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カテゴリー"日本文学"の書籍一覧

      金閣寺の燃やし方

      酒井順子

      3.8
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      • 小説家って人達はどうして次々と金閣寺を燃やすのだろう?
        本書はその一つの答を提示してくれています。(が、読み終わってみるとメインテーマはそこじゃない気がするのです。)

        水上勉は『五番町夕霧楼』で、三島由紀夫はまさしく『金閣寺』で、金閣寺を燃やした。水上と三島の両作品を、作家の生い立ちまで遡って対峙させて論じた、新しい三島由起夫論の登場か。と思わせておいて、実はきわめて上質な水上勉論になっています。

        水上勉の小説『五番町夕霧楼』とさらに後年執筆の『金閣炎上』は、三島への挑戦であると同時に、実は水上自身が僧職経験者としてひきづりつづけた史実としての金閣寺炎上事件の総括的作品であることを教えてくれます。

        水上勉論としては、素晴らしい、凄い、と絶賛したいものです。
        これを読んでから、『五番町夕霧楼』を読むと味わいが深まるでしょうね。

        でも、物足りない点がいくつかあります。
        (1)三島の『金閣寺』誕生の背景。
        これについては三島自身の金閣寺創作ノートがありますし、やまほど三島論がある中できっと膨大な論考があると思いますが、樸個人としては小林秀雄さんが金閣寺の事件直後に書いた「金閣焼亡」という(小説じゃないよ)論考なんかを三島が読んでヒントにしたのかなと感じています。手元にあったのを読み返してみたんですが、狂人・厭人・狂気などについて語りながら、小林さんは彼の金閣寺放火容疑者(※)と「空しく美しい形を扱っている清君」を似た者として見、「二人とも人生への出口の見つからぬ閉された魂である。」と観ています。
        清君てのは、山下清さんのこと。
         (※)三島は創作ノートの中でいろんなストーリーを模索していたようで、真犯人は別に居る物語も検討していたようです。

        (2)(これは、別の方のレビューにコメントとしても書いたんですが、)
        宗教との関係性でも両人の対比をきちんとしてほしいなと感じました。
        三島は金閣寺では宗教そのものには興味がなかったようですね。でも後年、「暁の寺」執筆のころには仏教心理学の核心ともいうべき唯識にのめり込んでいたと聞きます。つまり、金閣寺のころは(極論すれば)仏教はたまたま材料であっただけですが、次第に禅的なもの、唯識の世界に吸い寄せられていった経緯があります。
        反対に水上さんは出発点が仏教への反撥みたいなところがあったのですから、両人はそれぞれ聖俗の両極から世の中を観ていたのに次第に対極へとシフトしていった。その起点となったのはともに金閣寺放火事件だったということでしょうか。

        もしも、最後まで読んでくれた人がいたら謹んで深謝します。
        本書の感想としては、まず、三島由紀夫は凄い小説家なんだなあと今更ながら感歎し、もう一度『金閣寺』と『五番町夕霧楼』を読ませてくれた著者ならびに、樸にレビューを書きなさいよと下命してくれたお方に感謝です。

        <おまけ>
        水上の『金閣炎上』は完全にノンフィクションであると思います。水上論としては欠かせませんが、小説として見たら、ちっとも面白くないです。
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        2015/10/25 by junyo

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      村上春樹にご用心

      内田樹

      3.0
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      • 「村上作品は結婚詐欺」
        うーん、言い得て妙。

        何かあると思わせる村上春樹。
        なんでだろう。
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        2016/06/24 by one

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      向田邦子の恋文

      向田和子

      4.0
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      • 向田邦子さんの恋人へ宛てた五通の手紙。

        日常のことが、淡々と綴られているなかに、揺れ動く恋心が滲みでる。

        相手は妻子ある男、脳卒中で倒れ足が不自由に・・・・。
        そんな彼に、仕事に缶詰になったホテルから合間を縫って手紙を・・・。

        世間からは、仕事からは遠のいている彼、仕事でも、経済的にも支える邦子。

        尽くすことで、どこか満たされる邦子の思い。

        洪水のごとくドラマとラジオの原稿が押し寄せる中で、
        ご自分の生きがい、自分が尽くせる対象をずっと“秘め事”としてご自分の中へ。

        全ては、ご自分の・・・で、決して自己本位の自分ではなく、自分さえよければ、
        自分さえ我慢すれば・・・甘え、燃える女ではなく、強い、耐える女を演じる。

        その、二人のやりとりの手紙は、まさに向田邦子のドラマそのもので、
        言葉少なく、情念は濃い。

        この時代に、携帯電話があり、二人がメールを交わしていたら、
        どんな展開になっていたのか・・・・障害のある中での恋。

        向田邦子の世界は、私生活の中でも一途に展開されていた。
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        2013/05/19 by ごまめ

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      日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典

      蛇蔵 , 海野凪子

      4.0
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      • 古典日本文学を読んでいない現実。世間話で登ることなど皆無ですしね。知らない自分が恥ずかしくて、題名に釣られて読んでみました。(漫画)

        可愛らしいキャラクターで面白い逸話中心に説明されていたのでとても面白かったです。古典作品も読めば楽しめるところが沢山あるだろうと気付かせてくれました。
        例えば、お金持ちだった鴨長明が就職に失敗して隠居して書いた方丈(四畳半)記を読みたくなりました。
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        2014/10/24 by pasuta

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      三島由紀夫が死んだ日 あの日、何が終り何が始まったのか

      中条省平

      3.0
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      • 編・監修を務めた中条省平の前書き、それに続く「三島由紀夫の死は当時どう評論されたか」だけでも、読む価値のあるものでした。
        武田泰淳が三島に向けた言葉には、いつも胸が詰まる。引用します。

        「息つくひまなき刻苦勉励の一生が、ここに完結しました。
        疾走する長距離ランナーの孤独な肉体と精神が蹴たてていた土埃、その息づかいが、私たちの頭上に舞い上がり、そして舞い降りています。
        あなたの忍耐と、あなたの決断。あなたの憎悪と、あなたの愛情が。そしてあなたの哄笑と、あなたの沈黙が、私たちのあいだにただよい、私たちをおさえつけています。
        それは美的というよりは、何かしら道徳的なものです。あなたが『不道徳教育講座』を発表したとき私は『こんな生真じめな努力家が、不道徳になぞなれるわけがないではないか』と直感したものですが、あなたには生まれながらにして、道徳ぬきにして生きていく生は、生ではないと信ずる素質がそなわっていたのではないでしょうか。」

        三島の死後すぐ、‘自分自身’の立場やら‘自分自身’の事件への理解の仕方を、政治家やら作家たちが語ったのに対して
        武田泰淳の言う「あなた」は、心から三島に向かって放たれていると思う。
        とはいえ、‘自分自身’がこの出来事をどう受け止めるかを、多くの人が考えずにはいられなかったところに、いわゆる三島事件の本質があることも、間違いないだろう。

        私はどう考えるのか…と、また自問することにします。


        一番おもしろかったのは猪熊直樹の文で、直接三島に関わる部分ではないのだけれど、かの有名な「もはや戦後ではない」の昭和31年度経済白書の引用。
        「もはや戦後ではない」は、この文脈で書かれたフレーズだったのか…と、目から鱗がボロっと落ちました。勝手に思ってた意味とは違った!
        ここだけでも、読んで楽しめます。(因みにP174-175)

        猪熊直樹の『ペルソナ』は、学生時代に絶対読んでいるはずなのに、ちゃんとした記憶が無いなぁ。
        もう一度、読んでみよう。
        最近、既読未読問わず読みたい本が増え続けてるのが嬉しいような、困るような。
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        2012/05/05 by oka-azu

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      誰か故郷を想はざる 自叙伝らしくなく

      寺山 修司

      4.0
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      • 寺山氏の幼少から青春時代の自叙伝。

        寺山氏の醸し出す不思議な雰囲気の一端を知ったような気がする。

        走っている汽車の中で生まれたという出生の瞬間から、新宿の盛り場に入り浸っていたという青年時代までを寺山氏自ら綴る。

        何故か寺山氏のイメージは生き急ぐ表現者のイメージが有る。
        小説や映画など表現者のイメージは誤っていないのだが、彼は47歳まで生きており、確かに早いのだが、生き急いだというほどでは無い。

        では何故、三島由紀夫などと同じようなイメージが有るのかと考えてみると、マスコミへの露出が多かった点と、前衛的な作品が若さのイメージを刷り込んでいるように思う。

        彼の映画も観たが一言で言えばカオス。
        印象に残っているのは頑ななまでの性への興味が描かれていたことで有る。

        その前衛的な映像や展開から相当引き気味で、当時は良い印象は持たなかったのだが、本作品を読んで彼の一貫した青春に対しての拘りを感じた。

        中高生ならいざ知らず、正直いい大人になってまで性衝動がテーマも無いだろうという感覚からベクトルを変え、青春を描くなら性衝動をいかに表現するかだろうと捉えてみると、なるほど頷くことが出来た。

        青春映画と言えば爽やか一本槍なイメージだが、その裏に飽くなき異性への興味が有ったはず。
        寺山氏はそれを隠すのでは無く、むしろそこに焦点を当てることでリアルな青春を描こうとしたのではなかろうか。

        映像は苦手だが、小説に関しては楽しむことが出来た。
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        2012/02/19 by ice

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      知識人99人の死に方

      荒俣宏

      3.0
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      • 著名人に訪れた様々な死を紹介。

        99人は多く、数をこなすために内容が薄くなっている

        着眼点が面白く期待が大きかったが、幾人かの深い記述は意義が有ったものの、人数合わせのように登場する人物達は、正直余計だったように思う。

        前半は人物紹介、後半は死に直面する状況の紹介という構成。

        本当に著名な方の場合、人物紹介はほとんど不要で有るため、本作品のテーマで有る死というものに多くのページ数を割くことが出来る。

        反面、それほど知られていない方を対象とする場合、ただでさえ著名人と比較すると割り当てが少ないページ数の中で、詳細に人物像を語る必要が有るため、ますます臨死部分の記述が希薄になってしまうという問題が見えた。

        数々の死に直面して思ったことは、人生の整理の時間が有るのは幸せだということ。

        自らの生命を絶つ自殺で有ってさえ、能動的な死で有るだけに、会いたい人に会い。伝えたいことを伝え、身辺を整理する機会が有る。

        これに対し、交通事故などに代表されるアクシデントで生命を落とす方は、全く時間が与えられずに死んでいくという意味でも辛い死と言える。

        余命宣告と効くと、死刑宣告のような残忍さを感じていたが、気持ちの整理をする時間を与えられるという意味で、人間の尊厳に配慮した制度と言える。

        ちょうど手塚治虫氏の書籍を併読していた関係で、1人目が手塚氏だったことに因縁を感じた。
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        2011/07/02 by ice

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      井上ひさし希望としての笑い むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく…

      高橋敏夫

      5.0
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      • 改めて、井上ひさしさんの凄さがわかったように思う。
        一番好きな作家でもある。
        一時期、集中的に読んだ頃もあった。
        装丁にもあるとおり、むずかしいことをやさしく・・・・と続く、井上さんの言葉に触れたとき、さすがと思うと同時に、やられたとも思った。
        そして、この本に触れることで、それぞれの深みも増したように思う。
        最後のところが凄いと思った。
        柔和な表情でありながら、眼力だけがやたらと力強いということ。
        周辺からの視点。
        最近、国民のためとか国益のためとかいう言葉が目立つが、その意味するところは明らかだ。
        >> 続きを読む

        2014/08/11 by けんとまん

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      東野圭吾公式ガイド 読者1万人が選んだ 東野作品人気ランキング発表 (講談社文庫) 読者1万人が選んだ東野作品人気ランキング発表
      4.0
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      • 東野圭吾のガイドブックは色々ありますが、これが唯一の公式のガイドブックみたいです

        見どころはなんと言っても東野圭吾氏本人による作品の解説だと思います。(あとがきの抜粋など、過去の文章の引用の場合もあります。)この解説を読むとものすごく東野圭吾の本が読みたくなります。読んだことある作品の解説も面白い。私のような昔何冊か読みましたというタイプではなく、ほぼ全ての作品を読んでいるようなファンの方の方がより面白く読めると思います。

        ランキングも意外な作品が上位にあったりして楽しめました。

        このような本が出ること自体、ファンが多い証拠ですね。
        これからも面白い作品を書いて欲しいです。
        そしていつも楽しませてくれてありがとう、東野圭吾♪
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        2012/09/28 by ただひこ

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    • 2人が本棚登録しています
      回想の太宰治

      津島美知子

      4.0
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      • 戦中戦後の10年間、太宰治の妻として生きた筆者が、何気ない日常の様子や戦時下を共に生き抜いた様子など、豊富なエピソードで綴る回想記。

        自意識過剰気味…というか、妻曰く『「見る人」でなく「見られる人」』という意識が強かった太宰を、一歩引いたところから冷静な文体で伝えるこの手記からは、彼の作品から感じた「太宰治」のイメージよりも、より活き活きした、どこか憎めない生身の彼を映し出す。

        自分の夫は、文学の完遂のために生まれてきたと受け止め、文学にしか努力をしない(日常生活を営むにはあまりに不器用な)彼を、気丈に支える姿は、誰よりも彼の文学に陶酔している様に見えるし、誰よりも彼の役割というものを理解している様に感じた。

        この本が最初に出版されたのは太宰の没後30年がたっているそうだ。
        たった10年という短い結婚生活の中の一つ一つのエピソードを大切に大切にし、彼の死後も、移行や遺品群を丁寧に保管していたところからも彼女の深い愛を感じた。
        >> 続きを読む

        2015/06/28 by AKI

    • 1人が本棚登録しています
      宮沢賢治 銀河鉄道で星空を旅したファンタジー作家

      柊ゆたか , 三上修平

      3.0
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      • 漫画で分かりやすい
        銀河鉄道の夜、よんでみたい

        2017/01/17 by tamayuu

    • 1人が本棚登録しています
      文豪ナビ太宰治

      新潮社

      4.0
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      • 友達が太宰のお勧めを聞いてくれた。太宰をもっと勉強しなくてはと張り切って読んだ。太宰作品おすすめナビ、名場面の紹介、熱烈エッセイ等が書かれている。
        重松清さんのエッセイが特にいい。太宰治を読もうとグイグイ誘ってくる。太宰の作品の中には「ぼくたち」がいるそうだ。もちろん私も何度も太宰の作品で自分を見つけている。
        太宰の作品は好き嫌い分かれると思う。だからお勧めするのがちょっと怖い。
        太宰作品は冒頭、ツカミがすごいと言われている。だからまず読んでみて太宰の世界を覗いてもらえたら嬉しいなぁ。
        >> 続きを読む

        2015/05/15 by けいたん

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      「三島由紀夫」とはなにものだったのか

      橋本治

      5.0
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      • 三島氏の諸作品について解説がわかりやすく書いてある。同時代を生きていない自分にとって同時代を生きた著者の意見はとても新鮮である。 >> 続きを読む

        2019/02/22 by Mura_P

    • 1人が本棚登録しています
      夏目漱石 決定版

      江藤 淳

      5.0
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      • 夏目漱石の諸作品の解説が目から鱗でした。知らないことばかりで勉強になりました。講演集も含まれているので批評内容の繰り返しが一部見受けられる点が少し難か・・。 >> 続きを読む

        2019/02/22 by Mura_P

    • 3人が本棚登録しています
      幸田文の箪笥の引き出し

      青木玉

      4.0
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      • このまえの「小石川の家」に続いての
        祖父に幸田露伴、母に幸田文にもつ、青木玉さんの本。

        今、着物をお願いして仕立て上がるのを心待ちにしている私。
        文さんのこだわりの数々の着物を興味深く見させて頂いた。

        写真だけでも紹介すると、

        玉さんの結婚式に、母文さんが調えた赤紫の色留袖。

        半纏などに仕立て直した、祖父の羽織裏。

        きれいな色糸で刺繍して楽しんだ加賀紋。

        蔦の家紋を中かげ鬼蔦の紋にした羽織。

        袖先に小花模様をあしらった母の意匠による黒の羽織。

        母が好きだった黄八丈の着物。

        小紋の着物にすがれの菜の花の塩瀬の帯を・・。

        表と裏の違う柄の竺仙の浴衣。肌に馴染んだ絞の浴衣。

        地味な着物に映えるように後見帯に結ばれた帯。

        袖の振りに赤いもみを付けた縞の着物。

        光と影で華やかにも大人しくもなる無地の地柄の綸子(リンズ)。

        鈍色に染めた紬の着物。

        縮麺の風呂敷や絽の留袖を座布団に・・・。



        和風インテリアのはしり、その古風でありながら、シックな装いや
        時折みせる大胆なモダンな配色、四季折々に季節を感じ、相手を楽しませ
        そして自ら独自の美意識を着物、一枚一枚に込められる。



        この頃、街中で着物の姿の女性をみると、興味深く目が留まる、ごまめでおます。
        >> 続きを読む

        2014/10/04 by ごまめ

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    • 2人が本棚登録しています
      星新一一〇〇一話をつくった人

      最相葉月

      5.0
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      • 「絶対音感」で音楽界の謎に挑戦し、私の感性の網に引っ掛かった、気鋭のノンフィクション作家・最相葉月が星新一の評伝を書いたのが、今回読了した「星新一 一〇〇一話をつくった人」です。

        それにしても、またなぜ星新一なのか?-------。

        よく知られているように、星新一は「ボッコちゃん」「おーい でてこーい」など、ショートショートと呼ばれる超短編で知られるSF作家だ。
        子供の頃、誰でも一度は虜になり、現在でも日本のみならず世界中から愛されていると思う。

        だが、子供向きという印象が強すぎるためか、少なからぬ読者が、自分はとうに星新一を卒業したなどと錯覚しているのではないだろうか。
        しかし、生前の彼は、ブラックユーモアあふれる冗談を口にしながらも、作品の方は飄々とした品の良さを保って敬愛され続けたと思う。

        決して一筋縄ではいかない人物だったのであり、その逆説的な構図によって、星新一は長くSF界の中心に君臨したといっても言い過ぎではないだろう。

        この作品は、そんな星新一の実像に迫り、残された資料と膨大な取材から、その作家と作品を大きくとらえ直す。

        この迫真の取材は、作家のみならず、彼の生きた昭和と、その時代の中で育成されたSFというジャンルの成立と隆盛の秘密をも美しく、そして生き生きと描き出していると思う。

        一読して、絶妙なショートショートの名手という通俗的な作家像の裏側に、なんという地獄図を呑み込んでいたのかと呆然とする。

        作家未満の頃、彼は借金まみれの製薬会社を父から遺産として受け継ぎ、信じられないほどの辛酸をなめた。
        また、ショートショートが千一編になるまでに、とてつもない作家的な苦闘もあったと思う。

        ショートショートという極小の世界は、彼の人生を凝縮した結晶そのものだということが、生々しく伝わってくる。

        星新一のイメージをがらりと変えてしまうこの作品そのものが、SF的な文明批評を彷彿とさせる圧倒的な構想力の賜物なのだと思う。

        >> 続きを読む

        2019/04/12 by dreamer

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      ハルキ・ムラカミと言葉の音楽

      畔柳和代 , RubinJay.

      4.0
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      • 村上春樹氏の翻訳者が、ベールに包まれがちな村上春樹氏の生い立ちを書いた作家論でもある作品。
        ハルキストの必読の書。
        >> 続きを読む

        2013/03/20 by togusa

      • コメント 7件
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      谷崎潤一郎伝 堂々たる人生

      小谷野敦

      5.0
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      • 谷崎潤一郎を好きな人間は非常に多いと思う。

        文学好きな人間には、川端康成や三島由紀夫と共に避けて通れない作家の一人だが、この著者・小谷野敦の思い入れも相当なものだ。

        おかげで、この本の読者である私も、この本を読むことによって、あらためて「大谷崎」を堪能することができたが、谷崎への思いがびっしりと書き込まれ、著者の谷崎好きの熱が行間から迸っている。

        私を含めて多くの文学好きが、なぜ谷崎作品を読み続けるのか?
        この本を読むと、それまで漠然と抱いていた、その輪郭が浮き上がってくるのがわかり、それが好きな者には、とても心地良い。

        谷崎の文学が、時代を超えて私たちの心を捉えて離さないのは、彼の作品が「耽美」的と言われる一方、書くものが「私小説」的であるからだと思う。

        谷崎潤一郎の生き方は、世間一般の常識からすると、道徳的ではなく、むしろ善悪を抱えて生きる人間そのものの生き方なのだが、そこには私を含む多くの読者が、作家の生き様を知りたいという欲求を満たしてくれる作用もある。

        書くという行為と生きるという行為が一体になっているところが、谷崎ファンを魅了しているのだと思う。

        また、この本は「作品論でも作家論でもない、谷崎潤一郎という一個の人間像を描いてみたい」とあるように、作家・作品論を説くよりも、彼の人生に比重をかけている。
        つまり、人間を描こうとしているのだ。

        それゆえに、私たちは一層、彼に魅かれるし、もっと知ろうとする感情が生まれてくる。
        副題にもあるように、まさに谷崎の「堂々たる人生」が、この本にはぎっしりと詰まっている。

        近年、文学の衰退が言われて久しいが、その背景には、良いものを書こうとする作家の意識不足と、読書をしなくなった人々の相関関係がありそうだが、文学の衰退は社会の不毛化にも通じるような気がしていて、文学の世界も世間と似て、甘えの構造があるのかもしれません。

        谷崎潤一郎のように、生を燃焼させるように書き、生きようとする作家が、近年は非常に少なくなっているような気がします。

        この本は、人間・谷崎潤一郎のことが詳細に描かれ、深く味わうことのできる評伝の秀作だと思いますね。

        >> 続きを読む

        2019/01/28 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      『婦人公論』にみる昭和文芸史

      森まゆみ

      3.0
      いいね!
      • 図書館で借りました。
        レビュー書くの、忘れてたー!

        森まゆみは好きです。
        が、たまに「女であること」と
        「男からの(特に上からの)目線」に、ちょっとこだわり過ぎ?
        と思うことがあり、
        この本は「婦人公論」を題材にしてるだけに
        それがちょっと目立っていたかな…という印象です。

        森まゆみは『鴎外の坂』が私としてはベストだなぁ。
        暖かく、冷静で、隅々まで心がこもっている名評論だと思う。
        比べるとこれは、読んでてちょっと疲れてしまいます。
        こっちの肩にも要らない力が入る感じ。

        でも、川端康成の項には、爆笑させてもらいました!
        『古都』を読んだ時も思ったけど、
        川端って、文豪ですかね?好みもあるでしょうが…。
        川端作の「これは…」とうなるガツンとした小説、
        知ってる方、教えて下さい。
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        2012/07/24 by oka-azu

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      南島の神歌 おもろさうし

      外間守善

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      •  2012年11月末、読売新聞にある方の訃報が載っていました。その人は「外間守善:ほかましゅぜん」さんで、「おもろさうし」の研究を大成した人でした。「おもろ」というのは、日本でいう「和歌」に相当するでしょう。

         その「おもろさうし」について、wikipediaから引いてくると、
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
        『おもろさうし』(おもろそうし)とは、尚清王代の嘉靖10年(1531年)から尚豊王代の天啓3年(1623年)にかけて首里王府によって編纂された歌集。沖縄の古い歌謡であるおもろを集録したものである。漢字表記すれば「おもろ草紙」となり、大和の「草紙」に倣って命名されたものと考えられる。なお「おもろ」の語源は「うむい(=思い)」であり、そのルーツは祭祀における祝詞だったと考えられている。全22巻。

        王・高級神女・勇者・詩人・航海者をたたえ、風景・天象・戦争・神話について歌われている。わずかではあるが恋愛を歌ったものもある。(中略)編纂時期が不連続で、巻一が編纂されてから約70年間編纂が途絶えており、薩摩侵入後の万暦41年(1613年)になって巻二が、十年後の天啓3年に残りの二十巻が編纂されている。
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
        そんな訳で「おもろさうし」に興味を持ったので、図書館で「南島の神歌 おもろさうし」(外間守善:中公文庫)を借りてきて読んでみました。目についた作品をいくつか。


        あがるいの大ぬし
        大主が御まへに
        くねぶげはおへておちへ
        おれづむ またな
        いな ちやはな さちやる
        (対訳)
        東方の大主
        大主の御前に
        九年母木を植えて
        ウリズンを待とう
        おや、もう花が咲いたよ

        原詩に出てくる「おれづむ」は「ウリズン」と同義で、沖縄の人が待ちわびる季節で、日本本土のように厳しい冬がない人たちのあいだで宿望される、「春」とも違う季節であり、「若夏」という言葉と同義とほぼされるようです。細かくは、旧暦2,3月頃がウリズン、おなじく4,5月ころが「若夏」と
        呼ばれるようです。(56P)



        はつにしやかふし
        地天とよむ大ぬし
        ちうらのはなの
        さいたる みもん
        天ちとよむ大ぬし

        (対訳)
        天地に鳴響む太陽よ
        美しい花が
        咲き渡っていくさまのみごとに美しいことよ
        天地に鳴響む太陽よ

        太陽を花に喩えて、その見事さを歌っています。(221P)



        まにしか まねまね ふけば
        あんしおそいてたの
        おうねと まちよる
        おゑちへか おゑちへと ふけは

        (対訳)
        真北の風が吹くと
        按司襲い様(国王)の
        御船をぞ待っているのです
        追手風が吹くと

        薩摩に囚われの身となっている国王に、一刻の早く帰ってきて欲しいと王妃が歌った抒情詩。おもろのなかでは珍しい恋の歌です。「釜山港へ帰れ」みたいですね。(224P)


        最後に:この本の説明に「万葉・祝詞・古事記の三つに該当する」と言われる沖縄の古謡集「おもろさうし」。・・・とありますが、私が読む限り祝詞(のりと)の集成のように見え、さほどの多様性は感じませんでした。特に、恋愛の歌があまりないのにはちょっと不満でした。
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        2013/11/26 by iirei

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