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1999年4月発行の書籍

人気の作品

      どちらかが彼女を殺した

      東野圭吾

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      3.6
      いいね!

      • 多くの変化球的な作品でミステリを我々読者に提供し、問い続ける作家・東野圭吾の「どちらかが彼女を殺した」は、エラリー・クイーンばりの犯人当てで挑戦してきた作品だと思う。

        警察官の和泉康正が、妹の部屋を訪れた時、妹はもう死んでいた。
        自殺に見える状況だったが、康正は、数々の証拠から、これが他殺であると確信する。

        復讐を誓った康正は、密かに他殺の証拠隠滅を図りながら、容疑者を二人に絞っていく。
        だが、彼の前に立ちはだかる管轄署の刑事・加賀は、康正の偽装を見抜き、康正と真犯人に迫っていくというストーリーなんですね。

        この作品が、究極のフーダニットと言われる所以は、本来あるはずの謎解きと犯人指摘の場面が描かれていないという、著者の創作的な冒険に尽きると思うんですね。

        解決に必要な手掛かりは、全て作品中に示したので、後は読者に推理を委ねるという著者からの挑戦状は、確かに我々読者に、ある種の緊張を強いるだろう。

        数々の問題作で著者が追求してきたのは、ミステリのお約束=コードを自覚的に浮き彫りにすることだったが、コードのない、シンプルな作品に仕上げつつ、不可欠なシーンを省くことによって、著者の意図は、ある程度は成功していると思う。

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        2018/08/30 by dreamer

    • 他10人がレビュー登録、 66人が本棚登録しています
      ヒカルの碁

      小畑健

      集英社
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      4.2
      いいね!
      • 20年近く前に読んだ本。
        佐為に対して「囲碁で負けたくらいで入水自殺なんてするなよ!」と突っ込んだ記憶がある。
        しかし今にして思えばそれくらい囲碁に対する執着心が強かったからこそ守護霊?となってヒカルの元に現れることが出来たんだろうなあと。
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        2018/01/30 by kikima

    • 他3人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      新解さんの謎

      赤瀬川原平

      文藝春秋
      4.2
      いいね!
      • 三省堂から出版されている「新明解国語辞典」が怪しいとは、かねがね耳にしていたのだけれど、これほどまでに、おかしみと深みに満ちた一冊だったとは-------。

        この「新解さん」とは、著者の赤瀬川原平とその若い友人・SM嬢が、「新明解国語辞典」につけた愛称だ。
        この本を読めば、二人が親しみを込めて、そう呼ぶ気持ちがよくわかります。
        とにかく、この辞典は、辞典ばなれして自己主張というか個性が際立っているんですね。

        例えば「世の中」の語義はというと、「同時代に属する広域を、複雑な人間関係が織り成すものととらえた語。愛し合う人と憎み合う人、成功者と失意・不遇の人とが構造上同居し、常に矛盾に満ちながら一方では持ちつ持たれつの関係にある世間」となっている。

        言葉というものを絶対的に解明せんという、強すぎる意志と野望に満ち満ちた解釈をしてくれるのだ。

        赤瀬川原平とSM嬢が看破しているとおり、「新解さん」は「攻めの辞書」なのだ。
        普通、辞書というものは、識者や辞書マニアからミスを指摘されるのを怖がって、解釈を無難におさめるものなのに、「新解さん」は、そんなものはまるで気にしない。
        そこが素晴らしいし、清々しいんですね。

        その中でも、私が特に気に入ったのは、「動物園」の語義だ。
        「生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるためと称し、捕らえて来た多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀無くし、飼い殺しにする、人間中心の施設」と、怒りの表明までしてみせるのだ。
        「新解さん」って、物事の本質をズバリとついているし、それに、なんて人間的なんだろうと思いますね。

        こうした「新解さん」の人間像(?)に、実に絶妙なスタンスで迫っていく赤瀬川原平とSM嬢の掛け合いが、またすこぶる愉しい。

        まさにこの本は、観察と事物の解釈と面白がりの達人・赤瀬川原平の面目躍如の一冊だ。
        この本を愉しめない人は、ちょっとどうかと思う、それほどまでに愉快な本だ。

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        2018/06/11 by dreamer

    • 他3人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      銀の匙

      中勘助

      岩波書店
      カテゴリー:小説、物語
      4.7
      いいね!

      • 今回読了したのは、日露戦争から大正期にかけて一大ブームを巻き起こしたと言われている、追憶文学の白眉とも言える中勘助の「銀の匙」。

        この作品は、子供時代の思い出を、ある意味淡々と述懐していく。
        とりたてて大事件も起こらないんですが、何がいいかと言うと、恐らく著者本人の投影らしき、この語り手の子供が、凄く人嫌いなのです。

        そこをこう書いています。「生きもののうちでは人間がいちばんきらいだった」と。

        生きもののうちって、何か凄い言い方だと思うんですね。
        縁日だのお祭りだの、とにかく人混みがまるで駄目なんですね。
        こういうところが、私も共感を覚えるところで、とても素敵です。

        そのうえ、どこか懐かしくもある。掛け布団の日向くさいところに顔を寄せたりとか、天井の染みが不気味でしょうがなくて、育ててくれてる伯母さんと一緒に寝たりとか、育った時代が私とは全く違うのに、子供の感性において普遍性を獲得しているんですね。

        そうかと思うと、〈ひらがなの「を」の字はどこか女のすわった形に似ている〉ので、慰謝を求めてこの字ばかりを並べ書きしていたとか。

        聞けば、五つくらいまでは、ほとんど土の上に降りたことがないくらいの乳母日傘ぶりだったらしいのだ。
        なよやかさと、選ばれし者の恍惚みたいな感覚の、いかにも芸術家になるべくしてなった人らしいセンスを感じます。

        お兄さんと海に行くところもそうで、みんなは嬉しくてはしゃいでるんだけど、自分だけうじうじしてるもんだから、〈お友だちはふりかえりふりかえりしてたがしまいに立ちどまって くたびれたのか、気分でもわるいのか と親切にたずねたので正直に「波の音が悲しいんです」〉って答えるんですね。

        多分、この子にとって世界はわけもなく哀しいんだろう。そこが実にいいんですね。
        この子にとっては、世界が哀しみでできているという感じなんですね。

        それから、露天で葡萄餅を売ってるお婆さんのエピソードも凄く好きですね。
        〈七十ぢかいしなびかえったばあさんが ぶどうもち とかいたはげちょろの行灯をともして小さな台のうえに紙袋を数えるほどならべてるがついぞ人の買うのをみたことがない。---私は市のたんびに幾度となくそのまえを行きつもどりつして涙をためていた。が、いつも買いおおせずに本意なく帰ってきてしまった。とはいえある晩とうとう思いきって葡萄餅の行灯のそばにたちよった。ばあさんはお客だとおもって「いらっしゃい」といって紙袋をとりあげた。私はなんといってよいかわからず無我夢中に二銭銅貨をほうりだしてあとも見ずに少林寺の藪の陰まで逃げてきた。胸がどきどきして顔が火のでるように上気していた〉。

        実にいいなあと思いますね。この侘しいものへの怯えの感性。

        子供なのに気鬱をかこっているところもたまらない。
        それと、女性性が強いというか、女の人の方が好きなんですね、この子は。

        男の人のことは、ちょっと怖いと思っている。山の手に越してやっと友達ができるんですが、それも女の子。
        そういう、何というか、アンチ・マッチョ的な性格も可愛い。

        母親でも姉でもなく、お婆さんとか伯母さんていう人たちへの思慕、無垢なんだけど、ひたむきな女性たちへの温かさも特徴的なんですね。

        これは多分、病弱な子供だから面白いんだと思う。やっぱり、体の弱さと子供のイノセンスというのが、何か喪失感みたいなところで、クロスしているんでしょうね。

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        2018/09/21 by dreamer

    • 他2人がレビュー登録、 10人が本棚登録しています
      奪取

      真保裕一

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.3
      いいね! ooitee
      • 親友の雅人が背負った借金1260万を返済するため、道郎は偽札づくりに手を染める。
        ところがその過程で、偽札づくりのプロのジジイと出会う。

        もう20年以上前の作品なので、さすがに騙しのテクニックが古いのは否めない。
        自販機にしても、テレカにしても昔だし、札も1万円以外古い紙幣。
        それでも騙し騙されのやり取りは面白い。

        コンゲームとしては偽札づくりの過程に真実味がありで、次第に完成していくのが面白い。

        そして相手は悪徳企業と暴力団。
        そのため名前を変えてまで逆転しようとしていく。

        上巻は偽札が完成していくまでだが、下巻はどうなるのか楽しみ。
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        2019/03/13 by オーウェン

    • 他2人がレビュー登録、 10人が本棚登録しています
      奪取

      真保裕一

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.4
      いいね! ooitee
      • 騙された企業とヤクザを嵌めるため、本物に近い偽札を完成させた道郎一行。
        だが受け渡しの際のやり取りである人物に悲劇が。

        逆転のコンゲームを完成させる下巻。
        偽札づくりは更に精巧な物へと近づいていき、機械と銀行員双方を騙すほどの完成度に。

        そして出所してきた雅人と幸恵を加え、大掛かりな逆転劇のためヤクザと交渉へ入っていく。

        事件の顛末といい、道郎たちの今後。
        そして文庫化に沿って変えたラストの結末。
        まあさすがに凝り過ぎの気もするが、この作品の面白さが失われるとは思えない。
        >> 続きを読む

        2019/03/14 by オーウェン

    • 他2人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      東京異聞

      小野不由美

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 明治元年七月、江戸は東京と名を変えた。
        それから29年後-----人魂売り、首遣い、闇御前、火炎魔人といった魑魅魍魎の妖しの者どもが、帝都の闇に跳梁し、怪事件を巻き起こしていた。

        この事件を追う新聞記者・平河新太郎と便利屋の万造は、闇御前に襲われかけた鷹司侯爵家の後継候補・常熙に事情を訊くために侯爵邸を訪れた。
        やがて、新太郎は、鷹司家の家督争いが一連の事件と関連があることを知るのだった-------。

        この「東京異聞」の作者の小野不由美は、もともと「十二国記」シリーズや「悪霊」シリーズなどのティーン向けの小説で人気のあった作家で、その彼女が初めて手掛けた大人向けの作品なんですね。

        この作品は、そうした小野不由美のストーリーテラーとしての本領を発揮したもので、極彩色の絵巻物を見ているような、そんなゾクゾクするような陶酔感に私を誘ってくれるんですね。

        本格ミステリであり伝奇ミステリの味わいのあるこの作品は、開化の世を騒がす"怪異の正体"を"合理"の白日の下に曝さんと、新聞記者の平河新太郎と便利屋の大道芸人の万造が真実の解明に向けて奔走するんですね。

        一方、事件の幕間には謎の黒衣が躍り出て、娘の形をした人形と語らいを交わすことで、人形が人に変じ人が傀儡と化す"繰の宴"とでも言うべき、物語の幻想色も一気に高まっていると思う。
        そして、狂言廻しよろしく彼らを自由自在に操って、作者の小野不由美は、夢幻の都の探偵綺譚をぽつりぽつりと始めるのだ。

        跳梁跋扈する魔人たちの所業は、この世のものとも思えず、事件は混迷の極に達するが、大団円の花見の場ですべての真相は、合理的に解明される。

        しかし、この作品の真に驚くべき部分は、そのあとなんですね。
        これはもう読んでからのお楽しみとしか言えませんが、その結末に至るための伏線もきちんと張ってあって、実にうまいんですね。

        この作品は、本格ミステリの最高峰、不滅のバイブルだと信じて疑わない、中井英夫の「虚無への供物」の系譜に連なる意欲作だと思いますね。

        >> 続きを読む

        2018/07/05 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 9人が本棚登録しています
      玩具修理者

      小林泰三

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      3.3
      いいね!
      • 夏なのでホラーでも(笑)
        どんな玩具でも修理してくれると噂の玩具修理者のもとへ殺してしまった弟を連れていく少女が主人公の表題作「玩具修理者」と、ある実験をきっかけにタイムトラベルを繰り返し認識の狭間に落ちていく男を描いた「酔歩する男」の二編収録。
        「玩具修理者」は著者のデビュー作とは思えないほどよく出来ているなーと。完成度が高く、ぐいぐい引っ張ってくれる引力がすごい(笑)
        多少グロ表現ありますので、苦手な方はお気をつけを。
        >> 続きを読む

        2015/08/02 by ao-ao

      • コメント 4件
    • 9人が本棚登録しています
      弟切草

      長坂秀佳

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 夏なのでホラー!ということで昔ゲームをやったことが有る『弟切草』の原作を読んでみました。

        ナミとナオミとか超懐かしくって超怖いー

        でもゲームの方がドアがギーギー鳴る音とか聴覚の刺激も有ったせいか数段怖く感じました。

        でも、原作だとこのエンディングなんですね。

        違うエンディングの方が好きでした☆
        >> 続きを読む

        2012/07/30 by sayaka

      • コメント 5件
    • 5人が本棚登録しています
      機動戦士ガンダム第08MS小隊

      矢立肇 , 大河内一楼

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 誰もが知っている機動戦士ガンダム
        その一年戦争時の外伝にあたるのがこの第08MS小

        表紙はガンダムではありません!陸戦ガンダムです!(わからない人のが多そう)
        元々アニメでそれが小説化したんですけど、なんていうかアニメよりいい出来に仕上がっている感じです

        殴ったね!?とかいってるのよりリアルに戦争というものを表現しています
        まぁそんな感じにガンダム小説というより戦争小説といった方が近いですね

        ガンダムは知っているけど別に…とかいう人にもお勧めできる作品だと思っています
        >> 続きを読む

        2014/01/31 by ちあき

      • コメント 3件
    • 2人が本棚登録しています
      光は東方より

      平川祐弘 , HearnLafcadio

      講談社
      5.0
      いいね!
      • 小泉八雲の名作選集だ。

        日本人の持つ霊的なるものに対する小泉八雲の哲学的な思いがじんわりと伝わってくる。日本人以上に日本に詳しい彼が、西洋人としてどのように感じているのか書き綴っている。西田幾太郎氏の解釈によれば、ハーン氏の見方にしたがえば、われわれは幾千年来の人格の複合体ということになるとか。繊細な描写を読むと、ハーン氏が暮らした松江の家を訪問したときのことを思いだす。味わい深い作品だった。 >> 続きを読む

        2017/04/22 by KameiKoji

    • 1人が本棚登録しています
      夫婦善哉

      織田作之助

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 2011年最初の1冊。
        織田作は大好きなので、それ以上何も言うことはありません。
        度読んでもしんみりします。 >> 続きを読む

        2011/01/02 by sasa

    • 1人が本棚登録しています
      柔らかな頬

      桐野夏生

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • お気に入りの女流作家の中で、高村薫、宮部みゆきと並んで、いつも作品が発表されるたびに読んでしまう桐野夏生の第121回直木賞受賞作「柔らかな頬」を読了しました。

        北海道の支笏湖近くの別荘から、五歳の娘・有香が失踪して四年が過ぎた。
        夫をはじめ、まわりは皆、有香のいない現実を受け入れたが、カスミには、どうしても受け入れることができなかった。

        北海道の灰色の海べりの寒村を、十八歳で家出して二十年、家族という檻から脱出しようと男を愛した、それが有香を失踪させたのだから。
        有香の行方を突き止めなければ、どうしても折り合いのつけられない現実からの脱出はないのだ。

        正義感ではなく、ただ勝者になるために、北海道警一課刑事への道を一直線に走ってきたが、癌で余命半年と宣告され、本当の時間を生きようとする内海とともに、カスミは有香の行方を捜し続けるのだった-------。

        桐野夏生は、不可解な事件の真実を追求する母と元刑事というミステリ的な構成の中で、世間と折り合いがつけられず、自分が自分であろう、本当の時間を生きようとして漂流する人間を、じっと凝視しながら描いていく。

        あらゆる現実にあらがい脱出したがるカスミ、競争好きでカッコつけることしか考えなかった内海、何不自由のない生活からとことんはずれるカスミの愛人・石山。

        この作品に登場する人間たちは、自分勝手に見えるが、それは人と人の絆といった幻想を、すっぱりと断ち切って、絶対に実現しないことを承知の上で"見果てぬ夢"を夢見る者だけが持ち得る自由なのだ。

        「OUT」で、人をがっちりと捉えている日常の壁を突き崩し、逸脱していく女を描いて論議を呼んだ桐野夏生は、それから二年後に発表した、この「柔らかな頬」で、カスミや内海が、有香の失踪のシーンを想像する"藪の中"的な想像力に、ミステリアスな興趣を横溢させながら、人が心の奥深くに秘めているだろう欲求を激しく挑発してみせた。

        現代を正面から捉えようとするミステリとは、こういう作品を言うのだと思う。

        >> 続きを読む

        2018/08/05 by dreamer

    • 3人が本棚登録しています
      落日の宴 勘定奉行川路聖謨

      吉村昭

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!

      • 今回読了した幕末ものの歴史小説は、吉村昭の「落日の宴 勘定奉行川路聖謨」。

        吉村昭は、埋もれた歴史を掘り起こした多くの歴史小説を書いているが、この作品は、そうした吉村昭の魅力が横溢した傑作だと思う。

        幕末の外交史は、1853年のペリー来航によって始まるというのが、一般的な歴史認識だと思う。しかし、現実の歴史はそのように明確に区分されるものではない。じわじわと迫り来る外国の影。

        ペリー来航時には、開国の機は熟していたとも言える。そして、開国による急激な変化。この作品は、その時代に生き、消えていったひとりの人間の物語だ。

        この作品の主人公の川路聖謨は、ペリー来航直後に開国を求めて長崎へ入港したロシア使節プチャーチンとの交渉役のひとりだった。幕末といえば、西郷隆盛や坂本龍馬などの有名人を主人公にした小説が圧倒的に多いが、川路のような一官僚である幕臣にこそ、幕末という激動の時代が色濃く反映されると思う。

        川路は下級旗本である川路家の養子で、太平の時代なら、さしたる出世をすることもなく生涯を終えただろう。彼が、プチャーチンと交渉した当時、勘定奉行という幕臣としてはトップの地位にいたのは、家の格式にとらわれず、川路のような優秀な人材を抜擢できる時代の趨勢があったからだ。

        倒幕を推進した薩摩や長州の志士たちが、いずれも下級の武士たちだったように、幕府側も才能次第では時代の表舞台に立てたのだ。

        この作品では、川路ら幕府側の役人たちが、プチャーチンとの交渉に苦慮する様子が終始描かれている。現場の担当者は、上司にお伺いを立てないことには何も判断できない、与えられた権限以上の交渉ができないという、外交交渉における日本人の特質は、現在もこの作品に見る川路らと同じだ。

        しかし、現在の日本の外交が大国、特にアメリカに半ば「右へ倣え」なのに比べれば、川路は「ダメなものはダメ」だと、はっきりと言い放つ豪胆さを持ちあわせていたと思う。

        後に下田へ再び来航したプチャーチンとの鬼気迫る対応ぶり、地震と津波による下田の破滅、ロシア船の損傷という思わぬアクシデントに見舞われてからの日露双方の対応は、血生臭い話や英雄物語が主流を占める幕末のエピソードにはない、ほのぼのとした魅力がある。

        栄光と挫折は、幕末のような激動の時代に生きた者の宿命かもしれない。川路もまた幕臣として最高の地位に就いたが、井伊直弼が大老に就任し、安政の大獄が始まると、川路は次期将軍候補に一橋慶喜を推したため失脚。やがて、病を得て1866年、官軍の江戸入りの最中に、ピストル自殺を遂げるのだった------。

        吉村昭の筆致は、これらの物語を淡々とまるでノンフィクションを読むかのように描きながらも、読む者を虜にしていくのだ。


        >> 続きを読む

        2018/03/24 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      ブラジル蝶の謎

      有栖川有栖

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      3.8
      いいね!
      • 美しい蝶だらけの部屋で殺されていた。なぜ蝶だらけにされていたのか――?

        国名シリーズ第3弾です。
        短編集ですね。5編が収録されています。

        表題作は、今じゃとても描けない事件です。
        普通にどこにでもあるものが鍵を握っているわけですが、それがなかった時代は確かにあったことを想像させられました。

        【http://futekikansou.blog.shinobi.jp/Entry/181/】
        に感想をアップしています(2010年10月のものです)
        >> 続きを読む

        2014/02/06 by hrg_knm

      • コメント 6件
    • 13人が本棚登録しています
      小説角栄学校

      浅川博忠

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 田中角栄氏そのもの、そしてその影響を受けた政治家の系譜。

        田中角栄。その清濁併せ呑む度量に改めて感服した。

        角栄学校は竹下登、細川護熙、羽田孜、橋本龍太郎、小渕恵三と5人の首相を輩出した。

        ロッキード事件その他での疑惑は言うに及ばず、ダーティーなイメージが付きまとう田中角栄氏。
        存在感、印象度という指標では圧倒的なものが有り、おそらく好感度も高いはずで有る。

        愛娘の眞紀子氏に大部分遺伝が見られるように、豪快かつ軽妙なトークという派手さが目立つが、その裏に、極めて細やかな心遣いが出来る人だったらしい。

        角栄学校の卒業生を含め、中曽根氏、小泉氏を除いては、彼の後に存在感を示した首相はいないし、彼らもまた、角栄氏の存在感には及ばない。

        その理由を考えてみたところ、自分の言葉で語っているかという点に行き着いた。
        角栄氏ほどでは無いにせよ、中曽根氏、小泉氏は自分の言葉で語っていたと思う。

        その後、彼の系譜に連なる人間にはリクルート事件などが降りかかるわけだが、金権政治の上っ面だけはキッチリ真似出来ているという皮肉な結果が垣間見える。

        人材教育で難しさを感じるのは方法は伝えられても、そのバックボーンとなる考え方や熱意が伝えきれないこと。

        つまりセールストークの言い回しなどは誰にでも教えられるが、懐に切り込む勇気だとか、相手を落とすための迫力だとかは、その人個人の資質に大きく影響してしまうという点。

        当事者意識を持って能動的に折衝に向かう人なら全く問題ないが、受動的な人がセールストークだけを磨くと、政治家の答弁みたいになり、人の心を打たないのは、ある意味で当然の結果なのだと思う。
        角栄氏は偉大だったと思うが、人材育成についてはこの問題を解決していたとは言えないと思う。

        眞紀子氏には大きなポテンシャルを感じ心惹かれる。頑張って欲しい。
        >> 続きを読む

        2011/07/21 by ice

    • 1人が本棚登録しています
      ONE PIECE 巻八 死なねぇよ

      尾田栄一郎

      集英社
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      4.5
      いいね!
      • ONE PIECE 第8/67巻(未完結)

        首領クリークとの対決を終え、仲間に加わるサンジ。

        サンジの加入!この巻はもうそれが全て!

        善戦するものの、所詮はもはや雑魚扱いされることが見えている首領クリーク。
        悪あがきもそこそこにルフィに成敗されて胸がすーっとした。

        何とか一命を取り留めたギンも、気持ちも新たに海賊稼業に戻るようで、いずれ来るで有ろう再会が楽しみ。

        なかなか素直じゃないサンジだが、オーナーの赫足のゼフが仕組んだ、大根役者ばかりのバレバレ芝居に背中を押して貰い、ルフィ達の仲間入りをする。
        サンジと赫足のゼフの決別のシーンには、ちょっと胸を突かれた。

        普段から言葉を飾り流暢に話す人は、どこか信頼が置けないが、サンジみたいに普段は汚い言葉しか使わない人や、朴訥であまり言葉を発しないような人が放つ心からの一言は、人を感動させる効果が有るんだと思う。

        ナミを追って旅に出た先では、魚人の海賊アーロンに遭遇。

        ナミがそこの幹部だという衝撃の事実が明かされるものの、いかにもワケ有り。
        囚われたゾロを逃がすところで終わるのだが、野郎所帯ではいかにも寂しいので、彼女の復帰も待ち遠しい。

        とにかくサンジ!彼のクソウメェ料理を食べてみたいものだ。
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        2012/11/03 by ice

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      のり平のパーッといきましょう

      三木 のり平小田 豊二

      5.0
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      • 五つ星でおます。


        三木のり平さんが、二回り近く年の離れた小田豊二さんを聞き手に、
        自宅を中心に、酒を振る舞いながら語った芸談。

        「僕の芸能年賦みたいには、書かないでくれよ」と、のり平さんの語りは
        その場に居るような臨場感で、適度な緊張とのり平さんの気づかいの中で心地好い。


        芸に関するところを拾いあげると、

        笑いをとるのに、よくやる手が下ネタだと。それから肉体的欠陥を強調する。
        また罰ゲームで熱湯の中に入ったりする。それも客を笑わせるかもしれない。
        でも、笑いというのは、そういうものばかりではない。

        人を笑わせるには、いわゆる芸のボキャブラリーというか、いわゆる「乞食袋」と言いますけど、いろんな笑いのネタがふんだんに詰まってないといけない。

        漫才のネタ、落語のネタ、都々逸から民謡、踊りから狂言、新作から古典から
        それをすべて乞食袋の中に入れておいたと・・・・。

        ただし、一つだけ言っておくと、芸というのは試してはいけない。
        計算もない。客が笑ってくれるかどうか試してみようなんていうのはプロじゃない。
        一発必中のネタをいつも用意していてこそ、人を笑わせるプロなんだ・・・と。

        サービスの極意と一緒、作り置きできなくて、そのとき、その瞬間が勝負だと。



        気になる言葉では、

        センスとナンセンス。

        「せりふ」は、台詞か、科白か

        歌は語れ、せりふは歌え

        アドリブは思いついた時に言うな。

        いい役者は、歩き方ひとつでも、芝居している。

        女の話、色気話、猥談なんてのを聞きたがるのは、田舎者だっていうこと。

        かぶりものをしたり、ヒゲ描いたりしてる時って、勝手におもしろいこと言ってるよ
        それは、その役になれるから、やっぱりそうでなくちゃいけないよ。

        のり平さんの、役者の「ニン」にあった演出法。

        どれもこれも、喜劇人、三木のり平を支えた真髄。



        あと、最後に載っている、奥様になった映子さんとのお二人のお手紙
        ラブレターは、熱烈な恋心がストレートに書かれている。

        メールやスマホでやりとりできる今とは違う、表現方法は逆に羨ましい限りでおますな。


        どこを開いても、中身の濃い「のり平のパーッといきましょう」
        まだ2月なのに、早くも、今年のベスト1候補の本と出会いました。

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        2015/02/07 by ごまめ

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      ここ一番はしゃべりで決まる

      高嶋秀武

      小学館
      カテゴリー:言語生活
      4.0
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      • ラジオアナウンサーである著者の会話術。

        会話上達のために努力が必要で有ることを具体的に示している点が良い。

        恥ずかしながら学生時代、人見知りでアガリ症だった。

        社会人では無いため、不愉快な相手とは接点を絶つことも出来たし、初体面の相手の心を掴む必要性無かったため、とくに困ることは無かった。

        ただ心中、社会人はどんな場所でも臆せず自分の意見を述べることが出来ると考え、これが出来なければ、おそらく様々な局面で日陰の道を歩まざるを得ないだろうと思っていた。

        当時、唯一褒められる点は、このまま対策を打たずに、社会人になってしまったら、このまま人見知りやアガリ症も治らないと認識しており、その矯正のために営業会社を就職先に選択したこと。

        現在は異業種に移っているが、飛び込み訪問やテレホンアポイントなど、苦手な部分ばかりを責められるような日々に耐えたことで、社外の対人関係に悩むことは全く無くなった。

        前置きが長くなったが、つまり対人関係や会話は技術で有るという点を強調したい。
        対人折衝が苦手で・・・。などと相談されることが有るが、性格的なものでどうしようもないと本人が考えていることが多い気がする。

        確かに性格的なもので有ることは身を持って理解しているが、ビジネスで必要なレベルは、技術として学び取ることが出来るもので有り、その具体例を多く示している点で本作品は良書だと思う。

        ただ、人間本質的には変われないらしく、今も人見知りでアガリ症のままでは有る。
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        2012/01/05 by ice

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      催眠 Hypnosis (小学館文庫)

      松岡圭祐

      小学館
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • おとなしい由香、宇宙人アンドリア、元気な理恵子・・・ 多重人格と思われる女と彼女のために奔走する催眠療法課長の嵯峨

        偽催眠術師 実相寺
        詐欺事件
        家族
        人間の精神の不思議さ

        最後まで興味深く展開を追ってしまう。 



         
        三田佳子(なぜか覚えてる)が二重人格の女性を演じたテレビを観た記憶がある。(多分物心つくかつかないかの頃)
        すごくおどおどした人が、急に派手なおねえちゃんに変わるところがムチャクチャ怖かったのを覚えてる・・・
        トラウマ? 
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        2013/01/25 by バカボン

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出版年月 - 1999年4月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト

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