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カテゴリー"作品集"の書籍一覧

      藤沢周平全集

      藤沢周平

      4.0
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      • 藤沢周平のデビュー作「溟い海」(藤沢周平全集 第一巻所収)は、晩年の葛飾北斎を主人公にして、盛名、地に落ちた芸術家の無惨孤独な老境を、仮借なく抉った作品だ。

        暗い情念そのものは、創作のモチベーションとして、さほど珍しいものではない。
        ただ、そうした新人作家は、自分の想いだけが先走り、小説の完成度に難がある場合が、多いものだ。

        ところが「溟い海」は、新人作家のデビュー作とは思えないほど、完成度が高いのだ。

        例を挙げるならば、ごろつきの鎌次郎や、北斎の息子の嫁の扱い方。
        どちらも非常に巧みなのだ。

        若い広重の才能に嫉妬して、鎌次郎たちを雇って襲わせようとする、晩年の北斎像も秀逸。
        そして、主人公のキャラクター造型や、人物の出し入れも実に見事だ。

        確かに「溟い海」は、作者・藤沢周平の暗い情念を吐き出した作品だと思う。
        しかしそれを、巧みな小説技法でコントロールして、読み応えのある物語へと昇華させている。

        暗い情念と、それを支える小説技法。ここに初期の藤沢周平作品の特徴があると思う。

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        2019/12/27 by dreamer

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      芥川竜之介全集

      芥川龍之介

      4.5
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      • 第一巻。26篇所収。

        この全集が刊行された1980年代後半にこの巻を買ってから、気になる作品をいくつか読んできたものの、通読はしたことがなかった。30年以上たって、やっと今回通読できた。死ぬまでに読めてよかったと、ほっとしている。

        処女小説のタイトルが「老年」とは、龍之介はすでに厭世観にとらわれていたのだろうか。二十代前半で老いと死を見つめ、第二作は「青年と死」である。

        実母が発狂したことも作品に影を落としている。殿様の狂気を描いた「忠義」では、お家のためという武士のしがらみも描かれている。「二つの手紙」もなんだか狂気じみているように思う。

        何度読んだかわからないほど好きな「羅生門」「鼻」「酒虫」「芋粥」「煙草と悪魔」は、今回もじっくり読んだ。「芋粥」には、希望を奪われることの残酷さを初めて感じた。

        龍之介の初期の作品を通読できるようになるまで、長い年月がかかってしまったけれど、今回得たものは大きいのがうれしい。


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        2021/06/09 by Kira

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      芥川竜之介全集

      芥川龍之介

      5.0
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      • 第二巻。20篇所収。

        この巻の巻末にある解説「芥川龍之介論」を読むまでは、龍之介が将来に対する不安を抱いて自殺したのは時代のせいなのかと思っていた。愛する女性との結婚を反対されてあきらめたときに龍之介の青春は終わり、解説者によれば、人生とは龍之介にとって生活を圧迫する不条理な力となったという。

        芸術を信じたいと願った龍之介の描いた良秀や奉教人の生きざまと死にざまは、龍之介が手に入れることのできなかったものだという。そういう目で「地獄変」を読み返すと、切なさでいっぱいになった。

        文学は、龍之介を救ってはくれなかった。書けば書くほど、周囲や自己の醜さと向き合うことになったのかもしれない。生き甲斐がなかったばかりでなく、死に甲斐さえもなかったのだ、という袈裟の言葉が龍之介の叫びに思えて、胸が痛くなった。

        文壇に登場してから、わずか十数年で死を選んだ龍之介の冥福を祈りながら、この全集におさめられた全小説をきちんと読んでいこうと思う。


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        2021/06/07 by Kira

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      芥川竜之介全集

      芥川龍之介

      4.5
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      • 第三巻。
        20篇所収。

        大衆小説的な時代物として「鼠小僧次郎吉」と「或敵打の話」を興味深く読んだ。時代小説の面白さが満載で、こんなにいいものが書けたのに、龍之介が文学で神経をすり減らしてしまったのが残念でならない。王朝ものに根ざした伝奇小説を書いても成功しただろうに。

        この巻に収録されている「舞踏会」は今まで何回か読んできたが、ラストの意味がいつもわからなかった。今回読んで、こういうことではないかとぼんやりとわかったような気がする。


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        2021/06/18 by Kira

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      芥川竜之介全集

      芥川龍之介

      5.0
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      • 第四巻。19篇所収。

        小学生の頃からなじみのある「杜子春」「アグニの神」「トロッコ」が収録されていて、今回読むと、今までとは少しちがう感想をいだいた。特に「アグニの神」には探偵小説のような趣きがあって、スリリングな展開が子供のときには一番面白かった。ストーリー・テラーとして、龍之介も大衆小説を書いてみればよかったのに。でもやはり、「トロッコ」のラストにあるように、何をしても龍之介は将来に不安を感じずにはいられなかったのかもしれない。

        「藪の中」は、子供向けに編集された龍之介の作品集には入っていなかった。「大人になってから読んでください」と書いていた解説者の言葉を、この作品を読み返すたびに思い出す。

        この巻で一番印象に残ったのは「俊寛」だった。暗くて悲惨な物語のはずが、明るい希望にすら満ちているのが意外だった。そういう物語も書けたのに、次第に心が病んでいく龍之介が気の毒でならない。


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        2021/06/10 by Kira

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      太宰治全集

      太宰治

      5.0
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      • この「太宰治全集 2」の中では、「富嶽百景」が最も太宰治という作家の本質が出ていて大好きな作品ですが、既にレビューをしていますので、今回は、彼の作品の中でも個人的に好きな「満願」についてです。

        太宰治という作家は、何かと言うとすぐに"破滅型の作家"だと言われていますが、しかし、私は太宰治の作品を数多く読んできた経験から、そうは思わないのです。確かに酒浸りであったり、あげくの果てに情死までしてしまいました。

        しかし、作家が小説を書くという行為には、その根底に、強い意思力があると思うのです。強い知性の力がなければ、小説というものは決して生みだせないと思います。ですから、"破滅型"と言うと、ふしだらな人間ということになるわけですけれども、そのような、ふしだらな人間からは、例えば彼の「人間失格」「富嶽百景」のような優れた小説は生まれることはないと思うのです。

        太宰治の外見上の生活はふしだらでも、彼の内面の精神は健全だと思うのです。そうでなければ、こういう作品を書いて、私を含めて数多くの太宰治の読者を得るということは不可能です。出来るわけがないのです。

        私は、太宰治は、ある意味、"小説家として名人"だと思っています。その小説の技法も素晴らしい、実に優れた作家だと思っています。

        そこで、この「満願」という短編小説なのですが、この作品の内容はというと、主人公の「私」、これは太宰治自身だと思いますが、彼が伊豆でひと夏を過ごした時の話です。

        「私」は、酔って自転車に乗り、怪我をします。そして、その傷を治療してもらうために、町のお医者さんのところへ行く。すると、32歳の医者も、大変酔っぱらっている。このように描写しています。

        「私と同じくらいにふらふら酔って診察室に現われたので、私は、おかしかった。治療を受けながら、私がくすくす笑ってしまった。するとお医者もくすくす笑い出し、とうとうたまりかねて、ふたり声を合わせて大笑いした。」

        こんなふうにして、この二人はとても親しくなります。そんなわけで、「私」は、散歩の途中、医者のところに立ち寄り、縁側に座って配膳されてくる新聞を読むことを日課のようにしているのです。

        その医者に若い女の人が、薬を取りにやって来ます。下駄履きの、とても清潔な感じのする女性です。この女性が通ってきて薬を手に帰ろうとすると、お医者さんが、「奥さま、もうすこしのご辛抱ですよ」と大声で励ますのです。そして、その様子を時々見ていた「私」に、医者の奥さんが、その女性について説明をしてくれます。

        その女性の夫は、小学校の先生なのですが、三年前に肺結核を患った。しかし、最近は非常によくなってきている。それで、医者は、その奥さんに、今が大事なところだからと言って、「固く禁じた」というのです。

        小説の文章に「固く禁じた」と書いてあるのですが、何を「固く禁じた」かというと、つまり性生活です。夫の病気に差し障りがあるから、性行為をしてはいけませんよと言って、「固く禁じ」ているのです。ですから、いつも帰り際に、「奥さま、もうすこしのご辛抱ですよ」と、励ますように言うのです。

        そして、その後、八月の末になり、またその若い女性が薬を取りに来ます。その時のことを、太宰治は次のように書いています。

        「八月のおわり、私は美しいものを見た。朝、お医者さんの縁側で新聞を読んでいると、私のそばに横ずわりにすわっていた奥さんが、『ああ、うれしそうね。』と小声でそっとささやいた。ふと顔をあげると、すぐ目の前の小道を、簡単服を着た清潔な姿が、さっさっと飛ぶようにして歩いていった。白いパラソルをくるくるっとまわした。『けさ、お許しが出たのよ。』奥さんは、また、ささやく。」

        つまり、お医者さんが「今日からはいいですよ」と、そう言ったのです。お許しが出たのです。何と言ったらいいのでしょうか。この白いパラソル。ここを読んだ時に、私は唸りました。

        非常に清らかな美しい性生活というか、男と女の性的生活、性行為を、これほど美しく表現したものを、私はあまり知りません。

        この白いパラソル----。こういう短編小説を書く太宰治という作家は、本当に優れた作家だなと私は思います。



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        2016/12/23 by dreamer

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      夢野久作全集

      夢野久作

      3.0
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      • 「キチガイ地獄」

         精神病院の患者が「もう治ったらから出して」と院長を説得する、というお話。

         作品の大半を占めるのは患者の饒舌な身の上話です。これが非常に引き込まれます。記憶喪失の男、呪われた血族、名家のスキャンダル、世間と隔絶した山小屋……と盛りだくさんです。しかし、ページ数残り僅かというところで、思わず「ひぇっ」となってしまう展開をみせ、作品はそのまま幕を閉じます。

         なんとも後味の悪い余韻が残りますが、改めてタイトルを見ると、妙に納得してしまいました。夢野久作おそろしや……。

        「瓶詰地獄」「少女地獄」「キチガイ地獄」の地獄巡りを終えました。これらを読んでみた上で、やっぱり「ドグラ・マグラ」が集大成なんだな、と思います。まさに結実という感じです。でも、地獄シリーズのどれもが負けず劣らずの「夢野久作らしさ」を持っていました。

        「ドグマグ」には、様々な主張や表現、アイデアが詰め込まれていて、代表作として非常に完成していました。しかし、単純に作風を楽しみたいのなら「瓶詰地獄」、「少女地獄」の「何でも無い」、そしてこの「キチガイ地獄」を読めば十分その目的は果たせると思います。特に「瓶詰」は15分もかからないのでオススメです。

        (読んだのは青空文庫の「キチガイ地獄」のみですが、見当たらなかったためこちらで代替とさせていただきます)
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        2015/10/13 by あさ・くら

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      芥川竜之介全集

      芥川龍之介

      5.0
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      • 岩波書店刊の「芥川龍之介全集」の第二巻に所収の「或日の大石内蔵助」を精読。

        この短篇小説は、赤穂浪士の大石内蔵助の心理に、芥川流の新しい解釈を加え、近代的な性格を与えた独特の作品になっていると思う。

        大石内蔵助自身が、世間から真実の自分の価値以上に思われ、余りにも見当違いの賞賛を受けることの嫌いな、近代人的な悲しみというものを、芥川は内蔵助の中に感じ、他の赤穂浪士と違った近代的な人間性に目覚めた人間として描いていると思うんですね。

        それと同時に、人生に幻滅を感じ、すなわち主君の仇討ちという大業を成し遂げた後の内蔵助の一種の幻滅を描いていて、歴史的な真実性よりも、"近代的な現実性"を表現し、芥川の内蔵助という人間に対する解釈を述べ、世の「誤解に対する反感と、その誤解を予想しなかった彼自身の愚に対する反感」を感ぜずにはいられないものであったのだろう。

        そして、意外に褒められたことが、内蔵助としては傷つけられたように思われ、世の非難や賞賛にも安定されない自画像で、芥川らしい技巧の限りをつくした名文には魅了されてしまいます。

        芥川の歴史に材をとった歴史小説は、その手法において森鷗外の影響をかなり受けていると思うし、彼の作品の基調をなすものが、理知と洗練されたユーモアであり、生活の外側に立って冷然と渦巻を眺めているというのではなくて、静かに味わいながらじっと顕微鏡で人間の内面を凝視しているというところにあると思うんですね。

        しかし、これは考えてみると、"人生の傍観者"であった芥川の理知に生きる必然の帰結であって、その作品の中に燃えるような熱情とか、魂を打ち砕くような力はないかも知れませんが、近代人の理知的な人間の心理とか、古典の教養とか伝統美への造詣などは、芥川を芥川たらしめる最大のものであると思いますね。


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        2018/03/22 by dreamer

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      新日本古典文学大系

      大槻脩

      5.0
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      •  古文の原文は有名なところだけ教科書などで読んで通読していないものが多いのですが、今夏は『とりかへばや物語』を通読してみました。
         『とりかへばや物語』は長らく文学的な価値が低い、変態的な作品という位置づけだったそうで、どんなにグロテスクなシロモノかと思って読んだのですが、どぎつい性描写があるわけでもなく、むしろ登場人物の心理描写が詳しく、なかなか面白い作品ではないかと思いました。これが倫理的に問題があるというのなら、現代の少年少女マンガなどは完全にアウトです(笑)。
         物語は男性として成長してしまう女性、中納言が中心的な登場人物です。姉弟(弟妹?)である、女性として成長してしまう男性、尚侍はそんなに個性があるように書かれていません。後半には活躍しますが、完全にあたりまえの男性として行動するだけなので、そんなに面白くはなく、始めから終わりまで苦悩し続ける中納言の人物造形が深く、近代小説にも匹敵するほどであると言えます。中納言が宰相の中将に女と見破られ、妊娠してしまい、女性としての生活をせざるを得なくなる部分で、自分は男性社会で成功してきたのに、こうして男に頼らなければ生きていけない女の惨めさを語るあたりは、少しは進んできたとはいえ男性優位の社会である日本社会で働こうとする女性を彷彿とさせるものがあります。さらに秘密裏に出産をするために単純な宰相の中将を利用するだけ利用して、行方をくらましてしまう(実際には男に戻った尚侍と入れ替わる)中納言の強かさも女をよく書けているなあと感心してしまいます。作者は不明で、男性説と女性説があるらしいですが、女性なんじゃないかと私は思います。最終章の栄華を極めていくあたりは類型的な語りで(というのは位があがって子孫が繁栄してみんな高位高官を占めているという形以外にないので)そう面白くはありませんが、母と名乗れない中納言(その時は中宮になっている)が、実の息子と対面する場面は感動的です。またその息子が母と思われる人に会ったと乳母に言いながらも、乳母から詳しい話をするように言われると、余計なことは語らないあたりもけなげさを感じさせます。最高の美貌や栄耀栄華を手に入れることが手放しで賛美されるだけではなく、それを相対化するような苦悩が最後まで残されていることが、この作品に深みを与えていると思います。
         
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        2014/07/29 by nekotaka

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      村上春樹全作品1979〜1989

      村上春樹

      4.0
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      • 【図書館】今回は 村上春樹氏の初期の作品。以前「1973年のピンボール」を読み、今回は「風の歌を聴け」のみ。他の作品にも見られるのだが、主人公は話し手になり、過去をふりかえる。さらに主人公が書いた文章はいくつか他の作品の引用が使われており、新鮮でした。 >> 続きを読む

        2014/11/25 by おれんじ

      • コメント 3件
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      島田荘司読本

      島田荘司

      3.0
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      • 島田氏自身によるファンサービス。

        全著作ガイドや書き下ろし小説などファンには堪らない趣向。

        正確にはカウントしていないものの、体感的にはかなりの数の島田氏作品に触れて来たつもりだったが、著作ガイドと付き合わせると、まだまだ未読の作品が多く、まずは安心した。

        書き下ろし小説については、面白い/つまらないで批評するような内容ではなく、戦争の悲劇と個人の葛藤という重いテーマを扱う重厚なものとなっている。

        また島田氏が語る小説観みたいなものが随所に織り込まれ、島田ワールドが、いかに緻密に組み上げられた論理で形成されているかを驚きを持って認識した。

        著作ガイドはネタバレが無いように配慮されているようだったが、念のため、未読作品に関しては読み飛ばした。

        ノンフィクション作品については、未だ1冊も読んでいないようなので、機会が有れば意識して手に取ろうと思う。

        プロの小説家としての妥協の無さが潔い。
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        2011/12/01 by ice

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      コレクション戦争と文学 = Nova Bibliotheca de bello litterarum-Saeculi21

      奥泉光 , 浅田次郎 , 開高健 , 川村湊

      4.0
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      • 第1巻である朝鮮戦争を読んだのはいつだったかを調べたら、
        なんと2015年だった。第2巻を手にするまで約4年。

        書棚には第4巻まであるのだが、全20巻+別館1のこのシリーズ、
        私は一体いつになったら読破出来るのか不安になって来た。

        さて、本書である。私が拘りをもつヴェトナム戦争なので本当は
        第1巻より先に読みたかった。

        ヴェトナム戦争と言えばアメリカ軍の戦争犯罪を暴露したノンフィ
        クションが多数世に出ているが、本シリーズは「日本語で書かれた」
        との括りがあるので海外メディア掲載の文章は皆無。

        それでも日本人作家の手になる小説・ルポルタージュで、多岐に渡る
        テーマでヴェトナム戦争を再考させられる。

        特に惹きつけられたのがアメリカの北爆停止表明が出た時に取材の
        為にハノイに滞在していた松本清張のルポ「ハノイからの報告」、
        取材中に行方不明になった前任者の足跡を追う現地特派員を主人公
        とした日野啓三の小説「向こう側」、終戦後30年のヴェトナムの
        老婆の話を主題にした吉岡忍の小説「綿の木の嘘」の三編。

        松本清張作品は多く読んで来たが、このルポは初見。なんという
        タイミングの良さでハノイにいたのだろうと感じた。

        他にも村上龍、一ノ瀬泰造、開高健などの作品も収録。一ノ瀬泰造の
        作品についてはヴェトナム戦争から飛び火したカンボジアが舞台なの
        で本書も「ベトナム戦争」ではなく「インドシナ」で括ればよかった
        のではないかな。

        本書解説でも触れられているが、朝鮮戦争同様、ヴェトナム戦争にも
        日本は深く関わっている。一時休暇で戦場を離れたアメリカ兵が心と
        体を休めたのは日本だし、日本の米軍基地からは爆撃機が飛び立って
        いる。

        そうして、日本国内では反戦運動が起こり、アメリカ兵の脱走に手を
        貸した人たちもいた。そのと当事者である小田実の作品も収録。

        普段、ノンフィクションばかり読んでいる身にとっては、小説で戦争
        を読む体験は新鮮でもあった。

        巻末にはヴェトナム戦争関連の年表もあるので、その時、何があった
        のかを知るのにも便利。

        ただ、難点を言えばアメリカとの前にフランスとの戦争があったのだ
        が、その部分の作品が皆無なところか。やっぱり「インドシナ」で
        括って欲しかったな。
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        2019/06/02 by sasha

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      近代絵画

      小林秀雄

      4.0
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      •  ぼくが持っているのは新潮文庫ですが、画像がないのは寂しいのでこちらを登録しておきます。
         この高名な評論家をぼくはあまり好きではありません。しかし、この本は何度も繰り返し読みました。
         彼は、徹底的に脳型人間で、五感で絵画を鑑賞するような人ではなさそうです(ご本人にこういったら絶対否定したと思いますが)。この本で最も多くの紙幅が割かれているピカソについては、彼自身、どう評価したらいいのか分からずもてあましているようにも感じられます。
         しかし、印象派の画家たちが、何にこだわってそれまでの伝統的な絵画を脱却し、自分の世界を築き上げていったのか、そこにいかなる苦闘があったのかについて、ぼくはこの本から多くを学びました。モネ、ゴーギャン、ゴッホといった画家たちの展覧会に行くたびに、ぼくはこの本を読み返し、小林秀雄的な見方と、ぼくの見方との距離を測りました。こういったことを繰り返して、目が肥えたかどうか分かりませんが、絵を観る歓びが増していったことは間違いありません。
         彼が最も評価したのはセザンヌだと思われますし、この本で最も優れているのもセザンヌの章でしょう。ぼく自身も、印象派の画家の中ではセザンヌが一番好きです。昨年、国立新美術館で開催された「セザンヌ―パリとプロヴァンス」展にはほんとうに感動しました。

         或る日、セザンヌはギャスケの前で、モチフを掴んだといって両手を握り合わせた。モチフとは、つまり、これだ、という。ギャスケが、腑に落ちぬ顔をしていると、セザンヌは両手を話し、両方の指を拡げて見せ、又、これを静かに、静かに近附けて、握り合わせ、一本一本の指をしっかり組み合わせた。そういう動作を繰り返しながら、彼は、こんな風に説明したそうだ───「こういう具合にモチフを捕える。こうならなくてはならないのだ。上に出し過ぎても、下に出し過ぎても、何もかもめちゃめちゃになる。少しでも繋ぎが緩んだり、隙間が出来たりすれば、感動も、光も、真理も逃げて了うだろう…」

         ぼくはこのセザンヌの言葉を、セザンヌの絵を観るときのみならず、たとえば、フランシス・ベーコンの絵の前に佇んでいる時にも思い出します。さらには、絵を観ている時ではなく、村上春樹の小説を読んでいる時にも、ああこれはしっかり掴んでいる、ああこれは緩んでしまった、などとセザンヌの言葉で考えている自分に気がついたりするのです。
        >> 続きを読む

        2013/05/18 by 弁護士K

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      筒井康隆全集

      筒井康隆

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      • 「筒井康隆全集」の4巻です。サブタイが「時をかける少女/緑魔の町」。
        「時をかける少女」って、映画とかアニメとかの映像化されたモノはひとつも見たことがなくて、原作も今回初めて読んだんだけど、アニメの幻魔大戦みたいなのを想像してたので、思っていたよりもあっさりした内容でびっくりしました。
        そもそも、短編のくくりに入ってたのにも驚いたなあ。
        >> 続きを読む

        2013/05/15 by koh

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      筒井康隆全集

      筒井康隆

      2.0
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      • サンバとボサノバと空き缶と喧騒が鳴り響き目が回る
        回っているのは私か
        星が回るからなのか
        地球が自転するからなのか
        太陽の周りを回るからなのか
        論点消失、水没、滅法、輪廻。坂を転がりおやすみなさい
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        2020/08/24 by kotori

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      伊藤計劃記録

      早川書房 , 伊藤計劃

      4.0
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      • 【もし彼がもっとこの世界にいたのなら……】
         伊藤計劃は、享年34歳という若さで亡くなってしまいました。
         彼が残した作品は決して多くはありません。
         商業媒体に発表されたもので言えば、長編4作(うち1作は未完)、短編2作のみです。
         私はこれまでそのうち『虐殺器官』と『ハーモニー』を読んだのみでした。

         本書は、そんな伊藤が残した文章を集めた一冊です。
         小説パートには3編の短編と、未完に終わった長編の書かれた部分を。
         散文パートには、ゲームや小説について語った文章を。
         3本の対談を挟み、最後は伊藤が好きだった映画について書いた文章が収録されています。
         映画のパートでは、作品ごとに思うところを書き残しているのですが、これが結構な量になっており、映画好きだったことがうかがわれます。

         ここでは小説のパートをご紹介しましょう。

        〇 The Indifference Engine
         伊藤の短編のうち、商業誌(SFマガジン)に発表された作品です。
         民族紛争に巻き込まれた少年兵が、唐突に訪れた終戦に戸惑い、これまで敵に向けられていた無条件の憎しみを処理することができず、『ある治療』を半強制的に受けさせられるという物語です。
         出だしのテイストはちょっと『虐殺器官』っぽい感じもあり、治療が強制されるところは『時計仕掛けのオレンジ』を思い出させます。

        〇 セカイ、蛮族、ぼく。
         いや、笑った。
         普通の学校生活の中に、蛮族のぼくが紛れ込んでいるという超トートツな設定です。
         何せ蛮族ですから、すぐに女性を犯すわ、手斧で頭をカチ割るわ、生肉喰うわで、もう大変なんですから。

        〇 From the Nothing,With Love.
         oo7もどきのエージェントのお話(これもSFマガジンに発表された作品です)。
         oo7みたいなエージェントは得難い存在であるため、そのバックアップが準備されており、万一彼に何かがあった時には、すぐにその知識、記憶、経験が代替のボディ用に使うことになっている他人の身体に刷り込まれ、以後、その者がエージェントとして生きていくことになるという設定。
         今のエージェントも何代目かの刷り込みがなされた後の者です(彼はそんな自分のことを自嘲的に『写本』というのですが)。
         で、その組織の研究者であるアクロイド博士が何者かによって殺されたかもしれないという疑惑が持ち上がります(表面的には事故なんですけれどね)。

        〇 屍者の帝国
         フランケンシュタインとドラキュラとホームズを引っ張り出そうとした作品のようです。
         これは長編のうち、未完に終わった部分の書かれたところまでを収録。
         死者を蘇らせる技術が確立されているロンドンが描かれるのですが、その研究の大家の名前がヴァン・ヘルシング教授!
         教授に見込まれた優秀な学生の名前がワトソン。
         彼が連れて行かれた先の秘密の組織に所属している人物Mは、マイクロフト・ホームズくさい。
         なんだか、キム・ニューマン作の『ドラキュラ紀元』シリーズのような、楽しい登場人物満載の作品を狙ったのかもしれませんね。
         是非完成させて欲しかったなぁ。

         伊藤計劃という、傑出した才能を持った作家を失ってしまったことの損失は計り知れません。
         もし、彼が今でもこの世界にいたのなら、さらにどんな傑作をものしただろうかと思うと惜しんでも惜しみ切れないというのが多くの方が思うところではないでしょうか。
         そんな伊藤のトリビュート・ブックが本書ということになると思います。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
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        2021/04/17 by ef177

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      藤沢周平全集

      藤沢周平

      4.0
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      • 士道小説短篇(1)

        直木賞受賞作である「暗殺の年輪」ほか、昭和48年から50年にかけて書かれた以下の短編を治める。

        暗殺の年輪、ただ一撃、紅の記憶、証拠人、唆す、恐妻の剣、潮田伝五郎置文、密夫の顔、嚔、十四人目の男、桃の木の下で、臍曲がり新左、夜の城、冤罪、一顆の瓜、鱗雲、鬼気、竹光始末、果し合い、遠方より来る、乱心、雪明かり

        計22編。
        なかでも「臍曲がり新左」が傑作。
        シリアスな作品が多い中で、この作品や「一顆の瓜」「遠方より来る」などのユーモア系は、よりインパクトがある。
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        2017/09/11 by Raven

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      藤沢周平全集

      藤沢周平

      4.0
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      • 雲奔る 小説・雲井龍雄 / 回天の門

        「雲奔る」「回天の門」は、それぞれ、東北の維新の志士、雲井龍雄、清河八郎の生涯を描いた小説。

        清河八郎は、維新の先駆けとして活躍した人物として司馬遼太郎かなにかで読んだことがあるが、雲井龍雄については、初めて知った。
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        2017/09/09 by Raven

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      宮沢賢治全集

      宮沢賢治

      4.0
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      • 「注文の多い料理店」のみ読了。

        オチを知っていたにも関わらず十分面白かった。名作と呼ばれるものはこういうものなのかも知れない。

        超有名な作品なので、あらすじは知っていたが、ちゃんと読むのは今回が初めてだと思う。

        このタイトルを最初に耳にしたのは、地元で同名の居酒屋に行った時だったように記憶している。

        柱と言う柱に、

        「壺の中のクリームを顔や手足にすつかり塗つてください。」

        とか

        「料理はもうすぐできます。十五分とお待たせはいたしません。すぐたべられます。
        早くあなたのアタマに瓶の中の香水をよく振りかけてください。」

        などと言う作品に登場する貼り紙が貼って有るのが内装の特徴だった。
        一緒に行った知人にあらすじを説明されて、なるほどー!と思ったのがやはり最初だと思う。

        2人の猟師のどこかユーモラスな反応や、ビジュアルに訴えて来るような文章を見て、小説なのに絵本を読んでいるかのような錯覚をしている自分に気付いた。

        こんなに短い作品なら、もっと早く読めば良かったと思う。短めの名作を重点的に爆撃してみようかと思い始めた。
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        2013/08/07 by ice

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      芥川竜之介全集

      芥川龍之介

      3.0
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      • 第五巻。36篇所収。

        龍之介の健康が衰え始めた頃の作品ばかりなので、はつらつとしたものがなくて読んでいても楽しくはない(楽しむために龍之介を読むわけでもないだろうが)。

        王朝ものの「六の宮の姫君」はさすがに気品があり、「三右衛門の罪」「伝吉の敵打ち」には時代小説の面白さがある。
        キリシタンものの「おぎん」と「おしの」の二作は、「奉教人の死」に比べると、その変わりようにちょっと驚いた。

        でも、何より驚いたのは龍之介の私生活を垣間見せるような「子供の病気」で、本当にこんな生活を送っていたのなら、死にたくなるのも道理だと思った。

        龍之介自身をさす堀川保吉という人物を主人公にした保吉ものは、作品に潜む狂気が嫌で、二篇ほどしか読めなかった。
        龍之介の晩年の作品には、個人的に相容れないものがあるなと感じた。


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        2021/06/20 by Kira

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