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1976年7月発行の書籍

人気の作品

      度胸 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-5 競馬シリーズ)

      ディック・フランシス

      早川書房
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 「馬に乗っていると、自分のすべてをそこに感じる。自分が大きくなったような気がする。新たに一組の手足と脳を得る。スピード、力、勇気が倍増する……勇気……それに神経の反射が敏感になる」

        ディック・フランシスのデビュー第2作目「度胸」
        この作品にはフランシスが本当に書きたかった事が、つまり、騎手はなぜ馬に乗るのか?という問いの答えが描かれていました。

        あなたは馬に乗ったことがありますか?
        たった数回ですが、私はあります。
        馬上の高みから見る景色、乗り物とは異なる生き物の力と意思を感じ、忘れ得ない魅力を感じたものです。
        落馬で骨折が日常茶飯事で、それでも平気で馬に乗り続ける騎手という人種には、到底及びもつきませんが。

        主人公のロバート・フィン(26歳)は障害競馬のプロ騎手。素質十分なものの、まだ2シーズン目の駆け出しです。
        障害競馬の騎手として高みを目指す、野心あふれる青年です。
        そんな彼が踏んだり蹴ったりの目にあってボロボロになって、やがて甦る話です。
        フランシスなので!

        レースシーンもたっぷり描かれていますので、競馬ファンならばより楽しめそう。
        日本と異なる競馬事情も解ります。
        何より驚いたのはアマチュア騎手とプロの騎手が一緒のレースに出て賭けの対象になっている事、
        プロ騎手のほとんどはフリーで、1回いくらという騎乗料で生活を立てているという事でしょうか。
        信用を失った騎手は仕事の依頼がなくなりたちまち困窮してしまうでしょう。
        一流の騎手には技術の他にも「信頼」「度胸」と言った人間性の部分も非常に大切なのです。

        主人公は「興奮」のダニエル・ロークと異なり「孤高のヒーロー」ではありません。
        騎手仲間に親友も友人もいますし、両親も健在、助けを求めるべき大人も周囲にいる。
        いとこのジョアンナにずっと昔から実らぬ初恋を片想い中。

        その上、ロッブには弱点があります。
        コンプレックスです。
        父は世界的に名の通ったオーボエ奏者、母は有名なピアニストというクラシック音楽家の一族に生まれつきながら彼だけが音楽音痴という肩身の狭さ。

        そんな両親の元に生まれたことについて、彼の言葉を長いけれど引用します。

        「母は、子供の頃の私にとって慰安を求める対象ではなかったし、大人となった今の私にさして愛情にみちた関心を示さないが、自分自身の行ないによって、人間として大切にし尊敬すべき数多くの資質を現実に見せてくれた。例えば、専門家気質(プロフェッショナリズム)である。目的に対する単純、強固な意志がある。たんに努力することによってより高度なものに到達しうる時、低い水準における満足感を拒否する。彼女が母としての役割を拒絶したがゆえに、私は若くして徹底的な自主独立の精神を身につけた。そして、聴衆の面前における栄光のかげの骨身を削る努力を見ているがゆえに、自らの努力なくして人生の果実を期待してはならないことを知りつつ成人した。母親として息子にこれ以上の教えを与えることができるだろうか?」p.102

        音楽という形ではなかったけれど、彼の性格を形作ったのは両親です。
        理性ではわかっていても心の奥に疎外感が残っており彼を解放してくれないという精神的葛藤がこの小説の一つのテーマです。

        なので、単なるミステリーや冒険小説とは別格の読み応えがあるんですよ。

        ロッブは落ち込みもするし、やけにもなる。
        でも素直で優しく嘘の無いロッブの生きざまを追ううちに、きっと彼を応援してあげたくなることでしょう。
        悪役の罠にはまって、絶体絶命のピンチに陥るフィン。
        その時も無敵のヒーローでもなんでもない彼は、あがき、泣き、苦しみます。しかし「どんなことがあっても、彼を今のままでのさばらせておくことはできない」との思いで復活します。
        そして一回り大きな男として帰ってきてくれるのです。

        特筆したいのは、本作のヒロイン、ジョアンナ。
        彼女もプロの声楽家なのです。
        その生き生きとした存在感は格別です。
        こういう女性を選ぶロッブも褒めてあげたい。

        敵の邪悪さは、フィンの姿の裏返しでもありました。
        この設定がまた秀逸なのです。
        彼の使った手段の卑劣さは単なる暴力とは異なる歪んだ悪意があって、むしろ非常に現代的な問題提起でもあると思います。

        人を評価するとき、何をもって、彼を判断するのか。

        私としては、この敵さんがみっともなさ過ぎて、そこがちょっとマイナスなのですが…。
        とはいえ、人物のバックグラウンドの設定も筋が通っていて、ロッブとジョアンナの関係の微妙な変化もとても上手に描かれています。
        作家としてのフランシスの力量に感服することは間違いないと思います。
        これがデビュー2作目だなんて!!
        (早川文庫では5冊目に出版されています)
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        2019/04/16 by 月うさぎ

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      ボートの三人男

      ジェローム・K.ジェローム

      中央公論新社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【怠惰で使えない三人男の船旅あるある……ただし、犬は勘定に入れません】
         コニー・ウィリスの『犬は勘定に入れません』という作品が結構面白かったので、その本のタイトルの元になったという本書を読んでみました。
         本書の副題が、まさに『犬は勘定に入れません』なんですね。

         本書は、三人の怠惰で使えない友人達が、三人揃って体調不良だと言い合い(これが、もうこの世の有りとあらゆる病気を一身に背負っているような主張なんですけれどね)、ここは一つテムズ川で船旅でもして体調回復を図ろうということになり、ペットの犬(フォックステリアです)のモンモランシーを連れて出かけるというお話です。

         いや、もうありがちなドタバタ劇でして、出発前の準備の段階からすったもんだします。
         主人公の『ぼく(これは作者のことと思われます)』は、「荷造りが大変上手いんだ」と言いだし、三人分の荷造りを引き受けたは良いものの、長時間かかって鞄にようやく荷物を詰め込み、革バンドを掛けたところ……入れ忘れた靴を発見しまた荷ほどきをし、再度荷造りを終えたのですが、今度は歯ブラシを入れたかどうか急に心配になり、仕方なくまたまた荷ほどきをして確認したところ、やっぱり入れ忘れていて、ようやく夜中までかかって荷造りを終了するという始末です。
         もちろん、翌朝、歯を磨こうとして歯ブラシを荷造りしてしまったことに気付き、もう一度荷ほどきすることになるのはお約束(笑)。

         一事が万事こんな調子で、船旅(船旅と言っても自力でボートを漕いでテムズ川を遡上し、夜はキャンプをするという旅です)の途中でもあれこれやらかします。
         炒り卵を作ろうとして、卵を6個も割ったのに、結局できあがったのはフライパンの上で真っ黒に焦げているぽちっとした固まりだけとか、デザートにパイナップルのカンヅメを開けようとするのですが、缶切りを忘れてきたことに気付き、色んな道具で開けようとしてもどうしても空かず、腹を立ててその缶詰を川に投げ込んで三人で快哉を叫ぶとか、そんなのばっかり。
         また、この様な船旅の途中で思い出す出来事も、似たり寄ったりのエピソードです。

         あとがきを読むと、作者は必ずしもユーモア小説を書くつもりで執筆を始めたわけではないそうなのです。
         テムズ川沿いの様々な名所を紹介するような作品を書くつもりだったのに、できあがったのは後々有名になるユーモア小説だったというわけです。

         冒頭に書いた、本書から副題を頂いた『犬は勘定に入れません』も、まさに本書のモチーフであるドタバタコメディを書きたかったのだろうなと推察され、この副題をもらった意図もよく分かりました。

         ややワンパターンなところもありますが、まぁ、にやにやしながら、先を急がずにゆっくりお読みになるのがよろしいようで。
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        2019/05/25 by ef177

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      黒いカーニバル (ハヤカワ文庫 NV 120)

      レイ・ブラッドベリ

      早川書房
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
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      • ブラッドベリの初期短編集。私がブラッドベリを初めて読んだ本がたぶんこれ。

        ブラッドベリと聞くと、ファンタジーとかノスタルジーとか、
        甘いイメージを持つ人が多いかもしれない。
        確かに彼の表現は美的で、幻想的な題材を多く扱う。
        自然の描写は比類なき抒情性と溢れんばかりの色彩に彩られ、
        風の中にも香りをかぎ分けられるような繊細さを持つ。
        けれど、彼のあくまでも本質は「恐怖」である。
        どんな牧歌的な作品に見えても、必ずその奥に恐怖が潜んでいる。
        ぜひ、ブラッドベリの仕掛けた色とりどりの「恐怖」を味わっていただきたい。

        この短編集は、玉石混交か。とも感じますが、表現の美しさは彼ならでは。

        収録作品(全24編)
        「黒い観覧車」 街にやってきたカーニバルには黒い秘密があった。
            長編「何かが道をやってくる」のアイディアとなった作品
        「詩」 ある完全な詩人のお話し
        「旅人」セシイの異能は「一族」の中でも特殊な力。心を飛ばすこと。
        「墓石」ブラックジョーク?ホラー?想像力により。どちらにも。
        「青い瓶」不思議な余韻のSF。火星もの。
           荒廃した都市の美が彼らしい視覚的な広がりをもって描かれる。
           この廃墟の表現は映画「ネバーエンディング・ストーリー」の
        ファンタージェン国崩壊のシーンを思わせます。
        「死人」生きながらに死んでいるというオッドの結婚とは?
            真実を見抜くのはやはり子供の目。
        「ほほえむ人びと」 映像が脳裏に浮かんでくるブラッドベリ風ホラー。
        「死の遊び」 一種の怪談。無邪気な子供の世界の裏側の恐るべき真実。
        「時の子ら」 カーニバルやハロウィンへの誘い。ブラッドベリお得意のテーマ。
        「全額払い」 人間の愚劣さを思い知る一篇。
            人類は本当にこういう蛮行をしそうで情けない。
            タイトルの真意はなんだろう?
        「監視者」 虫は嫌いですか?なぜですか?
            もっと深く考えてみませんか?もっと怖いものがありますよ。
        「再会」 文明の利器嫌いなブラッドベリの今回のターゲットは洗濯機。
            少年の叫びが切ない。
        「刺青の男」 体じゅう刺青をいれサーカスの見世物として登場した男。
            彼の未来が刺青に現れたのか、刺青に操られたのか。
            割合有名な作品だが私は好みではない。
        「静寂」 「太陽のこと、空のこと、足元にある大地のことを考えてみるのだ」 
        「乙女」 エクスタシーを描いたショートショート
        「夜のセット」 一コマ漫画のよう
        「音」 ショートショート・ホラー
        「みずうみ」 郷愁と共にしんとした恐怖。
            印象的、抒情的ホラー。
        「巻貝」  子供の頃想像した世界。代表的な作品。
        「棺」 兄が死の間際に完成させた奇妙なハイテク棺。
             あなただったら入ってみますか?
        「ダドリイ・ストーンの素晴らしい死」 人気作家が断筆した真相。
            作家殺すにゃ弾丸は不要。
        「戦争ごっこ」
        「バーン! おまえは死んだ!」2作連作。戦争を描いた異色作でブラウンっぽいテイストも。
            ジョニー・クワイアをお守するエディ・スミスがいい奴です。
            極限状態ではメルターこそ普通の人なのだろう。悲しいけれど。
            ウィットと少年の世界を共に感じさせる傑作。
        「遊園地」  これは、ブラッドベリの逆説???
            いじめはこどもの性です。昔から、どこの世界でも。
            これがラストというのはちょっと嫌だな。
        >> 続きを読む

        2012/07/24 by 月うさぎ

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      夜歩く

      ディクスン・カー

      東京創元社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 密室の巨匠ディクスン・カーの第1作。
        本作は密室物であるが、典型的なトリックが使用されているので、既視感を覚える読者が多数だろう。
        ただトリックを成立させるための工夫が、探偵の真相解説後、現場平面図を見ただけでわかるようになっており、いたく感心した。
        また、探偵の専門性を医者を引き合いにしながら強調しているセリフが面白かった。
        クイーンにも言えることだが、初めて刊行した本格ミステリで既に異様な完成度を誇っており、この2人がいかに本格ミステリ史上で傑出した存在かがわかる。


        >> 続きを読む

        2019/03/18 by tygkun

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