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1992年3月発行の書籍

人気の作品

      眠りの森

      東野圭吾

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 加賀恭一郎シリーズ第2弾。
        この作品から本格的に加賀が刑事となる。

        バレエ団で見知らぬ男が殺される。
        被疑者は正当防衛を主張するが、拘束される身に。
        被疑者の親友の未緒は興味を示した加賀に無実を願うのだが。

        トリックや殺害方法が珍しい類いではないが、動機は大きなものがある。
        そして終盤にある真実も。

        捜査に加えて、加賀は未緒に恋愛感情を抱く。
        このやり取りは、冷静に犯人を追いつめる姿と明らかに違う対比が見られる。

        そして加賀には辛い過去がまた一つ増えるのだ。
        >> 続きを読む

        2018/08/25 by オーウェン

    • 他6人がレビュー登録、 57人が本棚登録しています
      エリア88 - 1

      新谷かおる

      小学館
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      4.7
      いいね! chao sunflower
      • エリア88 第1/全10巻

        中東の激戦区に集められた戦闘機乗りの傭兵部隊。

        絵の感じが古めかしいように感じて、何となく敬遠して来たのだが、元々好きな戦闘機ネタだけに案外すんなり入って行くことができそうだ。

        今も戦闘状態に有る中東の某国。

        その最前線航空基地、エリア88に集められた傭兵は、腕に覚えは有るものの、一癖も二癖も有る連中ばかりで有った。

        高額な報酬は約束されているものの、(違約金を支払えば離脱できるものの)期間としては3年間の拘束が条件で有り、言わば脛に傷を持っていたり、一攫千金を夢見る男達ばかりが集結している形になっている。

        そんな中、民間航空会社で将来を嘱望される立場の主人公シンは、同じ境遇のライバルに騙される形で、送り込まれて来た異端児。
        その卓越した操縦テクニックはここでも一線級では有るのだが、とにかく生き伸び、違約金を溜めてここを脱出することを目的としている。

        そんな殺伐としたエリア88だが、明日をも知れぬ境遇だからこそ生まれるドラマが有る。

        残念ながら、戦闘機のドッグファイトシーンにさえ緊迫感を感じない絵では有るが、もう30年ほど前の作品で有ることを考えれば良しよしよう。

        往年の名車、レビン、トレノの型式を冠し、昨年発売された「TOYOTA 86」
        このショールームの名前が「エリア86」
        直接関係が有るのかはわからないが、きっとどこかで意識しているのではないかと思う。
        >> 続きを読む

        2013/12/04 by ice

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    • 他2人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      新日本古典文学大系

      大槻脩

      岩波書店
      カテゴリー:作品集
      5.0
      いいね!
      •  古文の原文は有名なところだけ教科書などで読んで通読していないものが多いのですが、今夏は『とりかへばや物語』を通読してみました。
         『とりかへばや物語』は長らく文学的な価値が低い、変態的な作品という位置づけだったそうで、どんなにグロテスクなシロモノかと思って読んだのですが、どぎつい性描写があるわけでもなく、むしろ登場人物の心理描写が詳しく、なかなか面白い作品ではないかと思いました。これが倫理的に問題があるというのなら、現代の少年少女マンガなどは完全にアウトです(笑)。
         物語は男性として成長してしまう女性、中納言が中心的な登場人物です。姉弟(弟妹?)である、女性として成長してしまう男性、尚侍はそんなに個性があるように書かれていません。後半には活躍しますが、完全にあたりまえの男性として行動するだけなので、そんなに面白くはなく、始めから終わりまで苦悩し続ける中納言の人物造形が深く、近代小説にも匹敵するほどであると言えます。中納言が宰相の中将に女と見破られ、妊娠してしまい、女性としての生活をせざるを得なくなる部分で、自分は男性社会で成功してきたのに、こうして男に頼らなければ生きていけない女の惨めさを語るあたりは、少しは進んできたとはいえ男性優位の社会である日本社会で働こうとする女性を彷彿とさせるものがあります。さらに秘密裏に出産をするために単純な宰相の中将を利用するだけ利用して、行方をくらましてしまう(実際には男に戻った尚侍と入れ替わる)中納言の強かさも女をよく書けているなあと感心してしまいます。作者は不明で、男性説と女性説があるらしいですが、女性なんじゃないかと私は思います。最終章の栄華を極めていくあたりは類型的な語りで(というのは位があがって子孫が繁栄してみんな高位高官を占めているという形以外にないので)そう面白くはありませんが、母と名乗れない中納言(その時は中宮になっている)が、実の息子と対面する場面は感動的です。またその息子が母と思われる人に会ったと乳母に言いながらも、乳母から詳しい話をするように言われると、余計なことは語らないあたりもけなげさを感じさせます。最高の美貌や栄耀栄華を手に入れることが手放しで賛美されるだけではなく、それを相対化するような苦悩が最後まで残されていることが、この作品に深みを与えていると思います。
         
        >> 続きを読む

        2014/07/29 by nekotaka

      • コメント 3件
    • 1人が本棚登録しています
      スパイの世界

      中薗英助

      岩波書店
      カテゴリー:戦争、戦略、戦術
      3.0
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      • 小さい頃からM:Iや007の影響でスパイには憧れがあった。程度の違いはあっても昔からスパイはいる訳で、日本人がどうしたらなれるのか知らんけど、未だに憧れの対象。 >> 続きを読む

        2013/06/15 by freaks004

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    • 1人が本棚登録しています
      水車館の殺人

      綾辻行人

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • ざっくりした犯人とトリックは予想できたものの、謎解きパートは難しかった。最後もびっくり。 >> 続きを読む

        2017/11/04 by tomolib

    • 9人が本棚登録しています
      長い家の殺人

      歌野晶午

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!

      • 歌野晶午のデビュー作である「長い家の殺人」が、世に出るに至った経緯は、今や一つの伝説と化している。

        この経緯は、この作品に付された島田荘司の長い推薦文で明示されている。
        その過程は、埋もれた宝石を発掘して磨きをかけて真の輝きを得させる物語のようで、単体の物語として読んでも、実に味わい深い。

        綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸といった京都大学推理小説研究会出身の若手作家と並べられて登場してきた歌野晶午は、初登場時から彼らとは異質の手触りを持っていたと思う。

        この作品は、学生のロック・バンド「メイプル・リーフ」の間で起こった殺人劇を主題とする青春ミステリで、マリファナを愛用する名探偵・信濃譲二の初登場する作品でもあり、変形屋敷ものの一種と言えなくもない。

        四年間の活動の末、解散を目前に控えた「メイプル・リーフ」のメンバー6人は、最後の合宿として湯沢の「ゲミニー・ハウス」に滞在することになった。

        だがギターの戸越が絞殺され、しかもすでに死んでいたはずの時刻に生きている彼が目撃されていたという怪事件が起き、メンバーたちは疑心暗鬼にさいなまれる。

        事件の謎も解けぬままに東京に戻った彼らを襲う新たな悲劇。
        そこに現われたのは、かつて素人探偵として見事な推理力を見せた経験があり、「メイプル・リーフ」のメンバーだったこともある信濃譲二だった-------。

        新人の処女作は、必然的に青春小説として仕上がるものだが、この作品はそういう読み方をしても十分に魅力的な小説だ。

        中心になるトリックが目立っているが、プロローグの仕掛けや、戸越が残した曲の暗号といった巧みな小技の組み合わせも見逃せない。
        音楽的で心地のよい文体は、このデビュー作から既にその片鱗を覗かせていたと思いますね。

        >> 続きを読む

        2019/03/10 by dreamer

    • 5人が本棚登録しています
      りら荘事件

      鮎川哲也

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 58年刊とのこと。
        言葉の端や若干の女性蔑視的な考え方に時代を感じさせますが、連続殺人の緊張感、論理的な解は今読んでも充分に新鮮で楽しい。
        本格としては満足のいく一冊でした。
        しかし同時に、推理物について回る探偵の役割について考えさせられるものが。
        優秀な探偵ほど瞬時に解を導くとすれば、物語の途中では確かに不要。
        実際本作の探偵登場も八割が経過してからでした。
        ですがぽっと出のキャラクターに愛着が湧かないのもまた事実。
        ラストだけ出てきて正答を述べて帰る姿には、只々ぽかんとするばかりでした。
        やはり探偵はヘボでいいかな?
        >> 続きを読む

        2014/06/28 by 豚山田

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    • 1人が本棚登録しています
      BE-BOP-HIGHSCHOOL - 19 BE—BOP—HIGHSCHOOL

      きうちかずひろ

      講談社
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      4.0
      いいね!
      • BE―BOP―HIGHSCHOOL 第19/全48巻

        逃亡生活から戻ったキクリン。戻るや否や始まるお礼参り。

        好きとか嫌いとかではないのだが、笑いのツボであるキクリンの復活は非常に嬉しい。

        後輩の姉、しかもその後輩にソックリ過ぎるという女性に手を出し、地元にいられなくなった結果、ほとぼりが冷めるまで遠方に身を隠していたキクリンがついに復帰。

        逃亡生活?の中で丸くなった彼だったが、ヒロシの執拗なイビリにより闘争心を取り戻す。

        しかし、若干闘争心が戻り過ぎたのか、逃亡生活中の欠席がたたり留年した腹いせなのか、以前ブチのめされたJR沿線のカメマンへの復讐を思い立つ。

        なんやかんやでトオルとヒロシの愛徳コンビに加え、前巻で登場ながら既に笑いのツボをしっかり押さえてくれ始めているバカ牛までをも巻き込む悪運の強さを発揮しつつカメマンの本拠地に乗り込む。

        いつものデタラメファイトでムリクリ勝利を掴むと思われたキクリンだが、意外にも今回は真剣勝負で勝利し完全復活をアピールした形。
        >> 続きを読む

        2013/10/20 by ice

      • コメント 3件
    • 1人が本棚登録しています
      麦屋町昼下がり

      藤沢周平

      文藝春秋
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • ひとつの話が70ページあまりの四篇を収録した短編集。
        いずれも舞台は江戸ではなく、どこかの藩の国元で起きた事件と、それに関わった剣客たちが描かれている。

        異色の剣客は「榎屋敷宵の春月」の田鶴で、小太刀を使う女剣士である。夫の昇進を友人と競い合う俗っぽいだけの女性かと思っていたら、正義をなすために刺客の長剣に小太刀で挑み、手傷を負いながらも見事に仇を討つ。その姿が潔くて格好いい。

        藤沢氏の作品にはこうした小太刀の遣い手がときどき出てくるが、長剣の相手と渡り合う剣戟シーンは迫力があった。


        >> 続きを読む

        2020/03/19 by Kira

    • 3人が本棚登録しています
      京都の謎 日本史の旅)

      高野澄

      祥伝社
      カテゴリー:近畿地方
      4.0
      いいね!
      • 特に貧乏公家出身の岩倉具視についての内容が面白い。岩倉は、「和宮(孝明天皇の妹)」降嫁を推進した…ということで幕府寄りと誤解され、本来は「勤王派」であるにも係わらず、「勤王派」から命を狙われた岩倉岩倉具視は、5年間も岩倉に隠棲した。しかしこの間においても基本的な思想(「勤王派」としての)等は、変わらず維新成就に多大な貢献をした。  >> 続きを読む

        2011/07/11 by toshi

    • 1人が本棚登録しています
      ナンセンス・カタログ (ちくま文庫)

      和田 誠谷川 俊太郎

      4.0
      いいね!
      • 凄い、谷川俊太郎さんって、やっぱり詩人。

        この本は、言葉について、の150ものショートエッセイ集。

        どの言葉についても、言葉のより選び方に感心。
        最後の二行、そのまま、字数を整えれば、短歌になってしまう。


        もしそんなふうに呼びかけることができたら、それが朝であろうが、
        夜であろうが。一日がとても一日らしく感じられるだろうと思う。
        たとえその日がじとじとと雨降りでもね。

        床は人間と重力の接点なんだから、踏みしめるに足る硬さが必要だ。

        皮袋に砂をつめこんだ凶器を、サンドバッグと言う。砂漠の砂嵐はしばしば
        生命を奪う。無機物のくせに砂は生きもののように、いろんなところで
        人間にかかわってくるな。

        耳かきの無いとき、マッチの軸を使うことがあるけど、あのごつごつした
        感触はいやだね。耳かきが洗練された一個の道具であることを再認識する。

        とんびが輪を画いているのを見るのが好きです。子どもの手を放れた風船が空へ
        消えてゆくのを見るのも好きです。たんぽぽの綿毛が風に吹かれるのを見るのも。

        そりゃそうと、コンピューターは、あのうが言えないんだよね、気の毒に。

        今かぞえてみたら、うちにはねじ廻しが十五本もあった。
        それを全部使いこなしている自信はぼくにはない。

        出した日付は、これは忘れるべきじゃないな。絵葉書は人と場所と時の
        三位一体のはかなさに、いのちがあるんだから。

        木漏れ陽の下では昼寝してしまうのはもったいない、
        本を読むのも惜しい、そこにいるだけでいい。

        季節はずれの果物や野菜も、ヴィニール・ハウスで育ったと思うと、
        おひさまと無関係のような気がして、まずくなっちゃう。


        詩人のわきだす言葉って、何気ない言葉なのに憧れますな。

        「ナンセンス・カタログ」、どのような読まれ方をされるかは、
        あなたまかせで、ございます。
        >> 続きを読む

        2017/11/19 by ごまめ

    • 1人が本棚登録しています
      ちくま日本文学全集

      幸田露伴

      筑摩書房
      カテゴリー:作品集
      4.0
      いいね!
      • ということで、幸田露伴。
        面白くないかと思ったら、これが意外なほどオモシロカッタ。

        感想その1

        文章がうまいなあ。あたりまえだけど。
        普段ネットを読んでいても上手な方はたくさんおられて、特に平易で清潔な文章を書かれる方々のものをステキだなあと思って読んでいます。
        ただ私たちがいつも読んでいるネットとか新聞とか週刊誌の記事は総じて軽くて薄味なので、その風味にすっかり慣れたところに幸田露伴の濃厚で猛烈な文章を読むと、強い洋酒を飲まされたみたいに酔っぱらってくらくらしてしまいます。この酒がまた滋養分たっぷりの芳醇豊満な酒なわけで、そこらにある文章とはそれこそ次元を隔てた、溜息が出るくらい練達の文章です。

        普通は風景描写なんか、かったるくて読み飛ばしてしまうんですが、読んでいて楽しいと思わせるのは、これは文章の力でしょう。

        「天はさっきから薄暗くなっていたが、サーッというやや寒い風が下して来たかと見る間に、楢や槲の黄色な葉が空からばらついて降って来ると同時に、木の葉ばかりでは無く、ほん物の雨もはらはらと遣って来た。渓の上手の方を見あげると、薄白い雲がずんずんと押して来て、瞬く間に峰巒を蝕み、巌を蝕み、松を蝕み、たちまちもう対岸の高い巌壁をも絵心に蝕んで、好い景色を見せてくれるのは好かったが、その雲が今開いてさしかざした蝙蝠傘の上にまで蔽いかぶさったかと思うほど低く這下がって来ると、堪らない、ザアッという本降りになって、林木も声を合せて、何の事は無いこの山中に入って来た他国者をいじめでもするように襲った。晩成先生もさすがに慌て心になって少し駆け出したが、幸い取付きの農家はすぐに間近だったから、トットットッと走り着いて、農家の常の土間へ飛び込むと、傘が触って入り口の檐に竿を横たえて懸け吊してあった玉蜀黍の一把をバタリと落とした途端に、土間の隅の臼のあたりにかがんでいたらしい白い庭鳥が二三羽キャキャッと驚いた声を出して走り出した。
         何だナ、
        と鈍い声がして、土間の左側の茶の間から首を出したのは、六十か七十か知れぬ白髪の油気の無い、火を付けたら心よく燃えそうに乱れ立ったモヤモヤ頭な婆さんで、皺だらけの黄色い顔の婆さんだった。キマリが悪くて、傘を搾めながらちょっと会釈して、寺の在処を尋ねた晩成先生の頭上から、じたじた水の垂れる傘のさきまでを見た婆さんは、それでもこの辺には見慣れぬ金釦の洋服に尊敬を表して……」(p106-108 「観画談」)

        ところどころ分からない箇所もあるけれど、こうやって引用していても楽しい。いったいどこからこんな文章が生まれて来るんだろう。
        (ちくま日本文学全集は難しい漢字にはルビがふってあってとても助かります。さすがにそこまで転記するのは面倒なので省きました。)

        感想その2

        幸田露伴は大人のための作家です。
        高校生とか、20代で幸田露伴を読んでもたぶん楽しくなかったとおもう。芸術的でありながらエキセントリックなところがなく、われわれみたいなちょっとくたびれたオヤジあたりが読むと、萎びかかっていた心身のどこかに慈雨を受けたかのように、じんわりとホッとしてきます。
        露伴の短編を騒がしい日々の合間にポツポツ読んでのびのびするなんて、趣味としてもなかなかのもので、これはいいものを見つけたなあと思います。

        ここの部分なんかは、たしかにそう感じたことがあった筈だけど普段忘れている、そういう瞬間を思い出させてくれます。
        こういう肯定的な状態を表現するというのはこれまであまり読んだ記憶がないので、それだけ難しいんだろうと思うんですが、それを見事に表現しています。
        気に入った部分なので、もう一度だけ引用します。

        「春は既に闌になった頃のある日であった。机のほとりに倦んだ身を横たえたら直に睡りそうな気持がしたので、立出でて庭へと縁から下りた。地は天運の和に乗じて、しっとりと潤いを帯びて踏み心もよく、小草の寸碧も時知り顔でかわゆらしい。夏には憎らしいものであるが、思わず莠や鷹の爪草にも目をとめて、やわらかな風の中に優しい心になって立つと、背中がほっかりと暖かいので、仰いで空を見ると、透明度の低い薄青い色の一面の中を真綿をのして吹飛ばしたような雲が動くか動かない位に動いている。庭には何の花もないが、少しばかりある常緑樹のそれぞれが、どこと無く生気を含んで、中には芽をふいているものもある。やがて和語で浅緑、漢語で嫩緑といおうよりは、俗に黄金のようなと一口にいった方がよい色の、その金のささへりを飾って旧の卯月の日の光に匂おうという支度を笑ましげにしている。梅なぞのような常緑樹の芽の早いものは、もう明るい緑をなしていて、やがての暗い涼しい蔭をつくろうとしている。狭い処を往還りして、ぶらありぶらありと歩いていると、太陽が慈悲の手さきをもって、まるで母が吾児の頭をなぶりでもするように、その何とも云われぬ懐かしい温味を、額や頬や項から伝えてくれる。春の神だの、夏の神だの、そんなものは分明に意識には上らないが、きれいな柔和なある者と、活発で気先のよいある者と、二つの立派なものが注いでくれる無私の広大な愛情がひしひしと身に逼って来るのを覚えて、不可説の悦がそれに応じ誘われて、胸の奥だか腹の底だか知らぬ吾身の中心からにじみ出し溢れ出して、そして手足の先まで行渡る気がする。何の心もなく、ひとりでにこうのああのと思う煩悩も脱け、かくあらねばならぬそう無くてはならぬという自縛も解けて、我知らず鳶飛魚躍の境界に立って、故を知らぬ微笑が催され、天地と一枚になったとも自認する訳では無いが、後から顧みればともかく何の某で候なんぞというコビリついた料簡が取り去られて、好い心地になってややしばらく逍遥徘徊していた。」(p425-427 「望樹記」)

        感想その3

        この本の中には随筆風なものから時代小説までさまざまなジャンルの作品が入っています。
        いままで読んだ中で誰かに似てるなあと考えてたら、そうだ、坂口安吾に似てます。
        坂口安吾はもっと青っぽいところがあるから、それに比べると幸田露伴はさらに濃厚でどっしりしています。ヘタなたとえだけど、酒でいえば2人ともバーボンで、坂口安吾はタ-キーの8年もの、幸田露伴は12年もの。
        確かに文豪と呼ばれるにふさわしい貫禄です。

        幸田露伴といえば五重塔ですが、この中には入ってません。そうだ五重塔を読んでみよう。
        >> 続きを読む

        2017/10/27 by Raven

    • 1人が本棚登録しています
      ちくま日本文学全集

      堀辰雄

      筑摩書房
      カテゴリー:作品集
      4.0
      いいね!
      • ちくま日本文学全集028。

        読み終わりました。
        この人の才能はまぎれもないです。
        「麦藁帽子」とか「燃ゆる頬」とかのひとつ間違えれば鼻持ちならないナルシスティックなテーマを、ある種の感慨をもって読ませることできるのは、この人の厳しく怜悧な創作姿勢によるものだと思われます。作品のテーマからすると不思議ですが、読んでいるうちに自然と居住まいを正させられる、そういう力がこれら作品にはあります。

        そして実体験に近いところで書かれたと思われる「風立ちぬ」の冒頭部分。
        ここではひとつの情感の典型を描ききって、さらには作品全体の象徴ともなっていて、もうこんなふうには誰も書けないだろうなと思わせるぐらい見事です。


        序曲

         それらの夏の日々、一面に薄の生い茂った草原の中で、お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白樺の木陰に身を横たえていたものだった。そうして夕方になって、お前が仕事をすませて私のそばに来ると、それからしばらく私達は肩に手をかけ合ったまま、遙か彼方の、縁だけ茜色を帯びた入道雲のむくむくした塊りに覆われている地平線の方を眺めやっていたものだった。ようやく暮れようとしかけているその地平線から、反対に何物かが生まれて来つつあるかのように……

         そんな日のある午後、(それはもう秋近い日だった)私達はお前の描きかけの絵を画架に立てかけたまま、その白樺の木陰に寝そべって果物を囓じっていた。砂のような雲が空をさらさら流れていた。そのとき不意に、どこからともなく風が立った。私達の頭の上では、木の葉の間からちらっと覗いている藍色が伸びたり縮んだりした。それとほとんど同時に、草むらの中に何かがばったりと倒れる物音を私達は耳にした。それは私達がそこに置きっぱなしにしてあって絵が、画架と共に、倒れた音らしかった。すぐ立ち上がっていこうとするお前を、私は、いまの一瞬の何物をも失うまいとするかのように無理に引き留めて、私のそばから離さないでいた。お前は私のするがままにさせていた。

          風立ちぬ、いざ生きめやも。

         ふと口を衝いて出て来たそんな詩句を、私は私に靠れているお前の肩に手をかけながら、口の裡で繰り返していた。それからやっとお前は私を振りほどいて立ち上がって行った。まだよく乾いてはいなかったカンヴァスは、その間に、一めんに草の葉をこびつかせてしまっていた。それを再び画架に立て直し、パレット・ナイフでそんな草の葉を除りにくそうにしながら、
        「まあ! こんなところを、もしお父様にでも見つかったら……」
         お前は私の方をふり向いて、なんだか曖昧な微笑をした。(p150-152)

             
        この部分はさらに、作品の主題の提示であり、また重要な伏線ともなっています。
        ただやはり私は、「姥捨」や「曠野」のような物語性の強い作品を好みます。そしてこれらの作品もまた見事。「幼年時代」や「花を持てる女」などのように自己の来歴をウダウダ書くより、こんなのを書けばいいのにもったいないなあと考える私は、どうもこの作者とは縁遠いようです。
        >> 続きを読む

        2017/10/29 by Raven

    • 1人が本棚登録しています
      記録・天皇の死
      1.0
      いいね!
      • タイトル買いをして見事に失敗した。

        昭和生まれである。だから、1989年1月7日の昭和天皇崩御には
        それなりの衝撃があった。前年9月の大量吐血から確実に迎える
        であろう「Xデー」に向かって、過度な自粛が日本列島を重苦し
        い空気に覆われ、その反面、静かなる熱狂があった。

        生涯の半ばまで現人神とされた昭和天皇に対しては様々な意見が
        あるのは分かる。昭和天皇の戦争責任を云々することもタブー
        ではないと思うし、天皇制反対の立場だっていいと思う。

        だが、本書のように明らかな反天皇制のスタンスを取りながら
        それを「記録」としてしまっていいのだろうか。

        崩御を知り、記帳の為に皇居前広場に足を運んだ人たちに聞き取り
        調査をた結果が記載されている章では、サンプル数も不明なら質問
        内容の詳細もない。

        聞き取りをした内容を、ああでもない、こうでもないとこねくり回し
        て「〇〇なのだろう」と推測することが記録になるのか疑問。

        回答した人の中に68歳の女性がいる。この女性は小学校2年生の
        12月8日に宣戦布告のラジオ放送を聞いたと言う。

        この宣戦布告は昭和16年12月8日のことだと思うのだが、昭和は64年
        で終わっているので年齢的におかしくないか?あ、そこは突っ込みど
        ころじゃないか。

        「国内の風景」と題された章での座談会では最初こそ出席者それぞれ
        が崩御の日をどのように感じたのかを語っている。しかし、途中から
        沖縄人vs大和人に話がすり替わっている。

        昭和天皇を批判的に取り上げた海外報道を集めた章はそれなりに貴重
        だと思う。本書で参考に出来るのはこの部分のみか。

        根底に昭和天皇に対しての否定的な見方が貫かれているので「記録」
        と題するのはどうかと思う。

        崩御以降の街の風景の観測にしても、日本全国を網羅しているのでは
        ないしね。

        難しいな、本の選定は。
        >> 続きを読む

        2019/01/05 by sasha

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      闇に抱かれた女 (創元推理文庫)

      T.J. マグレガー

      3.0
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      • 人は何かに熱中するあまり、目の前に存在するものを見落としてしまうということが、時々あると思う。

        今回読了したT・J・マクレガーのサイコ・サスペンス小説「闇に抱かれた女」では、それをこの作品の原題でもある「Dark Fields(暗視野)」と呼んでいる。

        そして、これはその"暗視野"のために見えなくなっているものを、追い求める人々の話だ。

        写真家のグラントが、射殺死体で発見された。メトロデイド署殺人課のマクレアリは、手口こそ違うものの、犯人はフロリダを騒がせている連続殺人鬼ではないかと考え、捜査を開始した。

        保険調査の私立探偵で、死体の発見者でもあるグラントの恋人クィンは、自らの手で犯人を捕まえることを誓い、独自に調査を開始する。しかし、彼女は調査を進めていくうちに、自分が知らなかった恋人の姿を知っていく。

        グラントは、一体何をしていたのか? そして犯人は?-------。

        主人公のマクレアリは、恋人ロビンの気持ちに気付かなかった。ヒロインのクィンは、結婚の約束までしていた男の本質を、彼が死ぬまで知ることが出来なかった。

        この二人が捜査を進めていくのだが、犯人はもちろん、グラントの姿すらなかなか見えて来ない。彼の印象が、接した人によって大きく食い違っているのだ。

        そして、どうやらみんなが、何かを隠しているらしい。このなんだかモヤモヤしたジグソーパズルを組み立てていくような展開が、もどかしくも巧みに構成され、次のページへの興味と興奮を掻き立ててくれるのだ。もちろん、そのピースたる1コマ1コマを形成する、脇役たちの個性がそれを支えているのは言うまでもないことだ。

        しかし、この作品には致命的な欠陥があると思う。事件からかなりの日数が経過した後で、グラントが殺害されていた現場であるタウンハウスや彼の車の中から、重要な手掛かりが見つかるのだが、それを発見したのはクィンなのだ。

        これでは警察は、ただの無能な集団に見えてしまう。それとも、現場を検証するという捜査の基本までが、"暗視野"に入っていたのだろうか?----という疑問が残ってしまいましたね。


        >> 続きを読む

        2018/03/27 by dreamer

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      ミナミの帝王

      郷力也

      日本文芸社
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      5.0
      いいね!
      • 1巻から通して読んではいないが、結構読んでいた漫画です。
        トイチ(10日で1割)で銭を貸す闇金業者を主人公としたストーリーです。グロテスクな描写はほとんどないですが、取り立てにすごい執念を感じます。取り立て方に手段を選ばない感じです。

        読んでいて面白く、少しためにもなる内容だと思います。
        >> 続きを読む

        2013/06/24 by BlueBull

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      指輪物語

      瀬田貞二 , 田中明子 , J・R・R・トールキン

      評論社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 【全ての冒険ファンタジー、RPGの源がこの作品だ】
         皆さんよくご存知の『指輪物語』を再読してみました。
         私は、学生時代に妹の本を借りて読んだのですが、自分の手元には『指輪』を持っていなかったのです。
         やはり、これは持っておくべき本だよねということで、大分前にこの三冊組の『指輪』を買ったのですが、「いつかまた読みたくなった時にゆっくり読もう」と考えて温存していました。

         新しく買い直すに当たっては、文庫でも良かったのですが、「どうせ手元に置くために買うのなら良い本にしよう」と欲を出してしまい、この三冊組大型豪華本を選んでしまいました。
         箱入りクロス装の大型本で、挿絵も大判のカラーでついていますので、満足感は十分なのですが、何せでかい、重い!
         持ち歩きは到底ムリですし、横になって読むのもなかなかしんどかったりします(^^;)。
        ま、愛蔵豪華本ということで。

         ストーリーは多くの方がご承知だと思いますが、自分の心覚えも兼ねておさらいしておきましょう。
         ホビットのビルボは、旅に出た際に、ゴクリという異形の忌まわしい者(とは言え、もとは普通のホビットだったのですが)が持っていた指輪を奪って持ち帰りました。
         この指輪は、指にはめると姿が見えなくなるという魔法の指輪でした。
         ビルボはこの指輪を時々はめてはいたのですが、徐々に指輪に自分が乗っ取られそうになっていきます。

         この指輪のことを知った灰色の魔法使いガンダルフは、その由来を調べ、それがとんでもない指輪であることを知りました。
         この世界(中つ国)には力を秘めたいくつもの指輪があったのですが、ビルボが持ち帰った指輪は全ての指輪を統べる最大の力を持った指輪だったのです。
         この指輪は闇の王サウロンによって作られたのですが、サウロン自身がこの指輪の力に取り込まれてしまい、闇の力に支配され、世界征服を始めてしまったのです。
         かつて、サウロンと他の種族達との間に激烈な戦いがあり、他の種族達は甚大な犠牲を払いながらかろうじてサウロンを倒し、その際、この指輪もサウロンの手から離れ失われていたのでした。
         それがめぐりめぐってゴクリの手に渡り、ゴクリも指輪の力に支配され、忌まわしい者となってしまったというのです。

         今、サウロンは再び力を取り戻しつつあり、この指輪を取り返そうとしていると言うのです。
         ガンダルフは、ビルボにこれ以上指輪を持ち続けているとお前も取り込まれると警告し、一刻も早く指輪を養子のフロドに託せと命ずるのでした。
         ガンダルフの言を容れたビルボは、再び旅に出ることにし、指輪を養子のフロドに託しました。
         そして、フロドはガンダルフから、「この指輪を滅ぼさなければならない。そのためにはサウロンが支配するモルドールの国にある火の山の『滅びの亀裂』に指輪を投げ入れる以外に方法は無い。」と教えられ、指輪を滅ぼすのはフロドの役割だと言われます。
         
         フロドは、そんな大それた役目を担うのは嫌でしたが、持ち前の責任感の強さから結局自分の運命を受け入れ、従者のサム、友人のメリーとピピンと共にホビット庄を旅立っていくのです。
        しかし、そんなフロド達一行には早くもサウロンの手が伸びていました。
         黒ずくめの装束を着て黒い馬に乗った九騎の『黒の乗り手』達がフロド達を追いかけ始めたのです。

         フロドら一行は先行したガンダルフとの合流を目指して旅を続け、ブリー村の宿屋に泊まったのですが、そこで『馳男』と呼ばれている男に出会います。
         馳男は、真の名をアラゴルンと言う野伏で、ガンダルフから指輪の話を聞いており、共に指輪を滅ぼすために力を合わせることを誓っていたのでした。
         そして、フロド達がやって来ることを知り、宿屋で待っていたのです。

         ここに力強い仲間を得たフロド達はさらに旅を続け、辛うじて黒の乗り手の追跡を振り切り、遂にエルフの王エルロンドの館にたどり着きました。
         そこにはガンダルフが待っており、また、様々な種族の代表が集まっていました。
         ここにおいて、エルロンドが主宰した会議が開かれ、指輪を滅ぼすための旅の一行が選ばれたのです。

         旅に出るのは指輪所持者のフロドとその仲間のホビットであるサム、メリー、ピピン。
         人間を代表してアラゴルンと武士のボロミア。
         エルフを代表してレゴラス。
         ドワーフを代表してギムリ。
         そして灰色の魔術師ガンダルフと決まりました。

         指輪の一行は指輪を滅ぼす旅に出たのですが、途中で通過したモリアという地下坑でオークの集団に襲われてしまいます。
         オーク達はバルログという魔物も引き連れており、一行を地下坑から脱出させるためにガンダルフがバルログと対峙して相討ちとなり、ガンダルフは奈落へと落ちてしまったのでした。

         ガンダルフを失った一行は、アラゴルンの先導により、エルフの里であるロスロリアンに逃げ延び、そこで一時の休息と物資補給を得ることができました。
         ガンダルフを失ったことは痛恨なのですが、旅を止めるわけにもいきません。
         一行はエルフからもらった舟に乗り、パレス・ガレンの芝草に着きました。
        ここで旅の目的地を決めなければなりません。

         人間の武士であるボロミアは、ここから近い西にある故郷のミナス・ティリスに向かい、そこで人間の軍と合流してサウロン軍と戦う道を選ぶことを主張します。
         さらには何故指輪を恐れるのかとも言います。
         確かに指輪がサウロンの手に渡れば恐ろしいことになるだろうが、今は我々の手にあるのだから、その指輪の力を使ってサウロンを打ち倒すべきだと主張するのです。
         しかし、フロドがガンダルフから言われていたことはそうではなく、モルドールの火の山に指輪を投げ込んで滅ぼすことでした。
         一行の行く先は指輪所持者であるフロドの決断に委ねられることになったのです。

         フロドは、考える時間が欲しいと言い、一人になりました。
         フロドの心はとっくに東のモルドールを目指すことに決まっていたものの、それを言い出せば旅の仲間たちを絶望的な旅の道連れにすることになるのを悩んでいたのです。
         ついに、フロドは自分一人で指輪を滅ぼす旅に出ることを決意し、誰にも告げずにモルドールへの道を歩き始めてしまうのでした。

         いつまで経ってもフロドが戻ってこないことから、一行は、フロドが一人で旅だったことに気付き探し始めます。
         しかし、フロドは、指輪をはめて姿を隠していたので誰もフロドを見つけることはできずにいました。
         ただ、サムだけは考えたのです。
         フロドは必ず東に向かうはずであり、そのためには舟が必要だ。
         舟を置いてある場所に必ずフロドは現れるはずだと。

         その通りでした。
         姿の見えないフロドにより川に引き入れられていく舟が見えたのです。
         サムは舟にしがみつこうとしましたが川に落下してしまいます。
         これに慌てたフロドは、舟を川岸に着けサムを引き揚げたのでした。
         そうまでして自分の後を追ってきてくれたサムに、フロドは感きわまり、サムだけは連れて行くことを承知し、二人は一行から別れてモルドールへの道を辿り始めるのでした。

         ここまでが、第一部『旅の仲間』の粗筋になります。
         次は弟二部『二つの塔』へと続きます。
         ゆるゆると読んでいきますので気長にレビューをお待ちください。
        >> 続きを読む

        2020/05/06 by ef177

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      指輪物語

      瀬田貞二 , 田中明子 , J・R・R・トールキン

      評論社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 【遂に一行はバラバラになってしまうのですが……】
         第一部の終わりで、フロドは他の仲間に犠牲を強いないため、自分一人だけで指輪をモルドールの火の山にある『滅びの亀裂』に投げ込んで溶解させることを決意して一行のもとを離れましたが、これに気付いたサムが強引に付き従い、2人で『滅びの亀裂』を目指すところまでが描かれました。

         一行は、姿が見えなくなったフロドを探し始めたのですが、その際、メアリーとピピンはオークの集団と出くわしてしまい、捕虜になってしまうのです。
         オークたちは魔法使いサルマンに派遣されたのです。
         サルマンは、指輪をホビットが持っていることを知り、指輪を手に入れるためにオークたちに命じてホビットを捕まえさせたのでした。

         これに気付いたのがボロミアです。
         ボロミアは、フロドから指輪を奪おうとしたことを恥じており、今はその償いの気持ちもあってメリーとピピンの救出に単身乗り出したのです。
         しかし、多勢に無勢です。
         ボロミアはその角笛を吹き鳴らし救援を求めました。

         アラゴルン、レゴラス、ギムリは、ボロミアの角笛を聞きつけ直ちに救助に向かうのですが間に合いませんでした。
         そこには、身体中に矢を突き立てられて絶命しているボロミアの遺体があったのです。
         野伏であるアラゴルンは、足跡などの周囲の状況からメリーとピピンがオークたちに連れ去られたことを推測します。

         ここでアラゴルンたちは決断を迫られます。
         行方知れずになったフロドたちを探し、本来の目的である指輪の破壊を手助けすべきか、オークたちに連れ去られたメリーとピピンの救出に向かうか。
         フロドたちがどちらに向かったのか手がかりは全く残されておらず、また、一行から離れて旅立ったフロドの心情も理解できるところでした。
         今はフロドたちを信じよう、目の前からさらわれた仲間を見捨てることはできない。
         アラゴルンたちは、夜を日に継いでオークたちを追撃し始めたのです。

         そして、その道中で死んだと思われていたガンダルフに再会することになります。
         今やガンダルフは白い装束を身につけており、白の魔法使いに生まれ変わっていました。
         ガンダルフは、アラゴルンたちにローハンの王セオデンのもとへ向かえと命ずるのです。
         セオデン王の領地エドラスは、サウロンが支配するモルドール、サルマンがいるアイゼンガルドに挟まれており、今やサルマンからの猛攻撃を受けようとしていたのです。

         一方、オークたちに連れ去られたメリーたちは、オークたちが仲間割れしている隙を突いて脱出に成功し、深い森の中で木の精エントと出会います。
         エントの長老である木の髭は、森の木々を勝手に切り倒すオークに激怒していましたが、メアリーたちの話を聞き、このままサルマンを放置できないと考え始めます。
         木の髭はエント族を招集し、どうすべきかを話し合った結果、サルマン討つべしとの結論に達し、メリーとピピンも連れて大挙してアイゼンガルドに攻め入りました。

         一方、セオデン王に面会したガンダルフたちは、サルマンの手先として王の側近となっていた蛇の舌を放逐し、セオデン王に正気を取り戻させます。
         セオデン王は、サルマンとの決戦のため、兵士を引き連れヘルム峡谷にある角笛城に軍を敷きました。
         アラゴルンたちもセオデン王と共に戦場に赴いたのです。

         壮絶な戦闘の結果、辛うじてサルマンの手先のオークたちを撃破したセオデン王たちはガンダルフの導きの下、アイゼンガルドに向かいました。
         アイゼンガルドは既にエント族により破壊されており、サルマンは塔の中に追い詰められていました。
         そして、一行はそこでメリーとピピンとの再会を果たします。

        ガンダルフは、サルマンに対し、アイゼンガルドを捨ててこの場から去るように勧告するのですが、未だに野望を捨てきれないサルマンはこの勧告を拒否し、塔に引き籠る道を選びます。
         サルマンの監視をエント族に委ねたガンダルフたちはアイゼンガルドを後にし、新たな旅を始めるのでした。

         一方のフロドとサムは、険しい道のりを踏破してモルドールに迫っていましたが、しつこく後をつけてきたゴクリを捕まえます。
         サムは、ゴクリを殺すことを主張するのですが、フロドはこれを容れません。
         このまま放っておくといつか仇をなすことは明白でしたので、むしろ目が届くところに置いた方が良いとの判断から、フロドはゴクリに服従を誓わせます。
         ゴクリとしても、このまま殺されるよりはこの場はフロドに従い、隙を見て指輪を奪う腹だったのです。

         その後、ゴクリの道案内に従いフロドたちは遂にモルドールにたどり着きます。
         ここでゴクリが遂に裏切ったのです。
         ゴクリは、真っ暗なトンネルに巣食う蜘蛛の化け物であるシェロブにフロドたちを売ったのです。
        シェロブはフロドたちを喰ってしまうでしょうが、指輪になど関心はありません。
         ゴクリは、フロドたちが喰われた後、指輪を手に入れようと考えたのでした。

         しかし、サムの大活躍によりシェロブを撃退することに成功するのですが、フロドはシェロブの毒を注入されてしまい仮死状態に陥り、オークたちに連れ去られてしまいます。
         その後を追うサム。
         第二部はここまでです。

         ファンタジーの原典である指輪物語は読み応え十分であり、また、正統派ファンタジーとしての魅力を完全に備えています。
         以後、多数書かれることになるファンタジー作品のすべての始まりがここにあります。
         第三部『王の帰還』を読むのはいつのことになるか分かりませんが、またその時にはお付き合い願います。


        読了時間メーター
        ■■■■    むむっ(数日必要、概ね3~4日位)
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        2020/05/07 by ef177

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      指輪物語

      瀬田貞二 , 田中明子 , J・R・R・トールキン

      評論社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
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      • 【そして指輪の物語はクライマックスへ】
         最終の第三部に入り、登場人物たちは4つの道へと分かれます。

        1 フロドとサム
         第二部の終わりからの続きになりますが、『滅びの亀裂』に指輪を投げ込むために二人はモルドールに潜入したものの、毒蜘蛛シェロブの毒を受けてフロドは昏睡状態に陥り、オークたちに連れ去られてしまいます。
         フロドを救出するために後を追うサム。
         指輪は今はサムが持っており、フロド救出のために指輪の魔力を使い不可視になるのですが……。

        2 ガンダルフとピピン
         二人はサウロンの攻め手が迫るゴンドール王国の首都ミナス・ティリスに先着しています。
         首都の上空には数羽の黒い巨大な凶鳥ナズグルが舞い、昼間でも重苦しい黒い雲に覆われてもはや陽が差すことはなくなりました。
         サウロンの軍勢が迫っているのです。
         そこへ戦死したボロミアの弟であるファラミアがボロボロになって到着します。
         黒い凶鳥ナズグルに襲われ、あわや!と思った時、今や白の魔術師と化したガンダルフが駿馬飛蔭に乗って飛び出し、白い閃光を放って凶鳥ナズグルを撃退し、ファラミアを救出します。
         
        3 アラゴルン、レゴラス、ギムリ、メリー
         当初はローハンでセオデン王と共にあるのですが、サウロンの手が迫るゴンドール支援に向かうに当たり二手に分かれることになります。
         a: セオデン王一行とメリー
         セオデン王は援軍を集結するために山岳の道を通って馬鍬谷へと向かいます。
         セオデン王の小姓に取り立てられたメリーもこれに同行することに。
         その後、馬鍬谷でロヒアリムの騎馬軍団を集結させたセオデン王は最大の援軍を率いてゴンドールに急行するのですが、間に合うのか?

         b: アラゴルン、レゴラス、ギムリ
         アラゴルンは、少しでも多くの軍勢を糾合するため、過去の誓言に違約したために安寧の眠りにつけない死者たちを味方につけようと決意し、敢えて危険な『死者の道』を選択します。
         レゴラス、ギムリ、そしてアラゴルンの危機を察知して駆け付けた同郷の野伏たちも同行します。
         あの豪胆なギムリでさえ足がすくんでしまった『死者の道』を通り抜けることはできるのか?

         さて、ここでアラゴルンの正体をお知らせしておかなければ。
         アラゴルンはゴンドール王国の正当嫡出子であり、王だったのです。
         第三部のタイトルが『王の帰還』となっているのは、アラゴルンがゴンドール王国に帰って来るということを表わしているのですね。

         しかし、物語の方は、王の帰還を迎える前に決戦が待っています。
         いまやモルドールの軍勢は、ミナス・ティリスの城に押し寄せようとしています。
         城の周囲に広がるペレンノール野が決戦の戦場となるでしょう。
         数に勝るモルドール軍は、ゴンドール軍の抵抗にも関わらず着々と軍勢を進め、攻城戦に持ち込みます。
         巨大な破城鎚も持ち出され、遂に門が砕き落とされました。

         もはやこれまでかと思った時、セオデン王の軍団が到着したのです。
         ここで死闘が繰り広げられ、先陣に立って血路を切り開いたセオデン王は戦死してしまいます。
         メリーと、密かに同行してきたセオデン王の娘のエオゥインは敵の総大将を打ち取りますが、その際負った傷により二人とも倒れてしまいます。

         総大将を失ったモルドール軍ですが、圧倒的な数の力は衰えることがありません。
         なおも攻撃が続けられ、ゴンドール側の抵抗も力を失っていきます。
         そこへアラゴルンらの一行が船で到着したのです。
         最初はモルドール側の海賊船と思われ、万事休すと観念したのですが、海賊船はアラゴルンらによって奪取されていたのです。
         勢いを取り戻したゴンドール軍はなんとかモルドール軍を撃退することに成功したのでした。

         とは言え戦いはまだ終わっていません。
         早晩、モルドール軍の第二波が来ることは容易に予想されました。
         この城に籠り再度敵軍を退けるというのが常識的な戦略と思われます。
         しかし、ガンダルフとアラゴルンは別の道を選択しました。
         フロドとサムの帰趨がまだ分かっていないからです。

         フロドとサムがまだ健在で、指輪を滅ぼすために滅びの亀裂を目指しているのであれば、サウロンの目をそこから逸らさなければならない。
         そのためにはこちらから討って出るべきであると。
         サウロンはまだ指輪の所在をつかんでいません。
         ここでこちらから討って出れば、あるいはサウロンは、指輪の力を頼って反撃に出たと解釈するかもしれないと考えてのことです。
         城に最小限度の防御を残し、残る全ての兵力を持ってモルドールへの進撃を開始するアラゴルンたちです。
           
         一方のフロドとサムですが、サムの活躍により、幽閉されていたフロドが救出されていました。
         二人はオーク兵たちの目を盗み、艱難辛苦の末、ようやく滅びの亀裂にたどり着きます。
         あとは指輪を投げ入れれば……。

         しかし、その最後の最後で、フロドは指輪の力にからめとられてしまうのです。
         フロドは指輪をはめると、自分がこの指輪の所有者であると宣言してしまったのです。
         サムには、もうフロドを止める力は残っていませんでした。
         何よりも、指輪をはめたことによりフロドの姿は見えなくなってしまったのです。

         ここまでか……。
         そう思った時、何者かがフロドに襲い掛かったのです。
         ゴクリでした。
         ゴクリもまた指輪の力に屈しており、最後の最後で指輪を奪いに現れたのです。
         そして、フロドが指輪をはめている指を食いちぎり、指ごと指輪を奪ったのでした。
         しかし、フロドも抵抗していたため、バランスを崩したゴクリは、指輪をもったまま滅びの亀裂に転落し、結果、指輪も滅ぼされてしまったのです。

         その瞬間、モルドールの軍勢は総崩れとなり、また、モルドールの塔は崩落しました。
         空を覆っていた暗黒も晴れ、世界は平和を取り戻したのです。

         この後、精根尽き果てたフロドとサムはガンダルフにより救出され、傷を癒した後、故郷へ向かう旅が始まります。
         このパートでは、これまで一行が辿って来た旅の道を逆順でたどることになり、読者は、「ああ、ここではこういうことがあったんだっけ」と、長かった物語を振り返ることになります。

         そうそう、フロドたちがホビット庄に帰ってから、さらにもう一波乱あるのですが、それは最後のお楽しみということで、ここでは触れずにおきましょう。
         いや、大変長い物語でした。
         でも、最後まで読んでみると、(特に指輪が滅ぼされた後の帰路を読みながら)こんなこともあった、あんなこともあったと懐かしく振り返ることができるんですね。
         私、帰路を読みながらちょっとジーンと来てしまいましたよ。

         現代のファンタジー作品に大きな影響を与えた指輪物語。
         長い長い物語ですが、時々は読み返したい作品ですし、もしもまだ読んでいないという方がいれば、是非一度は読んでいただきたい作品だと思います。
         長期間にわたるレビューにお付き合いいただきありがとうございました。
         指輪物語、閉幕でございます。


        読了時間メーター
        ■■■■    むむっ(数日必要、概ね3~4日位)
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        2020/05/08 by ef177

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      第四の敵 (双葉文庫)

      山田 正紀

      3.0
      いいね!

      • 山田正紀の「第四の敵」を本棚の奥から取り出して、一気に読了しました。

        この「第四の敵」は、闇業界紙の中年記者が、ひょんなことからカフカの未発表原稿の争奪戦に巻き込まれていく、サスペンス・スリラー。

        主人公の佐伯健二が、カフカの未発表作品「処刑工場」を受け取りに赴いた香港で、次々と不可解な殺人事件に遭遇する前半は、まさにカフカ的な不条理世界を髣髴とさせるんですね。

        しかし、後半は一転して「処刑工場」をめぐる暴力的抗争の渦中に、主人公の佐伯は放り込まれることになる。

        もっとも、この「処刑工場」の争奪戦を演じる人々は、それが具体的にどんなものであるのか誰も知らないのだ。

        スパイ活劇において人々をつき動かしていく謎の仕掛けを、サスペンス・スリラーの神様、アルフレッド・ヒッチコック監督は"マクガフィン"と言ったが、「処刑工場」はまさにその"マクガフィン"そのものなのだ。

        ヒッチコック的な巻き込まれ型サスペンスの切れ味もさることながら、佐伯のボス・柏木を初め、相棒の清水、柏木の愛人・真由美、詐欺師の鈴木老人といった脇役の良さも、この作品を支えている要因ですが、惜しむらくはラストにおいて盛り上がりを欠いたのが残念でならない。

        >> 続きを読む

        2018/05/01 by dreamer

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