね!
      •  大正時代に吹き荒れた新しい風につよく惹かれる。それは儚く散った夢の世界、つかの間の幻のように短かった。
         モダンという言葉はもはや死語かもしれないが、近ごろ一周回ってすこしオシャレな感じを抱くこともあって、そもそもわたしが広い意味でのモダニズム文学を愛することを思い出させてくれる。わたしがいちばん好きな小説はヴァージニア・ウルフの『灯台へ』。もしかしたら、この小説で描かれる去りゆく時代の魅力は、わたしが抱く大正時代へのふしぎな憧れと何か符牒を合わせているのかも。念のためにいうが、長襦袢で自転車を乗りこなし、下り坂を勢いよく駆けるおてんば娘だけを見ているのではない。
        大正モダンはおもに漫画やアニメと相性がよく、『はいからさんが通る』や『サクラ大戦』など話題を呼ぶものが多い。とはいえ、もっとも大きな印象を残したのは絵画であり、そのなかでも竹久夢二である。わたしはこの人の絵が好きだ。リアリズムを絵筆であしらうような画風により、江戸の浮世絵の女性美を、わたしたちが分かる範囲のなかで再現した。そしてこの流れは中原淳一に受け継がれた。彼の絵もまた素晴らしい。
         本の紹介がお留守になっていますね。この本は既に日本美術史の教科書の地位を確立しています。なんといっても装釘がいい。表紙絵がみえるようにして部屋に置くと、その空間に独特の日本美を添えてくれるでしょう。
        >> 続きを読む

        2015/02/16 by 素頓狂

    • 4人が本棚登録しています
      一冊でわかる名画と聖書

      船本弘毅

      5.0
      いいね!
      • いろんな聖書に関する絵が紹介されていて、とても面白かった。

        特に心に残ったのは、サムエルの少年時代を描いたこの絵。

        http://www.art.com/products/p14499665438-sa-i6743873/william-brassey-hole-eli-and-samuel-and-he-said-it-is-the-lord-let-him-do-what-seemeth-him-good.htm

        ウィリアム・ブラッシーという画家のものだそうだけれど、とてもサムエルがかわいい。

        あと、ジローラモ・ジェンガの「エッサイの樹」という絵も、めずらしくて面白かった。
        http://www.nationalgallery.org.uk/paintings/possibly-by-girolamo-genga-a-jesse-tree

        聖書の関連の絵画は、実に興味深く、面白いと思う。
        >> 続きを読む

        2013/09/03 by atsushi

      • コメント 9件
    • 1人が本棚登録しています
      ロシア正教のイコン

      黒川知文 , 遠藤ゆかり , MedvedkovaOlga

      4.0
      いいね!
      • いろんなイコンの写真が載っていて興味深かった。

        ヘルソンのイコンというイコンが、とても心に残った。 >> 続きを読む

        2013/06/07 by atsushi

      • コメント 3件
    • 1人が本棚登録しています
      名画の言い分

      木村泰司

      4.0
      いいね!
      • 西洋絵画の読み方を、大昔からの土台や基礎、背景を説明しながら教えてくれるとても面白い本。これまでただなんとなく眺めていただけの美術鑑賞ではなく、多くの芸術品との向き合い方を変えてくれる可能性のある入門書だと思います。 >> 続きを読む

        2014/07/27 by ppp

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      西洋美術史入門

      池上英洋

      5.0
      いいね!
      • ・概要
         美術史とはなにか、なぜ学ぶ必要があるかからはじまり、名画にこめられた意味やメッセージの読み取り方を易しく教えてくれる美術史入門書。

        ・美術史を学ぶ意味
         絵にはメッセージがこめられている。識字率の低かった時代には絵はメッセージを伝えるための手段だった。つまり現代でいう本やテレビなどのメディアとしての役割を果たしていたわけだ。絵の裏にあるメッセージを読み取ることで当時の人々が何を考えていたか理解することができる。そして「人を知る」ことでやがて「自分自身を知る」ことにもつながっていくのだ。

        ・感想
         私は歴史的な絵画は感性の鋭い人間にしかよさが分からないものと勝手に決めつけ敬遠していた。しかし本書を読み、歴史の知識を身につけ絵を読み取るための考え方を身に付ければ、誰にでも名画を理解し楽しむことがことができるのだと美術に興味を持つことができた。
        >> 続きを読む

        2015/09/12 by けやきー

    • 4人が本棚登録しています
      地獄百景

      田中久美子1957- 美術史

      5.0
      いいね!
      • 地獄百景。田中久美子先生の著書。テレビ番組を見て死後の世界について考えたことをきっかけに、天国と地獄について学びたいと思って手に取りました。仏教の地獄、イスラム教の地獄、キリスト教の地獄。世界の地獄観を知ることが出来る良書。 >> 続きを読む

        2018/09/28 by 香菜子

    • 1人が本棚登録しています
      イコン ビザンティン世界からロシア、日本へ

      定村忠士 , 鐸木道剛

      4.0
      いいね!
      • いろんなイコンの写真が載っており、興味深かった。

        明治の頃に日本で多くのイコンを描いた山下りんのイコンもとても美しいと思った。

        イコンの世界に興味が湧く一冊だった。
        >> 続きを読む

        2013/05/28 by atsushi

      • コメント 4件
    • 1人が本棚登録しています
      101のマドンナ ポーランド・イコン巡礼

      塚原琢哉

      4.0
      いいね!
      • ポーランドに伝わる多くの聖母子像のイコンや彫刻の写真を収録してある。

        中でも、やはり印象的なのは、表紙にもなっているスキエンカの「黒い聖母」の絵。
        ポーランドで最も大切にされている、古くからあるイコンだそうである。

        また、リトアニアのオストラブラマのイコンもとても印象的だった。

        私の知らないすごいイコンがたくさんあるんだなぁと、この画集のおかげで、あらためてしみじみ思った。
        >> 続きを読む

        2013/05/11 by atsushi

      • コメント 3件
    • 1人が本棚登録しています
      アーティストは境界線上で踊る

      斎藤環

      いいね!
      • 現代若者の精神病理に向き合ってきた著者がアーティストへのインタビューと批評をもって、現代美術の「リアル」をえぐる試み、らしい。境界線とはリアルとノンリアル?でしょうか。
        綱渡りにこそ新しい美術の芽が生まれるに違いない。美術に限らない、きっと。
        >> 続きを読む

        2014/07/03 by junyo

      • コメント 1件
    • 1人が本棚登録しています
      はみだす力

      スプツニ子

      3.7
      いいね!
      • 随分前からTwitterをフォローしていて、教授が決まる前から元気をもらっていた。本の発行日を知って即注文したけれど、一気読み出来ずに本日読了。

        28歳でMIT助教授! 
        を全面に推して有るけれど、MITも凄いがMOMAだってすごすぎる。
        だってあのMOMAだよ。

        アーティストは何故貧乏なのかが世界各国様々な場所で出版される中、21歳で一日7万ハンター気分で稼いでいた子がアーティストになってアートだけでしか食べていかないと決めた25歳では100円の服を買うのにも精一杯って所が痺れる。
        そしてその後すぐにスポンサーを見つけて3年後には助教が決まった辺り、『はみだす力』では無く、『突き抜けるエネルギー』でしかない。

        幼少期お母様が語られた、女性で数学で教授に成るためには『2番ではだめ、1番になりなさい』に尽きると思う。
        1番になったら誰からも文句を言われない。
        並列思考の中に直列思考が有る感じ。
        左脳と右脳の融合って視覚化すると最高だと言うことに気がついた。
        >> 続きを読む

        2014/02/19 by H_hipo

      • コメント 2件
    • 3人が本棚登録しています
      現代アートがわかる本 (洋泉社MOOK) Enjoy!Contemporary Art!
      5.0
      いいね! Fragment
      •  みなさんは美術館によく足を運ぶでしょうか。僕は美術鑑賞が趣味の1つということもあり、時間を見つけては美術館に行っています。様々な時代や地域の美術に興味をもっているので、種類を問わずなんでも見にいってしまいますね。

         「印象派のモネは大好き!」、「ピカソってなんかすごいね!」みたいな人は結構多いと思います。でも、現代アートとなると話は別。「なんだかよくわからないなあ」、「難しそう」などと感じてしまい、評価の定まっている過去の作品に関心を集中してしまうのではないでしょうか。過去の作品に集中するのは個人の自由です。しかし、過去の作品を批判的に継承しながら、現代世界で何を表現すればよいのかと格闘している人が存在していることを忘れてはいけないと思います。

         前置きはここらへんまで。次に本書の大まかな内容について触れていきたいと思います。本書の冒頭では、現代アートについての基礎知識を問答形式で簡潔にまとめています。

        ①アートの定義とはなんですか?
         時代や地域で様々。祈りの対象、権威の表象、儀式の道具、芸術家の表現物、投資の対象などなど、アートの内実は様々だったのです。アートの定義は様々であるからこそ、作品に向かい合う僕達自身がアートってなんだろうかと積極的に問いかけを発する必要があるとまとめています。

        ②いつからが「現代」ですか?
         同時代の美術は基本的に現代の範疇と執筆者は述べています。更に踏み込めば20世紀後半以降となるでしょうか。もちろん時が過ぎれば、後世の美術史家が新たな時代区分を与えるのかもしれません。

        ③東洋と西洋ではアートに対する価値観は違いますか?
         例えば「絵画」といっても、時代・地域・習慣・宗教観などによって社会の中で果たす機能は異なります。西洋では壁画が発達しますが、日本では屏風や襖絵などの可動の障屏画が発達しました。さらにいうと、江戸時代までの日本では「美術」、「芸術」、「絵画」、「彫刻」、「建築」などの言葉も概念も存在しませんでした。これらの言葉は明治時代になってから、外国語から翻訳されたものです。障屏画や浮世絵などを生活の一部としていた日本の文化、「芸術」という概念に高い価値を付与する西欧的理念では、根本に異なる価値観があるとしています。

        ④現代アートは「美しい」の?
         美術というからにはきれいで美しく心地よいはず。そんなことはありません。現在の美術の世界では単純な「美」は死語になっています。汚いもの、隠されてしまうもの、社会の矛盾や差別的な構造、人間の暴力性の告発なども現代アートの主題となっています。または、世界とはこういうふうにも捉えられるかという発見を与える作品もあります。本当に現代アートは多彩で多様です。確かなのは、鑑賞者に「考えること」を求めている点でしょうか。

         問答形式を通じて現代アートに対する基本的視座を示したあとは、具体的な本論へと話は移っていきます。まずは、日本の近代美術から現在に至るまでの動向を簡潔に振り返り、欧米における近現代の美術動向も概観します。そして、レディ・メイド、流用、既成概念の破壊、絵画の危機の超克、女性と美術、ジェンダーとマイノリティ、美人画の系譜、写真、映像作品、自然現象とアート、社会活動とアート、ストリートの表現者、パブリック・アート、アジアにおけるアートの隆盛など、テーマ別に現代アートの諸相を描き出していきます。最後には、注目されている日本人アーティストを35人取り上げて、本書を締めくくっています。

         本書のおおまかな内容は以上のようになります。具体的にどんなアーティストが取り上げられているかを知りたい方、図版を確認したい方は本書を直接見ていただければ幸いです。あとは、直接美術館に足を運んでもらえれば、美術鑑賞が趣味である僕としては嬉しい限りなのですが、そこらへんはまあ個人の自由ということで(笑)

         僕自身は美術鑑賞を趣味にし始めたのは2年前ほど。まだまだ初心者でにわかなんです。それから美術史の本を読みあさって、美学系や美術批評系の雑誌にも手を出して今に至るという感じ。歴史を学ぶことが好きなので、美術を鑑賞する際にも、この作品が制作された歴史的背景って何かしら……と考えてしまいます。あとは美術史の方法論を見よう見まねで実践してみたり。

         初めのほうで述べたように、僕自身はジャンルを問わず様々な美術を鑑賞します。でも、あえていうなら現代アートが好きなんですね。「いまの世界ってどうなっているのかしら」、「現代社会ってなんなんだろう」という問いに真摯に向き合う現代アートに出会うたび、自分自身の世界認識の地平が押し広げられるような感じがあります。社会への新たな眼差しを提供し、鑑賞者に思考のきっかけや他者への「入口」を与えるのが現代アートなのかもしれませんね。

         ちなみに、僕が最も注目している現代アーティストは、日本人では山口晃さん、海外の方ではフィオナ・タンです。前者は古今東西の文明開化を集約したかのような作品を軽妙洒脱に制作し、後者は個人のアイデンティティや多民族・多分化社会について考えさせる映像作品を制作しています。現代アートに限らないのであれば、20世紀前半に活動したフランスのジョルジュ・ルオーがお気に入りです。彼の描いた絵画を前にすると何かに対して祈らざるを得ません。現在でもアクチュアリティ(今日性)を失わない絵画だと思います。

         みなさんも好きな美術家はいるでしょうか。美術は音楽や文学とも呼応しますし、歴史、政治、経済、哲学などとも響き合います。諸学問からのアプローチも可能で、間口は案外広いんじゃないかなあと個人的には思っています。興味のある方は、本書や美術館へと向かわれんことを。
        >> 続きを読む

        2015/04/12 by ゆうぁ

      • コメント 5件
    • 2人が本棚登録しています
      鑑賞のための西洋美術史入門

      早坂優子

      2.0
      いいね!
      • 美術には詳しくない。

        しかし、なんか説明文が著者の意見・見解が多々あり、正しいのかなー?と疑心暗鬼。
        まぁ結局美術は表現だから、正解はないのよ!と言われたらそれまでだけど。

        教養として見ている、という邪な気持ちがあるせいなのか、単純に見る目がないだけなのか、やはり教科書に出てくるような絵は良さが全然分からない。

        ただ、ソフィア美術館で見たゲルニカは見ていて息ができなかったのを思い出した。

        うん、やはり実際見に行かないと分からないな(笑)

        鑑賞のための入門書という点ではまとまっていたのかも?
        >> 続きを読む

        2018/09/12 by 豚の確認

    • 2人が本棚登録しています
      未来派

      BozzollaAngelo , 松田嘉子 , TisdallCaroline

      4.0
      いいね!
      • 本国における未来派芸術運動の唯一の体系的解説書。

        2015/10/14 by aaa

    • 1人が本棚登録しています
      アフリカのかたち Power of form

      小川弘

      5.0
      いいね!
      • とても面白かった。

        アフリカの、いろんな彫刻やお面などが載っているのだけれど、どれも想像したこともない、面白い意匠。

        しかし、なんだか見ていると、とても元気が出てくるような気がする。

        きっと、人類の本来持っているパワーやエネルギーと直接つながっているからなのかもしれない。
        >> 続きを読む

        2013/07/24 by atsushi

      • コメント 6件
    • 1人が本棚登録しています

カテゴリー"芸術史、美術史"の書籍一覧 | 読書ログ

会員登録(無料)

今月の課題図書
読書ログってこんなサービス
映画ログはこちら
読書ログさんの本棚

レビューのある本

この世にたやすい仕事はない