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1963年8月発行の書籍

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      春夫詩抄

      佐藤 春夫

      岩波書店
      カテゴリー:詩歌
      5.0
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      • いま、私は「定本 佐藤春夫全集 第1巻」(臨川書店)を紐解いて、佐藤春夫(1892-1964)の詩を読んでいます。なかなか面白い詩が多いですから、その内幾つかを取り上げてみます。


        *******

        @四行詩

        淫蕩な女が
        純潔な詩集を愛読した
        純潔な詩集の著者が
        淫蕩なその女を愛撫した
                 107P

        ********
        なにやら秘教的な詩です。「♪綺麗は汚い 汚いは綺麗・・・」という「マクベス」(シェイクスピアの4大悲劇のひとつ)に出て来る魔女の呪文を想起します。もっとも清純な者がもっとも淫猥な者と睦みあうというのは、むしろ宜しいことなのかもと思います。私の初の恋人はこの詩のごとく淫蕩な女性でした。それでも私は喜んで彼女と恋愛関係に陥ってしまったのです。

        私は当時、(なにに向ってかは自分でも解らぬながら、)志(こころざし)を持っていました。そして、私が在籍していたのはマンガクラブで、彼女は男漁りに来ていた女性だったのです。私は結構ユニークなマンガを描いていましたが、彼女はその作品が気に入ったらしく、私に迫ってきました。そして、私が本当に志を持った際、彼女は私にその路線で行くことを認めませんでしたが、私は彼女を振り、わが道を行くことになったのです。まあ、ほんの一時期の「睦みあい」でしたね。このように、佐藤氏はシチュエイションを一般化する能力に長けてます。

        ********


        @海の若者

        若者は海で生まれた。
        風を孕んだ帆の乳房で育った。
        すばらしく巨くなった。
        或る日 海へ出て
        彼は もう 帰らない。
        もしかするとあのどつしりした足どりで
        海へ大股に歩み込んだのだ。
        とり残された者どもは
        泣いて小さな墓をたてた。
                53P
        ********

        この詩は巨大です。1つの叙事詩と言ってもよい。あたかもギリシャ神話のオデッセイアのような、大きなドラマが若者の身に起きたのかもしれず、彼はその内、浜辺の部落に凱旋することがあるやも知れません。――竜宮城から。神話的な詩。

        *********


        @恋愛天文学

        儂作北斗星
        千年無転移
        歓行白白心
        朝東暮還西

                  子夜
            (和訳)
        われは北斗の星にして
        千年ゆるがぬものなるを
        君がこころの天つ日や
        あしたはひがし暮は西
                83P

        *********

        この詩は、中国の女性詩人が書いた詩句の翻訳集・・・「車塵集:しゃじんしゅう」のなかの一編です。天文学を持ち出して、恋人の不実をなじるという詩であり、その辺がいやに現代的なので、引っ張ってきました。日本語に翻訳しても、流麗な和歌みたいでとても面白いです。(各行7・5調になっている)訳者・佐藤春夫が、あらためてこの古い詩に生命を与えていると言えるでしょう。このあたりにも彼の詩才を感じます。

        この本の添付資料によれば、(ほら、ある種の全集にはよく巻頭に付属しているでしょう?)芥川龍之介の詩才は「間欠泉のようなもの」であり、佐藤春夫のそれは「たえまなく滾々と湧き出す泉のようなもの」だ、という例え話が出てきます(鈴木助次郎)。確かに、佐藤春夫の詩は変幻自在・かつ想像力に富んでいるようです。もっとも、芥川の本領は小説のほうにあったのですから、この評価は一面的かもしれないですが。

        最後に:これほどの詩才あふれる佐藤春夫氏にして、戦時中国民を鼓舞するために詠まれたとみえる詩の数々は、凡庸だな、という印象を受けました。やれ「軍神@@」とか「特攻隊精神@@」とかの詩。芸術を戦争の道具にすると、芸術家も哀れだし、その芸術によって踊らされる庶民も哀れだと思います。
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        2013/03/04 by iirei

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