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1999年8月発行の書籍

人気の作品

      魍魎の匣

      京極夏彦

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.3
      いいね!
      • 一旦前作の話ながら、姑獲鳥の夏で「凄い」と震えたのは、榎木津の存在。

        「(精神作用のせいで)見えるべきものが見えない」、というのが要は姑獲鳥のトリックの根幹なのだが、これを、精神作用が変になっている人物だけその場面に登場させて叙述しても、「そりゃ見えない人たちの会話だから見えるとは叙述できなかっただろうけれど、それって酷くない?」という読者の愚痴になる。

        とはいえ、「見える」普通の人をそこに登場させると、見えちゃうんだから当然に会話や叙述がおかしくなる。
        「なんでお前見えないんだよ」というセリフがどうしても必要になる。ここまでくると、読者も推理物のベテランだから、さては!、と感づいてしまう。

        この難点を解決したのが榎木津の存在。

        通常の人には見えないものが見える、という触れ込みの超能力探偵を登場させ、その彼をして、「なんで君らには見えないんだ?」と語らせることで、読者はてっきり、榎木津だけが特殊能力を使って見えているのだろう、と思い込んでしまう。

        巧いことをやる。

        しかも、単に超能力なら簡単に作れるが、さすが京極堂では、超能力という存在は基本否定していて、理屈で説明がつく、ということで、榎木津の直観の鋭さをなんとなく科学的に説明している。

        ので、かなりのウルトラCの存在なんだが、まあそういう人もいるのかな、ということで「ずるい」存在にはさせていない。
        (例えばコナン君なんかではウルトラCみたいな特殊アイテムがすぐ都合よく出てくるんだけれどそういうものとは一線を画せるようにしている)

        繰り返すが姑獲鳥で震撼したのは、この一点、肝のこのトリックの叙述のために、榎木津という存在を作った点。これがまさに恐れ入る。

        そしてそして、、、
        ならばこそこの榎木津はもう使い切りの一発屋で役割を果たしたかと思いきや、その後の作品でもいい感じに登場してくる。
        このあたりの使い方もとても好ましい。

        次作たる魍魎の匣でまず思った感想はそこ。
        前作で精神的に崩壊して全てキャラクターを出し切った感のある関口や、もう存在価値が無くなったと思われる榎木津を引き続き全面に出して、そしてそれが却って味わい深い作品の雰囲気になっている点がとても驚いた。


        魍魎の匣のストーリーそのものはそんなにぐっと来なかった。姑獲鳥ではなくこれが受賞作品だというのがちょっと不思議。

        手足を切った人間を箱に詰めて、それでも生かせられるというのが、ちょっと納得感なくてだめだったかな。ただそんなこと言えば姑獲鳥も狂骨も非現実的なんだが。。。


        とはいえ、魍魎の匣の伏線の張り方は相変わらずさすがとの感想。
        読み返すとそもそも箱に人を詰める、という叙述から始まっている。
        途中の猟奇殺人では人を箱に詰める話が延々書かれている。

        のだが、それでもあの公然逸失トリックでは、それまで生きてそこに居た人間が箱に詰められて外に持ち出されていたとは考えがたく、想像はするのだけれど否定して読んでいき、最後に、えーやっぱりそれですか、という感想に。

        一応色々これができる環境になっているということは延々説明があるのだけれど、それでもちょっと無理があるんじゃないかな、という気がして、これが姑獲鳥のシンプルなトリックと比べると微妙な感想。
        ただ、繰り返すけれど、延々箱に人を詰める、と書いているじゃないか、というのはその通りで、そう考えると、そういう落ちは納得というか、迫力を感じました。
        (例えばあの治療施設は四角形の箱である必要は全くないのだけれど、あえて大きな箱、として存在させ、箱、というキーワードを強調していて。)

        なんにせよ京極堂面白いです。
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        2017/08/19 by フッフール

    • 他4人がレビュー登録、 38人が本棚登録しています
      異常快楽殺人

      平山夢明

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:社会病理
      4.0
      いいね!
      • とにかくグロイ。実際に起こった大量殺人事件。犯罪者七人のエピソード。遠い昔の事件と思いきや、そんなに昔でないことにビックリした。人肉を食べる・・・想像もつかない犯罪者の心理にとても恐怖を感じた。
        評価を高くしていいものか?ちょっと自分自身に不安もあったが、ホラー的要素満載なので、これはこれでいいと思う。お陰で、しばらく肉系のモノが喉を通らなかった。ダイエットしたい人にはおススメかも!?
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        2017/02/06 by はなぴょん

    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      星降り山荘の殺人

      倉知淳

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 『探偵役が犯人を指摘する』という挿入文も読者をミスリードするためのものだったとは。はめられかけた主人公もお人好しなんですけどね。星園が演じていたキャラが面白かった。雪の山荘という舞台設定やトリックのわかりやすさが魅力的な小説。 >> 続きを読む

        2017/05/06 by yano

    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      蛇を踏む

      川上弘美

      文藝春秋
      カテゴリー:小説、物語
      3.3
      いいね!
      •  ウソだと分かりきっているおじいちゃんの昔話がおもしろい、これは語り手の人柄の為せる技だが、現実離れした小説に自然と引き込まれる、これはその作家の言葉を操る技術がものを言う。想像力に身を任せた作品は、とかく話の筋の突飛さが一人歩きしがちで、個々の表現があまり印象を残さない。しかし、この『蛇を踏む』はその反対で、ストーリーよりもそれを紡ぐ言葉に意識が向く。ことに、唐突にはじまる「性的な告白」がこの小説の肝であり、読み終わったあと、書き出し、この告白、結びの構成美に気付かされ、また読みたくなる。そして再読すると、話の運びが適切だから、言葉が生き生きすることにも気付かされる。生き生きとした言葉に流される。 >> 続きを読む

        2014/12/24 by 素頓狂

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      ななつのこ

      加納朋子

      東京創元社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!

      • 今回読了した加納朋子の連作短編集「ななつのこ」は、第三回鮎川哲也賞を受賞した彼女のデビュー作です。

        短大生の入江駒子は、初めてファンレターなるものを書いた。宛先は、書店で偶然、手にした「ななつのこ」という連作短編集の作者である佐伯綾乃。

        駒子は、作品の感想から思い起こされた自分の身辺で起こった不思議な出来事を書き送ると、その謎に対する鮮やかな答えが返ってきて、不思議な文通が続けられる。そして、最後に明かされる綾乃の正体とは?-------。

        作品作の綾乃の「ななつのこ」を加納朋子の「ななつのこ」が包み込む、凝りに凝った構成と、作中で展開する謎の多さが、実にうまいと思う。かくも、この世界がこんなにも謎に満ち溢れているかということを改めて認識させられる。

        こうして、綾乃から駒子に寄せられる回答は、作中の「ななつのこ」で少年ハヤトが抱く謎を、鮮やかに解くあやめさんと似ていて、離れてはいるけど、近くから囁かれる声のようだ。

        すり替えられた絵画の謎、一枚だけ紛失していた写真が突然戻ってきたこと、保育園に現われた巨大恐竜。

        これらの謎は、一旦、現実的で理路整然とした答えが与えられますが、それをさらに幻想に変える目が、作家・加納朋子の豊かな小説世界を形作っていると思うのです。


        >> 続きを読む

        2018/03/12 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      くまのプーさん とてもうれしい日

      Packard, Mary , BakerDarrell

      永岡書店
      4.0
      いいね!
      • 耳鼻科の待合室に置いてあり、子供が嬉しそうに

        「おかあさん、よんで!」

        と持ってくる1冊です。

        プーさんって、よく見るとそんなにかわいくないし、
        なぜこんなに人気のあるキャラクターなんだろう???
        と常々疑問に思っていましたが、
        お話を読んでみると、
        だから愛されキャラなんだな~♪というのが理解できました。
        >> 続きを読む

        2013/08/08 by アスラン

      • コメント 12件
    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      ふるびたくま

      Carmichael, Clay , 江國香織

      ビーエル出版
      4.5
      いいね!
      • Tsukiusagiさんのレビューを読んで気になっていた本。

        本全体がとても大切にしたいような優しい雰囲気を放っている。

        持ち主の女の子に嫌われたのではないか、捨てられてしまうのではないかと心配するぬいぐるみと持ち主の女の子の心あたたまる、そしてちょっと切ないストーリー。

        断捨離でバンバン物を捨てるシンプル生活っていいけど、この本に出てくるような物を大切にする心も同時に大切にしたいと思った。

        ただ、この本を年末の大掃除前に読んだのは大失敗。
        処分したいぬいぐるみがあったのだが、ぬいぐるみにも心があるような気がして、とても心苦しかった…
        >> 続きを読む

        2013/01/06 by sunflower

      • コメント 4件
    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      夜想曲

      依井貴裕

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 山荘での連続殺人。本格ファンなら読まずにいられないですね。
        名作が多々ありますが、読み終えた後にこのトリックについて考えました。しかし、これまでの読んだ中にはこれと似たようなものはありませんでした。すごいです。始めから最後まで緻密に計算されたプロットで、伏線もキチンとあってそれらを残らず回収する事により驚きの真相が最後に待っています。至福のひと時でした。 >> 続きを読む

        2013/07/27 by moonIihght

      • コメント 6件
    • 4人が本棚登録しています
      T.R.Y.

      井上尚登

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!

      • この井上尚登のデビュー作で、第19回横溝正史賞正賞受賞作の「T.R.Y.」は、問答無用に面白い冒険小説的なスケールの大きさを持った作品だ。

        物語は1911年、辛亥革命を間近に控えた中国から幕を開ける。
        主人公の伊沢修は、札付きのペテン師だったが、ちょっとしたドジを踏み、上海の共同租界で、刑務所暮らしの日々を送っている。

        ところが、あちこちに敵をつくったおかげで、刑務所にも暗殺者が送り込まれてくる始末となり、命が幾つあっても足りない状態だった。

        そんなある日、中国革命同盟会の幹部が、罪人を装って入所してくる。
        男は、革命に協力するなら出所させてやると持ち掛けるのだった。

        伊沢の役目は、革命に必要な武器弾薬を日本軍から窃取することだった。
        かくして伊沢は日本に戻り、馴染みの芸者屋を根城に、日本帝国陸軍のエリートたちを相手に、途方もない偽装工作を仕掛けるのだったが-------。

        明治時代の上海と日本を舞台に、実在の人物や出来事を虚実ないまぜにして織り込んだテクニックは、確かに並みのものではないと思う。

        さらには、登場人物たちが騙し騙され------というコン・ゲームの趣を漂わせながら、一方で冒険小説的なスケールの大きさも感じさせる作品になっていると思う。

        内容的には、真の自由を希求して"革命"という熱病にうなされ、命を賭けた者たちの"情熱と絶望"を、祖国を捨てた日本人青年の目から描いているのが、とても面白く、そこへ逆転につぐ逆転のプロットを構築し、片時も目が離せないストーリーに仕上げていると思いますね。

        >> 続きを読む

        2018/06/19 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      雨あがる 山本周五郎短篇傑作選

      山本周五郎

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 「日日平安」「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」「雨あがる」

        どれも強く胸を打つお話ばかりです。 >> 続きを読む

        2013/01/22 by バカボン

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      森の絵本 (講談社の創作絵本)

      長田 弘

      4.0
      いいね!
      • 大事なもの、大切なもの。
        それはね・・・・。
        森は豊さの象徴でもある。
        多くのいのちを育み、深淵な空気をうみ、生命力に溢れた空間を創り出す。
        森に入ることも多いが、森に入ると、何故か深呼吸をしたくなる。
        自分の手を見つめたくなるのは何故だろう。
        それは、一番大切なものは、とっても近くにあることを感じさせてくれるからかもしれない。
        >> 続きを読む

        2016/05/01 by けんとまん

    • 3人が本棚登録しています
      ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論

      高橋昌一郎

      講談社
      カテゴリー:数学
      3.0
      いいね!
      • 『数学ガール ゲーデルの不確定性原理』を読んだので、ゲーデルの人となりに迫れそうな一冊を。

        『数学ガール』では定理にちょっぴり触れただけでその凄さにクラクラしましたが、本作ではゲーデルの人生を少し覗き込み、やはりクラクラでした。

         ゲーデルが完全性定理(数理論理学上の大きな功績)を世に出したのがハタチそこそこ。数学全体の完全性と無矛盾性を示そうとしたヒルベルトプログラム(数学界の一大計画)を不完全性定理でぶち壊したのが、その翌年。その後、神の存在証明など、それまでとは毛色の違う分野に力を注ぐようになり、40そこそこで事実上引退。最期は精神を病んで餓死……。

        「神の存在証明」などと聞くと、どうしても胡散臭い気がしてしまいますが、実際、「もしゲーデルが数学だけに力を注いでいたら……」と惜しまれたそうです。しかし、あのアインシュタインやフォン・ノイマンが「本物の天才」と太鼓判を押すくらいですから、ゲーデルの才覚に疑いの余地はありません。とんでもない天才です。彼が考えていたことの1%すら私にはわかりません。これは断言できます。しかし、彼が世界の何を変えたのか、それをうっすらと知ることが出来ました。

        『数学ガール』には、「数学の証明からインスピレーションを受けて、人生論や哲学を語るのは自由だが、数学とそれはキッチリ分けなければいけない」という大切な心構えがありました。それに照らせば、本書はまさにそういった本です。『数学ガール』であった「不確定性原理が人間の理性の限界を明らかにしたという理解はマズい」というマズい間違いをもろにしていますし、定理から人生訓を見いだしてしまっています。ただ、私としては、そういう本があっても良いと思うし、読まないよりは読んで楽しんだ方が良いと思います。

         同じテーマで読書をすると面白いな、という一冊でした。
        >> 続きを読む

        2016/12/03 by あさ・くら

    • 4人が本棚登録しています
      シングル・セル (講談社文芸文庫)

      増田 みず子

      5.0
      いいね!
      • 作者にしては珍しく、男性が主人公の物語。
        孤独な大学院生の椎葉幹央が山の宿で竹沢稜子と出会い、幹央のアパートで稜子とともに暮らすようになる。幹央にも何故稜子がアパートに居ついてしまったのかがわからない。結局、最後には稜子はいなくってしまう。幹央は就職し、次第に稜子の面影を探すこともなくなる、というところで物語は終わる。
        2人の出会いの場面で、シングル・セル(孤細胞)の話題から、人間も大勢でいると、無性に一人になりたくなることがあり、命はそのようにできていると会話が進む。シングル的な存在である人間が、他者との関わりにおいて、シングルの状態を維持することは容易ではない。稜子にとって、椎名はシングル的な状態でいることを許してくれる存在であったのではないかと感じた。
        著者のシングル性についての考察が書かれた『シングル・ノート』も読み応えがありました。
        >> 続きを読む

        2017/05/06 by yano

    • 1人が本棚登録しています
      武闘派三代目山口組若頭

      溝口敦

      講談社
      カテゴリー:社会病理
      4.0
      いいね!
      • 伝説の親分 田岡組長の、伝説の子分 山本健一氏の半生。

        武闘派のイメージが強い「ヤマ健」だが、繊細な大人物という改めて認識。

        日本最大のヤクザ組織 山口組。
        その成立の仮定で、数々の抗争が繰り広げられ、その多くで自ら体を張って、対立組織を葬って来た伝説の武闘派「ヤマ健」。

        とにかく田岡組長を一途に支えるバリバリの武闘派というイメージが摺りこまれていたが、文才も有り、達筆で計算も速いとインテリな一面も有り、また、身内には非常に優しかったという素敵な人だったらしい。

        これまで何冊も同種の作品を読んで来たが、本作品を読んで初めて、ヤマ健、ボンノなど、当時の山口組の有力者について、自身の中で、少しキャラクターが確立して来たように思う。

        三代目若頭まで上り詰め、四代目の襲名も確実視されるほどの有力者だが、最終的には、敬愛する田岡組長の後を追うように、亡くなった辺りも子分としての立場をわきまえ、散り際を飾ったと言えるのではなかろうか。

        とは言えヤクザはヤクザ。美化された面だけにごまかされてはならない。
        >> 続きを読む

        2011/07/05 by ice

    • 1人が本棚登録しています
      密やかな結晶

      小川洋子

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 「わたし」の暮らす島では、時折《消滅》が訪れる。
        リボン、エメラルド、鈴、切手、香水、鳥・・・

        身近なものにも、そうでないものにも《消滅》は唐突に、そして容赦なく訪れ、それが訪れたものはもはや誰の心をも揺らすことはなく、人々の心に空洞だけを残していく。

        島に暮らす人々は《消滅》を何の抵抗もなく当然のものとして受け入れる。
        フェリーの整備士だったおじいさんは、フェリーの《消滅》にあって港の倉庫番になり、帽子職人は帽子の《消滅》にあって元帽子職人になった。
        バラが消えれば、島中のバラの花びらを川に流すだけ。数日経てば何が消えたのかも思い出せなくなる。
        それが、島の生活だ。

        けれど時折、《消滅》が訪れても記憶を失くさない人々がいる。
        彼らは秘密警察の「記憶狩り」から逃れるため、記憶を失くしたふりをしたり、隠れ家に逃げ込んで、息をひそめて暮らす。

        そうした中で、「わたし」も静かに、そして確実に自分自身の何かを失っていく。空洞だらけで衰弱していく心に、いったい何をとどめておくことができるのだろうか。
        《消滅》の導く先には、はたして何が待っているのか―――。


        物語の中で、《消滅》という現実では想像しがたい現象が何度も起こっていきます。
        そしてそれに係る「記憶狩り」と「隠れ家で息をひそめる人々」のさまは、否応なしにナチスドイツにおけるユダヤ人迫害を思い起こさせます。作中の《消滅》とはそれほどに理不尽で、抗いがたいことなのです。
        けれど物語はあくまでも淡々と進んでいきます。《消滅》は強大な質量をもってそこにありながら、あくまでも島の日常の中にあるのです。

        ただし、中盤に島から本が消えてしまうあたりから、ざらざらとした不穏な空気が流れだし、読む側にも「わたし」の言い知れない不安が感染します。

        文章は幻想的であり、現実的でもあり。
        ワクワクするわけでもハラハラするわけでもないのですが、物語の中に引き込まれてしまいます。
        夢の中にいるようなこの言葉の紡ぎ方は、やはり著者ならではといったところでしょうか。

        ラストは、切ないのだけれどそれだけではなく、どうにも言葉にするのは難しいです。喜怒哀楽以外にこんな感情もあるのか、と自分でも驚く読後感でした。

        『密やかな結晶』って、これのことなのかな。
        なんて、勝手に想像した一冊でした。
        >> 続きを読む

        2015/11/06 by ぶっちょ

    • 4人が本棚登録しています
      噺家カミサン繁盛記

      郡山和世

      講談社
      カテゴリー:大衆演芸
      3.0
      いいね!
      • 旦那の小三治さんの「まくら」シリーズの本も楽しめるが、
        それ以上に、気丈夫なカミサンの日常がおもしろい。

        弟子は、小三治さんが師匠であるが、そのカミサンの弟子ではないとの、
        思いがあるが、そんなことには、おかまいなしに、弟子を肉体的にも、
        精神的にも、鍛えあげる。

        本来は、落語家と弟子は、父と子であれば、そのオカミサンは
        母と子であるのか・・・・・。
        その熱き思いがなければ、3年の内弟子時代のごんたくれの者と
        落語家志望といいながら、開き直りもなければ、一緒に暮らす事など、到底できない、。

        やんちゃな落語家、夫の小三治に、惚れた子供(弟子)たちが、
        そのDNAをどんどん、引継ぎ、膨らましていく。

        でも、オカミサン、「師匠は怖いけど、おかみさんはもっと怖い」と、
        疎んじられるながも、弟子たちを、可愛く感じ、日々共に暮らせるのは、
        その父、夫の小三治さんに、惚れているからだろう。

        落語家さんが、弟子をとるというのは、その奥さんがオカミサンになるという事、
        弟子をとるという気がある落語家さんは、
        まずは奥さんに、事前に読んでもらうと便利な本ですな・・・。
        (でも、対象の人少ないですな)

        落語の世界は、舞台も、楽屋も、日常も、おもしろいですな・・・・。
        >> 続きを読む

        2013/05/24 by ごまめ

      • コメント 2件
    • 1人が本棚登録しています
      果実

      宮川匡代

      集英社
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      3.0
      いいね!
      • 友達から貰った本。

        恋愛に夢見すぎ(笑)

        2012/06/21 by あんコ

    • 1人が本棚登録しています
      ラヴァーズ・キス

      吉田秋生

      小学館
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      5.0
      いいね!
      • 久々に湘南に行ってきました。湘南の海ってほかの海と違って身近な海に感じます。
        人の近く。暮らしのそばにある海です。
        「ラヴァーズ・キス」は、湘南を舞台に描く高校生の恋愛物語。
        このマンガが描かれた頃には、わたしは少女漫画を全く読んでいなかったので、
        このファンに絶賛されている作品を読むチャンスがなかったのでした。
        それと、今更高校生の恋愛漫画を見たってね。と思ったのも事実。
        すみません。間違いでした。これ、とても面白かったです。好きです。かなり。

        吉田秋生には、2面性がある。
        リアリティのある日本の日常を描いたものとアメリカ映画の世界という分け方。
        人間性に焦点を当てた作品と大胆な非日常の作品という分け方もできそう。
        この作品はもちろん、前者にあたる。
        高校生にしちゃちょっと大人過ぎるでしょう?って?
        いや。秋生クンのマンガデビューの時代にはですね。
        こういう背伸びした10代がホントにゴロゴロいたんっスよ。

        ああ、昔ながらの吉田秋生がここにいる。って思いました。
        とんがったり突っ張ったりして背伸びした高校生。
        親に傷つけられ、兄弟姉妹の葛藤があり、他人に誤解され。
        そんな人生のすごいでかい壁にぶつかって悩みもがく姿。
        その死にたいほどの辛さも悩みも、大局的にはささいなものであり、
        所詮幼さからくる単なる勘違い&思い込みであることも
        それを通り過ぎた自分には見えすぎるくらい見えてしまうのに、
        それでもバカバカしいと笑い飛ばすほどには忘れ去っていないのだ。
        青春の痛みは、過ぎ去ってもそれを経験した記憶はまだ身の内に残っている。
        そんなことに気づかされたのでした。

        幼いからこそ怖いくらい真剣で純粋な恋。

        少年と少女。少年と少年。少女と少女。
        どんな組み合わせだって、恋は恋でしょ?
        秋生クンはニヤっと笑いながらこの作品を描いたんじゃないかな。
        時に焼けつくようにシリアスに時に思い切り脱力したコメディータッチに。
        お得意のキャラクターたちが自然に生きて輝いています。


        それとこれは言っておかなくちゃ。
        いや~。久々に読んじゃったな。ボーイズ・ラブ。
        懐かしいというか。フィードバックしたというか。
        少年と少年のエピソードが一番楽しかったです。自分。

        ええとですね。「BLはファンタジー」という主張がありますが。
        それはそれで最近の流行りかもしれませんが、吉田秋生の同性愛は違いますから。

        彼女の描く同性愛はとても真実に近いです。
        (「バナナフィッシュ」は除きます)

        人間が人間を愛し、恋い慕う。その相手に誰を選ぶのか。
        仮にそれが異性でなかった場合。
        それが本物の恋であるならば、当時者には悩み葛藤があるのが当たり前。
        それは決して単純に美しく官能的なものなんかではない。
        でも実はとてもありがちな不思議でも何でもないことなんだって思えます。

        「ラヴァーズ・キス」はそんな恋心を伝えるためのキスが描かれているんです。

        肉欲、官能を読者に見せ場を提供するためのものではなくってね。
        男と男の関係は、あまり重くお耽美にはしたくないのだと思いました。
        むしろコメディ扱いでしたね。(#^.^#)

        そしてね。
        高校生よ。これが人生最後の恋じゃないよ。
        っていうことも表現したかったのかなと思いました。
        今の自分が向き合いたい人。愛したい人。その人と自分を大切にしようよ。
        とりあえず愛には正直になろうよ。
        そんなオトナからのメッセージなのかなとも思いました。


        ひとつの物語が3人の主人公たちの別々の目線で描かれる短編集形式なのですが、
        最初のストーリーの中にでてきたセリフやシーンが別の目線では
        まったく違うニュアンスを持っていたことがあきらかになったり、
        なんでもない言葉がすごい裏の意味を持っていたり。
        各話がシンクロし、クロスオーバーする構成の見事さにも感動しました。



        あんまり自分を粗末に扱うなよ。男は消耗品だけど女はそうじゃないからさ

        変態(けものみち)はキビしいんやで!

        そんなセリフを吐く彼らがとっても誠実でかわいいです。
        >> 続きを読む

        2014/04/06 by 月うさぎ

      • コメント 8件
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      幾世の橋 (新潮文庫)

      澤田 ふじ子

      5.0
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      • 澤田ふじ子の「幾世の橋」に唸った。

        この本は、江戸時代の京都を舞台に、庭師をめざす少年を主人公にした長篇時代小説で、感動的な人情話といっていいが、読み進むうちに、人情話に悪人の登場することが少ない理由に思い当たる。

        というのは、この小説にも悪人はほとんど登場しないのです。にもかかわらず、少年は苦闘し、学び、成長していく。その意味で、これは"成長小説"といっていいかも知れない。

        それでは、少年は何に対して、苦闘しているのか?

        悪人の代わりに描かれるのが、当時の社会状況のディテールであることが重要なポイントだと思う。当時の食文化が、どういうものであったのか。庶民は、どういう生活を送っていたのか。そういう庶民を取り巻く状況のディテールが資料から引用されて、物語の随所に挿入される。

        蕪村に関する資料の引用が象徴的だと思う。若い頃のことを何ひとつ書き残さなかった蕪村の出自に注目する作者は、「農奴」の身分から出奔したと推測している。

        実は、この蕪村の挿話は、物語に何の関係もない。ところが、彼が川面を眺めている暗い眼を描写して一転、「市兵衛の目もそれと同じだった」と物語の中に戻ってくるのだ。

        下駄屋の主人・市兵衛が娘の心中死体と対面する場面だ。この構成が、実に絶妙だと思う。つまり、厳しい身分制度の中で、生きなければならない哀しみを、こうして凝縮するのだ。

        そして、主人公の少年が育った長屋に、人情があふれているのは、お互いが助け合わなければ、生きていけないところに彼らがいたからだ、という真実が浮かび上がってくる。

        人情話は、登場人物の心根が優しい人物が奇跡的に集まる小説というわけではなく、優しくなければ生きていけない、当時の現実の上に成立する小説であることを、こうして私を含む読者は知ることになるのだ。

        少年が戦っていた相手は、実は特定の個人ではなく、"時代の枠組み"であったことを知るのだ。それを、この物語の背景に溶け込ませているのがミソなのだ。絶品だ。
        >> 続きを読む

        2018/02/18 by dreamer

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      初ものがたり

      宮部みゆき

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      4.7
      いいね!
      • 1999年に本書が発売された当時、飛びつくようにして買い、愛おしむように読んでから18年経ったのかと、奥付けを見て思った。何度読んだかわからないほど愛読し続けて18年、去年の夏には『完本 初ものがたり』まで買って読んだのに、飽きるということがない。

        茂七の気っ風に惚れ込み、稲荷寿司屋台の謎の主の言葉に感銘を受け、主が出す料理においしそうとつぶやく。読み返すたびに同じことを繰り返しながらも今回は、謎は謎のままでもいいのではないかと思った。
        本書はあとがきにあるように、この一冊で作品の刊行が停まった状態になっている。後に完本が出て、日道についてはまとまりがついたような形にはなっている。でも、この一冊で屋台の謎の主の正体がわかっていたら、18年も愛読したか疑問に思う。想像力をかきたてられるから、何度も読みたくなる。もうすでに『完本 初ものがたり』を再読したくなっているのである。

        >> 続きを読む

        2017/10/06 by Kira

    • 8人が本棚登録しています

出版年月 - 1999年8月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト

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