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カテゴリー"ギリシア文学"の書籍一覧

      イリアス

      Homerus , 松平千秋

      4.0
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      • 「ああ、なんたる厚顔、何たる強欲なお人か。いかなるアカイア人(ギリシャ人)があなたの命(めい)のままに唯々諾々と、使いに立ったり敵と戦ったりするであろう。そもそもわたしがこの地に兵をすすめたのは、勇名高きトロイエ人に怨みあってのことではない。彼等はわたしになんの仇(あだ)もしておらぬ。……わたしはもうプティエに帰る、船団を率いて国許に引き上げるほうが遥かにまだしだからな。恥辱をうけながらこの地にとどまり、あなたのためにせっせと富を蓄えてやるつもりはないのだ。」

        「おお、おお、どうしてもそうしたければ逃げて帰るがよい……そなたごときは眼中にない。わしを恨もうが意には介さぬ。」
        アガメムノンがこう言うと、ペレウスの子(アキレウス)は怒りがこみ上げ、毛深い胸の内では、心が二途に思い迷った……あわや大太刀の鞘を払おうとしたとき、アテネ(女神)が天空から舞い下りてきた。……(アテネは)背後から歩み寄ると、ペレウスの子の黄金色の髪の毛を掴んだ。女神の姿はアキレウスのみに現れて、他の者の目には映らない。驚いて振り向いたアキレウスは、すさまじいばかりに輝く女神の両眼を見て、すぐにパレス・アテネをそれと識った。女神に向かって翼ある言葉をかけていうには、
        「ゼウスの姫君よ、どうしてまたこんなところにおいでなされた。アガメムノンの非道な振る舞いをご覧になろうというおつもりですか……」

        *****
        冒頭から、ギリシャ軍の総大将アガメムノンと、ギリシャ軍屈指の英雄アキレウスとの舌鋒鋭い内輪もめが始まっています!
        「あらら……いい大人がどうしたのかいな?」と思って読み進めているうちに、あっという間に物語の渦中に溺れていきます。本好きにはたまらない歓喜の瞬間です(^^♪

        今回は、誰もが知っているホメロスの大叙事詩「イリアス」。
        この作品は、トロイヤ伝説をもとに紀元前750年ころに書かれ、そのタイトルを訳しますと、「イリオスの歌」。イリオスは、トロイヤ(現在のトルコ領)の都で、海岸から5キロ程の高台には、美しい城壁に囲まれた城があり、神アポロンと海の神ポセイドンの庇護をうけた聖都のようです。

        「イリアス」は、10年にもおよんだギリシャ軍vsトロイヤ軍のトロイヤ戦争末期を描いた作品です。戦争勃発の直接の原因は、トロイヤ王の王子パリスが、ギリシャのアガメムノン王の弟メネラオスの妻ヘレネを自国に拉致したことに端を発しています(実はこの男女、相思相愛になってトロイヤに駆け落ちしたようなのですが……? やれやれ、まことにお騒がせです)。最後まで両軍の一進一退の攻防戦で、クライマックスは、両軍の英雄となるギリシャ軍アキレウスとトロイヤ軍ヘクトルとの壮絶な一騎打ちになります。
        ちなみに、「イリアス」では、有名な「トロヤの木馬」のくだりは描かれていません。それは、トロイヤ戦争後を描いたホメロスの「オデュッセイア」の中で回想録として登場しますので、ぜひセットでお楽しみください。

        それにしても、ホメロスの描く世界は想像を絶するほど壮大で華麗です。人間界とオリュンポスの神々の両方が何の違和感もなく描かれています。冒頭でもご紹介したように、女神アテネがするりと登場してきました。アガメムノンとの口論で、怒り心頭に発したアキレウスが、さながら殿中で吉良(きら)に向かって刀を抜かんとする浅野内匠頭のように、大太刀を抜きかけたその刹那、舞い下りてきたアテナがアキレウスの後ろ髪をひっつかんで制止します。でもその姿はアキレウス以外には見えません。女神とアキレウスが普通に喋りだします。こうして、読者はあっという間にホメロスワールドに引き込まれていきます(笑)。

        この作品では、両軍の英雄や神々が沢山登場します。よくぞこれだけの人物の性格描写をしたものだとほとほと感心します。ありがたいことに、この本の末尾には、地図や両軍の家系図がついていますよ♪
        そこで、登場人物中でどうしても抑えておく必要があるのは、冒頭でもご紹介した、ギリシャ軍の激情型英雄アキレウスと、奸智に長けた雄弁家オデュッセウス。そのアキレウスを女神アテネとゼウスの妻ヘラが支援します。ちなみに、アキレウスは、心優しい海の女神テティスと王族父との間の貴公子。
        それに対するトロイヤ軍は、トロイヤ王の王子、豪勇ヘクトル。そしてヘクトルの従弟にあたる聡明なアエネーアス。彼らを男神アポロンと女神アプロディーテが支援します。ちなみに、アエネーアスは、愛の女神アプロディーテと王族父との間の貴公子。

        物語の筋はいたってシンプルですが、シンプルなだけあって冗漫になりがちな戦記物をホメロスは卓越した筆さばきで見せてくれます。両軍の臨場感溢れる凄絶な闘いのさまが、まるで映像のように浮かび上がってきます。素晴らしい観察眼、描写力、流れる様な言葉と美しい比喩の力で、人間の数奇な運命や悲劇を余すところなく描いています。
        いつの世も、洋の東西問わず、人間とはまことに愚かな殺りくや破壊を繰り返しているものだな……と切なくなるほどですが、かたや全知の神ゼウスは、奸計巡らす嫉妬深い妻ヘラと、犬も食わない夫婦喧嘩をしながら、その一方では、死屍累々とした戦場で死闘を繰り広げる憐れな人間を翻弄し、あざ笑うかのようにもてあそんでいます。もはや悲劇の中の喜劇です。

        ちなみに「オデュッセイア」は、トロイヤ陥落後、おごり高ぶったギリシャ軍に対する神々の怒りに巻き込まれたオデュッセウスの苦難の彷徨を描いた物語です。この作品では、オデュッセウスという男、そして彼を健気に待ち続ける賢妻ペネロペイアという女に興味を抱けるかどうかに尽きます。

        それに対し、「イリアス」は、様々な人間の生死や情感を鳥瞰的に眺める壮大な作品です。読者は、まるで永劫の神ゼウスの立場から、束の間の人間存在の不毛で無常に満ちた様を俯瞰していくことになります。内面描写を極力排したハードボイルドな筆致で淡々と描いていますが、その卓越した描写により、著者ホメロスの人間というものに対する残酷なまでの諦観と深い哀切の念が、行間に滲み出しているようです。

        さて、この作品から700年後、古代ローマの詩人ウェルギリウスは、大叙事詩「アエネーイス」を書いています。前半部のアエネーアスの冒険譚は、ホメロスの「オデュッセイア」、そして後半部の戦記は、「イリアス」にインスパイアされたものです。時代は下り、1300年代、そのウェルギリウスに感化されたダンテが「神曲」を、さらに1800年代には、ギリシャ芸術を讃嘆したゲーテが「ファウスト」を誕生させます。
        西洋文学界の礎とも称されるホメロスの深遠な世界を覗いてみてくださいね♪
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        2015/11/23 by アテナイエ

    • 5人が本棚登録しています
      オデュッセイア

      Homerus , 松平千秋

      4.0
      いいね!
      • ホメロスの「イリアス」に引き続き、今回は「オデュッセイア」を紹介してみます。

        そのタイトルを訳すると、「オデュッセウスの歌」。ここでは、おおむねトロイヤ戦争の登場人物を引き継ぎ、また、有名な「トロヤの木馬」のくだりが回想録として登場したりしますので、「イリアス」の続編として、ぜひ読まれる順番は、「イリアス」⇒「オデュッセイア」でどうぞ(恥ずかしながら、学生のころ逆に読んで挫折寸前まで落ち込みました……汗)。

        10年におよんだトロイヤ戦争。瀕死の勝利を手中にしたギリシャ軍の英雄オデュッセウスは、愛妻ペネロペイアと息子テレマコスが待つ故国イタケに向けて意気揚々と船出します。
        ところが、奢り高ぶるギリシャ軍の不埒なふるまいに、とうとう神々の怒りを招いてしまいます。思わぬ島に吹き流されるわ、現地人との戦いに巻き込まれるわ、一つ目巨人の島で次々に部下が喰われるわ、魔女キルケの虜になってしまうわ……散々な目に遭うオデュッセウスの10年にわたる冒険活劇でして、そのダイ・ハードぶりには拍手喝采です。

        実は、この物語が面白いのは、オデュッセウスの笑える冒険譚だけではなく、故国で夫を待ちわびる深刻な賢妻ペネロペイアの話がオムニバス形式で描かれているところです。並行していた物語は、クライマックスで華麗に交差します。緻密に練られたプロットや組み立ては、はるか2000年以上も前の作品とは思えない見事なものです。

        ペネロペイアのほうを少しご紹介しますと……。
        故国イタケの領主オデュッセウスがトロイヤに出征して20年。誰もが死んだものと諦める中、ペネロペイアだけは夫の生還を信じています。
        ところが、彼女の美貌とオデュッセウスの財産を虎視眈々と狙う――婚約者と称する100名あまりの――連中は、オデュッセウス宅に入り込んでやりたい放題。我が物顔でのさばり、どん食を尽くし、次々に財産を食いつぶしていきます。軽薄な彼らの蛮行に身も細る思いで貞操を守っていたペネロペイア。そしていつ何時謀殺されるかわからない年若い一人息子のテレマコス。
        切羽詰まったペネロペイアは、自分の織物が完成したら正式に婚約者を決めて再婚すると宣言し、必死で時間を稼ぎます。昼間はせっせと機織りに励み、夜はせっせとその糸をほどく……まことに暗く健気な作業を3年も続けていた彼女でしたが、とうとうその偽計も露呈してしまい、万策尽きてしまいます……。

        この作品は、「イリアス」と同じように、オリュンポスの神々が違和感なく同居しています。トロイヤ戦争のさなかより、とりわけ女神アテネに寵愛されたオデュッセウスでしたが、この仁侠女神、ギリシャ軍の熱血英雄アキレウス(トロイヤ戦争末期に戦死)といい、武勇・奸智に長けたオデュッセウスといい、どうやら知と勇姿に優れた男性がお好きなようです(私もそうですが…笑)。
        この作品では、パラス・アテナのオデュッセウスに向ける熱烈寵愛ぶりがとても可愛らしいです。ぜひ注目してみてください。

        ご存じのとおり、ホメロスの「オデュッセイア」は世界の教養古典として名高く、その後の数多くの作品の下敷きとされ、引用されています(多分、あげればキリがないでしょう)。私は決して古典派でも教養派でもないのですが、この人の作品はとりあえず読んでおかれても損はないものと感じています。
        また、「イリアス」よりも、「オデュッセイア」のほうが主人公に寄り添いやすい洒脱なタッチになっていますので、するすると読めてしまう楽しい書物だと感じますが、実はそれだけでは終わりません。ホメロスにインスパイアされた世界中の名著をより奥深く面白いものに変えてくれる不思議な魔法がかかると思います。
        興味のある方はぜひどうぞ(^^♪

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        2015/12/06 by アテナイエ

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    • 4人が本棚登録しています
      オイディプス王

      ソポクレス

      4.2
      いいね! Tukiwami
      • エディプス・コンプレックスの語源として、ストーリーは知らない者はいない著名な作品
        話のあらすじはもちろん私も聴いたことはあった。
        しかし、実際に読んでみると、想像以上に本当にすごい作品だった。
        圧巻。
        悲劇の神髄、名作中の名作と言えようか。

        たとえて言うならば、ミケランジェロの彫刻はすごいけれど、なおその上をいく奇跡のような作品にラオコーンがあるように、シェイクスピアの悲劇はすばらしいけれど、なおその上をいくのがソポクレスの『オイディプス王』と言えようか。
        ラオコーンといい、『オイディプス王』といい、古代ギリシャのすごさにはただただ驚嘆する他はない。

        さまざまな天災に見舞われるテーバイの様子が、読みながら今の震災と原発事故に苦しむ日本に重なって見えて、それで一層感情移入しながら読めた。

        シェイクスピア劇が、劇のストーリーだけでなく、その中に散りばめられる無数の格言や台詞が何よりも面白く心に残るのと同様に、ソポクレスの『オイディプス王』もその中にいくつも印象深い台詞がある。

        「堪えるに難き苦しみも、正しきかたへとなり行くならば、すべて幸いに終わるであろう」

        「この地(くに)には、ひとつの汚れが巣食っている。
        さればこれを国土より追いはらい、けっしてこのままその汚れを培って、不治の病根にしてしまってはならぬ。」

        「人がおのれの持つ力によって、世のためにつくすのは、何よりも美しいつとめであろうに」

        「わが内に宿る真理(まこと)こそ、この身を守る力なのだから」

        「ただ、不確かな憶測により、勝手に罪を着せるのだけは、やめていただきたい。
        故なくして悪人を善人とみとめ、善人を悪人とみなすのは、共にこれ正しからざるところ」

        「げに何ごとも、潮時が大切」


        不確かな憶測により、勝手に人を罵倒するのをやめて、原子力政策のありかたを見直し、不治の病根とならぬように、この国のありかたそのものを改めていくことが、これからの日本はできるだろうか。

        そんなことを考えさせるのも、この作品が並外れたパワーと新鮮さを持つからなのだろう。
        話しの筋は知っているから、などという思い込みは捨てて、一度は読んでみるべき作品と思う。
        >> 続きを読む

        2012/12/21 by atsushi

      • コメント 4件
    • 10人が本棚登録しています
      ヘーシオドス 仕事と日 (岩波文庫)

      ヘーシオドス

      5.0
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      • とても面白かった。
        地道に働くことの大切さと「正義」の大切さを、古代ギリシャでホメロスと並んで最も古い時代の詩人であるヘーシオドスが、神話のエピソードをちりばめながらわかりやすく語っている。
        ギリシャやローマの文明の根底には、こうした素朴で誠実な精神がもともとはあったのかもなぁ。
        この本が説くような素朴な地道な誠実な精神から逸脱していった時に、どちらも堕落していったのかもしれない。
        すぐに読めるし、また繰り返し読みたい一冊と思う。
        >> 続きを読む

        2015/09/11 by atsushi

    • 2人が本棚登録しています
      ギリシア・ローマ抒情詩選 花冠

      呉茂一

      5.0
      いいね!
      • たしか高校生の頃、なので十五年ぐらい前に買って、一度は読んだのだけれど、その時はそこまで深い感銘は受けなかった記憶がある。

        しかし、今回、たまたま本棚から取り出して、ひさしぶりにじっくり読んでみたら、本当に胸を打たれた。

        冒頭の古代エジプトの詩篇、そして古代ギリシアの名詩の数々。

        どれも本当に光り輝いているようで、なんだかなつかしい気がする。

        幸せな歌の数々や恋の詩。

        そして、ペルシア戦争やテルモピュレーの戦いの戦没者を悼む詩の数々や、病で若く幼くして亡くなった子を嘆く親の詩の数々。

        それらを読んでいると、古代ギリシアの人々の息吹や姿がよみがえる気がするし、人の死を悲しみ、恋に喜び、恋に焦がれたのは、現代人と同じで、もっとすぐれた深い心を持っていたのかもなぁとしみじみ思われた。


        読み人しらずの、

        「花そうび、
        花のさかりは
        ひとときか。

        過ぎ去れば、
        尋ぬれど
        花はなく、
        あるはただ茨のみ」
        (121頁)

        というごく短い詩篇には特に、無限の抒情を感じる。

        シモーニデースの、

        「君よ、いま見たまふはクロイソス王の陵ではない、ただ手職に生きた仕事師の小さな塚だ、が自分にはこれで十分なのだ。」
        (48頁)

        という墓碑銘の詩は、デモクラシーやアナーキズムの真髄を見るような気がする。

        時折また読み返し、古代ギリシアの息吹を吸い込み、生きるとは何か、考え直したいものだと思う。

        にしても、ギリシアもローマも、けっこう酔っ払いや、女にふられて未練がましい男がいたようである。
        限りなくロマンを誘う立派な輝いた人々がいた反面、いつの世も見苦しいどうしようもない生き様の人もけっこう多かったのだろう。
        両面あって、きっとあのギリシアとローマを形作っていたのかもしれない。

        私はラテン語は読めないのだけれど、この中に収録されているケンブリッジ詩集など、いつか原文で読んでみたいと思った。
        >> 続きを読む

        2012/12/21 by atsushi

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