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2001年6月発行の書籍

人気の作品

      西の魔女が死んだ

      梨木香歩

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      4.1
      いいね! daya linarosa Moffy peace_1987
      • 【ラストの2行にノックアウト】
         主人公のまいは、中学生の女の子なのですが、喘息を患っていたこともあり、不登校気味です。
         実際には、喘息はほとんど治まってきているので登校できないことは無いのですが、学校を嫌っており登校拒否状態にあります。

         両親は、そんなまいを問い詰めたり強いて学校に通わせるようなことはせず、まいが大好きなおばあちゃんの家でしばらく生活させることにしました。
         おばあちゃんの家は、自然が豊かな田舎にあり、まいはそんな環境の中で、大好きなおばあちゃんと一緒に暮らし始めるのですね。

         そんな過程で、おばあちゃんから、自分たちの一族には魔女の血が流れているという話を聞きます。
         いえ、魔女と言っても、物語に出てくるような箒に乗って空を飛んだり強力な魔法を使うというようなことではなく、何て言うんでしょうね、大変感受性が鋭く、予知能力のような力があるということなのでしょうか。
         もちろん、まいにもその血は流れているけれど、その力を使いこなすためには修行が必要だと言われます。

         と、言っても何か特殊なことをするというわけでもなく、まずは基本としてしっかりした規則正しい生活をし、すべてを自分で決めていくことが大切だと教えられます。
         まいは、その様な生活を始めるのですが……。

         静かな雰囲気の中で非情に豊かな自然が描かれます。
         梨木さんは、植物に造詣が深いですが、本作にも様々な植物が描かれます。
         銀龍草なんて初めて知りました。

         まいは、ある時おばあちゃんに尋ねます。
         人は死んだらどうなるの?って。
         以前、父親に同じ質問をしたことがあるのですが、その時、父親は、死んだら何もなくなると答えたのですね。
         その答えはまだ幼いまいにとってはあまりにもおそろしい答えに思えたのでした。
         おばあちゃんは、そうではないのだと言います。
         人間には肉体と魂があるけれど、死ぬということは肉体から魂が離れていくことなのだと。

         だから、死んでも全てがなくなってしまうわけではないのだよと。
         おばあちゃんは、もし自分が死んだ時には、まいにはそれがわかるようにしてあげようと言ってくれました。

         それは物語のラストに描かれます。
         たった2行なのですが……。何と素晴らしい!

         まいが登校拒否になった理由も、彼女自身の口からおばあちゃんに語られます。
         その理由は、私なりに共感できる理由でした。

         様々な点において、いいなぁ、やさしいなぁと感じることができた良い作品でした。
        >> 続きを読む

        2019/11/01 by ef177

    • 他42人がレビュー登録、 163人が本棚登録しています
      池袋ウエストゲ-トパ-ク

      石田衣良

      文藝春秋
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 活字を読み慣れていない主人公と同じ心情で、感情移入と物語に没頭できました。
        話によっては、予定調和だったりどんでがえしだったりと、当たりハズレが大きいです。
        主人公と、その周りの群や雰囲気が好みであれば、楽しみながら世界観に浸ってください。
        >> 続きを読む

        2020/03/25 by IQ33人

    • 他5人がレビュー登録、 34人が本棚登録しています
      ハリ-・ポッタ-とアズカバンの囚人

      J・K・ローリング , 松岡佑子

      静山社
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね!
      • シリーズ3作目。映画版は公開時に鑑賞済み。ハリーの両親と繋がりがあるシリウス・ブラックが登場。映画版では1・2作目から監督が変更になり、子供の冒険譚から一転してダークな雰囲気が漂う作りにちょっと作品の評判が落ちた記憶のある作品。原作版を読んでみたが、別にそういう違和感はなく、普通のハリーポッターの物語が進んでいく印象。ロンが飼っているスキャバーズに「あの人」に関する秘密が繋がっていたのは意外な展開だった。4作目は映画も見ていないのでどういう話かは全く知らない。続けて読んでいきたいと思う。
        >> 続きを読む

        2017/02/01 by おにけん

      • コメント 4件
    • 他3人がレビュー登録、 43人が本棚登録しています
      リミット

      野沢尚

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.5
      いいね!
      • 感想、ただ一言、これだけで良い。
        「ページを捲る手が止まらない」
        エンタテイメント色の強い作品だけど、リアリスティックな描写で緊迫感を楽しめる。 >> 続きを読む

        2015/05/12 by yuria

      • コメント 8件
    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      数奇にして模型

      森博嗣

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      3.9
      いいね!
      • S&Mシリーズ、9巻です。
        700ページという長編で、読み切れるのか不安にもなりました(笑)

        M大学付近にある公会堂で、一人の女性が殺されていた。
        しかもその遺体には、首が切断され無くなっていた。
        その部屋には、被害者がもう一人いた。
        それは寺林高司という男で、頭を殴られていた。
        この寺林は、同時刻M大学で起きていた、女子学生絞殺殺人事件の、容疑者でもあった。

        この複雑に絡み合った事件を、犀川先生と萌絵が挑みます。


        >> 続きを読む

        2015/04/03 by ゆずの

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 31人が本棚登録しています
      手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ) 穂村弘歌集

      穂村弘

      小学館
      カテゴリー:詩歌
      2.0
      いいね!
      • ただでさえ短歌で手紙をもらったらどう反応していいかわからないのに、これが591通来たのだと。
        ある意味面白いが、やっぱり怖い。
        それ以上に書かれている短歌の解釈が難しい。

        まだまだ触れる機会が少ない自分には、この本は早かったのかな?
        全体的に穂村さんが書いていそうな感じというのは感じられるのだが、なんかなぁ...
        >> 続きを読む

        2014/11/09 by freaks004

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      双頭の鷲

      佐藤賢一

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • 【しっぽ、とり、ひげ】
         何とまた、破天荒な主人公を生み出したものです。
         いえ、モデルになったベルトラン・デュ・ゲクランは実在の人物です。
         百年戦争初期に活躍したフランスの軍人。最初はブロワ伯に仕え、その後、シャルル5世に仕えて、劣勢だったフランスを救って大元帥にまで上り詰めた人物です。

         この、デュ・ゲクランを主人公にしたのが本作なんですが、佐藤賢一さんの筆にかかると、まぁ、これが破格の英雄に描かれるのですね。
         異形の男です。丸い顔をして、飛び出た丸い目、丸刈りの頭で、腕が膝まで届く位に長い、醜男として描かれます。
         特筆すべきはその性格描写。
         まるで子供です。礼儀作法も何もなく、天衣無縫、好き勝手に振る舞い、しかもそれを恥じることはなく、豪放磊落で真っ正直。だから、慕われるのですね。
         今回のリードで使った、「しっぽ、とり、ひげ」というのは、作中でデュ・ゲクランがおどけて真似をしたものです。
         剣を尻に突き刺して「しっぽ」とふざけ、会食中、鶏のくちばしを唇に当てて「とり」とおどけ、シャルル5世とその一族を逃亡させる緊迫の場面で、地面に落ちていたうんちを拾って鼻の下に当てて「ひげ」とやってみせます。
         何で30男がそんな子供みたいなことをするの?こいつは本物のあんぽんたんなんじゃないか?と思ってしまいますが、でも、こと戦争となると軍神と言っても良い程の能力を発揮するのでした。

         この能力をいち早く認めたのがシャルル5世です。
         デュ・ゲクランの出自は下級貴族であり、その醜い容貌のために母親から遺棄されて成長し、子供の頃から悪ガキで通っていたような男。粗暴で野卑で、およそ貴族からは鼻つまみにされそうな男なのですが、抜群の軍事的センスの持ち主です。

         家族の相克も描かれるのですよね。デュ・ゲクランがこの様な男に育ったのは、母親のためなのです。美貌の母親は、醜いデュ・ゲクランをとことん嫌い、体罰も与えて疎んじます。それがトラウマになっているのですよね。だから悪ガキにもなりますし、家を飛び出て傭兵隊長になんかなっていったわけです。
         他方で、三男は母親の美貌を受け継いだため溺愛されるんです。でも、傲慢な性格に育ってしまうのですけれど。
         でも、所詮は下級貴族のため、その後、一族は零落してしまうのですが、デュ・ゲクランだけはシャルル5世を救ったことがきっかけで栄進していくわけです。
         だから、彼の兄弟達は最初は面白くないのですが、喰っていかなければならず、やむなく節を曲げて長兄の世話になるわけです。
         最初はぎくしゃくもするのですが、次第に長兄の魅力に惹かれていき、いつしかその下で活躍するようになっていくのです。
         しかし、美貌の三男だけはどうしても長兄を認めることができずにいます。
         母の溺愛の下に生育したこともあり、自分が一族の中心じゃなければ納得できないというさもしい根性なんですよね。

         それが悲劇をも生みます。
         デュ・ゲクランは、自分が醜男だということを自覚しています。
         だから母親からも愛されなかったのだと。
         なので、徹底して女性を避ける様になってしまったのです。
         でも、決して女性にモテないなんていうことはないのですよ。むしろとても面白い人物だということで、例えば救出したシャルル5世の一族の女性陣達からは大好評なんですが、当の本人が女性を苦手としているのでどうにもうまくいきません。
         そんな、デュ・ゲクランを一途に愛していた女性がいました。
         占星術をよくするティファーヌです・デュ・ゲクランの幼なじみで貴族の娘なのですが、その想いは叶えられます。あれほど女嫌いだったデュ・ゲクランは、遅くにですが、彼女を最初の妻として娶ります(これは史実通り)。
         でも、その裏には根性のひんまがった三男の影があったのですね。

         というわけで、本書は、佐藤賢一さんお得意の史実に題材を取った大河ロマン的作品です。破天荒なデュ・ゲクランの生涯を描くのかな?(まだ上巻を読んだところなのでどこまで行くのか見えないのですが)。
         デュ・ゲクランの卓越した戦闘も描かれます。ですが、時には馬鹿貴族の掣肘が原因で、敢えて負け戦をしなければならなかったり、本来の力を発揮できなかったり(この辺は、銀英伝みたいなテイストも感じます)。
         そう、銀英伝と言えば、本作にも、デュ・ゲクランが唯一認めるイングランド側の戦争の天才がもう一人登場します。
         ですが、彼も様々な事情から決してその能力を自由に使えるわけでもないのです。ですが、二人はお互いの能力を認め合い、敵味方なのですが、友人として生きていくのですね。

         非常にダイナミックな作品ではないかと思います。
         下巻を読了したら、続きを書きますね。
        >> 続きを読む

        2019/08/06 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      「少年A」この子を生んで… 父と母悔恨の手記

      少年Aの父母

      文藝春秋
      カテゴリー:社会病理
      3.0
      いいね!
      • 淡々と綴られる少年Aの父親の日記。当時、少年Aによるこの事件は衝撃的であった。現在では、犯罪の低年齢化が問題視されているが、この事件では、少年による猟奇殺人という点で衝撃的であった。日記によれば、少年Aが持つ火種はあった。しかし、残念ながら、異常性、猟奇性を探り当てるところまでは行けなかった。何十億人もの人間がいる現在において、大人であっても自分を制御できず、社会的規範から外れた行動をする人間はたくさんいるのに、自分を制御できない少年が大人と同じ異常性、猟奇性を持つというのは非常に怖い事だと思う。 >> 続きを読む

        2016/11/20 by zunbe

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 5人が本棚登録しています
      ホーリーランド

      森恒二

      白泉社
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      4.5
      いいね! Tukiwami
      • おびただしい数の漫画がある中で、本当に心に残る作品というのは、たぶんあんまり多くはないと思うのだけれど、この『ホーリーランド』はその数少ない作品と思う。

        何が心に残るのかは、うまく言葉で一口に言うことはできない。

        ただ、たぶん、主人公のユウや副主人公のマサキらの気持ちが、若干わかる人には、その必死さがぐっとくるということなのだと思う。
        そういう人にとっては、単なる漫画の域をこえて、何か心に響く作品なんだと思う。

        最終巻の十八巻で、何のために闘ってきたかということについて、「過去から自由になるため、新しい自分を得るため」ということをユウたちが述べていることに、私は別に路上で闘ったことはなかったけれど、別の意味で、ああそういえばそういうことだったんだろうなぁととても共感させられた。

        多くの人に勧めて良いかはちょっとよくわからない、少々ディープな暗い格闘技系漫画ではあるのだけれど、根底にあるメッセージは本当に良い作品だったと思う。
        >> 続きを読む

        2014/05/03 by atsushi

      • コメント 4件
    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      三国志 時代小説文庫)

      北方謙三

      角川春樹事務所
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • ゲーム以外で三国志をしらなかったので初めて読んでみた。
        劉備が主役と勝手に思っていたが、個々の武将のキャラクターが
        それぞれ特徴的で良い。

        特に呂布のイメージがちょっと変わった。
        >> 続きを読む

        2013/05/26 by children

      • コメント 3件
    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      ジム・ボタンの機関車大旅行

      ミヒャエル・エンデ , 上田真而子

      岩波書店
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 「はてしない物語」「モモ」のミヒャエル.エンデが、初めて子ども向きに書いた、初めての作品ということです。
        興味深く読みました。

        ジム・ボタンという男の子が、機関士の友人ルーカスと、エマという機関車に乗っての冒険の旅のお話。

        「はてしない物語」「モモ」には、かなり哲学的な要素が入っていますが、この物語は、どうかな、と思って読みました。

        やはりエンデの作品だなー、と思ったのは、

        ジム・ボタンらが、旅の途中で、「トゥー・トゥーさん」という巨人に出会います。ジムは、あまりの恐ろしさに、逃げようとします。
        しかし、その巨人は、決して悪さをする者ではなく、むしろ、心の優しい者だったのです。

        普通、人は、遠くに行けば、小さく見えますが、巨人は、遠くにいけばいくほど大きく見え、近づけば、普通の大きさにみえるのです。

        恐れて遠くに見ているときは、とてつもなく大きくみえ、恐れずに近づいてみれば、普通の大きさなのです。

        結局、その大きさに惑わされずに、近づいて、友人になったジムらは、彼に砂漠を脱出する方法を教えてもらうのです。

        それから、「トゥー・トゥーさん」の言葉の中で

        「何か特別なところのある人間というものは多いものですよ。例えば、ボタンさんは、黒い肌をしておられますね。生まれつきのことで、べつにへんなことでも何でもない。そうでしょう?黒であって、ちっともかまわない。ところが、たいていの人は残念ながら、そう考えないんですよ。自分が例えば白いとすると、その色だけが正しいと思ってしまって、黒い人にちょっと反感をもったりするのですね。人間は、どうしてこうものわかりがわるいのか、こまったものです。」

        この物語が登場したのが、1960年。世界の中で、人種差別が存在する時代に、児童文学の登場人物に、こう語らせるエンデの鋭さ。


        この物語と、その続編で、エンデは多くの賞を獲得し、これがきっかけとなって、子ども向けの本を書くようになり、後に、「はてしない物語」や、「モモ」を生むことになる。

        大人が読んでも、気づかされるものがある、エンデの凄さです。

        >> 続きを読む

        2014/01/26 by ヒカル

      • コメント 4件
    • 2人が本棚登録しています
      ぼくがぼくであること

      山中恒

      岩波書店
      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • 1969年に刊行され、その後出版社が変わりながらも版を重ねている名作。
        婿養子に入り母親の尻に敷かれっぱなしの父親。
        兄弟4人は全員優等生なのにただ1人出来が悪いと秀一(ひでかず)をいつも叱り、抑圧する母親。
        学校での秀一の素行をとことん調べあげ母親に密告する妹のマユミ。
        母親に押さえつけられ、妹に見張られて、自分のやりたいことがすべて否定され、奪われている様子に胸が苦しくなります。
        自分だけが勉強ができない、他の兄弟のようになれないことにもがき苦しみ、ある日、抑圧に耐えらえなくなった秀一は家出を決行します。

        その途中、ひき逃げを目撃したり、転がり込んだ山中の家が武田信玄の隠された財宝に関係する家で、住人のおじいさんと少女は何か事情をもっていそう。
        色んな冒険や事件が待ち構えています。

        学校と家という狭い世界で暮らしていた少年がおじいさんと少女に出会うことで新たな世界が見え、影響され、少年の心の中が少しずつ変化し、整理されていきます。

        一見、母親の敷いたレールを素直に走っているかのように思えた兄や姉も、きちんと自分の考え、主張を心の中で持っていたことも秀一は知ることができました。

        子どもだって親の庇護は必要ではあるけれど、親の所有物ではなく、いつまでも思い通りにはならない、ひとりの人間、一個人なのだ、ということを最後には教えてくれます。

        大人である自分も胸が苦しくなったりハラハラさせられたのです。
        子どもが読んだら…子どもの心にも激しい化学反応が起こるでしょうか。
        >> 続きを読む

        2020/03/04 by taiaka45

    • 1人が本棚登録しています
      福沢諭吉の哲学 他六篇

      松沢弘陽 , 丸山真男

      岩波書店
      カテゴリー:日本思想
      5.0
      いいね!
      • 「福沢に於ける「実学」の転回」と「福沢諭吉の哲学」などが収録されている。

        二つは前編後編の関係にあるのだけれど、本当に両方とも目のさめるような、すばらしい論文だった。

        「福沢に於ける「実学」の転回」では、丸山は以下のようなことを言っている。

        福沢諭吉は日本のヴォルテールで、福沢を語ることは日本の啓蒙思想を語ることになる。
        福沢は、しかしながら、他の明治期の啓蒙思想家とは異なる独自の思惟がある。

        福沢の「実学」は、山鹿素行や石田梅岩などの「実学」、つまり日常役に立つことを求めるだけの従来の実学とは根本から異なるものだった。

        どう異なったかというと、福沢は、日本の従来の学問に欠けているものとして「数理学」と「独立心」の二つを指摘したけれど、この二つの根本を支える「精神」に着目し、この二つが不可分であることに着目した。

        それまでの朱子学的・儒教的世界観では、自然と倫理は一体をなし、倫理や社会秩序は自然とのアナロジーで、先天的な自然なものとして説かれていた。

        それに対して、福沢は、「社会秩序の先天性の否定」を敢行し、物理と道理の混同を捨ててその峻別へと向った。
        いわば、根底の精神や学問のあり方を問題にし、その改革を敢行した。

        そして、近代理性=実験精神により、あらゆるものの「働」を吟味し、物理的定則・法則を発見し、技術化していくという、実験精神に基づく主体性を形成していった。

        そこには、法則把握、いわば「空理」への不断の前進があり、そこにおいてこそ生活と学問のより高度の結合が保証されるという哲学があった。

        法則の把握は、単なる経験の積み重ねからだけでは生まれない。
        主体が「実験」を以て積極的に客体を再構成していくところにはじめて見出される。

        つまり、福沢は、法則把握に至らない単なる手放しの経験主義=従来の東洋的思惟を全面的に批判した。

        無理無則の機会主義と手放しの経験主義の両方を批判した。

        日常生活を絶えず予測と計画に基づいて律し、試行錯誤を通じて無限に新しい生活領域を開拓していく奮闘的人間の育成を志した。

        「福沢に於ける「実学」の転回」では、以上のことが、明晰に説き明かされてて、本当目のさめる思いでなるほどと思った。

        (また、科学的認識論が、近代ヨーロッパにおいては、トルストイやラスキンらが現われたように、近代文明への幻滅や陰鬱や退屈とそこから逃れるための自然回帰への思潮をもたらしたのに対し、福沢は、啓蒙思想でありながら、そうした科学的認識のもたらす陰鬱から免れていたことを指摘し、いずれそれを検討するとしながら、福沢が情緒や趣味、宗教の領域を重視していたことにも読者の注意を促している。)

        それに続けて、「福澤諭吉の哲学」では、丸山は、福沢における価値判断の相対性の主張を重視し、そのことが主体的契機をいかにもたらしているかを明らかにしている。

        福沢における善や正ということは、常にどの面についてどういう観点からか、という状況と切り離せずに説かれている。
        だが、それは単なる機会主義ではなくて、無方向・無理無則の機会主義は常に批判され、真理原則に基づいて予量する計画的人間育成が目指されている。
        その原則とは、プラグマティズムの哲学ときわめて接近した、実験精神に基づく主体的な精神だった。

        福沢は、価値判断のたびごとに具体的状況を分析する煩雑さから免れようとする態度を「惑溺」と呼んで批判した。
        教条的な公式主義も、単なる無原則の機会主義も、ともに「惑溺」だとして、福沢は鋭く批判した。

        福沢においては、常に具体的状況を分析し、あらゆる価値を相対化していくところに、その主体性の発揮があった。

        そして、価値の分化や多元化こそが、文明の進歩だとみなした。

        精神の化石化・社会意識の凝集化に常に抵抗し、価値の相対化や多元化を目指し続けたのが、福澤諭吉の哲学であり文明の理想であった。

        といったことが、「福沢諭吉の哲学」で丸山が分析した福沢の思想だった。


        両方ともとても面白かったが、私にとっては、どちらかというと、「福澤諭吉の哲学」よりも、「福沢に於ける「実学」の転回」の方が、丸山真男のすごみを感じる論文だったように感じられた。

        凡百の人間にはわからない、福沢の精神の精髄をつかみとった名著だと思う。

        福沢の「惑溺」批判は、本当に考えさせられる。
        具体的な状況分析や価値判断の条件根拠への吟味を忘れた態度というのは、たとえどのような政治的立場やイデオロギーであれ、「惑溺」と呼ぶべきなのだろう。
        なんの根拠もなく自民党を支持している人々も「惑溺」だろうが、状況分析を忘れた民主党への無批判な追随やその他の野党への支持もまた「惑溺」となっていく危険をはらんだものだろう。
        >> 続きを読む

        2012/12/22 by atsushi

    • 1人が本棚登録しています
      言葉のレッスン

      柳美里

      角川グループパブリッシング
      3.0
      いいね!
      • 一番苦手な女性のタイプ・・・・。

        理論的で、攻撃的で、女性の前に人としての存在が問われる。
        ケセラセラと生きている、私にとって、色んなものごとに真正面から
        考えるのは一番苦手な行為。

        リタイア後の私のテーマが「散歩人生」。
        これからは、目的や計画に縛られることなく、
        あっちへふらふら、こっちへふらふら
        きままに歩く、休みたければちょいといっぷく。

        そんな心境の、ごまめにとって、
        柳さん、いたって遠い存在になりそう・・・・そんな気にさせる本でございます。
        >> 続きを読む

        2019/07/22 by ごまめ

    • 1人が本棚登録しています
      芭蕉の風景 文化の記憶 (角川叢書)

      ハルオ シラネ

      4.0
      いいね!
      • 授業用に読んだのでレビューしにくいのですが、一応。

        アメリカで育った著者が芭蕉、および俳諧(俳句)のついて述べた本です。
        アメリカではひと昔、「日本・東洋は精神的に優れている」という思想が流行っていて、その流れで広がったのが俳句らしい。アメリカの小学校でも俳句を教えていたとか。

        西洋の論述の仕方でかたられているから、俳諧はじめ日本の詩歌をシステマチックに理解するには適してるかも。

        本中で気に入った句があったので、引用。

         牛部屋に蚊の声闇(くら)き残暑哉 芭蕉(『三冊子』による)

        暗い部屋のむっとする暑さが表現される、との著者の評に賛同です。

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        2016/09/21 by botan

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      世紀の相場師ジェシー・リバモア

      藤本直 , SmittenRichard

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:個人伝記
      4.0
      いいね!
      • 希代の相場師ジェシー・リバモアの生涯は株式市場で成功し、莫大な富を得るまでの過程は、多少の失敗も含めて興味深くどんどん読むスピードが上がっていく。
        でもその相場に対しての才能とは裏腹に、家族は崩壊していて、自身と息子は自殺、妻寂しい最期を迎えるなど、決して恵まれてはいなかった。

        リバモア本人はお金で人生を狂わせたというものではなかったが、その家族はリバモアが稼いだお金で相当人生が狂っている。
        自分で稼いだお金でも使い方間違えておかしくなるひとは少なくないんだから、苦労せずに湯水のようにお金を使えるようになってしまえば、家族がおかしくなってもしょうがないのかなぁ?

        そんな人生の悲哀はともかく、株式市場に向き合う相場師としてのリバモアは並はずれた才能を持った人だったことは間違いない。
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        2013/10/27 by freaks004

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      マンガ化学式に強くなる さようなら、「モル」アレルギー

      鈴木みそ , 高松正勝

      講談社
      カテゴリー:化学
      3.0
      いいね!
      • 高校で習う理論化学の基礎が学べる好著.漫画なので内容量は多くはないが,きちんと筋道立てて考えられるように工夫がされている.また,好みの問題はあるだろうが,漫画も古臭くなくそれなりに物語がおもしろくなるようにも描かれているので高校生(特に男子)におススメ. >> 続きを読む

        2014/12/07 by 物理と数学

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      Twelve Y.O

      福井晴敏

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      2.8
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      • スケールの大きな話なんですが、あまり入ってきませんでした…。なんだかイロイロ混みいってますね。 >> 続きを読む

        2013/10/18 by ken

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      梅安影法師

      池波正太郎

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
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      • 図書館本。シリーズ第六巻で長編。
        面白すぎてページをめくる手が止まらなかった。

        前作で大坂の元締め白子屋を暗殺した梅安は、白子屋の残党たちから引き続き命を狙われる。世話になった薬種屋の病を治療するために泊まりこんでいる梅安を、彦次郎が陰で助ける。十五郎も刺客に襲われた梅安を間一発のところで救う。

        三人で協力して敵に逆襲をかけるくだりはスリルに満ちていて、たっぷり楽しませてもらった。

        >> 続きを読む

        2018/12/07 by Kira

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      密告

      真保裕一

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!

      • 真保裕一の「密告」は、あまり話題にならなかった作品だと思いますが、私は彼の作品の中でも上位にくるくらい好きな作品ですね。

        警察官の萱野が、上司の矢木沢と地元業者の癒着をマスコミに密告したという噂を流されて、調査を進める物語ですが、事件の進展やドラマの展開が、いつもは一直線に流れがちな真保裕一が、ここでは踏み留まり、組織と人間の暗部に目を据えて、緊密度の高いドラマを作り上げていると思う。

        萱野はかつて、射撃競技のオリンピック候補だった。
        同じく有力候補だった矢木沢の不祥事をリークした過去があり、さらには、矢木沢の妻を結婚前から慕っていて、いまだ結婚したいという願望を捨てきれないでいる。

        そんな萱野にとって今回の事件調査は、罪の償いと過去の清算と失われつつある希望の獲得を意味しているのだが、そこで見い出す真相は、意外で皮肉な結果に終わってしまうのだった-------。

        男の夢、その実現できるかもわからない、儚い夢の消息と生長を静かに、だが後半、実にエモーショナルに謳い上げていて、いつまでも心に残るんですね。

        この作品の主人公の萱野は、これまでに描かれたどの真保裕一の作品のヒーローよりも、人間の弱さや醜さを曝け出していて、私はそこにとても魅かれるんですね。

        それほど、主人公の内面と事件との関わりが最も深い作品になっていると思う。
        そして、その弱さや醜さが、物語の新たな起爆剤となり、さらなる展開を遂げればノワールになるが、真保裕一は内省の道を選び、ハードボイルドにとどまるんですね。

        ヒーローが謎を解くことでも、または精神と肉体を駆使して敵を倒すことでも簡潔しない時代の、そして"他者の事件"から"個人の事件"へと移行してきたハードボイルドの典型とも言うべき作品が、この「密告」なのだと思いますね。

        >> 続きを読む

        2018/09/08 by dreamer

    • 3人が本棚登録しています

出版年月 - 2001年6月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト

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