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岡嶋二人
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【まぁ、何と巧妙な!】 初めて岡島二人(と、言ってもこれは合作ペンネームなのですけれど)の作品を読んでみました。 いやぁ、巧妙な作品を書いたものです。 物語は、とある新型ゲームの開発に絡んで始まります。 主人公の上杉は、とあるゲーム・ブックの原作募集コンテストに応募した25歳の男性でした。 その原作はなかなか評価が高かったのですがが、既定の枚数を取り違えて書いてしまったため、コンテストでは失格になってしまいました。 しかし、その原作に目をつけたゲームメーカーがあり、上杉の原作を画期的な新作ゲームに使わせてもらいたいとの申し出をしてきたのです。 200万円という原作料に惹かれて、上杉は一も二もなく承知しました。 それから数ヶ月。 ゲームが形になったので、原作者にもプレイしてもらいチェックをしたいとの連絡がありました。 そのゲーム機は『クラインの壺』と呼ばれていたのです。 このゲームは、いわば超絶ヴァーチャル・リアリティ・ゲームとでも言うべき物であり、人間の五感を全てシミュレートするというとんでもないゲームでした。 現段階では、プレイヤーはブースに入った上で、全裸になってベッドに横たわる必要があるのですが、一度ゲームが始まるとプレイヤーは完全にゲーム世界に没入してしまい、そのゲーム世界内では何をするのも自由ということになっているのですね。 上杉は、そのあまりにリアルな出来に驚愕してしまいます。 このゲームをチェックするために、ストーリーを知っている上杉だけでは駄目だということで、何も知らないアルバイトのモニターも採用されていました。 それが高石梨沙という専門学校生だったのです。 高石は、1か月間毎日プレイするという条件でモニターに応募してきたのですが、とにかくバイト料は高額だということでした。 確かにそんなゲームが完成すれば画期的ですよね。 作中では、同じようなゲームを開発している他のゲームメーカーもあり、産業スパイではないですが、先攻しているクラインの壺の情報を得ようと探りにかかっている者もいるということになっています。 そのため、クラインの壺が置かれている研究所の場所は極秘とされており、上杉達も会社の事務所から研究所に向かうまでの間は、外が見えない仕様になっているバンに乗せられて、どこだか分からない研究所に連れ込まれているのでした。 もちろん、ゲームに関することは一切口外禁止でした。 ゲームは良くできていましたが、上杉がプレイしている間に、再三トラブルが発生しました。 どこからともなく「戻れ」という声が聞こえ、視界が失われ、身体が落下するような感覚に襲われるのです。 プレイ中の上杉の身体状況はモニターされていましたので、異変を感じたスタッフがすぐにゲームを中止するのですが、プログラムの異常は見つかりません。 取りあえず応急措置的にプログラムをいじり、その後もゲームのチェックは続けられるのですが、やはり時々同様のトラブルが発生していました。 ある時、突然梨沙がモニターのアルバイトに来なくなりました。 何でも、突然辞めたいという電話が入ったというのです。 確かに、このゲーム会社、いささか胡散臭いことは間違いなく、また、ゲームのトラブルもなかなか解消されませんでしたので、気持ち悪くなる点があるのも頷けるのですが。 そして、その後、梨沙の行方が全く分からなくなってしまうのです。 梨沙の友達という七美という女性からも、上杉の所に梨沙を探しているという連絡が入り、二人で梨沙の行方を調べ始めるのですが……。 徐々にこのゲーム会社が相当にヤバそうだということが分かってくるのですが、他方で上杉と七美の認識が食い違うことが度々発生するのです。 認識が食い違うというのは、例えば二人が待ち合わせをした時、二人とも間違いなく待ち合わせ場所に行ったと言うのにお互いに相手が来なかったと主張するなどです。 上杉としては、七美が嘘をついているとしか思えないのですが、七美は真剣になって来なかったのは貴方の方だと言い張るのです。 ラストまで読んでみて、なるほど、そう来たか!と思わず膝を打ちました。 うまいこと書きましたね~。 しかも、それだけで終わらず、じわっと恐い余韻も残しているのです。 >> 続きを読む
2020/03/02 by ef177
佐々木譲
この佐々木譲の「ベルリン飛行指令」を初めて読んだ時の衝撃は、今でも鮮やかに覚えています。デビュー作の「鉄騎兵、跳んだ」以降、バイク小説や青春小説、モダンホラー小説に活劇サスペンス小説と多彩なスタイルの作品を発表してきた佐々木譲が、初めて本格的な政治サスペンス活劇小説に挑んだのです。しかも、期待を遥かに上回る迫力と興奮に満ち溢れた傑作を----。日独伊三国同盟が締結された1940年の秋、日本海軍の新鋭戦闘機を極秘裏にドイツへ送る計画が持ち上がりました。そのパイロットに選ばれたのは、海軍の札付きパイロットの安藤と乾。敵の包囲網を潜り抜け、給油のための中継地点を経て、二人はベルリンへと飛行を続けたのです----。大胆な仮説にもとづいた、極めて破天荒な物語なのですが、活劇小説の基本的な設定を骨格として、戦闘機の知識をはじめ植民地インドの情勢など、戦時のディテールを丹念に積み重ね、そのフィクションを見事に激動の歴史の中へ、リアルに展開させているのです。そして何よりも、主人公の人物造型と幾つもの感動的な挿話が、この作品の大きな魅力になっていると思います。知性は勿論の事、豊かな感性や強い意思をもつ彼らは、それゆえにモラルなき組織や国家などと対立、反発し、世間からはみ出してしまうのかも知れません。しかし、その対立のエピソードがどれも胸に迫り、彼らが気高く見えるのです。このような感情を抱かせるのは、佐々木譲ならではの文章力のなせる技だと思います。更にこの作品は、真珠湾作戦をめぐる日系人スパイの追跡劇「エトロフ発緊急電」、戦争終結へ向けて奔走する人たちの冒険行を描いた「ストックホルムの密使」とあわせて、"第二次世界大戦三部作"となっていますので、次回は最終作の「ストックホルムの密使」を読む予定で、この他にも佐々木譲の作品はたくさんありますが、新宿歌舞伎町が舞台のベトナム難民の少女をめぐる活劇サスペンスの「新宿のありふれた夜」へと読み進めていきたいと思っています。 >> 続きを読む
2016/10/16 by dreamer
高橋 義人
ドイツ的なものとは。。。何か?ゲーテ、ベートーヴェンからナチズム、緑の党まで本章から。メランコリーはドイツ人に特に顕著に認められる心性である。その背景にはおそらく歴史的・社会的要因と風土的要因がある。ドイツ人の好むものを通して「ドイツ的」なものを浮かびあがらせるものとは 1.ライン河、とりわけローレライ 2.菩提樹 3.南国イタリア 4.クリスマス 5.森の5つのテーマに沿ってそれぞれ考察している。私からすると意外であったのはドイツ人にとって南国とはイタリアを示すということだ。イタリアは南国の代名詞という。やはり本書から。ドイツ人にとってイタリアは生を謳歌する場所である。イタリアの自然は美しい。イタリアの古代遺跡は美しい。イタリアの女性はヴィーナスさながらに美しい。クリスマス・ツリーは今日世界中のいたるところで見ることができるが、もみの樹をクリスマス・ツリーとしたのはドイツの創作である。ある一節「ヒトラーのクリスマス」の中から。ドイツではクリスマスを家庭で静かに祝う。1907年12月21日、18歳の青年ヒトラーの最愛の人だった母親クララはヒトラー自身の言葉によれば、灯の灯ったクリスマス・ツリーの明かりのなかで息をひきとった。死亡診断書を書いたブロッポ医師は当時を回想して「アドルフ・ヒトラーほど深い悲しみに打ちひしがれた人を私は見たことがなかった」と述べている。それから22年後、ドイツ第二党にのし上がったナチス党の党首として千年王国を樹立を目指してナチス党が台頭する。 >> 続きを読む
2017/09/03 by パスカル
家田荘子
ノンフィクションライターとして活躍する著者の自叙伝的回顧録。幾つかの作品を跨いで執筆の過程をなぞっているが、独立した作品としても十分楽しめる。極道の妻たちやエイズなど、鋭い着眼点でエキサイティングな作品を送り出し続けている著者の創作過程は、それ自体がエキサイティング。場当たり的に進んでいるようで、鳥瞰すると一本筋が通っているという不思議な印象を持った。著者ほどのバイタリティが有れば、猪突猛進で悩むことは無いのではないかと思っていたが、リアルに綴られる生みの苦しみについて大いに共感した。着眼点と突進力。勇気付けられ学ぶべき点も多い。 >> 続きを読む
2011/08/08 by ice
内館牧子
NHK連続小説「ひらり」の台本を小説化したものである。東京の浅草の下町が舞台となっている小説で主人公が相撲部屋にも出入りする場面が多々あり、相撲部屋ってこんなんなんだーととても興味深く読んだ記憶がある。コミカルでテンポが良い小説なので、とても読みやすい。下町出身ではないので実態はわかりませんが、本を読む限り人情味があって下町っていいなーと感じました!どういう人に「おすすめ」するかは、非常に難しいですが、前向きになりたい時に読むのには良い本だと思います。 >> 続きを読む
2012/09/19 by higamasa
相原真理子 , CornwellPatricia Daniels
検死官シリーズ。再読。最近の作品はサイバーテロとか事件が大きくなり過ぎ、主要登場人物の誰かがひどい事になり過ぎ、読むのにエネルギーがいるのだが、これは初期の作品で、個人的に一番面白い。カップル殺人事件の遺族が超大物。FBIとかCIAとか入り乱れて、誰もが疑心暗鬼。主人公ケイと刑事のマリーノの関係もまだ良好で、思わぬ人が亡くなったり残念な所もあるけれど、一冊完結で、すっきりした読後感。このシリーズは本当に初期の物が面白いと思う。最近の物は図書館で借りれば十分だと思ってしまうが、これは所有していて、何度も何度も読んでいる。あらすじも次のセリフも全部わかっているけれど、たまにどうしても読みたくなる作品。捜査物が好きな人にはお薦め。 >> 続きを読む
2017/04/05 by チルカル
神尾 葉子
花より男子2巻。花沢類の初恋の人がフランスから帰ってくる!初恋の人はミスコンにも選ばれたことのある才女。自分の好きな人が、別の女性を想っている表情とか見ちゃうのって切ないよね><!とキュンキュンしながら読んだ。私なんて太刀打ちできないと思っているのに一瞬でも「もしかして」って思ってしまった私のバカーみたいな。切ない(T_T)ストパーの道明寺はちょっとカッコイイなぁ♪つまずいて偶然キスみたいな絶対に現実じゃありえない展開も漫画だからアリ♪この歳になってこんなにときめける自分に驚き(笑) >> 続きを読む
2014/08/15 by sunflower
小池 真理子
妹が恋人を誤って殺してしまい凶器を主人公の兄が山に捨てにいこうとして雪に閉ざされたペンションに監禁されてしまうという話。ペンションの主人の狂気ぐあいが凄いわ。それにしても主人公といい娘といい逃げれるときになんで逃げないんだよ!ラストはまぁよかったんじゃないかな。 >> 続きを読む
2016/01/15 by 降りる人
フランチェスコ アルベローニ
とても有名な本であり、内容も友情について多岐にわたっているので、一部だけ抜粋して感想を述べたいと思います。 まず独裁者に友情はありうるのか、というもの。筆者は大学で政治学を習っており、独裁者に関する論文も書いたことがあるので興味を持ちました。独裁者といえばヒトラーやスターリンなどが有名ですが、彼らに真の友人というものがいたのでしょうか。 言うまでもなく、そのような存在はおりません。独裁的な地位に就くまではともかく、就いてからはまったくいないと言って間違いないでしょう。独裁者にとっては自分以外の者は常に自分の地位を狙う警戒すべき人物であり、毛沢東もスターリンも、かつての部下や仲間の多くを粛清、つまり抹殺してしまいました。「独裁者は、友達という言葉からもっとも遠いところに位置している。彼のまあわりの者たちは、みんな危険な枠のなかにいるわけで、彼らはそれを知っていなければならない。お互いのあいだで、きわめて親しい関係をつくってもいけないのだ。それは陰謀と取られかねない。独裁者は友達をもたず、友情は自分をおとしいれる罠だとして警戒する。友情は、民主的で共和的な国家の美徳なのだ」(頁66) これは別に国家に限らず、独裁的な会社、団体、組織などにも言えることです。そもそも組織は、友情を生まれ難くするものですが、独裁的な支配者は自分に抵抗する勢力ができないよう、組織を細分化して、団結しないように配慮するものです。 なお、本書では恋愛と友情の違いについてしつこいくらい説明をしておりますけれど、ここでは触れません。気になる方は読んでみてください。 最後に筆者自身の友情観について。友情は人生の糧となるものですが、過去の友情にすがっているだけでは何も生まれません。友人は時に心強い協力者でもあり、友人がいたから頑張れた、ということもあります。ただ、場合によっては人をダメにしてしまう友情もあるかもしれません。「その集団(引用者注・古い友人の集まりなど)が理想もイデオロギーも、要するに何ももっていなければ、そんな『仲間』は、集団が個人の質をどれだけ低下させ、だめにするかの見本みたいなものになる。友好的な仲間というのは、生き延びることしか目的にできない、伝統主義者の集まりである。」(頁110~111) どんなに仲の良いグループでも、延々と昔話ばかり繰り返すような友人たちでは進歩がないと思います。時には野心的に、そして冒険的に集団を抜け出す。そうすると、思わぬ出会いも生まれるかもしれません。 >> 続きを読む
2014/09/05 by ぽんぽん
ジョゼフ ハンセン
1970年から始まり、20年以上に渡って書かれた保険調査員デイヴ・ブランドステッター・シリーズは12作目にあたる本書で幕を閉じました。主人公が私立探偵ではなく保険調査員という設定も目新しいですが、それ以上にホモセクシャルという設定は、現代ではそれなりに受け入れられますが、シリーズが書かれた当時は結構異色だったんじゃないかと推測されます。作者であるジョゼフ・ハンセンはそんな設定を踏まえた上で、シリーズで描かれた各事件も、執筆時にアメリカが抱えたいたであろう問題をあえて取り入れたように思います。ジョゼフ・ハンセンは執拗に書き込むタイプの作家ではないため、事件の背景は複雑だったり、ホモセクシャルなシーンもあるのですが、文体がスムーズで読みやすいです。最初に書いたように、本書はシリーズ最終作。よって主人公のデイヴにも最大の試練が起き、最後の数ページの描写は長年シリーズを読み続けた僕には複雑な思いがしましたが、本書における作者のケジメにや付け方は納得&見事だと思いますよ。全12作の本シリーズはすべてハヤカワミステリ、いわゆる"ポケミス"として発売され、現在まで文庫化もされておりませんが、個人的には事件内容や本の厚さそして価格も含め、いかにもポケミスらしいシリーズだと感じていてます。とはいえ、早川書房さんにはシリーズの文庫化を熱望してますよ😄因みに本書以外では「闇に消える」「ブルー・ムービー」が僕のシリーズお気に入り作品です。 >> 続きを読む
2017/10/31 by アーチャー
畑山 博
希望の失われた時代からの逃亡を描いた、芥川賞作家・畑山博の「択捉海峡」を読了。逃亡を描いた"逃亡小説"は多いと思いますが、要するに、何かから逃げる人間を描く小説ですね。このような内容の物語が、我々読者の共感を呼ぶのは、表層に展開するストーリーとは関係なく、日常に閉じ込められた、我々読者の"脱出願望"を満たしてくれるからかもしれません。そして、その底にあるのは、身を縛るものすべてから解き放たれたいという欲求に他ならない。とはいっても、主人公が簡単に逃亡に成功しては、読者の共感は呼びにくい。そこで、作家は主人公の逃亡を困難にするために、あらゆる障害を用意するんですね。そして、それが多ければ多いほど、このタイプの小説は成功すると思う。主人公の眼前に次々と立ち塞がる困難に、読者はそのたびに絶望するので、主人公がその困難を克服していく過程に濃い感情を抱くのだ。この「択捉海峡」は、題名通りに舞台が択捉なので、最初の困難は酷寒だ。ただの寒さではない。想像を絶する酷寒とまず闘わなくてはならない。次は、主人公がヒロインであること。その希望のない島から逃げ出すために、ともに逃げてくれる力強い男を探す必要がある。ところが、北の島にはもともと人間が少なく、そのチャンスが限られている。ヒロインは、そういう現実と闘わなくてはならないのだ。その次は、ようやく見つけた男が囚人に近い存在で、つまりは迫ってくる官憲に捕まらないように、必死に逃げなくてはならないという展開になる。さらに、密猟者の船に乗って脱出するも、その密猟者も仲間ではないという現実との闘いも待っている。そして、最後は、ようやくたどり着いたウルップで待ち構えている、過酷な自然との闘いだ。食料をどうやって自足するか。畑を作り、食料を自分たちの手で生み出すことができるのかどうか。こうしたサバイバルの試練が待ち構えているのだ。そうして、逃亡小説の定石通り、著者の用意した障壁を「択捉海峡」のヒロインは、ひとつづつ克服していくが、それだけなら珍しいわけではない。この物語を特異なものにしているのは、最も大きな障壁が、明治三十年代という時代背景であることだ。日清戦争に勝ち、次なるロシアに向けて国全体が準備していた時代だ。その近代国家への歩みは同時に、辺境の地に住むヒロインにとって希望の失われた時代であり、出口のない時代であることを意味している。強烈な自我を持ったヒロインが生きにくい時代という障壁が、この物語の底に流れているので、緊迫感も最後まで緩まないのだろう。たとえ、北の島を脱出して、どこかの都会に行き着くことが可能だったとしても、彼女のエデンではあり得ない。ヒロインにとっては最初からどこにも行き場がないのだ。そういう構造を持つからこそ、この物語がいつまでも胸に残るのだと思う。 >> 続きを読む
2019/04/06 by dreamer
小学1年の息子が将棋に興味を持ったため 図書館で amazon で評判のいい入門書を2冊 図書館で借りたうちの1冊です。 私的には非常に分かりやすくまとめられた よい本だと思うため★4つでもいいくらいなのですが、 肝心の息子が食いつきませんでした。 棋譜の説明が丁寧だったり 囲い方を何種類も紹介していたり けっこう充実しているのですが、 子供が見るには(個人差はもちろんあるでしょうが) もっとビジュアルに訴えてくるものの方がよいのかもしれません。 そんなわけで本書は★1つへらして★3つ。 2冊借りたもう片割れの羽生さんの本を ★1つ増やして★4つにしたいと思います。 >> 続きを読む
2015/02/04 by kengo
手島佑郎
聖書の中の『出エジプト記』について、ユダヤの伝統的な解釈をさまざまに紹介しながら、非常にわかりやすく深く解説してあった。冒頭に出てくる助産婦のシフラとプアは、ヨケベデとミリアムのことだというユダヤの古来の解釈は、非常に興味深かった。また、モーゼの養母となったエジプトの王女は、名前は出エジプト記には出てこないのだけれど、歴代誌上巻4章17節に出てくるファラオの娘ビテヤのことだというユダヤの古来の説があるそうで、伝承ではモーゼの出エジプトにともについていき、ユダヤ教徒になったという話も興味深かった。「出エジプト」はヘブライ語だと「イツィアト・ミツライム」といい、この子音の読み方を少し変えると「イツィアト・メツァリム」、つまり「脱苦難」という言葉になるという話も興味深かった。古来からユダヤ教ではこの意味もこめられていると考えるそうである。また、この本で一番考えさせれたのは、ある程度、何事も時がかかるということである。モーゼは、ミデアンの荒野に逃れてから、かなり長い期間そこにいた。それは、謙虚さと忍耐を学ぶための、充電の期間だったという。また、神の言葉を燃える柴において聴き、エジプトのファラオに告げてからも、エジプトを脱出するまでには、かなり長い時間が必要だった。 ファラオに最初の警告を発してから、少なくとも一年半から二年ぐらいかかっているそうである。モーゼも、すぐにエジプトを脱出できたわけではなかった。ファラオにしばらくの間ユダヤの人々はいじめられ続け、かなりの期間、天災が降りそそぎながらも、出発まで時間がかかった。 十の災いが降りそそぎ、それからやっと出発できた。出発してからも大変だった。 奇跡によってエジプトの軍から逃れても、今度は荒野で、ユダヤ人同士の争いや不平不満によるトラブルがしばしば起こった。自由とは、法の遵守であり、自治の秩序だという考えが、トーラーには貫かれているそうである。奴隷の境涯から脱出しても、すぐに精神まで自由になるとはいえず、長い荒野での遍歴の旅は、民が本当に精神も自由な人間になるための、長い訓練の期間だったそうである。そもそも、エジプトを脱出してから、十戒自体がすぐに与えられたわけではなく、脱出後三カ月後にシナイ山で与えられた。それは、それまでばらばらだった民の心がひとつになるためであり、奴隷の時の傷を癒し、心をリハビリするために必要だったからだそうである。十戒の文言についても、「みだりに」という意味の「ラシャヴェ」は「むなしい目的のために」という意味だということや、「妬む」と訳される「カナー」は「曲がったことを嫌う」と言う意味だということもなるほどと思った。また、出エジプト記の二十四章の、直接モーゼと七十人の長老が神と会ったという記述とその情景描写は、その後のユダヤ神秘主義の源泉になっているという話も、なるほどと思った。モーゼが、そのつど、神と粘り強い交渉や対話を行う姿勢も、とても興味深かった。他にも、ひとつひとつの文章や語句について、こういう意味だったのかととても感心することが多かった。出エジプト記やモーゼに関心のある方には、ぜひおすすめしたい一冊だった。 >> 続きを読む
2013/07/23 by atsushi
邦光史郎
中央政府から一線を画し、栄華を誇った奥州藤原氏の繁栄と衰退。特殊な環境から日本全土に大きな影響を与える姿が興味深い。立地的な問題から中央政府の武力による干渉は受けることが無いため、臣下の立場を取りつつも、事実上は支配者として君臨するという特殊な存在。中央政府の勢力争いの直接的な影響は受けないながらも、確実に手を打っていかないと存在が脅かされる緊張感。不思議と現代社会との類似性を幾つもの局面で感じる作品であった。前半は三代目秀衡の当主になるまでの道のり。後半は源義経の生涯という2部構成となっている。奥州藤原氏と源義経が組んで南下する。そんな歴史のifに駆り立てられる作品である。 >> 続きを読む
2011/03/18 by ice
島田荘司
さえない老人しかし往年の悪ガキ達の大活躍。推理でも社会派でも無い。それでも面白いとは島田氏恐るべし。もはや好きな作家として絶対に名前を外せないほどになっている島田荘司氏。彼のイメージは論理的な推理。または社会派ドラマ。そして双方をミックスしたものが、最大の魅力で有ると考えて来た。ときおり混ざるコメディタッチの作品はお茶を濁す程度の価値しか感じていなかった。しかし、本作品は完全なコメディタッチ路線で有りながら、魅力に溢れ、新しい試みに貪欲に挑み続ける島田氏の成果を見る思いである。とくにダメ老人達がヒーローを演じるシーンは、老いた肉体の中で、若き日の精神が咆哮しているのを目にするようで痛快だった。読後に感じるたのは、豊かさという指標について。若い内に様々な経験を積み、老年になって苦労している人間と、若い内は遊びもせず遮二無二働き、余裕の有る老年を送っている人間。果たしてどちらが豊かな人生と言えるのだろうか。そもそも豊かさ=満足と置き換えるなら、苦労とか遊びとかは関係がなく、やりがいとか愛だとかいう話になるのは分かっているのだが、二者択一のシンプルな選択肢にして見ると、逆に奥が深いように思った。勝どき。一時通勤していたことが有る街なので、多少入り込みやすかったのかもしれない。 >> 続きを読む
2012/03/19 by ice
綾辻行人
「囁きシリーズ」、第三弾です。兄の突然死により、実家に帰る事になった「津久見翔二」両親から、兄の死は事故だと聞いていたが、両親の様子に違和感を覚え、兄の死の真相を調べる事に。そんな中、偶然知り合った兄の知人「占部直毅」の協力も得ながら調べていく中、兄の友人が次々と何者かに殺害される事件が発生する。そして、翔二の幼い頃の記憶が、少しずつ思い出された時、意外な犯人が明らかになる-。遂に一応、完結しました。「囁きシリーズ」、全三部作。三作目の「黄昏の囁き」も、大変面白かったです。ようやく犯人が判明した・・・と思ったら、更にどんでん返しがあり、意外な真犯人が登場しました。この展開に。「もぅ、本当にこういう展開、綾辻さん、お得意なんだから。」そう唸ってしまいました(笑) >> 続きを読む
2019/01/08 by ゆずの
海音寺 潮五郎
ちくま日本文学全集48楊令伝後半のパサパサぶりを読んだ後なので、本書の各作品の文学的な充実度にほっとした。海音寺潮五郎は、名前からして堅苦しくて古臭い歴史作家と思っていたが、そんなことはなく、面白かった。昭和の時代に書かれた本格的な小説という感じ。どこか懐かしいところがある。新たな作家を発見できた。 >> 続きを読む
2017/10/12 by Raven
キース ピータースン
記者ウエルズ・シリーズの4作目、これで取りあえずシリーズが終わる。構成で見ると、粋な書き出しで、話の導入部としては、とても面白い。先の情報屋の一件で編集長が変わり、アイビーリーグ出身の、元気のいい気の強い女性がやってくる。体制が変わると、浮かぶ人も沈む人もあるという好例(笑)仲間のランシングやマッケイも大喜び。* * *肺がんで死を前にした元警官が、ウェルズに告白をする。15年前にチンピラを殺して、工事中だった校庭に生き埋めにしたのは、ヤクザ仲間ではなく二人の警官だという。そのうちの一人は以前、無実のウェルズが一方的に容疑者にされた時(二作目 幻の終わり)取調べで暴力を振るわれた相手だった。ウェルズはそのときの復讐心もあり、悪徳警官の殺人事件を明らかにしようとした矢先、部屋に押し入った暴漢ともめ、突き上げたこぶしで殺してしまう。ウェルズは罪の意識に悩む。悪徳警官ワッツは自己防衛とウェルズに対する憎悪のために彼を殺人罪で逮捕しようとする。大きな警察機構の波が押し寄せる中で、行き詰ったウェルズは捨て身でt調査を始める。* * *今までの、もの柔らかさは、ハードボイルドに姿を変えて、彼はどうなるのか、随分ハラハラさせられる。途中には、最終回にふさわしいちょっといい話もあって、このスリルとサスペンスがてんこ盛りの話も、一区切りが付く、これでいいかなと、落ち着いた。一度に読んだので警官殺しと家出娘の件のメモが混乱しました。書いていて??と気がつき、訂正してお詫びいたしますm(_ _;)m >> 続きを読む
2016/06/15 by 空耳よ
那須正幹 , 武田美穂
小学6年生の時に読んで衝撃を受けた本です。全体の雰囲気は表紙の通りで、神様の話なのにかなり現実味のある展開を見せます。戦争中と敗戦後に少年時代を送った男の子は、疎開先の学校でゆるキャラよろしくなデザインのねんどの神様を作ります。込められた願いは「戦争をおこしたり、戦争で金儲けをするような人をやっつけてほしい」。そして50年の月日が経って…絵本なのに戦犯裁判や朝鮮戦争の話が出てきたり、戦闘シーンもあるのですが、それらが全て淡々とした語り口で進んでいくのです。中立的な語り口と感じる要因に主人公の不在があるかもしれません。読み終わってからさらに衝撃だったのは、作者の那須さんが「ズッコケ三人組」の作者でもあるってことでした。漢字は多いし、表現は大人だし、小学生の子供1人で読ませるには内容的にも文章的にもタイミングを選ばなきゃ良さが分からないかもしれません。手に入りにくい本だと思うのですが、図書館で見かけたら是非読んでみてください。 >> 続きを読む
2016/12/11 by MaNaSo
伊藤 善市
地域の活性化というのはいつの時代も大きなテーマの一つである。 東京の一極集中や地方の過疎化の問題、都市の美観、国際交流、地域開発、社会資本など、本書では今日でも問題となっていることを様々な視点から論じられている。 地域開発は一歩も二歩も先を見て行わなければならないことは言うまでもない。つまり、未来を見越して計画することが必要不可欠である。 しかしながら、地方の地域開発はリニア新幹線や成田空港の例を見るまでもなく、むき出しのエゴイズムの対立が表面化し、なかなか前に進まない。 本書が出版されたのは一九九三年、つまりこのレビューが書かれている二〇一四年の二十一年前のことだ。その間に地域開発の問題が解決されただろうか。 東京の一極集中は軽減されたか、二十四時間使用可能なハブ空港が完成したか、原子力発電所の安全は確保されたか、美しい都市づくりのための社会資本は整備されたか、余暇を有効に使えるようになったか。 どれも胸を張って達成できた、とは言い難い。「失われた二十年」と言われているけれど、地域開発に関してはまさしくそれだろう。 残念ながら日本の地域開発は二週半くらい遅れていると言わざるをえない。それだけ財政に余裕が無い、ということもあるのだろうが、それを言い訳にしえ変革を先送りしている部分は無いだろうか。 このままいけば東京はパンクしてしまうだろうし、だからと言って地方が受け皿にはなれない状態だ。 温故知新という言葉があるように、二十年以上前に出版された本書は、都市計画の戦略性、つまり未来を見据えた開発の重要性を我々に教えてくれるものである。 >> 続きを読む
2014/11/27 by ぽんぽん
出版年月 - 1993年1月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト
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