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野谷文昭 , G・ガルシア=マルケス
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【この作品の肝は構成の妙にあると見た】 村を挙げての盛大な結婚式の翌日、サンティアゴ・ナサールは殺される運命にありました。 それはもう逃れられない運命なのだとして書かれます。 ただ、読者には何故彼が殺されるのか、その理由がこの時点では全く分からないのです。 次の章では、前日に行われた結婚式の主役である、新郎バヤルド・サン・ロマンと、新婦アンヘラ・ビカリオのなれそめ、結婚に至るいきさつが語られます。 バヤルドは、ある日、突然ふらっと村に姿を現した男で、アンヘラを一目見て惚れてしまい、求婚したのです。 バヤルドは金もありましたし、なんでもできる評判の良い男で、この婚礼は申し分のないもののように思われましたが、アンヘラは乗り気ではなかったのです。 それは、実はアンヘラは既に処女ではなかったからでした。 それでも、周囲の者に押し切られるようにして二人は盛大な式を挙げたのです。 しかし、結婚式の夜、アンヘラは、バヤルドから実家に帰されてしまいます。 処女ではないことがバレてしまったのでしょう。 事情を知ったアンヘラの親族は、アンヘラを問い詰めます。 「相手が誰なのか教えるんだ」 アンヘラは、「サンティアゴ・ナサールよ」と答えたのです。 第三章に入り、サンティアゴを殺したアンヘラの二人の兄のことが語られます。 二人は、これは名誉の問題であり罪ではないと主張します。 多くの者もその通りだと考えるのです。 二人の兄は、結婚式の翌日、家からよく切れるナイフを2本持ち出し、肉屋に行って他の者たちの前でナイフを研ぎます。 二人の兄は、サンティアゴを殺すことを公言してまわり、隠そうともしないのです。 二人がサンティアゴを殺そうとしていることは村のほとんどの人が知るに至ります。 ただ一人、サンティアゴだけが気づいていないのです。 ある者は、二人の話を聞いても本気にはしませんでした。 また、ある者は、二人の兄がサンティアゴを殺すのは当然だと考えました。 ある者は、警察官にこのことを知らせ、警察官も町長に知らせるなどしているのですが……。 第四章では、事件後のことが語られます。 サンティアゴの死体が検死にかけられたこと。 バヤルドが急性アルコール中毒になるまで酒をあおり、そのまま連れ去られたこと。 事件から23年後のアンヘラの様子。 そして、その後のバヤルドの行動。 そして、最後の第五章で、二人の兄がサンティアゴを殺害する場面が描かれるのです。 サンティアゴには全く心当たりがない様子です。 無警戒であり、他の者から忠告されても事情がよく分からないようなのです。 サンティアゴには身を守る術はいくらでもありました。 また、二人の兄も、どこか誰かに止めてもらいたがっているようにも見えます。 ですが、いくつもの偶然も重なり……。 例えば、この作品が時系列順に書かれたとしましょう。 そうしていたら、これほどの衝撃のある作品にはならなかったのではないかと思います。 大変短い物語なのですが、このような構成で書かれたことが最も巧みだった点のように感じました。 なお、題材となっている事件は、実話であり、マルケスはノン・フィクション的にこの作品を書いたということです。 確かに、その語り口は客観的であり、訥々としたもののように感じました。読了時間メーター□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/10/03 by ef177
鼓直 , G・ガルシア=マルケス
【濃密な……余りにも濃密な】 この作品は、邦訳が出て話題になった頃読んだのですが、まったく内容を覚えておらず、また、特に面白かったという印象も残らないままになっていた作品なんです。 とは言え、名作の評価が高い作品ですし、内容をまったく覚えていないというのも気になったのでいつか読み直さなければと思っていました。 そして、ようやくこの度再読してみたのですが、いや、面白いじゃないの! なんでまったく残っていなかったのでしょうか? 読むのが早過ぎた?(そんなこともないと思うけど) あるいは、初読当時はこういう作品に慣れておらず読みこなせなかったか。 まぁ、とにかく初読の時にはまるで読めていなかったのは間違いなさそうです。 物語はブエンディア家代々の百年以上にわたる物語です。 初代のホセ・アルカディオ(ブエンディア)とウルスラは、お互い当然のように結婚しようとするのですが、近親婚になるため、そんなことをすると豚の尻尾を持った子供が生まれると親族たちから反対されるのです。 でも、ブエンディアは、どんな子供が生まれたって構わないと言い張り、ウルスラと結婚してしまいます。 しかし、ウルスラはやはり気にはなっており、しばらくの間、ブエンディアと関係することを拒否し続けていたのですね。 そのため、1年経っても子供ができず、周囲からはそのことでからかわれてしまうのです。 このことに我慢ができなくなったブエンディアは、強引にウルスラと交わり、子供を作ってしまいました。 また、からかった男を殺してしまいます。 で、これが祟るんですよね。 殺した男の幽霊が出てくるのです。 ブエンディアらは、幽霊を慰めるため故郷を出て行くことにし、賛同した仲間達を引き連れてあての無い旅を始めます。 この旅の途中でウルスラは出産するのですが、無事に五体満足な子供を産みます。 ブエンディアは、海を目指してはいたのですが、結局海には行きつけないと分かり、仕方なくある土地に定住することを決めたのです。 そこがマコンドと名付けられた村で、そこでブエンディア一族の長い物語が刻まれていくことになります。 ブエンディアは、科学に関心を持ち、ジプシーが持ち込んだ磁石や望遠鏡などの様々な器具に夢中になり、ウルスラの反対を押し切って財産を注ぎ込んみ、様々な研究に入れ込みます。 良心的なジプシーのメルキアデスとも懇意になり、メルキアデスの指導の下、錬金術にまで手を伸ばすのですね。 もちろん、そんなものはうまくいくはずもなく、最後にはブエンディアは発狂してしまうのですが。 また、ブエンディアとウルスラの息子、孫らの人生も描かれていきます。 内戦が勃発し、改革派(自由党)の中心人物になったブエンディアの息子のアウレリャノ大佐の生き様が描かれます。 内戦終結後の、孫たちの世代、さらにひ孫の世代と、どんどん時代が流れて行きます。 この一族、子孫に祖先の名前を繰り返しつけるので、結構ややこしいのですが、まぁ、それほど登場人物が多いわけでもないので読めますよ。 また、この作品、幻想文学でもあります。 先ほどご紹介したように、幽霊が登場しますし、ブエンディアの孫の世代に生まれた絶世の美女レメディオス(小町娘と呼ばれます)は、昇天してしまいます。 いや、文字通り、いきなり空中に舞い上がりどこかへ飛んで行ってしまうのです。 死んだはずのメルキアデスも亡霊のように何度も現れます。 メルキアデスは、何語で書かれているのか分からない文書を残すのですが、これがまた物語の一つの鍵になります。 また、一族の中には予知能力を持った者が生まれることも描かれるのです。 ある時はとんでもない雨季に見舞われるのですが、これが何と、雨が4年11か月と2日も降り続くのです(その後、全く雨が降らない長い年月が続くのですけれど)。 家はちょっと気を許すと赤蟻などの虫たちにどんどん侵食されていきます。 とにかく、一つ一つの出来事が『濃い』のです。 過剰と言っても良いかもしれません。 また、この作品は『魔術的リアリズム』の代表作のように言われていますよね。 そういう部分も濃密なのです。 物語は一族が築き、そこで生きたマコンドの市(村から市へと発展するのです)が永遠に消えて行き、その最後に、一族に豚の尻尾を持った子供が生まれるところでラストを迎えます。 あれだけ濃かった物語は、風に吹き散らされるようにすべて消えて行ってしまうのです。 その過程を読む物語なんでしょうね。 大変面白く、そして実にヘビーな物語でございました。読了時間メーター□□□□ むむっ(数日必要、概ね3~4日位) >> 続きを読む
2021/02/18 by ef177
RoviraAlex , Trias de BesFernando. , 田内志文
10年以上も前にベストセラーになった本ですが、意外と多くの方がレビューを投稿されているので、私も。この本の新聞広告とかが出ていた当時、私は高校生で思いっきりガリ勉タイプな人間でしたが、こういう本に手を付けたのは、それだけ多感な時期でもあったのかなあと思います。今読み返してみても、少ないページ数で「自己啓発」としての基本部分を押さえている感じで、元気をもらえますね。本当に短時間で読める本なので詳細は伏せますが、「魔法のクローバーを手に入れる」という試練に二人の騎士が挑戦するというお話です。「自らの手で幸運をつかみ取った者」と「運が向かうのを待っていたけど、それを得ることがかなわなかった者」の差、そこだけを見ると、残酷と言えば残酷ですね。でも、本全体のストーリーから見てみると、単にその「残酷さ」だけでは終わらない含蓄もあるところが深いです。 >> 続きを読む
2017/02/12 by ピース
石原彰二 , BarriosEnrique
ペドゥリートという少年と小さな宇宙人アミの出会いからお話が始まります。 アミは、ペドゥリート を 円盤に乗せて、宇宙を旅をして、対話を通して、地球は愛の度数の低い野蛮で精神性の低い星であることや、宇宙の法則は愛であることを教えていきます。アミは、旅を通して学んだことをペドゥリートが物語風にまとめて本にすることを条件に、再会することを約束しました。私がもしアミに会ったら、「残念ながら君は愛の度数が低いね。」と言われると思います。アミから見ると、私は、野蛮な地球人。ぜひ地球人救済計画(更生計画?)の一環として、私も旅に連れて行ってほしい。 >> 続きを読む
2018/12/28 by うらら
Cervantes SaavedraMiguel de , 牛島信明
読了日は適当。ドン・キホーテといえば風車に向かって行った狂人として知られている。が、狂った理由を聞けば、諸兄らはぎくっとするだろう。本の読みすぎ。騎士道物語を読みすぎて、彼は狂ったのだ。諸兄らもないかな?夜、手元の灯りで、ワインなぞかたむけて、血沸き肉踊る冒険譚を読み、ああ、俺はやるぞ、地の果てまで駆けてやる、ひそかに興奮していることが。あるいは顔も知らぬ美しい姫が(顔は分からないが美しいのだ)夜毎自分の助けを求めているなどと。本ほど人生を助けてくれるものもないが、本ほど命を縮めるものはない。さらに分かっていても止められない。されば槍持て馬に乗り、走り出すしかない。当然荒野ではなくなじみの本屋に。馬は表に繋いで、槍であの本が欲しいと示せば良い。そしてまた本に酔っぱらう。 >> 続きを読む
2016/05/20 by kido
鼓直 , BorgesJorge Luis
ボルヘスの処女短篇集。「バベルの図書館」は、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」を読んで以来気になっていた作品。無限に続く、宇宙としての図書館、図書館の姿をした宇宙。「円環の廃墟」のまどろみのような世界観も好き。「トレーン、ウクバール、オルビス・ティルティウス」の隠された世界は、探せば見つかるのかも。工匠集よりも、八岐の園に収録されている作品に心惹かれるものが多かった。きっと、読み返すたびに印象が変わるのだと思う。 >> 続きを読む
2014/07/26 by seimiya
木村裕美 , Ruiz ZafonCarlos
以前から気になっていた作家カルロス・ルイス・サフォンの「風の影」(上・下巻)をようやく読了しました。本を読む事が大好きな人には、誰にでもきっかけとなった本との出会いがあるものです。そんな経験を持つ者の"心の琴線"に触れるのが、この作品なんですね。この作品は、古典的とも言える雰囲気と豊かな物語性を持つ、"迷宮的なミステリ"で、読み方によっては恋愛小説であり、少年の成長小説でもあるという重層的な大河小説だと思う。1945年、10歳になるダニエルは父親に連れられ、時の流れとともに失われてしまった書物の寄るべ〈忘れられた本の墓場〉を訪れ、幻の作家フリアン・カラックスの「風の影」と運命的な出会いをする。彼はすっかり魅了されてしまうが、それを機に作品の中で悪魔として登場していた闇の男につきまとわれ、カラックスをめぐる底知れないミステリアスな奈落へと引きずりこまれていくのです-------。ゴシック・ロマンが色濃く漂う中、少年から青年へと成長していくダニエルの10年と、19世紀末以降のカラックスの波瀾に富んだ人生とが、巧みに呼応しながら進んで行きますが、さらに味わいを深めているのは、作者の隅々にまで目配りの効いた人物描写なんですね。特に本を愛でる様々な人々の心情は、国を超えて私の心に伝わってきます。そして、この本をガイドにバルセロナをさまよい、〈忘れられた本の墓場〉を見つけたい、そんな気持ちへと駆り立ててくれる作品なんですね。 >> 続きを読む
2018/05/16 by dreamer
久々の難物に出会ってしまった!という作品でした。年末から1ヶ月かかって何度も読み返しながらやっと読んで、まだ読み足りない。最初の部分は少なくとも5回は読んだはず。なんなんだこの小説は!?話が複雑とか言葉使いが難解な訳でもなく、テーマが高尚な哲学や学術的だという訳でもない。ただ、文書を普通に読み進めると何が書かれているのか意味がわからなくなるのだ。まずそもそも、語り手が誰だかわからない。われわれって誰?文章的にはセンテンスやパラグラフという概念が無視されている。まるで句読点のない主語のない時制のない文章が切れ目なく続いている日本の古文を読んでいるかのよう。ブラックでスラップスティックで、でも美しいと感じてしまう鮮やかなイメージの応酬。個性的すぎるキャラクターと、名無しの語り手の「われわれ」の没個性。現実と非現実がせめぎ合い侵食し合い、混然としている様は、曼荼羅でもみているかのよう。確かに筒井康隆がゾッコンになる筈だ。「権力は魔物だ」というと、ありきたりな提言だと感じるだろう。しかし、この小説に描かれる権力は「魔物」そのものなのだ。独裁者が絶対権力を握るのではなく、「権力」が、己を表現する手段として選んだ道具が独裁者なのではないか、そう思えてくる。だから「独裁者」は側から見る限り滑稽に見える。ヒットラーもフセインもアメリカの誰かさんも隣の国の将軍さまも。どこかオモチャのように見えはしないか?しかしどこか大衆に愛される何かしらの要因を持っている。実は独裁者を大衆は求めているのだ。「族長の秋」の大統領も、恐怖政治かつ独裁政治をしき、横暴非情な行いをし、無教養で非知性的で、幼稚でマザコンでロリコンでサドマゾでどうしようもない男かと思うと、純情で思いやりがあり気前よく、全国民の一人ひとりを記憶してちゃんと苗字と名前で呼ぶという特技を持ち、チャーミングに思える部分も備えているのだ。産みの母「べンディシオン・アルバラド」への愛をこめた「おふくろよ」との呼びかけと、品がないが息子への盲目的愛に溢れた母親の言動にも、人間的温かみを覚えずにいられない。ユニークなこの二人を忘れることはないだろうとさえ思う。考えられない長寿を誇った大統領も老齢には逆らえない。やがて迎える虚しい死を、この小説では冒頭に持って来ている。いや、それどころではない。各章は常に大統領の死体の描写から始まるという構造になっている。死は何度も何度も繰り返される。独裁者がいつの世も死しては蘇るものだからかもしれない。名作はいつも、ラストの余韻が素晴らしい。一般大衆たる「われわれ」は、生の儚さ一回性を知り、自分が何者かを知り、愛を知り、リアルな命を生きている。その些細な幸せを抱きしめながら生き死んで行くのが生き物というものなのだよなあ。大統領よ。あなたは人の何倍も生きていたはずなのに、本当に生きてはいなかったのではないのか?ふと「象徴天皇」という言葉を思い出し、この物語の言わんとすることがようやく理解できた気がしてきた。「族長の秋」は、アンチヒーロー小説の金字塔として私の中におそらく永遠にとどまるだろう。 >> 続きを読む
2018/01/31 by 月うさぎ
SepulvedaLuis , 河野万里子
猫がカモメとの約束を守ろうと奔走する。仲間の力を借りて。猫のゾルバがとてもカッコイイ。こんな友だち、ほしいな。こんな友だちに自分はなれるだろうか。信用できる人間を猫たちが選ぶところ、考えさせられた。猫たちの選択は間違いがなく、それによって作戦は成功する。猫たちから選ばれるような、人でありたい。 >> 続きを読む
2018/12/15 by momo_love
大学のスペイン文学の講義の課題本として読みました。ピカレスク小説の先駆けと言われている作品です。悲惨な人生を、暗さをまったく感じさせない明るい語り口で述べている点がよかったです。ラサリーリョと主人たちの悪知恵合戦はとても読みごたえがありました。 >> 続きを読む
2014/01/14 by ななせ
木村栄一 , CortázarJulio
内容紹介-------------------------------------------------------夕暮れの公園で何気なく撮った一枚の写真から、現実と非現実の交錯する不可思議な世界が生まれる「悪魔の涎」。薬物への耽溺とジャズの即興演奏のうちに彼岸を垣間見るサックス奏者を描いた「追い求める男」。斬新な実験性と幻想的な作風で、ラテンアメリカ文学界に独自の位置を占めるコルタサルの代表作10篇を収録。---------------------------------------------------------------知人にお勧めされた本。国連加盟193か国の本を可能な限り読んでみたいというのが最近私が抱いている夢で、本書はアルゼンチンの作家の本。一昔前にラテンアメリカ文学のブームがあったらしく、そのときに注目された作品だそう。特にラテンアメリカ文学に注目して読んだことはなかったが、『百年の孤独』が私の読みたい本リストにあって、著者のガルシア・マルケスもその分類に属するという。「続いている公園」☆☆☆「世にも奇妙な物語」にありそうと言ってしまったらレビューとして負けな気がするけれど、実際そうだから仕方ない。「パリにいる若い女性に宛てた手紙」☆☆☆口からウサギを生み出してしまう男の話。最後は自分の中で納得していたものの許容範囲を超えてしまったのか。解説によれば、いろいろとモチーフとして受け取れる小道具があったようだが、文学的な教養に乏しい私にはそこまで読み取ることができなかった。「占拠された屋敷」☆☆☆兄妹で暮らしている屋敷が何者かに少しずつ占拠されていってしまう。それがどういう存在なのかはわからず、兄妹も確かめようとしない奇妙な話。兄妹の距離がなんとなく近いなくらいには思っていたが、解説を読んで少し納得。「夜、あおむけにされて」☆☆☆夢の世界と現実の行き来を繰り返して、どちらが現実かわからなくなってしまう男の話。似たコンセプトの話としては最近読んだエドモンド・ハミルトンの『フェッセンデンの宇宙』に収録されている短編「夢見る者の世界」の方が面白かったかな。ただ、コルタサルの方は改行や段落の変更がかなり少ないので、同じ段落中で場面転換が発生する。そのせいで、知らぬ間に夢の世界に入ってしまった(あるいは現実に戻ってきた)ような錯覚を覚えるのが面白い。「悪魔の涎」(原題"Las babas del diablo")☆☆☆コルタサルの作品の中で1、2を争う有名な作品で、イタリアの映画監督ミケランジェロ・アントニオーニによって『欲望』のタイトルで映画化されている。男が公園でのふとした光景を写真に撮り、それを家に帰って眺めていると写真が動き出し……という話。評価が高いようだが、コルタサルは個人の内面について描く作品が多い中で、本作ではあまり触れられず、私はあまり好みではなかった。空中に浮遊する蜘蛛の糸のことを悪魔の涎と呼ぶということがためになったくらいか。「追い求める男」☆☆天才的なサックスの才能を持ちながら精神を患い薬物に溺れてしまう男と、彼に振り回される人々の話。改行と段落変更のない構成と、詩的にかつ断片的に語られるサックスマンの内面を読むのがひたすらに辛かった。本書の複数の短編を読めば、コルタサルがかなり個人の内面の描写に寄せている作家だということはよくわかるが、この作品はその傾向がかなり強い。周囲の世界との関わり方から個人を描くのではなく、ただただ個人の内面を語る本作はコルタサルらしいとも言えるのかもしれない。しかし、薬物に侵され前後不覚の男の非現実的な話を続けられると気が滅入ってくる。人によって好みが極端に分かれそうだ。「南部高速道路」(原題"La autopista del sur")☆☆☆☆フランスの高速道路で深刻な渋滞が発生した。すぐに解消するかに思われた渋滞は長引き、日をまたぎ季節をまたいでいく。いつしか人々はグループを作り、役割を決め、水や食料を集め、路上でサバイバルをする。本書を勧めてくれた知人が一番推しており、私も最も気に入った作品。とんでもない奇想小説だが、グループの形成・運営などがリアル(現実でこうなるわけはないのだが)で、かつ文体が他の作品よりも読みやすいので万人がとっつきやすいと思う。ラストも皮肉っぽくて面白い。「正午の島」☆☆飛行機の中で働く男はいつも窓から見える島に行くことにあこがれており、とうとうその島に行くことを決意する。正直何を描きたいのかよくわからなかった。「ジョン・ハウエルへの指示」☆☆演劇を鑑賞しに来た男が突然舞台裏に呼ばれ、主人公役を演じることになってしまう話。演劇に口を挟む素人に対する皮肉だろうか。「すべての火は火」☆☆コロシアムが行われる古代と現代の話とが混ざりリンクする。夢と現実を行き来する「夜、あおむけにされて」を読んでいるので真新しさを感じられず。 >> 続きを読む
2020/02/14 by しでのん
BorgesJorge Luis , 中村健二
実在した世界の悪党や無法者を題材とした短篇集。観念的な要素が少ないせいか「伝奇集」よりは読みやすかった。ギャング、詐欺師、女海賊などなど。初めて知る人物ばかりで新鮮だった。日本人では吉良上野介が取り上げられている。アンチヒーローの生き様はヒーローのそれと同じく、平凡ではありえず物語となる。エトセトラの中の作品も興味深かった。「学問の厳密さについて」は、10行たらずの短い作品だが強く印象に残った。 >> 続きを読む
現代アメリカ文学者が軒並み影響を受けた作家として挙げるガルシア=マルケス。『百年の孤独』も良かったけど、こっちもまたすごかったです。カリブ海のとある国の大統領である独裁者の死とその人生。語り手のいう「我々」が誰なのかも不明だけど、不明だからいいのだ。貧しかった母親の記憶、叶わなかった恋の記憶、妻にした女性の記憶、裏切った部下の記憶。すべてが独裁者の孤独につながっていく。もう年齢もわからない、いるのかいないのかわからない独裁者の寂しさや市井の人の無関心、愛されている証拠を求める独裁者と、裏で支持を演出する部下と。独裁者を愛さない女たちと、確実に愛していた唯一の存在の母と、利用するだけの部下と、あああたまらない。章だてはされていないものの、いくつかのかたまりに分かれてはいます。しかしそれ以外の改行が一切ない。その力強さと迫力がすごくて、なんというかもう、これがガルシア=マルケスなんですね。すごいなあ。読んでよかった。 >> 続きを読む
2017/11/26 by ワルツ
呪われてるとしか言いようのない展開終いには誰も幸せにならないのではないかと思った辛すぎた私の愛する人はこの人です私の子供はこの子らです堂々と宣言できる私の境遇は幸福な事なのだと思えるラストはそれ迄の不幸が緩和されすぎた感はあるが読んでる間の悲惨な思いを余裕で振り返るご褒美と思っとく >> 続きを読む
2016/10/21 by 紫指導官
木村裕美 , Pérez-ReverteArturo
アルトゥーロ・ペレス・レベルテの「戦場の画家」は、画家と元民兵の男の対話劇で、二人の過去に何があるのかが、ひとりの女性カメラマンを介在させながら、ゆっくりと明らかになっていく。戦争を論じ、芸術論を繰り広げ、やがて失われた愛へと言及される。驚くのは、それらのすべてが、密室劇のボルテージを上げ、隠されたテーマや挿話と連携して、次第に運命の一日へと収斂していくことだ。登場人物は、ほとんどたった三人なのに、弛むことなく物語を進めていくストーリーテリングの巧さは、飛び抜けているし、その深い人生観・芸術観、洗練された方法意識、濃密な細部描写、人物たちの脈打つ、熱き感情には圧倒されてしまう。イタリアとフランスの文学賞に輝いたのも納得の、純文学ミステリの秀作だと思う。 >> 続きを読む
2019/07/08 by dreamer
G.ガルシア=マルケス
2006年出版版もあるようだが、わたしがタイトルに惹かれて約20年前に購入したのはこの1972年出版版なので、こちらを本棚に追加した。ノーベル文学賞とか全然興味がないし、ラテンアメリカ文学とか全く知らなかったけれど、とにかくタイトルに惹かれて買ってみた。買ったものの、それだけで満足し、ずっと本棚に眠ったままだった(そんな本がいくつもある)。こういった眠っている本に日の目を当てることが、読書ログに登録した目的のひとつである。最初はその独特な世界感に戸惑ったが、慣れてしまうと興味深く読み進めることができた。あとがきの翻訳者の言葉にあるように「要約などは徒労としか思えない無数の挿話がからんでい」て、どのエピソードも面白い。コロンビアという国の歴史や文化について知っていれば、もっと深く楽しめるのかもしれないのが残念だ。なんせボリュームがあって、普段娯楽作品ばかり読んでいるわたしにとって、その世界観に浸れるまでに時間がかかり、読破するのに1週間ほどかかった。読んでいて困ったのは、登場人物がだんだんごちゃごちゃになってくること。外国の名前は覚えにくいうえに、繰り返し同じ名前が出てくるのだ(産まれてくる男子には、ことごとくアルカディオかアウレリャーノと命名)。登場人物を簡単に覚えられる人ならいいが、わたしのように混乱する人は、読みながら自分で人物リストを作成するか、ウィキの説明を参考にするとわかりやすい・・・かも(苦笑)最後にひとこと。個性的な登場人物たちに翻弄されながらも肝っ玉かーちゃんとして一家を支え続けたウルスラばーちゃん、よく頑張った! >> 続きを読む
2017/08/06 by 三毛犬
旦敬介 , 野谷文昭 , G・ガルシア=マルケス
『予告された殺人の記録』は、日本人にはなじみの薄い「名誉殺人」を扱った小説である。小説を書く前には新聞記者として活動していた著者が、身近にあった実際の事件を題材にしているだけあって、ノンフィクションのような生々しさがあった。舞台はコロンビアの小さな町で、アンヘラ・ビカリオとバヤルド・サン・ロマンの婚礼の祭りの翌日、つまりサンディアゴ・ナサールが殺される日から物語ははじまる。アンヘラは貧乏な家の末娘で、一方のバヤルドは旅をしながらこの町にやってきたよそ者だった。彼は当初は警戒されていたものの、内戦の英雄である父をはじめとする家族を連れてきたことで町の人々の信頼を獲得し、アンヘラとの結婚にこぎつける。しかしアンヘラが生娘でないことが分かり、結婚は初夜で破談となってしまう。ここでアンヘラの証言によって凌辱の罪を負うことになったのが、サンディアゴ・ナサールである。殺害を実行したアンヘラの二人の兄たちは会う人すべてに犯行を予告していた。時には誰かが犯行を阻止してくれることを願って言いふらしていたかのような記述も見られるが、宣言することでかえって後に引けなくなったのかもしれない。町じゅうの人が犯行予告を知っていたため証言の数も多いが、彼らは一様に思い込みや勘違いをしていて、そのことが事件の曖昧さを際立たせている。サンディアゴ・ナサールはハンサムで金持ちな、アラブ系移民の若者だった。性格は明るく穏やかで、やんちゃな一面もあったようだ。町の人々は、彼が殺されるとまではいかなくとも、どこかで痛い目にあえばいいという嫉妬の気持ちがあって、あえてビカリオ兄弟の凶行を止めようとはしなかったのかもしれない。意図的なものではないが、権力と財産をもっていて同じく嫉妬の対象となりそうなバヤルドもまた、婚礼を境に不運に見舞われた被害者になっている。なお、この事件の最大の謎は最後まで明かされることはない。凌辱の罪をおかしたのは、本当にサンディアゴ・ナサールだったのか??余談ですが、本書にはガルシア=マルケスのノーベル文学賞受賞講演のテキストが収録されています。作家やラテン・アメリカ文学に興味があれば、かなり楽しめると思います。 >> 続きを読む
2017/07/09 by カレル橋
木村栄一 , G・ガルシア=マルケス
こんなレヴューの書き方は良いのか悪いのか逡巡したのですが、、、昨日、花見に行った公園、地元みたなものなのですが、その有料植物園にアーモンドの木があり桜のような花がいっぱい咲いていてびっくり。で、「コレラの時代の愛」のレビューなのですが、私は生涯の小説ベスト3にこの作品が脳裏にいつもあるのですが、もう過去に読み、そう書いてはいる反面、内容は長編という事もあり結構忘れているのです・・・なのによく覚えてる描写に、(アーモンドの木の下で読書をするフリをする)描写があり、すごくアーモンドの木を花を実物を見たい衝動に当時駆られ、ゴッホの「アーモンドの花」のポスターを買って部屋飾ったり、、、県外に季節外れの時期にアーモンドの木を見にいったり。だから今回、満開の花と灯台下暗しって事でまたこの作品を引っ張り出しこうして書いているわけです。本自体は恋愛ストーリーで、とても長く、またガルシア・マルケスさん独特の描写はねっとりまとわりつく?!感じの描写で読むペースはかなり自分的にはゆっくり確実に熟読玩味しないと頭にスラスラ画像が描写処理が大変だった記憶があります。他の作品も何冊か読んだけどそんな感じでした。この作品に限らす、小説読んでいたら、その描写に刺激を受けて、たばこだったり、酒だったり、音楽だったり、現実にマネした事があります。皆さんもきっとそんな経験あると思うのです!って感じで思わず、過去に読んだ作品のレビュを書いたわけです。桜もよいですが、皆さまも機会があればアーモンドの花も今見ごたえで綺麗なので、ぜひ!おススメです。映画の実写もよかったです!私は作品を2度読み返す事はないのですが、また読み返してみたい作品です!結構アーモンドの木の情景描写がでた記憶ありますが、海外の作品には国内小説にない世界がまた刺激的で好きですね!おわり。 >> 続きを読む
2018/04/04 by ジュディス
読んだのはもう十年以上前。小学生の頃、自分のお小遣いで初めて買った本がこの作品でした。私にとってとても重要な1冊です。手元にないので詳細があいまいですが、ご了承ください。主人公の少年ベドゥリートは、ゲームもするし、いたずらもする、嫌いな食べ物はこっそり残す、どこにでもいる元気な少年。そんな少年が宇宙人のアミと一緒に宇宙の星々をめぐる旅に出かけます。訪れる星々には多種多様な姿かたちの宇宙人たちがいて、彼らの文明は地球とは比べ物にならないほど発達しています。アミに言わせれば地球は未開の惑星で、地球人はまだまだ野蛮な種族です。旅の中で出会う様々な出来事を通して、ベドゥリートは『本当の愛』を知っていきます。本当に優しく温かい物語です。小学生の私が理解できたほど、文章はすごく簡単な言葉で書かれています。けれど、簡単な言葉だからこそ、そこに込められた作者の伝えたいものが、すとんと胸に響いてじんわり広がる、そんな作品だと思います。続編あたりで、ベドゥリートの友だちの女の子が旅に加わったりもするのですが、アミは、あまりにも発展途上の地球人とほかの星の住人達が接触するのを避けるため、やむ終えずその星に着陸するときはベドゥリートたちに変装をさせます。そのとき、ベドゥリートも女の子も自分の体のコンプレックスをあげて、それを変えてとアミに頼みます。たとえば「鼻をちょっと高くして」とか「足を太くして」だとか。それを聞いて、アミは渋い顔をするのです。自分の持っているものを、なぜ否定して変えたがるのか、と。自分を認めること、他人を受け入れること、それが世界を愛することになる。優しく、優しく、温かく―――――そんなことを、幼い私に教えてくれた作品です。レビューを書きながら、また読みたくなりました。年齢、性別問わず、いろんな人に読んでもらいたいなと思います。 >> 続きを読む
2014/11/12 by ぶっちょ
ペドゥリートは、一年前の夏、9歳の時、海岸でアミと出会い、宇宙船に乗せてもらい、宇宙を旅行しながら宇宙の法則を学びました。学んだことを物語風にして本にまとめ、出版したらまた会おうと、ペドゥリートはアミと約束をしていたので、本を出版後、また海岸にやってきました。今回の旅には、ビンカも参加し、一歩踏み込んだ宇宙の法則を学んでいきます。この本の中で、離れたくないという気持ちは執着の愛で、執着は平和を遠ざけるとアミが言いますが、では私はかなり平和から離れたところにいるってこと?と思いました。アミが言う愛が大切なことは理解できますが、理想だけでは生きていけないのが現実です。一歩踏み込んだ宇宙の法則…きついなぁと思いつつ…3部作なので3冊目も読んでみます…。 >> 続きを読む
2019/01/03 by うらら
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