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1988年9月発行の書籍

人気の作品

      太宰治全集

      太宰治

      筑摩書房
      カテゴリー:作品集
      5.0
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      • この「太宰治全集 2」の中では、「富嶽百景」が最も太宰治という作家の本質が出ていて大好きな作品ですが、既にレビューをしていますので、今回は、彼の作品の中でも個人的に好きな「満願」についてです。

        太宰治という作家は、何かと言うとすぐに"破滅型の作家"だと言われていますが、しかし、私は太宰治の作品を数多く読んできた経験から、そうは思わないのです。確かに酒浸りであったり、あげくの果てに情死までしてしまいました。

        しかし、作家が小説を書くという行為には、その根底に、強い意思力があると思うのです。強い知性の力がなければ、小説というものは決して生みだせないと思います。ですから、"破滅型"と言うと、ふしだらな人間ということになるわけですけれども、そのような、ふしだらな人間からは、例えば彼の「人間失格」「富嶽百景」のような優れた小説は生まれることはないと思うのです。

        太宰治の外見上の生活はふしだらでも、彼の内面の精神は健全だと思うのです。そうでなければ、こういう作品を書いて、私を含めて数多くの太宰治の読者を得るということは不可能です。出来るわけがないのです。

        私は、太宰治は、ある意味、"小説家として名人"だと思っています。その小説の技法も素晴らしい、実に優れた作家だと思っています。

        そこで、この「満願」という短編小説なのですが、この作品の内容はというと、主人公の「私」、これは太宰治自身だと思いますが、彼が伊豆でひと夏を過ごした時の話です。

        「私」は、酔って自転車に乗り、怪我をします。そして、その傷を治療してもらうために、町のお医者さんのところへ行く。すると、32歳の医者も、大変酔っぱらっている。このように描写しています。

        「私と同じくらいにふらふら酔って診察室に現われたので、私は、おかしかった。治療を受けながら、私がくすくす笑ってしまった。するとお医者もくすくす笑い出し、とうとうたまりかねて、ふたり声を合わせて大笑いした。」

        こんなふうにして、この二人はとても親しくなります。そんなわけで、「私」は、散歩の途中、医者のところに立ち寄り、縁側に座って配膳されてくる新聞を読むことを日課のようにしているのです。

        その医者に若い女の人が、薬を取りにやって来ます。下駄履きの、とても清潔な感じのする女性です。この女性が通ってきて薬を手に帰ろうとすると、お医者さんが、「奥さま、もうすこしのご辛抱ですよ」と大声で励ますのです。そして、その様子を時々見ていた「私」に、医者の奥さんが、その女性について説明をしてくれます。

        その女性の夫は、小学校の先生なのですが、三年前に肺結核を患った。しかし、最近は非常によくなってきている。それで、医者は、その奥さんに、今が大事なところだからと言って、「固く禁じた」というのです。

        小説の文章に「固く禁じた」と書いてあるのですが、何を「固く禁じた」かというと、つまり性生活です。夫の病気に差し障りがあるから、性行為をしてはいけませんよと言って、「固く禁じ」ているのです。ですから、いつも帰り際に、「奥さま、もうすこしのご辛抱ですよ」と、励ますように言うのです。

        そして、その後、八月の末になり、またその若い女性が薬を取りに来ます。その時のことを、太宰治は次のように書いています。

        「八月のおわり、私は美しいものを見た。朝、お医者さんの縁側で新聞を読んでいると、私のそばに横ずわりにすわっていた奥さんが、『ああ、うれしそうね。』と小声でそっとささやいた。ふと顔をあげると、すぐ目の前の小道を、簡単服を着た清潔な姿が、さっさっと飛ぶようにして歩いていった。白いパラソルをくるくるっとまわした。『けさ、お許しが出たのよ。』奥さんは、また、ささやく。」

        つまり、お医者さんが「今日からはいいですよ」と、そう言ったのです。お許しが出たのです。何と言ったらいいのでしょうか。この白いパラソル。ここを読んだ時に、私は唸りました。

        非常に清らかな美しい性生活というか、男と女の性的生活、性行為を、これほど美しく表現したものを、私はあまり知りません。

        この白いパラソル----。こういう短編小説を書く太宰治という作家は、本当に優れた作家だなと私は思います。



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        2016/12/23 by dreamer

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      中谷宇吉郎随筆集

      中谷宇吉郎 , 樋口敬二

      岩波書店
      5.0
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      • 雪の研究と「雪は天から送られた手紙である」という言葉で有名な著者の随筆集。

        大きく分けて
        ・雪の研究に関する話(こぼれ話的なもの)
        ・趣味・日常の話
        ・寺田寅彦(著者の師にあたる人物)の思い出
        ・科学随筆
        から成る。

        著者の師匠にあたる寺田寅彦はユニークな発想を持つ物理学者でありながら、随筆の名手としての顔も持っていた。

        寺田寅彦は夏目漱石に俳句を習っていた、という経歴の持ち主。
        「我輩は猫である」にいつも妙な実験をしている物理学者、水島寒月という人物が登場するが、この人物のモデルこそ寺田寅彦だと言われている。

        師匠が自分の専門以外にも俳句をたしなんでいたように、弟子の著者も南画(水墨画のようなもの)を趣味としていたり、科学随筆を書いたりして、正に「この師匠にして、この弟子あり」という感じがする。
        (南画を書く事についての随筆も収録されている)

        本書の中、師の思い出についての随筆の中で「茶碗の湯」という師匠の有名な科学随筆に触れ、その内容を絶賛しているが、著者自身の科学随筆もかなり面白い。
        特に印象に残ったのは「地球の丸い話」「千里眼その他」「立春の卵」の3本。
        「地球の丸い話」は観測の精度についての話、残り2本はタイトルから想像がつくかもしれないが、ある種の「熱病」についての話で、現在も(おそらく将来も)同じような話には事欠かないだろう。


        冒頭に挙げた「雪は天から送られた手紙である」という言葉。

        最初は雪を詩的に例えたものとばかり思っていた。
        が、「雪」(本書とは別の著作)を読むと、文字通りの「手紙」という意味で使っている事が分かる。

        それによると、雪の結晶の形は上空の気温によって変わってくるらしい。
        そのため、雪の結晶の形を調べることで上空の気象状態が分かるので「手紙」と言っていたのだ。

        師匠の寺田寅彦も知り合いの地質学者を訪れた時、「石ころ一つにも地球創世の秘密が記されている。我々は、その"文字"を読む術を知らないのだ」という旨のことを言ったのが、随筆に残っている。
        また「茶碗の湯」では茶碗から立ち上る湯気をダシに気象現象などを子供向けに解説している。

        身近な現象の中にこそ、大きな自然の謎を解くカギがある。
        しかも自然は、その謎を隠しているわけではなく、常に語りかけているのに人間の方がその言葉を理解することができないでいる、という考え。

        そんな師匠の影響を受けたからこそ、「雪は天から送られた手紙である」という言葉に繋がったのだろう。
        惜しむらくは、あまりにキレイにまとまりすぎたため、自分のような勘違いをする事がありえる、という点か・・・。

        ちなみに、マイケル・ファラデー(電気分解の法則や電磁誘導の法則で名を残す)は「ロウソクの科学」で1本のロウソクが燃える現象をダシに子供向けに化学を解説している。
        もし寺田寅彦や中谷宇吉郎がファラデーと会ったら、かなり話が盛り上がることだろう。

        「一は全、全は一」
        というのは「鋼の錬金術師」(荒川弘)で出てきた考え方だが(どうやら一神教にもそのような考え方があるらしいが)「一」から「全」を想像するのは、かなり難しそうだ。
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        2013/03/02 by Tucker

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      なにわ橋づくし

      露の 五郎

      4.0
      いいね!
      • 落語家、露の五郎さんが、昭和61年あたりから、
        朝日新聞の日曜版に掲載していたものを一冊の本に(昭和63年刊行)。

        大阪八百八橋と言われていますが、ここでは八十八橋を紹介。
        (ほんまは、元禄十四年(1701年)大坂三郷及び周辺で百三十六橋だったとか)

        最初は、落語にちなんだ事も多く述べられているが、
        段々、橋の名の由来、その周りの土地柄、建造された経緯など、
        学術的にも立派な、なにわの橋づくし、郷土史でおます。


        そのなかで、気にいった小噺を、二つ

        四天王寺さんの境内で、京、大阪のふるさと自慢。
        「これが五重の塔や」
        「へェ―、この搭が五十とは高うおすなあ。京の南禅寺は三文(山門)どすえ」
        「フン、安いことなら大阪は負けへんで、ミナミへ行ってみい。
        タダエ門橋(太左衛門橋)に、ソエモン町(宗右衛門町)までついたある」

        「君ねえ、大阪に英語の橋があるの知ってるか」
        「君の言うことはたいがいわかるわい。ABC橋(戎橋)やろ」
        「残念でした。サンキュウ橋(三休橋)」

        まあ、お後がよろしいようで・・・・・・。

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        2016/05/07 by ごまめ

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      人生を励ます言葉

      中野孝次

      講談社
      カテゴリー:人生訓、教訓
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      • この本の名言をご紹介します。

        ***
        どうせ考えるならでっかく考えろ。 >> 続きを読む

        2013/11/27 by 本の名言

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      さらば甘き口づけ

      CrumleyJames , 小泉喜美子

      早川書房
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!

      • ジェームズ・クラムリーのハードボイルド小説「さらば甘き口づけ」は、アル中の探偵スルーが、同じくアル中の作家トラハーンを捜す依頼を受け、モンタナ州からはるばるとカリフォルニア州の田舎町までやって来る。

        そして、ようやく汚い酒場で飲んだくれているトラハーンを見つけるところから、この物語は始まっていく。

        ところが、モンタナへ連れ戻すいとまもなく、トラハーンは酒場で起きた喧嘩に巻き込まれ、尻に銃弾を食らって入院してしまう。

        時間を持て余したスルーは、現地で別件の仕事を引き受け、十年も前に失踪したままの娘を捜し始める。
        そして、退院したトラハーンもこれに加わり、一種の珍道中が繰り広げられていく。

        全編がアルコールまみれの感はあるものの、極めて叙情性豊かな作品だ。
        十年前に消えた娘がたどった人生が、万感の思いを誘い、足跡を追うスルーとトラハーンが、その重みを増幅していく。

        さらにまた、トラハーンが連れている一匹のブルドッグに妙な存在感がある。
        ファイアボール・ロバーツと名付けられたこの犬もまた、アル中であることは言うまでもない。

        舞台は、四月のカリフォルニアから六月のモンタナへと移り、やがてファイアボールとの悲しい別れが訪れる。

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        2019/11/02 by dreamer

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      いつもちこくのおとこのこ―ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー (あかねせかいの本)

      ジョン・バーニンガム

      4.0
      いいね! kentoman
      • いつも遅刻。
        でも、学校にキチンと行く。
        だって、学びたいから。
        そこを見逃している先生。
        最後のオチはやっぱりな^^。
        狼少年の反対かな。
        >> 続きを読む

        2014/08/29 by けんとまん

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      羊飼いの四本のろうそく

      ゲルダ・マリー・シャイドル

      新教出版社
      4.0
      いいね!
      • 良い絵本だった。

        迷子になった一匹の子羊を探す羊飼いの少年。

        途中、出会った盗賊と狼と物乞いの人に、それぞれ親切に一本ずつろうそくをあげる。

        そのせいか。

        最後は、馬小屋に入り込んでいた羊を発見し、そこで生まれたばかりのイエス・キリストにも出会う。

        大切なことは、一匹の子羊を見捨てずに探すことと、出会った人に偏見を持たずに親切にすることなのかもしれない。
        そうすれば、思いもかけないような出会いや恵みにあうことができるのが人生というものなのかもしれない。
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        2013/05/11 by atsushi

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      父さんギツネバンザイ (てのり文庫)

      ロアルド・ダール

      5.0
      いいね! souta0609
      • ビンスとバンスとビーンという金持ちなのに、すっごくケチな悪農夫の、必ず裏をつく父さんギツネの活躍がすごい!!! >> 続きを読む

        2016/02/23 by souta0609

    • 1人が本棚登録しています
      つきよとめがね

      小川未明 , 柿本幸造

      チャイルド本社
      4.0
      いいね!
      • 今夜は中秋の名月でかつ満月だそうです。
        いつもよりもずっと明るい月が眩しいほどの美しさでした。

        月夜の不思議を描いた童話を一篇。
        小川未明さんの古めかしい言葉はとても不思議な叙情を醸し出しています。
        どこかのどかで、儚げな美しい夢のような情景が浮かんでくることでしょう。


        「つきの ひかりは、うすあおく、この せかいを てらして いました。
        なまあたたかな みずの なかに、こだちも、いえも、おかも、
        みんな ひたされたようで あります。」

        古風で静かな文体は 心を沈めてくれます。

        おばあさんがひとりで暮らす家に、
        めがねうりの男が訪れ、とてもよく見える眼鏡を買ったおばあさん
        これで針のめどに糸を通すこともできます。
        珍しくて子供のようにはしゃぐおばあさんが、かわいい。
        するとその後に、また訪問者がやってきました。
        12~13歳の美しい少女でした。

        月の青白い光に照らされて幻想の一夜が暮れていきます。

        鈴木義治氏のパステル画の幽幻なイラストも不思議な効果を出しています。
        そこはかとなく、かわいらしい。上品な絵本です。
        月の出る夜にどうぞ。
        >> 続きを読む

        2013/09/19 by 月うさぎ

      • コメント 22件
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      茶漬えんま―桂枝雀新作落語集

      小佐田 定雄

      3.0
      いいね!
      • 小佐田定雄さんの、枝雀さんへの新作落語集。

        CDでは聴く機会のある小佐田さんの落語

        生で聴いたことのあるのは、
        雀々さんでの「遺言」と雀三郎さんの「帰り俥」だけです。

        CDでは、「雨乞い源兵衛」、「茶漬えんま」「ロボットしずかちゃん」。

        この本で初めて出会ったのが「幽霊の辻」「祇園祭」「次の節句」
        「貧乏神」「とんび」「猫」、と、どれも現代ではなく、ちょっと前の
        良き時代の匂いがします。

        この普遍性が小佐田落語の魅力、落語のもっている普遍性をうまく取りいれながら、
        どこにも居りそうな主人公の登場でハナシを進めていく。

        米朝一門の会にはなかなか足を運ばないので、出会う機会の少ない
        小佐田定雄さんの落語、機会を見て、聴きたくなりましたな・・・・。

        >> 続きを読む

        2016/07/20 by ごまめ

      • コメント 2件
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