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1971年4月発行の書籍

人気の作品

      ボッコちゃん

      星新一

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!

      • 星新一のショート・ショートの世界は、SF、ミステリ、ファンタジー、童話など驚くほど多彩だ。
        しかも、そのいずれもが、文学的水準が高く、類似作がほとんど見当たらない。

        その意味で、星新一は、日本のSFの世界にショート・ショートという、最も短い小説形式によって、新しい可能性を切り拓いた代表的な作家であり、第一人者だと思う。

        しかし、彼の作品を時系列的に読んでみると、その作風は、年を経るにしたがって微妙に変化しており、その多彩な魅力を一口で言い表わすことは、到底、不可能だが、多くの作品の背後に、一つの共通した特質があると思っています。

        それは、さまざまな恐怖に囲まれた現代人の、不幸を見つめる乾いた"残酷な視線"だと思う。
        星新一の強烈な刺すような視線を浴びると、今まで平凡に見えていた現実に、不思議な超現実といったものが、平穏な生の裏側に、不吉な黒い死が、美しい平和の背後に、恐ろしい破壊と殺人が、まるで二重像のように、浮き彫りにされてくる。

        優しく、残酷で、皮肉で、ユーモラスで、意地悪く、親切で、美しくてグロテスク。
        星新一という作家のショート・ショートの不思議な魅力は、どうもこういう"奇怪な矛盾と対立する概念"から成り立っているような気がします。

        星新一は、こういうユニークな視線を生かすため、いくつかの制約を自身に課していて、彼が「創作の経路」の中で次のように書いています。

        「書く題材について、私はわくを一切もうけていない。だが、みずから課した制約がいくつかある。その第一、性行為と殺人シーンの描写をしない。稀少価値を狙っているだけで、べつに道徳的な主張からではない。もっとひどい人類絶滅など、何度となく書いた。第二、なぜ気が進まないか自分でもわからないが、時事風俗を扱わない。外国の短編の影響ででもあろうか。第三、前衛的な手法は使わない。ピカソ流の画も悪くないが、怪物の写生には向かないのではないだろうか。発想で飛躍があるのだから、そのうえ手法でさらに飛躍したら雑然としたものになりかねない。わたしの外観はぼそっとしているが、精神的にはスタイリストであり、江戸っ子なのである」。

        こういう共通項を踏まえながら、星新一の微妙な作風の転換をたどってみると、初期の残酷な視線が、次第にユーモラスな笑いに席を譲ってきているように思います。

        そして、星新一作品のショート・ショートには、「夢」とか「霊魂」とか、いわゆる、形而上のファンタスティックな素材が扱われることが、比較的多いと思いますが、これらはショート・ショート文学のテーマとして、格好のものがあるからだと思う。
        つまり、他の文学形式では難しい素材を、巧みに料理できるという利点が、ショート・ショートにはあるからだろう。

        「新鮮なアイディア」「完全なプロット」「意外な結末」という三つの欠かせない要素によって、初めてショート・ショート文学は成立するわけですが、星新一の作品においては、これらの三要素が完璧なまでに具現化されることによって、他の追随を許さぬ面白さや文学的な効果が生まれてくるのだと思う。

        そのような、星新一の初期の忘れられない作品に、今回再読した「ボッコちゃん」があります。
        この作品には、星新一の特徴が典型的に示されていると思う。

        「そのロボットはうまくできていた。女のロボットだった。人工的なものだから、いくらでも美人につくれた」という書き出しで始まる、この作品は、美人のロボットに激しく恋をした青年が、冷たい返事しかしない、人造美人のボッコちゃんに、毒を飲ませて殺そうとするが-------、というこの作品には、人工的な美しさに対する"憧れと恐怖"が、見事な現代性をもって、捉えられていると思う。

        人間の死の恐怖を知らない、人造美人の冷たく、美しく、それだけに、妖しく戦慄的な魅力。

        この一種の人間愛をテーマとする作品の背後には、"機械文明への恐怖"が隠されていて、意表をつくラストが、いつまでも私の胸に残り、その哀愁感こそが、この作品を傑作たらしめていると思います。

        最後に、著者自身がこの作品の成り立ちについて語った、いい文章があり、星新一という作家の、独自の資質・持ち味というものの一端が窺えるので、それを紹介して、このレビューを終えたいと思います。

        「この中には私の持つすべてが、少しずつ含まれているようだ。気まぐれ、残酷、ナンセンスがかったユーモア、ちょっと詩的まがい、なげやりなところ、風刺、寓話的なところなどの点である。ある人の説によると、幼児逆行のあらわれだそうだが、自分でもその通りと思う。世の中には分別のある大人が多すぎる。私のように足が地についていない人間も、一人ぐらいは必要かもしれない」。

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        2019/05/26 by dreamer

    • 他13人がレビュー登録、 55人が本棚登録しています
      八つ墓村 (角川文庫―金田一耕助ファイル)

      横溝 正史

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      3.8
      いいね!

      • この横溝正史の「八つ墓村」は、野村芳太郎監督や市川崑監督が映画化しているように、彼の多くの長篇小説の中でも、ズバ抜けて人気の高い作品だと言えると思います。

        戦国時代の不気味な八つ墓伝説、昭和13年に岡山県下で実際に起こった津山事件をモデルにしている、大正時代の凄惨な大量殺人、そして、それから20数年後に起こる八つの連続殺人、我らが名探偵・金田一耕助の登場------、と道具立ての華やかさも最高だ。

        ただし、謎解きミステリとして読むと、探偵小説ファンなら少なからず失望を味わってしまうかも知れません。なぜなら、殺人事件があまりにも安易に描かれており、犯人の正体がすぐに察しがつくんですね。

        バッタバッタと人が殺されているのに、その犯人の正体に気づかないどころか、次の殺人を防ぐことも出来ない金田一耕助が、とても名探偵とは思えなくなってくるんですね。

        私が横溝正史の探偵小説の中で、特に好きな「本陣殺人事件」「悪魔の手毬唄」「獄門島」とは明らかに系列の異なる作品で、この作品の面白さは何と言っても、後半の大洞窟の迷路の冒険にあると思います。

        "猿の腰掛"、"天狗の鼻"、"木霊の辻"と呼ばれる洞窟の内部、無数の枝迷路、屍蝋と化した鎧武者、三千両の黄金------。要するに、この作品は日本的でロマンティックな一大冒険伝奇スリラーなのであり、謎解きではなく、その味わいを楽しむべき作品なのだと思います。


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        2018/02/06 by dreamer

      • コメント 2件
    • 他2人がレビュー登録、 10人が本棚登録しています
      城

      フランツ・カフカ , 前田敬作

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!
      • --彼の歩いている道は、村の本道なのだが、城山には通じていなかった。ただ近づいていくだけで、近づいたかと思うと、まるでわざとのように、曲がってしまうのだった。城から遠ざかるわけではなかったが、それ以上近づきもしないのだ。Kは、ついには城の方に折れる箇所に出くわすに違いないと、たえず期待していた。その期待のためにだけ、歩き続けていった--


        城とは何か。

        Kは夜半に村の宿場につく。
        閉鎖的な城下村ゆえ、外界の人間の宿泊を厭う。Kに出て行けと迫る。
        Kは、「仕事で呼ばれてきた。後から助手も来る」と嘯く。
        宿が城に問い合わせると、否定の後一転して、「Kを仕事で呼んだ」と追認される。
        「来る予定の助手」も城からあてがわれる。
        Kは驚くと共に、この追認は、城がKを低くみたからこその扱いとむしろ憤る。
        そして城に自分を見せつけてやると意気込んで城に向かう。
        城への道は続いているように見えて続かない。
        城はそこに見えるのに近づかない。しかし遠ざかりもしない。
        村人は一同に冷たい。助手は脚を引っ張る。
        前に進まない苛立ちと真冬の寒さに心身が磨り減る。
        そのうち、城からの官吏が村で使う定宿につく。
        城の官吏は人との接触を徹底的に厭う。
        Kは目当ての長官の部屋に辿り着くも、鍵穴を通じて長官の寝顔を除く以上には近づけない。
        一層の接触を画策し、長官の恋人である定宿の女を誘惑し婚約に至る。
        しかしその女性が長官との接触手段を持たないことを知って幻滅する。
        幻滅しながらも、恋愛の甘さにほだされ、寒さをしのぐ二人の住居を得るために、待てども来ない「測量士」の仕事を諦め、提案された「学校の小間使い」の職に就く。
        それでも、安寧に堕することを恐れ、城への接触手段を模索して動き回る。
        自分を手段として観ていただけだと悟り、女がKのもとを助手と共に去る。
        Kが女を取り戻そうと奮闘すると、長官の助手に呼ばれ、女との婚約を破談するように通告を受ける。
        Kは疲労困憊で何もできずにただ通告を受け取る。
        しばし眠った後、再度城への道を模索して動く・・・未完・・・


        カフカは描く。
        城の鐘の音について
        --ひたすら憧れながら、叶えられるかどうかおぼつかないものに脅かされているような気持ちだった。事実この鐘の音には、なにやら悲傷の響きが籠もっていた--

        城からの妨害について
        --Kは、現実的な強制力・・・そんなものは、恐ろしいとも思わなかった。・・・しかし、意気を阻失させるような、ふやけきった環境の圧力、幻滅になれてしまうことや、微細かも知れぬが、たえず襲ってくる色んな影響などが及ぼす力、Kが恐れたのは、そのような圧力に負けてしまうことだった--

        その道程について
        --その頃の僕は、夕方ちょっと散歩に出るくらいの骨折りでどんなことでも達成できると思い込んでいた。ところが、もともと実現不可能だったことがはっきり不可能だったと分かったとき、それを彼のせいにして、恨みに思ったんです--
        --実のところ、Kの心を乱し・・・妨げたのは、彼女の言葉ではなく、彼女の容姿であり、こんな場所にいるということがいけなかったのだ--

        常に彼方に見えるのに道がない。
        近づけども近づかない。遠ざかって視界から消すこともできない。
        現実的な困難ではなく、日常への安寧や惰性、周囲からの評価や恋愛、そうしたものこそが城への障害。

        この格闘が人生を指していることは無論疑いない。
        それでは城とは何か。

        訳者後書きではこれを、「存在・実存」と捉える。
        自分を自分たらしめるもの。
        そういう場所への道のり、苦闘。

        勿論これに私も異論はない。
        それでも、存在・実存は分かるようで遠い。
        殆ど同じ意味かもしれないが、私は、憧れや夢・理想、というものを城に置いてみたい。


        幼少期に、将来は○○になりたい!
        と深く考えずに言う夢。
        大きい仕事してやるぜ!でもいい。

        なれるわけないだろ、という大勢の声に交じって、
        なれるもんならなってみたまえ、と、
        そういう声が届いたのが、冒頭の宿屋でのシーンと見られないだろうか。


        自分の理想や夢、憧れ。成りたい姿。
        自分自身にも現実感がなく、普段は口にも出せない。
        それがふとした拍子で、若気の至りで口を出る。
        冷笑と共に世界がそれを迎える。
        完全否定ではない。
        なりたいならどうぞ。道はあるので後は君次第ですよ、と。
        丁重な姿勢を見せながら徹頭徹尾の嘲笑を投げつけてくる。
        若さ故に刃向かう。
        すぐそこにあって、すぐに手が届くと思い飛び出す。
        道は曲がる。
        辿り着かない。
        それでも、景色からは消えない。
        現実的な要請や、世俗的な安寧が自分を取り巻く。
        心がいつしか、折れる。
        それは、能力への失望ではなく、違う「幸福」による「挫折」。


        良いではないか、家庭のために生きる。
        人から評価される仕事に生きがいを見いだす。
        これのどこが「挫折」か。


        カフカは厳しい。
        「変身」で彼が描く青年は、家庭のために精一杯働いていた。
        彼の家庭はそれで幸せだった。しかしある時、青年は、「家族のためでなかったらこんなことは一切終わらせたい」と思ってしまう。翌朝、彼は虫に変身する。

        誰かのために生きる生は、真の生ではない。

        これがカフカの終生のテーマであったことは間違いない。
        普通、誰かのためにしか人は生きられない。
        ならばこそ「審判」でカフカは生を、「覚えがないのにいつの間にか逮捕されている」と表現する。


        後書きで、「城」は世界文学史上、「カラマーゾフの兄弟」に匹敵する唯一の作品と称えるが、私はこれに深く同感する。
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        2017/12/12 by フッフール

    • 他2人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)

      ブラム ストーカー

      東京創元社
      カテゴリー:小説、物語
      4.3
      いいね!
      • 【映画などでは皆さんよくご存知なのだけれど、原作は実はあまり読まれていない作品】

         本当に原作が読まれていないのを惜しむ者の一人なので敢えて書かせて頂きます。
         実はとても良くできた小説なので、是非、原作をお読みになることをオススメします。
         ちょっと気恥ずかしいんですよね、今更、ドラキュラ読むですか?とか。
         でも、もし、まだ原作を読まれていないのであれば是非読むべきです。

         原作は書簡体(日記・手記)小説を取り入れた体裁になっています。
         ロンドンの不動産屋さんに勤めていたジョナサン・ハーカーは、遠方の客の求めに応じてトランシルヴァニアの古城に赴きます。
         最初に出会うのは迎えに来た御者。
         怪力の御者です。腕を掴まれて馬車に引っ張り上げられ、そのまま猛スピードで城へ案内されます。
         
         そこで出会ったのがドラキュラ伯爵。
         ドラキュラ伯爵のイメージは、もう映画が強烈過ぎてそうなってしまっています。
         はい、おそらく、皆さんの中にあるドラキュラのイメージは、ベラ・ルゴシか、クリストファー・リーの姿ではないでしょうか?
         夜会服を着て、マントを翻し、赤い目をした紳士然としたスマートな貴族。

         ドラキュラの物語は性的なイメージを常にまとわらせているようです。
         「吸血」ということ自体がそうなのですけれど、それはsexとは違う方法で「交わる」ことなのかもしれません。
         ですから、吸血された者は自分も吸血鬼になってしまうわけです。

         「吸血鬼カーミラ」を描いたレ・ファニュの筆には同性愛的嗜好が見られます。
         こちらはレズビアンですね。
         そういう隠微な気配を常にまとい、夜にこうもりとなって侵入して首筋に鋭い歯を立てる。
         それは、ある意味では一つのエレガントな形なのではないでしょうか?

         ドラキュラ伯爵は地保を固めるためロンドンにやってきます。
         ええ、大都会ロンドンでは血は吸い放題ですから。
         その辺りの経緯は、ムルナウのモノクロ映画「吸血鬼ノスフェラトゥ」の方がよく描いているかもしれません。
         波に揺られる帆船の船底で棺に眠っている伯爵。
         
         ムルナウの「吸血鬼ノスフェラトゥ」もかなり原作に忠実だと思います。
         これは著作権、版権の関係で「ドラキュラ」を名乗れなかった……よく知らないのですが何だかそういう事情もあったのだとか。
         でも、ムルナウが描いた吸血鬼の形姿は、今みなさんが頭に浮かべる姿とはちょっと違うのですけれどね。

         そもそも、ドラキュラとは何者なのか?議論もかますびしいです。
         もちろん、ドラキュラ侯自体はブラム・ストーカーの創作なのですけれど、そのモデルは誰かというお話。
         ええ、串刺し侯ヴラド・ツェペシュの逸話も様々なところで取り上げられているとおりです。
         ですが、他方で、ツェペシュ侯爵は愛国の王だったという説も根強いですよね。

         そうそう、原作のお話もしなければいけませんね。
         この物語は余りにも影響が強くて、様々な分野にその影を落としています。
         私の大好きな萩尾望都さんの「ポーの一族」を持ち出すまでもなく、コミック、アニメ、小説、映画、舞台……本当にその力は伝搬しています。
         それは、おそらくは、ドラキュラに血を吸われた末裔が沢山いる?ということなのかもしれませんね。
         第一、原作のラストシーンにご注目を。
         ほら、ドラキュラの血は絶えてはいないでしょう?(恐っ!)。
        >> 続きを読む

        2019/01/24 by ef177

    • 他2人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      外科室 高野聖

      泉 鏡花

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 「高野聖」「義血侠血」「夜行巡査」「外科室」「眉かくしの霊」の五編収録。

        中島敦に「日本人に生れながら、鏡花の作品を読まないのは、折角の日本人たる特権を放棄しているようなものだ」と言わしめたほどの美しい文章で有名な鏡花先生ですが(笑)、湿っぽく、眩惑するような文章は今読んでも凄まじい力を感じます(笑)
        著者は極度の潔癖症だったといわれているのですが、その偏執的な性格だったからこそ、このような張りつめた美しさを備えつつ、眩惑的な中毒性を持った文章が書けたのかなーと思う。その性格から、文章へのこだわりも並々ならぬものがあったようで、字面が気に入らないと、勝手に(笑)他の漢字を当ててしまうほどのこだわりようだったらしい。読んでいるこちら側は「おいおい!」とツッこみたくなるのですが、著者らしい一面でもあるので読み終わる頃には、今度はどんな字を当ててるのか楽しみになってきたり(笑)

        日本の伝統芸能にも造詣が深かったようで、能や歌舞伎の鑑賞を趣味とされている方はよりスムーズに鏡花ワールドに入れそう。

        個人的には、やはり、高野山の僧が道に迷った山中の家で見舞われる不思議な体験を語り調で描いた「高野聖」と、訳ありの青年と水芸の太夫の偶然の出会いとその後の顛末を描いた「義血侠血」が好み。
        >> 続きを読む

        2015/08/17 by ao-ao

      • コメント 4件
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