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1960年4月発行の書籍

人気の作品

      カブト虫殺人事件

      ヴァン・ダイン

      東京創元社
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • 【法の手が及ばない者には……】
         ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンス・シリーズ第5作に当たるのが本作です。
         ヴァン・ダインは、12編のミステリを書いていますが、一般にはその内の前半6作は評価に値するものの、後半6作はどうも今ひとつと言われることが多いようです。
         本作は、その評価に値すると言われている範疇に入る作品です。

         事件は、エジプト考古学の権威であるブリス教授の自宅兼エジプト博物館内で発生しました。
         この日、ブリス教授と面会の約束があった富豪のカイル氏が、約束の時間前に訪ねてきて、博物館内で撲殺されているのが発見されたのです。
         カイル氏は、ブリス教授のこれまでのエジプト学術調査に莫大な費用を提供していたスポンサーなのですが、費用がかかりすぎる割にはめざましい成果も上がっていないということで、資金援助を打ち切りたいとの意向を漏らしていたのですね。

         現場からは、犯人がブリス教授であることを示すと思われる証拠が何点も発見されます。
         死体の傍にはブリス教授が愛用しているスカラベのネクタイピンが落ちていましたし(このことから本件は『カブト虫殺人事件』と呼ばれるようになったのです)、カイル氏の手の中には、前の夜からブリス教授が作成を始めていたエジプト調査に関する収支報告書が握られていました。
         また、血だまりにはブリス教授の靴の足跡痕が残され、その足跡痕は博物館からブリス教授の書斎に続く階段にも印象されていました。
         そして、その靴の血がついた方の右足だけが新聞紙にくるまれてブリス教授の書斎のゴミ箱から発見されたのです。

         これは、どうやら資金援助のことでもめた結果、ブリス教授が犯行に及んだものと思われます。
         これらの証拠を発見したヒース部長刑事は直ちにブリス教授を逮捕することを主張しますし、マーカム地方検事も、これだけ明白な証拠が揃っている以上ゴー・サインを出すしかないと考えていました。
         しかし、ファイロ・ヴァンスは、その逮捕を中止するように強く求めるのでした。
         そして、2,3の点を指摘し、ブリス教授をこれらの証拠によって訴追しようものなら、腕の良い弁護士によってすぐに無罪にされてしまうと指摘するのでした。

         では、真犯人は一体誰なのでしょうか?
         何者かが偽の証拠をまき散らしてブリス教授に嫌疑がかかるようにしているということでしょうか?
         その後の捜査により、どうやらブリス教授が犯行のあった日の朝飲んだコーヒーにあへんが入れられ、ブリス教授は犯行時刻は眠らされていたのではないかとの疑いが浮上します(コーヒー・カップからあへんが検出されます)。

         いや、本作も非常にレビューしづらい作品です。
         そもそもミステリのレビューはネタばれ回避のために、なかなか立ち入ったことは書けないのですが、かと言ってほのめかしに終わるとその作品の魅力を十分に伝えられないという隘路があります。
         この作品は、トリックの性質上、特にそうなんですよね~。

         この作品の主要なポイントは、犯人が誰かを当てることや、その殺害方法を解明することではありません。
         むしろ、犯人が張り巡らせている罠に堕ちることなく、いかにして決定的な証拠を獲得するかに焦点があるのです。

         真犯人が誰かについては、比較的容易に察しがつくのではないでしょうか。
         私自身、カイル氏殺害事件でも真犯人に対してかなりの疑いを抱くことができましたし、それに続いて起きる第二の事件で、ほぼ確実に真犯人の目星をつけることができました。

         問題は、いかにしてその真犯人に罪を償わせることができるかなのです。
         真犯人は、むしろ警察が自分を逮捕し、検察が訴追してくれることをこそ狙っているのです。
         もし真犯人が企むように、捜査当局がその罠に堕ちれば、確実に無罪になるような手はずを整えており、そして一度無罪になってしまえば一事不再理の原則により、二度と訴追されることはないという絶対安全圏に逃げ込むことを目論んでいるのですね。

         ヴァンスは、真犯人のその様な意図を見抜き、その犯人が仕掛けた罠に堕ちないように慎重にタイミングを計っているというわけです。
         そういう作品ですので、読者と作者が謎をめぐって知恵比べするというよりも、ヴァンスがいかに鮮やかに真犯人に罪を償わせるかを見守るという、一歩引いたスタンスで作品を読むことになるでしょう。
         最終的にヴァンスがつけた決着については、みなさんご自身でお読みいただくしかないのですが、あるいは「う~ん、やりきれないなぁ」という感想を抱かれるかもしれません。

         もしかしたら、この様なアイデアの作品の場合、倒叙物にした方が作者の狙いがストレートに伝わったかもしれないとも思うのですが、ファイロ・ヴァンス・シリーズの一作なので、そういうわけにもいかないのでしょうね。
        >> 続きを読む

        2019/08/24 by ef177

    • 2人が本棚登録しています
      最悪のとき (創元推理文庫 M マ 2-7)

      ウィリアム P.マッギヴァーン

      4.0
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      • ウィリアム・P・マッギヴァーンの「最悪のとき」は、無実の罪で五年間投獄された元刑事が、出獄後、その復讐に乗り出すという話だ。

        マッギヴァーンは、1950年代のアメリカの作家で、「殺人のためのバッジ」や「悪徳警官」などの悪徳警官ものでよく知られていますね。

        彼の作品中、私が最も好きな、新聞記者を主人公にした「緊急深夜版」という作品もあるが、「ビッグ・ヒート」など職務に忠実な警察官を主人公にしたものもあり、どちらかと言えば、警察官を主人公にした小説を得意とするイメージが強い。

        もっとも警察官を主人公にするといっても、マッギヴァーンの場合は、事件の捜査を多角的に描く一般的な警察小説ではなく、警察官個人のドラマを描くことに力点があるように思う。
        そして、その極端なかたちが、悪徳警官ものになるのだ。

        この「最悪のとき」も、元刑事を主人公にしているが、警察小説ではなく、復讐という個人のドラマが中心だ。
        しかし、これはマッギヴァーンお得意の悪徳警官ものではない。

        マッギヴァーンは、ハードボイルド作家と言われているが、この「最悪のとき」は、ハードボイルドというには感傷的すぎるところがある。
        物語の形態としては、むしろサスペンス・アクションに近いと思う。

        では「最悪のとき」は、いったい何なのか? 警察官を主人公にしていても警察小説ではなく、ハードボイルドでもないとなると、これは何なのか?
        一言で言えば、これは"メロドラマ"なのだと思う。

        主人公のレトニックは出獄後、波止場を牛耳るボスを相手に、孤独な戦いを始めるが、彼には妻がいて、その夫婦のドラマが裏のテーマになっているのだ。

        というのは、夫の出所をじっと待っていた妻に、レトニックは冷たい態度で接し、その夫婦の相克がこの物語のひとつの読みどころになっているからだ。

        彼は復讐しか頭になく、そのために感情を殺しているとの設定で、ギャングを罠にかけるために平気で友人を脅迫したりする。
        つまり、復讐という目的のためには、愛情も友情も無視するのだ。

        そのために何人もの人間が死んでいくが、レトニックは決して心を動かされない。
        もっともそれだけなら、"ハードボイルドの非情"に限りなく近づくが、それをセンチメンタルな味付けにしているのが「最悪のとき」の肝だ。

        複雑な人間心理と派手な道具立てと入り組んだストーリーで成り立っている現代の小説に対して、この小説がシンプルに見え、その感傷も底の浅い陳腐なものに見えてしまうが、感傷的な通俗小説の良さもまたあるのだ。

        孤立無援の主人公を待っているラストの救いが、またいいんですね。
        思わず、目頭が熱くなり、グッとくるものがあるのだ。

        >> 続きを読む

        2019/05/08 by dreamer

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