原題は「ザ・トインビー・コンベクター」なんですが、邦題でこれでは売れないと思ったのでしょう(売れないでしょう!) 一番ロマンティックな「二人がここにいる不思議」というタイトルになりました。 でも恋愛や夢のあるお話しでは全くありません。 そこで「生涯に一度の夜」(One Night in Your Life)を表紙と帯に採用していますね。 帯の紹介文もこの作品をテーマにしています。全編で最も上品でファンタジックな一篇です。 (出版社の苦心が見えますね)
(目次) 1 生涯に一度の夜 "One Night in Your Life" 春の夜、月明かりの下、二人は一夜を丘の上で過ごすのさ。手を取り合って。 2 トインビー・コンベクター "The Toynbee Convector" タイムマシーンに乗って100年後の世界を見てきたただひとりの男がもたらした「夢のような」現代が実現した。 そして長い間の沈黙を破る日、100年前彼が過去から出現した「その日」が来た。 3 トラップドア "Trapdoor" 屋根裏へのトラップドアに気づいた日から、屋根裏が存在し始める。 典型的なホラー。こういうのが実は一番怖い。 4 オリエント急行、北へ "On the Orient, North" 幻想小説。幽霊や伝説の生き物たちが生き延びる地は、世界中でイギリスにしかない? 5 十月の西 "West of October" セシィとその「ファミリー」の物語。たま~に書かれるシリーズ物です。 特殊な能力と不可思議な生活と結束をもつこの一族はいったい…? 6 最後のサーカス "The Last Circus" 移動サーカスの不思議さは少年の日の最高の思い出。出現も立ち去ったあとも。 7 ローレル・アンド・ハーディ恋愛騒動 "The Laurel and Hardy Love Affair" 小粋で哀しい恋愛物語。ショートフィルムを見るような。 8 二人がここにいる不思議 "I Suppose You Are Wondering Why We Are Here?" 男がレストランに招いたのは久しぶりに会う両親だったが…。男の真意が見えにくく難解な作品。 9 さよなら、ラファイエット "Lafayette, Farewell" 戦争ってのは死ぬことじゃなくて、思い出すことだ。 晩年になって人殺しの罪による幻に苛まれるかつての英雄の飛行機乗り。 10 バンシー "Banshee" ホラー。アイルランドの荒野に吹き渡る風。家の外では真夜中の泣きすさぶような声。 高名な映画監督と駆け出しの作家の虚実の交錯する会話と共に緊張感がいっそう強まる。 11 プロミセズ、プロミセズ "Promises, Promises" 情婦と愛人の別れを描いたドラマの一幕。切ない映画のような。 ブラッドベリだと思うと読んでてちょっと怖かったけど。 12 恋心 "The Love Affair" 火星を舞台にした一見SF。むしろファンタジー?結末は悲劇?いえホラーかもしれない。 13 ご領主に乾杯、別れに乾杯! "One for His Lordship, and One for the Road!" 昔話のような小話のような、品が無いけど粋な作品。 この話はワインですが、実際に某国の某金持ちで、ゴッホの絵画を自分が死んだら一緒に焼いてほしいと言ったバカがいましたねえ。 14 ときは六月、ある真夜中 "At Midnight, in the Month of June" ホラー。ある猟奇殺人者の意外な行動は何を意味するのか。 かくれんぼをモチーフに描き幻想的に仕上げた恐怖。 15 ゆるしの夜 "Bless Me Father, for I Have Sinned" 雪の舞うクリスマスの深夜に、告解のために教会に現れた老人の「罪」の告白を聞くうちに神父は…。 読後穏やかでしんみりした感動につつまれます。 16 号令に合わせて "By the Numbers!" 過去から蘇るプールサイドの痛々しい記憶。気になる父と少年のその後は? 17 かすかな刺 "A Touch of Petulance" 未来の自分が警告に現れた。恐ろしい未来を防ぐために。 新婚で愛に溢れた彼がやがて妻殺しをするなんてありえない! 18 気長な分割 "Long Division" 離婚する夫婦の財産分割はコレクションした書籍の分配をそどうするか。そこで気づいたお互いの個性と二人の関係。 良質の映画のような、と思わせといて落ちがあるとは。 19 コンスタンスとご一緒に "Come, and Bring Constance!" アガサ・クリスティの「パーカー・パイン」風。 ですが種明かしは無し。ミステリアス。 20 ジュニア "Junior" 究極の下ネタが哀愁を感じさせ笑わせてくれる。なんともまあ。ビル・ナイが脳裏に浮かんできて仕方なかった(^^) 21 墓石 "The Tombstone" 小話風のホラー。恐怖の妄想は本物の恐怖を呼び寄せる…かも。 22 階段をのぼって "The Thing at the Top of the Stairs" ホラー。故郷の街を訪れた男は心の奥にわだかまる少年の日の「恐怖」を克服するためにかつての自宅へ向かう。 23 ストーンスティル大佐の純自家製本格エジプト・ミイラ "Colonel Stonesteel’s Genuine Home-Made Truly Egyptian Mummy" ブラッドベリの作家としての存在理由です。