こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)


1962年7月発行の書籍

人気の作品

      中途の家

      エラリー・クイーン

      東京創元社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【国名シリーズ終幕後、初の作品/クイーン後期の幕開け】
         本作は、前作『スペイン岬の謎』で国名シリーズを終わらせたクイーンが、その後に初めて書いた作品で、タイトルに国名がつけられなくなる最初の作品です。
         物語の序文で、いつものJ.J.マックは、「どうして国名をつけなかったんだ。例えば『スゥエーデン燐寸の謎』でもぴったりじゃないか」とクイーンに詰め寄るシーンが描かれます。
         クイーンは、『中途の家』(原題“Halfway House”)こそがこの作品の本質を表しているとしてJ.J.マックの抗議を退けるのです。

         さて、物語のご紹介に移りましょう。
         本作の舞台となるのは、ニューヨークとフィラデルフィアのちょうど中間辺りに位置するトレントンという町です。
         エラリーは、この町で偶然旧友のビル(現在は弁護士をしています)と再会します。
         二人ともニューヨークに戻るつもりでいたので、じゃあエラリーの車(例によってオンボロのデューセンバーグです)に乗って帰ろうと意気投合します。
         ただし、ビルは今夜9時にトレントンで義弟に会う約束があるというので、それを済ませてから出発するということになりました。

        エラリーがパブで待っていたところ、ビルから殺人事件が起きたという電話が入ります。
         ビルが語るところによれば、以下のような状況だったというのです。
         ビルは義弟から指定されたマリーン・ターミナル近くにある、あばら家と言っても良い位の、ぽつんと建っているさびれた家に車で乗り付けました。
         既に義弟が来ているのか、窓からは明かりが見えます。
        すると突然女性の悲鳴が聞こえ、家の中から女性が飛び出して来ます。
         その女性は、家の前に停めてあった車に乗り込むと、ビルの車にぶつかりそうな勢いで走り去って行ったというのです。
         女性の顔は分かりませんでした。

         ビルが家の中に入ってみると、義弟が胸から血を流して床に倒れていたのです。
         義弟はまだかろうじて息があり、「誰にやられたんだ?」とのビルの問いかけに対して、「ベールをつけた女」という意味の言葉だけを残しこときれてしまいました。
         がらんとした部屋でしたが、部屋にあったテーブルの上には血まみれのペーパーナイフが置いてあり、そのナイフの先端には真っ黒に焦げたコルクが刺さっていました。
         また、テーブルには皿が一枚載っており、その皿の中には沢山のマッチ(ブックマッチから切り取ったペーパーマッチです)の燃えがらが残されていたのです。

         その後、捜査が始まり驚くべき事実が明らかになりました。
         殺された義弟は、何と、ニューヨークとフィラデルフィアでそれぞれ別の女性と結婚しており、8年間も二重生活を続けていたのでした。
         犯行現場となった家は、ちょうどニューヨークとフィラデルフィアの中間辺りに位置しており、そこには中流以下の生活をしているフィラデルフィアの家庭(ビルの妹のルシーがこちらの妻です)と、裕福な生活をしているニューヨークの家庭のそれぞれに合うような服や車が備えられていました。
         義弟は、この『中途の家』で身支度を変えて、ニューヨークとフィラデルフィアを行ったり来たりしていたのでした。

         義弟には莫大な生命保険がかけられており、その受取人は当初はニューヨークの妻になっていたのですが、この事件の少し前にビルの妹のルシー(フィラデルフィアの妻)に書き換えられていたのです。
         その事は、ニューヨークの妻の知人である保険会社の社長しか知りませんでした(社長はこのことは決して誰にも言ってはいないと証言しますが)。

         ちょうど雨上がりの時に事件が起きたため、『中途の家』の周りには車の轍がくっきりと残されていました。
         その轍を分析したところ、ビルが目撃した女性の車が2度『中途の家』にやって来ており、その2回の間に別の車も『中途の家』に来ていることが分かりました。

         そのもう一台の車を捜査したところ、何と、ルシーの車だと判明したのです(その車内からは黒いベールも発見されます)。
         ルシーは犯行時刻に映画を見に行っていたと主張しますが、それを証明する者はおらず、アリバイは成立しません。
         そして何と、凶器のペーパーナイフからルシーの指紋が検出されてしまうのです。
         ルシーは、そのペーパーナイフは兄への誕生日のプレゼントということで、犯行の前日被害者の夫が買ってきたデスクセットの中の一品で、家に持ち帰ってきた包みを開けて中を見たから指紋がついていても当然だと言いますが、それを証明できるのは殺された夫しかいません。

         確かに、被害者はビルに電報や電話を使って犯行日の午後9時に『中途の家』でビルに会いたいと言ってきたので、その際に誕生日プレゼントを持ってきていても当然と言えば当然なのですが(プレゼントのデスクセットは『中途の家』にありました。ナイフに刺さっていたコルクはそのセットの中に入っていた保護用のコルクでした)。

         状況は極めてルシーに不利です。
         被害者はそれまでの二重生活を精算する決心をし、これから先はルシーと生活していくことに決め、保険の受取人を変更し、全てをルシーに打ち明け、義兄にも告白するつもりで『中途の家』に呼び出したが、8年間も騙し続けた夫の事を許せなかったルシーが夫のあとをつけて自分の車で『中途の家』まで行き、夫が持ってきていたデスクセットの中のペーパーナイフを使って夫を刺し殺した。
         それによって莫大な保険料を受け取ることも可能になった。
         そう考えられても不思議ではなく、ルシーはその筋書きで起訴され、陪審員裁判で死刑こそは免れたものの長期の刑の判決を受けて服役させられてしまったのです。
         ルシーの弁護を買って出たビルは直ちに控訴しますが旗色は悪いのでした。

         さて、ここからエラリーの捜査が本格化していくのですが、国名シリーズ同様、本作にも『読者への挑戦』が挿入されています。
         ただ、国名シリーズとは異なり、エラリーの父親のクイーン警視は登場はするものの、ほとんど出番は無く、ちょっとだけエラリーと簡単な会話をする程度で、後半の捜査はもっぱらエラリー一人で行うことになります(ヴェリー刑事部長のアドバイスを電話で仰ぐシーンは出てきますが、トレントンにいる探偵を紹介してもらう程度です)。

         事件の解決はエラリーらしく論理的なものなのですが、私には不満も残りました。
         ミステリという性質上詳しくは書けないのですが、犯人はある程度の証拠隠滅を計っているものの、それが極めて不徹底なのですね。
         本当ならもっとやるだろうにと思うのですが、中途半端なことをするためにエラリーに推理の手掛かりを与えてしまっているのです。
         私は、エラリーほど緻密には推理できませんでしたが、犯人にはたどり着けました。
         ただ、エラリーの推理がそれほど鮮やかだった、あるいは超意外な犯人だったというわけでもなく、この辺りもやや魅力に欠けるかなぁと感じてしまいました。

         とは言え、本作からシリーズは後期に突入し、既にご紹介している『災厄の町』などのライツヴィル・シリーズへとなだれ込んでいくことになります。
         本作でも、エラリーは女性にキスしたりして喜んで見せるシーンが描かれるなど、前期の冷徹な推理機械というイメージからの脱却を計っている様子も見られます。
         あるいは、全体の筋書きからはほとんど意味が無いけれど、印象的なドライブ・シーンを挿入していたりもします。
         クイーン・シリーズ全体を見た時にエポック・メイキング的な位置にある作品という意味では重要な作品でしょう。

         なお、この作品、ちょっと翻訳が古いです。
         例えば、原文には忠実なのかもしれませんが、車のエンジンのことを『モーター』と訳していたりなど(似たような点は随所に見られます)、もう少しブラッシュ・アップさせる必要があるように感じましたので、これから読もうという方は新訳を選んだ方が良いと思います。


        読了時間メーター
        □□□     普通(1~2日あれば読める)
        >> 続きを読む

        2020/04/07 by ef177

    • 4人が本棚登録しています

出版年月 - 1962年7月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト

会員登録(無料)

今月の課題図書
読書ログってこんなサービス
映画ログはこちら
読書ログさんの本棚

レビューのある本