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1984年7月発行の書籍

人気の作品

      高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

      フィリップ K.ディック

      早川書房
      カテゴリー:小説、物語
      3.2
      いいね! Tukiwami
      • 【哲学的だなぁ】
         ディックの最高傑作との呼び声も高い作品です。
         高校生の頃読んだのだけれど、何だかよく分からないで終わってしまって、それ以後、再読しようとは思っていたのですけれど、なかなか手に取らずに過ごしてしまいました。
         この度、目出度く再読です。

         はい、今度はしっかり理解できました。
         しっかし、哲学的な作品だなぁ。
         高校生だとあんまり面白いとは思わないかもしれません(もちろん、人に依りますが)。

         本書は、第二次世界大戦で、ドイツ、日本、イタリアの枢軸国側が勝利した世界を描いています。
         歴史のifですね。
         戦後、世界はドイツと日本によって分割統治されています(イタリア、どうしちゃったのよ)。
         アメリカも敗戦国の憂き目に遭い、日本人やドイツ人に頭が上がらない状態です。

         さて、この物語には様々な人が登場します。
         アメリカの伝統的な美術品を販売しているチルダン、チルダンの店に高品質な民芸品のレプリカを卸している会社、その会社の腕利きの職人であるフリンク(彼はユダヤ人であり、ドイツに送還されれば死刑が待っています)。

         フリンクは会社でトラブルを引き起こしたためクビになり、同僚と二人で創作装飾品の製作販売会社を設立します。
         元の会社から資金を引き出すために、日本人提督の代理を装ってチルダンの店に行き、お前の扱っている品物はレプリカだと暴露してやったのです。
         こうすれば、チルダンから卸元会社に苦情が行き、会社はフリンクらの仕業だと考え、これ以上の情報漏洩を防ぐために口止め料程度は出すだろうと踏んで。

         フリンクの美貌の妻のジュリアナはフリンクと別居中です。
         彼女は、トラック運転手だというイタリア人のジョーと知り合い、浮気を始めます。
         ジョーは、『イナゴ身重く横たわる』という発禁本を所持しており、この本に対する彼なりの解釈を持っている様子です。
         この『イナゴ』は、第二次世界大戦で連合国側が勝利するという設定(つまり、史実通り)のSFでした。
         当然、ナチスはそんな本を許すわけはなく、禁書になっているわけですね。
         ジュリアナは、この本を読み、深い感銘を受けます。

         この本の作者であるアベンゼンは、ナチスににらまれていることを当然承知していますので、『高い城』と呼ばれている要塞の様な家に引きこもっていると言われていました。
         はい、アベンゼンこそが『高い城の男』なのですね。
         ジュリアナは、ジョーに誘われて豪勢な旅行に出かけることにし、そのついでにアベンゼンの家を訪ねることにするのですが……。

         一方、スウェーデン人のビジネスマンを装っているバイネスは、大日本帝国第一通商代表団長の田上を通じて、日本のとある高官との接触を図っていました。
         それは、ナチスドイツが密かに進めている『タンポポ作戦』に関する情報を提供するために。
         しかし、事態は急展開してしまいます。
         ナチスドイツの首相ボルマンが急死し、ドイツ国内では後継者を巡って政争が勃発してしまったのです。
         後継者によっては『タンポポ作戦』が発動してしまうのか?

         と、まぁ、この様にあちこちで色んな事態が展開していくのですが、全編を通じて『易経』が重要な意味を持つものとして出てきます。
         あの、当たるも八卦、当たらぬも八卦の易ですね。
         登場人物達は、自分たちの行動や判断に迷った時、易を立てて占うのですね。

         その易の雰囲気も加わって、非常に哲学的な内容になっています。
         枢軸国側が勝ったことが良かったのだ、連合国側が勝ったところでとんでもない世界になるだけだと言う者、敗戦国の国民として生きていかなければならないことに内心忸怩たる思いを抱いている者、ナチスドイツの狂気を受け入れがたく思っている者……。

         そして、この作品は何らかのクリアな結末を用意してはいません。
         ある意味では、その様な世界を描き、そこで起きたいくつかの出来事を描写するものの、枢軸国側が勝利した世界自体は変わらずに続いていく。
        一度だけ、田上が幻覚的なヴィジョンを体験し、連合国側が勝利した世界を垣間見たことはあったにせよ……。

         ディックは色々読んできましたが、私としてはこの作品がディックの最高傑作だとは思っていません。
         おそらく、他の作品を推すことでしょう。
         ですが、一つの重要な作品として、読んでおくべき作品であることは間違いなさそうです。
        >> 続きを読む

        2019/05/20 by ef177

    • 他5人がレビュー登録、 11人が本棚登録しています
      サーカス物語 (エンデの傑作ファンタジー)

      ミヒャエル・エンデ

      岩波書店
      4.0
      いいね!
      • --恩を受けたのはむしろあたしたちの方。お金では買えないものでね…
         あんたがあたしたちを見るその眼差し。それがあたしたちを立派にし、慎重にもしてくれたんだわ--


        懐かしい、嬉しい読後感でした。

        目の前のことに心を奪われて人は大事なことを忘れてしまう。おざなりにしてしまう。
        人が大事なものを思い出すために物語は音を奏でる。


        エンデの子どもへの愛の深さも感じられて嬉しい作品です。
        話はシンプルですし、サーカスを題材にする必要がないテーマです。
        冒頭、何もすることのない団員達が、めいめい自分の手品や奇術を空き地で繰り広げるシーン、これもゆったら「いらない」一幕。

        それでも、サーカスという言葉、奇術が画面一杯に繰り広げられているという響きが与える興奮と魅力。子どもに伝えたい、読んで貰いたいと、思うからこその設定だと思います。

        童心に帰れる素敵な一冊です。
        >> 続きを読む

        2017/08/27 by フッフール

    • 3人が本棚登録しています
      バリバリ伝説

      しげの 秀一

      講談社
      4.0
      いいね!
      • バリバリ伝説 第6/全38巻

        4耐前の筑波で優勝する高校生チーム。いよいよ次は鈴鹿へ。

        一生最後の1台と決めて買ったはずなのに、バリ伝を読んでいると「次は...」と欲が出て来て困る。

        鈴鹿4耐に備えて出場した筑波で、1周毎に凄い勢いで早くなるグン。
        秀吉とのライバル関係も加味され、その進化は止まらない。

        やはりバリ伝の魅力のひとつはレースシーンの緊張感。

        暴れまわるマシンを限界ギリギリのハングオンで押さえつけてコーナーを横滑りして行くシーンなんかを見ていると、いまだにソノ気になっちゃうので、興奮が冷めるまでは怖くて単車に乗れない。

        ちょうど今は良いシーズンなので、この時期は土日に読むのは避けるようにしよう。

        そして、ついに4耐用に用意されるGSX-R。
        さすがに形に古さを感じてしまうが、自分用のレーサーマシンという高揚感は十二分に伝わって来る。

        プロのメカニックが自分のためにチューンしてくれたマシン。
        想像したことも無かったが、これでサーキットを走るなんて、単車乗りとしてはサイコーにご機嫌な夢だなぁ♪

        もうひとつ収録されているのは、峠で他の単車を事故らせる「黒いカワサキ」の話。

        どうも、峠を攻める走り屋のせいで妹を失い、その復讐?という理由が有るらしいのだが、こちらは全然面白くない。
        >> 続きを読む

        2013/05/26 by ice

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      毒

      赤川次郎

      集英社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね! MissTerry
      • 赤川次郎としては最初に読んだ作品です。

        これからミステリにはまったという、私にとって印象深い作品になっています。

        今回ウン十年振りに再読。

        絶対に検出ができず、24時間後に作用する「毒」が各短編を渡り歩きます。

        赤川次郎特有のライトでポップな展開は、読み返しても全く色褪せていませんでした。

        点数が甘くなっているのは、思い入れがタップリ入っているからかもしれません♪
        >> 続きを読む

        2012/11/28 by MissTerry

      • コメント 4件
    • 2人が本棚登録しています
      空から墜ちてきた歴史 (新潮文庫)

      小松 左京

      4.0
      いいね!
      • 生命発生から人類誕生、そして現代までの45億年を観測してきた宇宙人のレポート。それが本書です。「トンでも本」ではありません、小説です。要は小松さんのSF地球史です。


        序章は地球の位置と言語と使われる単位の説明にウンザリ(ゴメン!)するほど事細かに説明されている。
        面白かったのは月の存在に彼ら観察者が驚嘆している事。これほど母星との比率が大きな衛星は珍しく、地球上からの見かけの大きさが太陽とほぼ一致。そのため「皆既食」が頻繁に見られるのも地球ならではだそうだ。当然、月は地球の潮力に影響し生命にとっても大きく関ってくる。知的生命体にとっては「宇宙に対する関心」を高め、後に「天文学」「暦学」「天文学」へと発達していく。観察者は思う。「この衛星は誰かによって地球人類の発達のために置かれたのではないか」と。

        第1章に「まったくこの惑星の生物を見ていると、その根底にひそむ、おそるべき貪欲さ、がつがつした攻撃性にたじろぐ事がある」と観察者は感想をのべる。
        コレは病原菌の事を言っているのだけど他の生物に関しても本能的には変わらない。
        「どうしてこの星の生物の攻撃性がこれほど高いのか?」観察者は同僚に尋ねる。彼曰く「この星が中途半端に条件が良すぎた上に小さすぎたんじゃないかな。」「こんなせまい星の上に閉じ込められて何十億年も食ったり食われたりをつづけ、必死の競争の結果、生物が無秩序に増えすぎたからだろう」。
        そう、地上は生物の白兵戦場。
        食ったり食われたりはこの後の第2章から第5章までの人類史へと続いていく。人類の進化の過程から現在まで亡ぼしたり亡ばされたり過去の恐怖や憎しみの記憶に捕らわれて不必要な殺傷を繰り返す人類。
        さて、知的生命となった人類がこのままで良いものか?

        そんな中から場所、時間は違えど人類は「偉大な精神」を見出した。
        「真理を見たくば生活正しく心身すこやかに心をすませて宇宙を見よ」
        「苦行する事なく欲望を貪ることなく中道の清らかな心をもって真理の把握に努めれば救済の道は開かれる」
        「万人の心にある“仁”とそのあらわれである“礼”が社会の秩序をつくる原理である」

        観察者たちは人類の今後を予想し密かに懸けをした。
        想像しうる予想は6通り。
        それは…本書を読んだ時のお楽しみとして黙っていよう。

        「ヒトであろうとする者こそヒト」とは何の言葉だったろうか?

        中石器時代の人々と素性を隠して交流した観察者“私”は月の美しい宴の晩に族長の「星は何なのでしょう?」という他愛無い会話の中にやがて自分たちと同じレベルまで登り詰めるであろう知性の芽生えを察して感動する。
        「技術」が切り開いていく新しい地平、そして「力」。しかし、一歩まちがえれば惑星的壊滅をもたらす「技術」。でも“私”たちのもとにたどりつくまで「技術」の取り扱いによろめきながら自力で歩んでこなければならない。
        観察者はつぶやく。
        うまくやれ…。転ばぬよう…挫折してやめてしまわぬよう…“我々”のところへ自分の力でやってきてくれ…。“我々”は、あんたたちのすぐ側にいて待っている…。


        小松さんらしい、私の好きな「おセンチ」です。
        こういうのに弱いンですよ。甘ちゃんと笑わば笑えです。(笑)
        >> 続きを読む

        2017/09/30 by たたみ

    • 1人が本棚登録しています
      笑う月

      安部公房

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね! Tukiwami
      • 「夢」を生け捕りにしたスナップショット17編が収録されている作品集です。前半は、作品というよりは創作の種となった夢や経験にまつわるエッセイと考えたほうが分かりやすいかと思います。それが『案内人』になると雰囲気が変わり、脈絡がなく、夢の内容をそのまま再生しているかのような不思議さを体感しました。夢そのものも奇怪ですが、他人の見た夢をここまでリアルに追体験することは普段ないので、そういった意味でもぞくぞくしました。それより後の作品(『自己犠牲』『空飛ぶ男』『鞄』『公然の秘密』『密会』)は短編として成立していて、『案内人』が生の夢であるなら、これらは文学的な味つけがされている夢だという印象を受けました。

        安部氏が見た夢の内容を記録することにこだわったのは、通常の論理的思考(覚めた言葉)ではたどり着けない発想や場所へ想像力を及ばせるためだそうです。こう考えると、創造とは夢という刺激に対する反応の副産物であり、ひどく受身の作業であるように思えます。しかし受身とはいっても発想の種子となる夢は、注意深くしていなければ容易に見逃してしまうような、些細なものです。これを決して見逃すまいとするのは安部氏に限らず、芸術家のもつ執念なのだろうと思います。

        私は作品を通して想像の翼を広げるのが本を読む上で一番の楽しみなので、読み終わった後に色々と考える余地のある後半の方が好みでした。が、エッセイ寄りの前半も個性的なエピソードが多く、特に『ワラゲン考』がお気に入りです。新薬の発見に心を躍らせた思い出と青春を重ね合わせた「青春の追憶のどんなきらめきにも、どこかワラジ虫の粉の光を連想させるものがあるようだ」のフレーズが好きです。
        >> 続きを読む

        2019/01/20 by カレル橋

      • コメント 2件
    • 6人が本棚登録しています
      キングの身代金

      エド・マクベイン

      早川書房
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 本書は"87分署シリーズ"としてよりも、黒澤明監督作「天国と地獄」の原作として有名(特に日本ではね)だと思います。

        "誘拐は誰を誘拐しても犯罪として成立する"というプロットをもちいたのは本書が元祖といわれており、その意味では興味深い作品ですが"87分署シリーズ"の出来としては平均的な面白さかな。

        ただ、ちょっとしんみりする事件の顛末は、数十年前に読んだときから、ずっと印象に残っています。

        因みに・・・同じく日本で映画化された87分署シリーズは「死の楔」と「クレアが死んでいる」の2作品で、それぞれ「恐怖の時間」「幸福」という題名で映画化されています。
        >> 続きを読む

        2017/08/09 by アーチャー

    • 1人が本棚登録しています
      風の谷のナウシカ 2 (アニメージュコミックスワイド判)

      宮崎 駿

      徳間書店
      4.0
      いいね!
      • 風の谷のナウシカ 第2/全7巻

        クシャナが率いる軍勢に同行し、腐海に分け入るナウシカ。そこで目の当たりにする人類のエゴ。

        「そのもの青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」のシーンはやはり神々しいものの、ラストシーンだと思っていたらまさかの2巻に登場に驚いた。

        ナウシカと言えば、辺りを埋め尽くす王蟲から伸びて来た触手に持ち上げられて足の傷を治癒されるシーンが印象的だが、人類と蟲の共生として極めて象徴的で有るがゆえに、これがラストシーンだと記憶していたのだが。

        もしかしたら、映画版はここで終わっているのだろうか。
        いずれ映画版も見返す日が来ると思うので、確認してみようかと思う。

        ペジテのアスベルとともに一旦は土鬼に囚われたナウシカだったが、その首領たる僧正と心を通わせることで、虜囚を逃れ、再び大空に羽ばたく。

        一方、旅を続けるユパは、土鬼と蟲使いの接近に感じるものが有り、潜入捜査に乗り出し、蟲使いの村の奥で目にした衝撃の光景に絶句する。

        蟲使いに発見され追い詰められるユパ。
        これが自ら剣を振るう初めてのシーンとなるのだが、さすがは腐海一の剣士。
        大勢に襲いかかられ、ピンチに見舞われているのは確かなのに、全く危なげない剣技で捌いていく姿には惚れ惚れする。

        アスベルの助力も有って虎口を脱するユパ。スナフキン的な面は確かに有るのだが、こっちのスナフキンは強いのだ!
        >> 続きを読む

        2013/10/14 by ice

      • コメント 5件
    • 1人が本棚登録しています
      ジョヴァンニの部屋 (白水Uブックス (57))

      ジェームズ・ボールドウィン

      4.0
      いいね!
      • 黒人の著者が白人の同性愛を描いた名作

        しかし自分は同性愛の小説、と言うよりは「アメリカ」と「ヨーロッパ」、「イタリア」と「フランス」、「ヘラとの生活」と「ジョバンニの部屋」の対比から見られる、『ふるさと』の作品だと感じた。

        主人公のデーヴィッドの、同性愛に対する心の動きが細やかに描かれていて、印象的。

        訳も古いながら、特に読みにくいと感じることはなかった。
        >> 続きを読む

        2015/10/24 by shiki

    • 1人が本棚登録しています
      ジュマンジ

      クリス・ヴァン・オールズバーグ

      ほるぷ出版
      3.0
      いいね!
      • 昔、ロビン・ウィリアムズ主演で観た映画、ジュマンジ。
        映画の原作があるとは全く知らず、驚きと共に読みました。
        映画と比べると、やはりこじんまりとしてしまっている印象を受けますが、子供時代にこれを読んでいたら、きっとワクワクドキドキしながら読んだろうなと感じます。
        >> 続きを読む

        2015/02/10 by D4C

      • コメント 1件
    • 1人が本棚登録しています
      夜・夜明け・昼

      WieselEliezer , 村上光彦

      みすず書房
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 第一部のレビューは別に書いたので、ここには第二部の『夜明け』について。

        とても重い作品だったが、心に残る作品だった。

        『夜明け』はヴィーゼルの自伝的三部作の第二部で、第一部の『夜』はホロコーストの過酷な体験が描かれ、主人公はそこで家族をすべて失いながら、自分は生き残る。
        この第二部では、生き残ったまだ少年の主人公が、当時はまだ独立しておらずイギリスの統治下にあったイスラエルの地に渡り、独立運動に身を投じている。

        イギリスからの独立のため、ユダヤ人の過激な独立運動組織は、武装闘争を繰り広げていた。
        その中で、ある時、仲間の一人が捕まり、死刑を宣告される。
        組織はイギリスに対抗するために、イギリスの軍人を一人誘拐して人質にし、もし仲間が死刑執行されれば人質を殺害すると宣言する。
        しかし、イギリス政府は、脅かしには屈しないと述べて、死刑を執行する。

        主人公は、組織から、その人質の殺害を命じられる。

        主人公は、人を一人殺すということに、思い悩む。
        もうすでに死んでいるはずの自分の父や母や友人たちの姿が幻となって現れて、本当に人を殺すのかと尋ねてくる。
        僕を裁くのか?とそれらの亡霊に問うと、裁きはしない、しかしお前は私たちの総和だ、お前がすることは、私たちもすることになるのだ、ということを語る。

        主人公は、仲間たちとしばらく雑談し、その中でホロコーストの過酷な体験なども話す。

        自分が今から殺す人質が、もし憎めるような人物で、かつてのナチスのような人々で、憎むことができるならば引き金も引けると思い、決められた時刻よりも前もってその部屋に行く。

        そのイギリスの軍人は、いたって優しそうで立派な人物で、主人公の年齢を聞くと、心の底から憐みをもって見つめて、自分の息子が同じ年齢だといった話をした。

        しかし、時間が来たので、主人公はその軍人を射殺する。

        ホロコーストでも神が死んだと思い、自分が死んだと感じていた主人公は、今度は全く立場を変えて、逆の立場で、神を殺し、そして自分も死んだと感じていた。

        あまりにも重いテーマだが、なんといえばいいのだろう、イスラエルのあまりにも過酷な運命と言えばいいのだろうか、業といえばいいのだろうか、とても考えさせられる、すごい作品だった。

        引き続き、第三部も読んでみたいと思う。


        (追記)

        『昼』は、ヴィーゼルの『夜』と『夜明け』に続く、三部作の三部目である。

        一部では、ナチスの強制収容所における主人公の過酷な体験が描かれ、二部では、独立前のイスラエルのレジスタンスに身を投じ、個人的には好感を持っているイギリス軍の将校を命令で銃殺しなければならない様子が描かれていた。

        この第三部では、それらとはうってかわって、アメリカのニューヨークで、新聞記者として、平和に暮らしている主人公の様子が描かれる。
        周囲が驚くほどの美しい若い恋人もいる。
        親友もいる。

        しかし、突然、主人公は交通事故に遭い、瀕死の重傷を負う。

        搬送された先の病院の医師は非常に誠実で優秀な医者で、恋人や親友の励ましもあり、奇跡的に主人公は命が助かる。

        しかし、わりと容態が回復し、まだベッドで身動きができないものの、落ち着いて話せる状態になった時に、その医師が、どうしてあなたは生きようとしないんですか?と主人公に尋ねる。
        普通は、医師の自分は患者と二人で手術室で死と闘う、しかし、あなたは意識を失っているとはいえ、全くそうではなかった、むしろ…、と。

        主人公は、その医師には、適当にごまかして答えるが、さまざまな思い出を思い出す。

        アウシュヴィッツの収容所で、あのようなひどい体験をした後は、自分はどこかで死んでしまっていて、もう生きたいという気持ちもどこかで失せていて、神はとっくに死んでいるし、この世に何の信頼も希望も持てないのだということを。
        自分だけでなく、そこで死んでしまった家族や友人たち、あるいは生き残っても自分のように全く信仰を失ってしまった知り合いのこと。
        そして、収容所を出てから、たまたま出会ったある女性が、その人も十二歳の時に収容所に入れられて、そこでナチスの将校を相手に慰安婦とされていたことを聞いたこと。
        などを思い出す。

        だが、主人公は、恋人との月日も思い出す。
        その恋人が、主人公の体験や思いを聞いてくれたこと。
        なんとか、生の側に引き戻そうと一生懸命努力してきたこと。
        一時期別れたが、またある時に寄りを戻したこと。

        主人公の親友は画家なので、俺が肖像画を仕上げるまで死ぬなと言って、事故直後から毎日見舞いにやって来ては、肖像画を描いてくれていた。
        その親友が、

        「神はおそらくは死んだんだろう。しかし、人間には友情がある。」

        と言うのは、なんとなく、ほろりとされた。

        また、「人間に苦悩が満ちていて、それを運命が何の人間に強いているというならば、人間が自分の意志で、たとえ一時間でも苦悩を止めて過ごすことができたら、それこそが人生や運命への勝利だ。」

        ということをその親友が言うシーンがあり、とても考えさせられた。

        結局、主人公は、事故から命が助かったが、心が本当に生の方に傾いたのかは、よくはわからないまま物語は終る。

        しかし、その恋人や、親友や、医師たちを通して、癒そう、癒そうとする力が、実は、神と呼ばれるものなのではないか、とも思う。

        もっとも、人生はそんなに簡単なものではなくて、この恋人自身も、主人公と別れていた間に金持ちと結婚して、その結婚が失敗して離婚し、主人公と寄りを戻してからもしばらくアルコール依存のようになっていた。

        結局、人は、大なり小なり、何か問題を抱えたり、苦しみを抱えたりしているのかもしれないし、そうであればこそ、お互いに支え合ったり、必要とし合うことで生きていくのだろう。

        主人公の心の傷が癒えることはないのかもしれないが、たとえ少しの時間の間でも、苦悩を止めて、人生を心から喜んだり楽しんだりする時間が、事故の怪我から治った後に、おそらくはかつてよりは増えるのではないか、増えて欲しい、と思った。

        三部作を通して、重いが、考えさせられる、読んでよかったと思わさせる、作品だった。
        >> 続きを読む

        2013/08/06 by atsushi

      • コメント 3件
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