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幸田文
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この短篇集では、病気と食べ物と家族、夫婦がクローズアップされます。 「台所のおと」は、料理人をしている佐吉という男が病気で寝込む。3人目の妻である、あきが立てる台所のおとに敏感になる佐吉。 料理を味ではなく、音で表現、出来たものでなく作る課程でたてる音に敏感に、粗雑だ、とか、丁寧だとか何を洗っていると敏感にならざるを得ない病気で寝ている身という設定にうなる。 これが普通に働いている時はそんなに気にならなかったでしょうが、台所の鍋を、食器を扱う音に耳をそばだてる夫。それが料理人という仕事である怖さ。 前の2人の妻が料理で、台所でたてる音は佐吉にとっては、耐えがたい、許しがたいものでした。 「食欲」という短篇では、やはり病気になった夫を看病する妻がでてきます。 夫婦といっても、もう離婚を考え始めたような微妙な時に、結核で夫は病院に入院。かいがいしく看病し、入院や薬や手術の費用に奔走する妻。何度も、妻はもう嫌だな、なんか急にかいがいしくなる自分が嫌だ、と思うのですが、わがままを言って困らせる夫。 最後に手術が成功して、快方に向かう時に、夫がみせる食欲は、「自分しか考えてない」そのもので、この夫婦のあやうさを旺盛な食欲でもって描きます。 美味しいとか、見た目がきれい、といった結果や表面でなく、その作る課程の音や食欲の影にある思惑、人間の食欲というものを別の面から、冷静に見つめ、描写する。 また、匂いや温度など体感といったものの使いかたの上手さもあります。 「草履」という短篇で息子の病気に苦労する母が出てきます。その母は、金策に苦労する訳ですが、最後にはなんともいえない余韻を持ちながらもおさまるところにおさまる。苦労というものをさんざしてきた女の内面の言葉で短篇は終わっています。 「若い女のひとは、春の感じの人も秋の感じの人もいます。それがおばあさんになると季節から外れて、無季の女といったふうになります。私は当分、焚火のにおいを身につけている女でありたく思うのです」 若い頃、知らず知らずに季節感を体から出している女たち。そして焚火のにおいを身につけている女になりたいと願う、ささやかだけれども的確な言葉でもってその気持を表す。 幸田文のこの短篇集の女たちは、若さを謳歌する、というより焚火のにおいを身につけている女たちです。 >> 続きを読む
2018/07/08 by 夕暮れ
宮城谷昌光
絶世の美女が目の前に現れ、自分のものになりそうだと思えた時、同時に何かおかしいとは考えられないものなのだろう。例え女の行く先々で人が死に続けている事を知っていても。怖いねぇ... >> 続きを読む
2013/06/15 by freaks004
古川 緑波
【いやぁ、恐ろしいほどの健啖家でございます】 古川緑波についてはほとんど知らないのです。 大変人気のあったコメディアンだという程度しか存じ上げておりません。 大変、食に関心を持たれた方だったようで、食に関する文章を多々残されているのだそうです。 本書は、そんな食にまつわるエッセイ的な文章をまとめた一冊です。 三部に分かれており、1悲食記、2食談あれこれ、3食日記なのですが、最初の悲食記に引き込まれてしまいました。 悲食記は、戦時中の食事事情を日記に綴ったものなのですが、いや、これが読ませるのです。 ロッパ氏は恵まれていた方なのだろうと思います。 人気コメディアンですから、お金もあったでしょうし、色々優遇もされ、またロケ先などでご招待を受けることもあったようです。 それでもやはり戦時中なので、思うに任せない食であり、その辺りを綴っているのですね。 時々御馳走に巡り合うと、ここぞとばかりに食べる、食べる。 その量たるや驚くべきです。 どうも一人前では不足のようで、書生を連れて食事に出かけ、2人前を注文し、書生の分まで一人で食べてしまうなんていうエピソードも出てきます。 書生はただそれを見ているだけということで、「かわいそうなことをした」とは書いているのですけれど……。 また、地方ロケや巡業も結構あったようで、地方では東京では食べられないような御馳走に巡り合うことも多かったようで、そのような料理を堪能しながらも、東京に残した家族に申し訳ないと語っています。 また、戦争末期になると東京も空襲されるわけですが、そういう時にも地方に出なければならず、東京に残してきた家族を気遣いながら仕事をする状況が描かれていきます。 料理の名前など、今では言わなくなったような言い方もあちこちに出てきます。 例えば『めがね卵』というのが出てきて、これ何のことだろう?と最初は分からなかったのですが、表紙絵を見て気が付きました。 多分、目玉焼き2つのことでしょう。 こういう例は他にも色々あって、興味深く読みました。 私、最初は軽く読み飛ばそうかな程度に思って手に取った本なのですが、第一部に引き込まれてしまって一気に読んでしまいました。 第二部は、あちこちの店で食べた様々な食事のエッセイです。 やはり食べる量がすさまじく、箱根ホテルでは、メニューに載っている食事を端から全部持ってこさせて平らげたなんていう話も出てきます。 本の中に当時のランチメニューが転載されているのですが、それほど品数は多くは無いものの、そうは言ってもこれ全部食べるのは到底無理と思えるような量です。 ロッパ氏は、ランチどころかディナー・メニューでもこれをやり、しかも1週間続けてやったのだとか。 とんでもないですね(糖尿病になったそうですが)。 甘いものも好きで、あちこちで食べた甘いものについても評論しております。 全体的に脂っこいものもお好きなようで、調理の仕方などにも一家言あったようです。 また、当時の料理や、食の文化史的な記述もあり、たとえば、東京では昔は牛鍋が主流だったのだけれど、それが関西から入って来たすき焼きに席捲されたのだなどという経緯も読むことができます。 第三部は日記形式に戻り、戦後はどういう食事をしていたのかが綴られます。 第一部の戦中日記とはうって変わり、豊かな食事を堪能されているのですが、やはり食べまくっております。 ロッパ氏は味噌汁が大好きだったようで、バターを塗ったトーストと味噌汁の組み合わせを強く勧めています。 是非食べてみろと。 バターと味噌が絶妙だと書いているのですが……そうかなぁ。 とにかく食べまくりの一冊で、特に第一部の悲食記は読ませました。 楽しい一冊ではないでしょうか。読了時間メーター□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2021/05/17 by ef177
森 真沙子
森真沙子の「転校生」に続いて、「転校生2」とサブタイトルの付いた「真夜中の時間割」を読了。前作の「転校生」は、少女小説風の抒情味と作者の森真沙子ならではの"奇妙な味"が、絶妙に配合された作品だったと思う。そして、今回の「真夜中の時間割」は、新卒の女性教師を主人公に据えることで、前作とは異なる角度、つまり教師の視点から「学校の怪談」を描いているんですね。電脳怪談、音楽怪談、過去への帰還、前世の誘い----いずれも話の展開に意外性があり、完成度はこの作品の方がずっと高い。修学旅行の夜の怪談話大会の盛り上がりを、そのまま作品化したような「百鬼の夜」は番外篇といった趣ですが、作者持ち前の"怪談愛"があふれていて、特に印象に残りましたね。なお、この作品は前作と単なる続篇以上の因縁めく関係にあるんですね。それが何なのかは、もちろん読んでからのお愉しみにしておきましょう。 >> 続きを読む
2018/05/10 by dreamer
鈴木光司
読了日はダミー。リングの続編という事で、リングのオチに非常に満足していた私は期待せず読み出した覚えが。裏切られましたねぇ。一気に話が大きくなり、それでいて壮大には破綻していない。後に映像化され貞子のブームが来るのも頷ける内容でした。絶望的なオチも相変わらずで見事な鈴木光司ワールド。 >> 続きを読む
2013/03/04 by loki
折原みと
【読了日不明】暮林エリカ、16歳。職業・アイドル。終戦50周年記念の映画、『HIROSHIMA・1945』に初主演することになったあたしは、なんと撮映中にタイムスリップ。昭和20年7月の広島で、ひとりの男の子と出会ったの。広島に原爆が落ちるまで、あと1か月。どうしたら、もとの時代に戻れるの。だけどあたし、いつのまにか…50年まえの日本で、“彼”を愛してしまったんだ。 >> 続きを読む
2013/12/12 by books
伊集院静
鎌倉を舞台にした、美しい小説だった。 27歳になった真也は子どもの頃からの心臓病で、病院生活を繰り返し、鴨川の病院から連れて来た志津という看護婦と鎌倉の家で静養している。 治る見込みのない生活の中で、志津は、月見廊下に花を活けて真也に見せようと思いつく。 数軒先に高名な生花の師匠が居て、そこから文枝と言う娘が花を活けに通ってくることになった。 活けられた花を見て、信也はぼんやり幻のように見た女性が現れて花を活けているように思う。 野の花をあしらった生花の飾り気のない美しさ、文枝が身に纏った雰囲気まで、彼が待っていた女性だった。 信也はアメリカの移植手術が成功したというニュースで、文枝との淡い未来を夢みる、しかし患者が7ヵ月後になくなったということを知る、常に背後から死の足音を聴き続けたような毎日が、また続く、かすかな希望が崩れていく、彼の絶望感が痛々しい。 恋に落ちた二人に気がついて志津の嫉妬は狂気を帯びてくる。外に風に当たるだけでも体調を壊して寝込む信也は、文枝に会うために志津の目を盗んで浜に月を見に出る。出入りの道具屋の機転で、二人は出会い、結ばれる。と言う少し現代の恋愛小説には珍しい純愛が、静かな美しい文章で書かれている。鎌倉に咲く季節の花、特に野山の何気ない花が、陶器の一輪挿しや竹かごに活けられる、月見の夕べはすすきに白い桔梗、時には白萩や吾亦紅、山から摘んできた杜鵑、ひよどり草、竜胆などが信也が住んでいる家の書斎や茶室、築山を配した庭などにしっとりと馴染んでいる。 慌しい現代の恋愛に比べて、病身の青年と和服の似合う女性という組み合わせに、どことなく距離感があるにしても、この品のいい作品を何かの折に心静かに読みかえしてみたい。 道尾さんの「月と蟹」を、読み込まれて書かれている上に、子どもたちの住んでいる鎌倉の、風景や海の香が漂う解説を読んで、伊集院さんのこの「白秋」を読んでみたくなった。 一度は読んでおかないといけないと思ながら漏れているものがまだまだ多い。 >> 続きを読む
2015/03/10 by 空耳よ
田中芳樹
アメリカへとやってきた竜童四兄弟の前に、地球の闇の支配者・四姉妹の手が伸びるが――!?今回、超能力部隊が登場します。得kが枯れている経歴などからして彼らはすごいエスパーだったのでしょう。けれど、竜童兄弟の前では形無しでした(笑)竜童兄弟はもちろん、大人3人組+松永くんのやりとりが好きだなぁ。【http://futekikansou.blog.shinobi.jp/Entry/216/】に感想をアップしています(2010年11月のものです) >> 続きを読む
2014/03/07 by hrg_knm
村上龍
「69」の続編。ケンとナカムラが中年になっている。二人は、ひたすらに食べ、ひたすらに飲み、またひたすらに語り合う。読んでいてお腹が苦しくなってくるから不思議である。村上龍のエッセイを読んでいるような感覚にもなる、ちょっと変わった小説である。「69」を読んでなくても楽しめますが、できれば両方読むことをおススメします。 >> 続きを読む
2014/06/13 by che_k
中国の悪女として伝えられている絶世の美女、夏姫。悪女と言われる夏姫を、ではなぜ彼女は巫臣だけは死ななかったのか。という点で書かれている作品。絶世の美女なのに、悲惨な人生を送っている彼女を知り、一国の王の娘であっても、女性は道具として扱われてきたと感じた。この小説には主役の夏姫本人はあまり登場しない。夏姫から風を感じることができる、と書くこの小説には、本人よりも風の描写が多く書かれている。どの場面にも夏姫を感じることができるのかもしれない。それを思うと読み返したくなった。 >> 続きを読む
2011/09/02 by bob
谷村志穂
連作短編集。1話目の脇役が2話目で主人公、2話目の脇役が3話目の主人公って具合に話が進みます。各々が自分の人生のなかでは自分が主人公。これと言って面白いって話じゃないけど人それぞれ…それなりに生きてます!(b^ー°) 連作短編ってのは結構好きみんなそれぞれ自分の人生をそれなりに生きている(●´ω`●)ゞエヘヘ >> 続きを読む
2012/07/04 by あんコ
神尾 葉子
花より男子11巻。ティーンオブジャパンに出場するために2週間、華道に茶道、英会話と猛特訓するつくし。これだけ徹底的に投資をして女を磨くっていいなーなんてちょっと羨ましくなってしまう。そして大会本番!展開は今に始まったことではないがもはや現実的ではなく、おいおいと突っ込みたくもなるが、根っからのお嬢様ではないつくしが頑張っているのは応援したくなる。次はいよいよティーンオブジャパンラストの3次審査へ! >> 続きを読む
2014/08/15 by sunflower
和月伸宏
るろうに剣心 第6/28巻石動雷十太編、月丘津南編に加え、番外編「戦国の三日月」を収録。石動雷十太は何なの!尻すぼみ感がガックシ...余りにもしょうもない石動雷十太は語る点も無いが、弟子?の塚山由太郎が今後の伏線になったので良しとしたい。月丘津南編に関しては、相楽左之助。いや、相楽総三の存在感がグッと来た。決して変な意味では無いのだが、美形で少し線が細い王子タイプのキャラが好きなので、彼のルックスは、まさにそれを満たしてくれる。既に亡くなっている人物だが、番外編とか外伝とか言う形ででも、彼が颯爽と暴れまわる姿を見てみたいものだ。番外編「戦国の三日月」も、これまた好みのキャラクター比古清十郎が登場。宝刀「冬月」が作り出す三日月のシーンには痺れてしまった。わずかなページ数なので、正直物足りなさは残るのだが、三日月のシーンを持って来られては大満足と言わざるを得ない。1巻毎にレビューを書いてから次を読んでいるのだが、正直ドンドン先を読みたくて仕方が無い。 >> 続きを読む
2012/09/20 by ice
竹内 桜
5巻ゆえ基本構造は割愛。 【コンビ復活!!】 ユリ編が収束し、この作品には珍しくレギュラーに残留してハプニング要因。 定石からちょっと外したあたりが魅力的だと思っていたが、単に話の筋がブレていただけなのかもしれない。 読み進めるほど、マリの開発理由がはっきりしなくなる。 最後に帳尻が合うのかもしれないが、都合でブレていく一方な気配もなくもない。 多分「謎の美少女」編に突入しているんだと思われる。 主人公の経済状況を考える。 発明家の両親の遺産があるらしい、ある程度の財産があるという事は特許の様なものがあるのであろう。 なら両親が無くなっても収入はあるのかな。 でも、貧しいという設定にしたいから・・・変な矛盾を感じなくもないけれど、無理しなければ安定なぐらいであり、マリたちの維持費と開発費で消えて行っていると考えればいいのかな。 マリの開発費についても漠然と考えたけれど、次巻以降。 微妙と絶妙のギリギリを攻めている印象。 >> 続きを読む
2020/11/30 by 猿山リム
萩尾望都
心に残る作品だった。最後まで読むと、けっこういろいろ考えさせられる。自分の来し方をいろいろ反省させられた。なかなか、人は誰しも不器用で、愛を受け容れることも、与えることも、必ずしもうまくできない時もあると思う。しかし、心の戸口に立っていつも戸を叩き続けている、「愛」ということに気付くか、気付かないか。あるいは、気付いて戸を開けるかどうか。それが、人生には、自分自身にとって、とても大切なことなんだろうなぁと思う。 >> 続きを読む
2014/03/30 by atsushi
ある方から以前いただいた一冊で、とても面白かった。表題作は『トーマの心臓』の番外編で、これも面白かったのだけれど、他の三作品もとても心に残る良い作品だった。「城」の中の、人は自分の城を自分の石を積み重ねて心の中につくるけれど、それは白と黒の両方がそろってないと本当はいびつなもので、良い心も悪い心もしっかりバランスよく自分で理解して整理していないと、どちらかだけというのはありえないというのは、なんだか考えさせる話だったし、たしかになぁと思った。また、第二次大戦のパリが舞台が「エッグ・スタンド」の、生も死も愛もきわどいところにある、というメッセージは、なんだか胸に迫るものがあった。「天使の擬態」も、良い作品だった。萩尾望都は、人生の難しさや人間のあやうさや業について、さらっと鋭く描いているところが本当にすごいもんだと思う。 >> 続きを読む
2014/06/15 by atsushi
サマセット・モーム , 大岡玲
有名な本はとりあえず読んでおこう、と図書館で借りたんですが、1ページの字数が少なくて字も比較的大きい。あれ?子ども向け?と思いながら読み、、、あとがきを読んで、これ、原作の3分の2弱しかないそうです^^;。内容はわかったんですが、ちょっと残念。ちゃんとしたのを読んでみたいと思いました。芸術家小説というのは、>だいたい、この種の小説に登場する芸術家で人格円満な者はいないと相場は決まっていて、常軌を逸した行動、狂ってるかのごとき情緒不安定、一途な情熱といった要素を必ず持っている。と訳者があとがきで書いているが、「ジャン・クリストフ」もそうだったな、たしか・・・。このストリックランドも、なんちゅう非道い、自己中人間。普通に生活してる人間から見ればそう見えます。タヒチは彼にとっていい場所だったのでしょう。でも、いきなり妻や子どもを捨ててしまう、親切な友人の妻を寝取って無慈悲に捨てる、、、傍若無人で、人の親切にも嫌悪感丸出しの振る舞い、、、絵を描くためなら何やってもええんかいっ!て思うわ。 自分の人生を生き切る…って、自己中人間は結局本当の幸せを感じることはできないんじゃ? だって、”自分”に縛られてて自由じゃないから。けれど、きっと彼は世の中の常識が嫌になって、何もかもから(特に女性や家族や世間)自由になりたかったんだろうなあ、と思います。自分を放っておいてくれることを望む、てところはわからなくはない。ただ社会に暮らすと難しい。なので、100%嫌なヤツとは思えない、ちょっと気の毒な人。”自分”からも解放されればもっと楽に生きられたんだろうけど。ちなみにゴーギャンはここまで非道い?人ではなかったそうです。ついでに、月は芸術 六ペンスは俗世間を表してるそうです。 ・・・カットされてないのをもう一度読んでみようかな?でも、けっこう面白かったです。 >> 続きを読む
2015/10/13 by バカボン
滝口 康彦
滝口康彦の「上意討ち心得」は、八篇の作品からなる、士道小説の傑作だ。逼迫して、食えなくなった浪人が、貧窮の果てに、大名屋敷の門前で切腹をさせてくれと申し出、金子を貰い受けることを思いつくが、かえって竹光で腹を切らされてしまうという、武家社会の底辺にある残酷さを打ち出した「異聞浪人記」。一度、藩士に下げ渡した愛妾を、藩の都合でもう一回、藩主が召し上げてしまうという、封建君主批判を込めた「拝領妻始末」など、著者の滝口康彦は、武家社会の掟の厳しさや非人間性という視点から、常に作品を世に問うてきた作家だと思う。「異聞浪人記」は、小林正樹監督、仲代達矢主演の「切腹」で、また「拝領妻始末」は、小林正樹監督、三船敏郎主演で映画化され、ともに日本映画史に残る屈指の名作として、忘れ難い印象を残してくれました。当時、映画界は、講談調の東映時代劇が衰退し、折からの忍者小説や残酷もののブームに歩調をあわせ、シリアスな政治劇や封建体制下の矛盾をついた作品が、数多く作られるようになっていました。そうした意味合いから、映像畑においても、武家社会の暗黒面に目が注がれていった時代で、この後、世相的にも管理社会の問題が露呈してくることを考えれば、これらの作品の映画化が、時代を先取りしていたことは注目に値すると思う。表題作の「上意討ち心得」に関しても、上意討ちとは本来、討手の事情を挟むことの許されない至上命令であり、殺人という行為を、主君の一言で遂行したその後に、一つの問題が生じるというように、作品的にもひとひねりがしてあるのがミソと言えると思う。著者に関して言えば、なぜ特権階級の武士のことばかり描くのか、という質問に対して、「彼もまた人間であるから」と答えたそうです。今日的な視点から、侍を封建時代の象徴として捉える、というのは、ある意味、簡単なことだろうと思う。そしてまた、武士道を賛美するのも容易なことであろう。だが、それよりも以前に、彼らは武家社会という枠組みの中で、この本に収録された諸作に見られるような生き方しか許されなかったのだ。その中で、彼ら侍が、人間としてどのように叫び、悩んだのか。それが、滝口康彦の作品のテーマになっているのだと思う。冷徹な筆致によって綴られた歴史の実相が、ひしひしと私の胸に伝わってくる、読み応えのある作品集でしたね。 >> 続きを読む
2019/05/25 by dreamer
クレイ レイノルズ
クレイグ・レイノルズの「アガタイトの葬列」は、不思議な小説だ。とりたてて、どうということもないのに、つい読み耽ってしまう。舞台は、テキサス州の小さな町。保安官エイブルとひょんなことから銀行強盗に身を堕とすブリードラヴ。この二人の男が一応主人公だが、その間を縫って、この町に住む人々の視点が随所に挿入される。農場主と結婚して後悔している人妻、人生に何の情熱も持たない金物屋、浮気に積極的な牧場主の妻、大学に進むことを夢見る青年と、その希望を打ち砕く銀行家、そして淫乱な夫婦。それらの人物のエピソードと述懐が何の脈絡もなく、次々に語られていく。これは、町全体を描く時によくあるパターンで、決して珍しくはない。若い女性の惨殺死体が発見され、保安官エイブルがその捜査に乗り出すという縦糸があり、さらに時制がごちゃごちゃになっているという仕掛けもあるが、それも取り立てて言うほどのものではない。これらの様々なエピソードが、クライマックスに一直線に向かっていくのも、この手の小説にはよくあるパターンだ。つまり、ことさら目新しい手法ではないんですね。それに強烈な謎があるわけでもない。ところが、読み始めるとなぜかやめられないんですね。それは、流されて流されて、遂には銀行強盗にまで身を堕とすブリードラヴの描き方に現われているように、"人生の曲がり角の風景"をこの著者が鮮やかに描いているからだ。例えば、ハイスクールのフットボールの花形選手と結婚したはずなのに、毎日が育児と労働に追われ、夫との会話もなく、人生に何の希望も持てない農場主の妻がいる。こんなはずじゃなかったという彼女の思いは、ブリードラヴにも共通するものだ。しかし、夫には夫の言い分があって-----という風にドラマが濃いのがこの作品の核の部分だ。ほんのちょっとした違いで人生が狂い始める風景を、鮮やかに描いていて、実にうまい。ラストで噴出する狂気が、この町を特殊なものに見せてはいるが、実はこの町に住む人々はまぎれもなく私たちなのだ。地味な小説だが、そういう"普遍的な力"を物語の底に隠していると思うんですね。 >> 続きを読む
2019/01/19 by dreamer
北村薫
おもしろかった。17歳が42歳にスキップ!教師として教えれるのかなと思ったが、どうにか慣れてむしろフレッシュで周りにいい影響を与えてる。でも、仕事ってはそういうとこがあると思う。持ってる責任感・意欲・素質も?、があれば、時間・経験も大事だけれどそれを上回る。家族との関係では本人はもちろんだが、娘も夫もつらいかと。夫が垣間見せる妻への思いがせつなくていい。夫とはこれから時間をかけると、夫婦のように男女の関係に戻っていくのだろうか?三部作?のようなので、次も読みたい。 >> 続きを読む
2017/04/29 by Matching
出版年月 - 1995年8月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト
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