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貫井徳郎
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小学校教諭の山浦美津子が、アパートの自室で殺された。胃の中からは睡眠薬が検出され、頭にはアンティークの置時計で殴られた跡があった。だが、状況は一筋縄ではいかなかった。部屋には、同僚の男性教諭から送られた箱入りのチョコレートがあり、それに睡眠薬が混入されていたのだ。さらに窓がガラス切りで切り取られており、侵入者が入り込んだ可能性もあった。また、被害者の無邪気すぎる性格は、同僚や友人の間に、さまざまな軋轢をも生んでいた-------。この貫井徳郎の「プリズム」は、ミステリ好きなら誰しもがわかるように、アントニー・バークリーの名作「毒入りチョコレート事件」にオマージュを捧げ、この作品に敢然と挑んだ作品なんですね。すなわち、意外な結末で読者にカタルシスを与えることが眼目の作品ではなく、何通りもの結末を開示していくことが狙いの作品だと思う。小学校の教え子から始まり、同僚の教師、元恋人、父兄といった具合に、次々とそれぞれが連関するように、推論を構築していくんですね。それも、アントニー・バークリーの六通りを上回る十通りも。そして、最後に衝撃的な推論が用意されてはいるものの、果たしてそれが真実かどうかは断定できない。この作品は、我々ミステリ好きの読者の参加を誘う、企みと実験精神に満ちた貫井徳郎の挑戦作なんですね。 >> 続きを読む
2018/05/15 by dreamer
東野圭吾
面白かった❗やはり、東野圭吾さんの短編集は素晴らしく面白い!!!加賀恭一郎シリーズは、1作だけ読んだことがあって、この作品はずっと前に購入して三軍の本棚に眠っていたのですが、ふと読みたくなってぱらぱらページを捲っていたら、いつの間にか惹き込まれていってあっという間に読み終わってしまいました(o^^o)♪極上の短編集でした…(*´▽`*)刑事の加賀の柔和な中に潜む鋭さと事件の端緒から暴かれる真相までの流れが本当に秀逸で、毎話ハラハラドキドキワクワクしながら読んでいました\(^^)/嘘をもうひとつだけ、とある通り嘘が事件のキーポイントになっていて、その嘘を加賀が、地道な捜査と鋭い観察眼と推理力で明かしていくのですが、1話1話短い中でこんなに起承転結を付けてかつ極上なミステリとして作り上げる東野圭吾さんには、ほんまに脱帽、敬服致しましたm(_ _)m本当に読んでいて楽しかったですし、早く真相が知りたいのに、1話1話が終わって欲しくない!とも思って、久々に良い読書の証拠、証左である「二律背反的な気持ち」になりました(☆∀☆)どんなに言葉を尽くしても、この面白さ、素晴らしさは自分の語彙力では表しきれないなとも思います\(◎o◎)/!ホントに面白かったし楽しかったです(≧∇≦*)こういう楽しい気持ちになれるから読書はやめられないですよね✧٩(ˊωˋ*)و✧今回も良い読書が出来ました❗❗❗ >> 続きを読む
2021/03/31 by 澄美空
シオドア スタージョン
【人は皆、傷ついたり苦しかったりする時に、それぞれの解消法を持っている】 SFの大御所スタージョンの作品ですが、本作はSFではありません。 じゃあ何なのか?と言うと、ジャンル分けすることに意味があるかどうかは別として、強いて言えばホラーであり、ミステリであり、文芸小説であるとでも言いましょうか。 本作で主要な役割を果たすのは、ジョージ・スミス(仮名)という若い男性です。 彼は軍に所属していたのですが、何の理由も無いのに突然少佐を殴ってしまったことから、精神に異常があるとされ、軍病院に送られて来たのです。 大変無口な男でしたが、主治医の精神科医フィリップの求めに応じて(素直に言うことをきけば早く病院から出られると考え)、自分の生い立ちを書き始めます。 ジョージは、貧しい家に生まれ、アル中で粗暴な父親と、身体が不自由で父親からいつも殴られている母親のもとで育ちました。 彼は、父が酒を飲み、理由もなく母を殴るのが嫌でたまりませんでした。 そして、大きくなるに連れてそんな場面を見るのを避けるため、森に逃げ込むようになったのです。 森には沢山の動物達がおり、ジョージはそんな動物を狩る術を身につけていったのです。 ジョージは、父が暴力を振るう場面だけではなく、嫌なことがあると森に出かけて狩をするようになったのでした。 母親は愚痴っぽい女性でもあり、いつも「自分の身を削ってお前を育ててきたんだ。全てをお前に与えて、与えて、与え尽くしたんだ。」とジョージに繰り返し訴えるのでした。 そんな母親も遂に亡くなってしまいます。 父親は有り金全部を飲んでしまうことも度々で、家に金を入れることは一切ありませんでした。 それでも家に食料があることがあり、当然ジョージが盗んで来たのだということは分かったのですが、それをとがめるようなことはしませんでした。 むしろ、ジョージを連れて食品店の倉庫に行き、その倉庫から食料を盗んで見せたのです。 それ以後、ジョージは店頭からではなく、様々な店の倉庫から食品を盗むようになりました。 ジョージが13才の時、肉屋の倉庫から肉を盗もうとして誤って冷蔵庫の中に閉じこめられてしまったことがあり、盗みに入ったことがバレてしまいました。 ジョージはこの盗みの件で2年間施設に収容されることになったのです。 施設での生活はジョージにとって苦痛でも何でもありませんでした。 これまでの生活よりずっと快適だと感じ、自分を守るために無口を貫き通し、身体も大きかったことからいじめられることもなく、嫌なことは何もありませんでした。 ですから、森に行きたいという気持ちも全く起こらなかったのです。 施設での2年間が終わろうとしていた頃、父親が亡くなったと教えられました。 叔母がジョージを引き取りたいと申し出てきたのですが、ジョージはこれを拒否します。 自分は施設から出たくないのだと訴えたところ、彼が独り立ちできる16才までの1年間、特別に施設で生活することが認められました。 ジョージは、父のことが大嫌いでした。 ですが、亡くなったと知ると、それはそれでショックなのでしょうか。 再び森へ行きたいという気持ちが湧いてきて、しばしば施設の敷地内にある森へ出かけるようになっていったのです。 1年が過ぎ、いよいよ施設を出て行かなければならなくなった時、ジョージは叔母に引き取られることを承知しました。 そして、ジョージは叔母夫婦の手伝いをして農園で働くようになったのです。 農園の手伝いをしている間に、近くの農家の娘のアンナと知り合いました。 アンナはお世辞にも美しいとは到底言えない娘であり、スタイルが良いわけでもなく、少々愚鈍な少女でしたが、既に男性経験があり、アンナはジョージを誘ったのでした。 ジョージとアンナは、それ以後、隠れるようにしてお互いを求め合うようになりました。 ある時、ジョージはアンナが妊娠したと知らされます。 アンナは家に閉じこめられてしまい、ジョージとも会えなくなりました。 ジョージは森に出かけ、罠をしかけて動物を捕るようになりました。 ある時、ジョージの罠にどこかの子供がかかっていました。 ジョージはその子供を見て激怒します。 それは、罠を台無しにされたということもあるのでしょうけれど、それよりも、その子供がまるでアンナのお腹の中にいる子供のように思えたのでした。 自分が望みもしなかった子供のためにアンナと会えなくなった。 そう考えたジョージは……。 その後、ジョージは突然軍に入隊してしまいます。 軍での生活も、施設での生活同様、ジョージには苦しいものでも何でもありませんでした。 ところが、ある日、少佐に呼ばれてその部屋に行った時、冒頭に書いた少佐を殴るという事件を起こしてしまうのです。 ここまでは、ジョージが書いた自分のこれまでの人生の要約です。 人間、誰しも嫌なことがあったり傷ついたりした時、その人それぞれにそれを解消する方法を持っているものです。 その方法は人によって様々です。 ジョージの場合は、その方法は森へ行って動物を狩ることだったのでしょうか。 ジョージに殴られた少佐は、殴られる前にジョージに対して、「何故森へ行って狩りをするんだ?」と尋ねたのです。 そうしたら突然殴られたのでした。 それは何故なのでしょう? この作品はミステリだと書きました。 それは、ジョージは何故特段の理由もなく少佐を殴ったのか?ジョージは精神に異常を来しているのか?という謎をフィリップ医師が徐々に解き明かしていくところがそういう趣があると思います。 ホラーだとも書きました。 その理由はここでは書けませんので、どうかご自身でお読み下さい。 文芸小説であるとも書きました。 それは、人間心理に深く踏み込んだ描写があり、読了した時に抱く感動があるからです。 そして、本作はスタージョンらしい、やさしさも漂う佳作だと付け加えておきましょう。読了時間メーター■■ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/03/28 by ef177
雫井脩介
裁判官の梶間勲が凶悪犯と目された武内に下した無罪判決。時は経ち、退任した勲の隣の家に武内が一軒家を構えて引っ越してきた。次第に家族と接していく内に、不穏な事件や家族間の亀裂が生まれていく。明らかに何かが起こる気配満々だが、武内の目的は何なのか。また起こる事件の元が武内と確証できないのは証拠がないから。家族を取り込んでいく手口。そして人間はかくも脆く、信頼という絆はあっさり断ち切られる。ただラストにああするのなら、その人物をもっと本筋に絡ませたほうがより感情移入できると思うけどね。 >> 続きを読む
2019/01/08 by オーウェン
藤井留美 , PeaseBarbara. , PeaseAllan.
嘘つき男と泣き虫女。アラン・ピーズ先生とバーバラ・ピーズ先生の著書。ベストセラーになった話を聞かない男、地図が読めない女の続編のような内容。男女が分かり合えないのはある意味当然の帰結なのかもしれないと思わされる一冊です。 >> 続きを読む
2018/08/16 by 香菜子
スティーヴン・キング , 白石朗
ホラーの帝王、スティーヴン・キングの「ドリームキャッチャー」(新潮文庫1~4)は、一見、三人称多視点のハリウッド・スタイルに見えますが、いかにもキングらしいというか、キングにしか許されないタイプのエンターテインメント小説の傑作だと思う。ただし、映画版はまったく駄目でしたが-------。メイン州の山奥に宇宙船が墜落する。胞子状の異星生命が、人体に感染して広がるのを防ぐため、特殊部隊が周囲一帯を封鎖する。鹿撃ち猟にやってきた幼馴染みの中年男四人組は、山小屋で事件に巻き込まれ、その中の一人は異星人に体を乗っ取られてしまう。封鎖を突破した彼を追って、熾烈な追跡劇が幕を開ける---のですが、実を言うと、こうした派手なスペクタクルは、少なくとも私にはどうでもいいんですね。この小説の真の舞台は、登場人物たちのインナースペース。体を支配された男は、自分の心の中の部屋に立てこもり、段ボール箱に入れて積み上げた"記憶"だけを武器に、地球外生命体に立ち向かうんですね。テレパシーを操る宇宙人に取り憑かれた人間は、偶然にも超能力者でした---みたいな設定だから、並みの作家が書けばご都合主義の極みだと謗られるか、プロット段階でボツを食ってもおかしくないんですね。しかし、キングの魔術的なストーリーテリングは、その偶然を必然に変えてしまうのだ。ちらちらと小出しにされてきた四人組の少年時代の話が、小説の現在に追いついた時、事件の様相は一変するのだった-------。中年男の"心象風景"をこんなかたちで書けるのは、恐らくキングだけだろうと思う。客観的にみて、娯楽小説としてもSF小説としても破綻しているとは思いますが、そんな欠陥は些細なことだと思う。この異様な迫力を堪能すればいいと思う。そして、映像化できない部分がキモなので、うっかり映画を先に観た人も大丈夫だと思いますね。 >> 続きを読む
2018/05/28 by dreamer
吉本ばなな
長年の不倫関係にピリオドを打たれたほたるは、空っぽの状態で川の流れる故郷へ帰る。ちょっと変わった父親。蘭でうめつくされている喫茶店で祖父直伝の美味しい珈琲を淹れる祖母。かつての父親の恋人であり再婚し損ねてしまった相手の娘、るみ。そして、どこかで出会った様な、でもどうしても思い出せない、赤提灯を掲げインスタントラーメンを作るみつる。それぞれが少しずつ絡み合っていて、それがまるで、おとぎ話の様。誰もが何かしら傷を抱えていて、その癒し方も様々。もがいてもがいて進もうとする人もいれば、ただじっと向き合い、時が流れ、少しずつ自然治癒しようとする人。みんな同じじゃつまんない。色んな人がいるから、面白い。とてもふわふわした、お話。ばななさんの作品、よく川が出てくる。川の流れや煌めき、よどみは、全てを受け入れてくれる様で、それでいて押し流される様で、怖くて、優しい。そんな川の側の街の、ちょっと変わった、不思議なお話。 >> 続きを読む
2014/09/13 by ayu
山田宗樹
ただ、愛されたかっただけ。それのみに執着しすぎた女の末路を壮絶に描いた長編。ある事件がきっかけで連鎖的に波紋が広がり、道を踏み外してしまった松子。転落していく人生に、時には聖女に、時には般若になり、自分を相手を傷つけながら愛を求め続ける。出会った人たちに爪痕を残して逝った女の生き様。愛に生きるってことはエネルギーを放出し続けるってことなのね。 >> 続きを読む
2018/11/17 by かんぞ~
河内和泉
一番好きな作品。前半はお色気コメディっぽいけど進むにつれてどんどんシリアスに面白くなっていく。テーマがなかなか他にないもので面白い。キャラもホント魅力的!あと絵の上手くなり方が半端ない… >> 続きを読む
2015/07/29 by うえんつ
柳沼重剛
とても面白かった。 はっとさせられる、考えさせられる、深いことばや機知や智慧がそこにはあった。 古代ギリシャ・ローマに学ぶことは、やはり今もってはかりしれない。 時折読み返し、またいろんな他の本も読んでみよう。 「一羽の燕は春を作らず」 (古代ギリシャのことわざ) 「一羽の燕、ある一日が春をもたらすのではなく、同様に至福な人、幸福な人は、一日で作られるわけではない。」 (アリストテレス) 「事はまったく剃刀の刃に乗っているようなものだ。」(ホメロス『イリアス』) 「食わんがために生きるのではなく、私は生きんがために食う。」(ソクラテス) 「煙を逃げて、火に飛び込む」(古代ギリシャのことわざ) 「賢人は敵から多くのことを学ぶ」(アリストパネス) 「人の性格は言葉から知れる。」(メナンドロス) 「言葉は行為の影である。」(ソロン) 「言葉に打たれぬ者は、杖で打っても効き目はない。」(古代ギリシャのことわざ) 「現在の難儀もいつの日か良い思い出になるであろう。」(ホメロス『オデュッセイア』) 「堪え忍べ、わが心よ、おまえは以前これに勝る無残な仕打ちにも辛抱したではないか。」(ホメロス『オデュッセイア』) 「愚者は打たれてはじめて知る」(ヘシオドス) 「悩みによって学ぶことこそ、この世の掟」(アイスキュロス) 「始めは全体の半分」(古代ギリシャのことわざ) 「必要なことは二度でも言うがよい」(エンペドクレス) 「一人は無人」(古代ギリシャのことわざ) 「貧乏だけが技を呼びさます。」(テオクリトス) 「陶器づくりの術を学ぶのに、大きな甕から始めようとす」(古代ギリシャのことわざ) 「竪琴を轢くことを学ぶ者は、竪琴を弾くことによって、竪琴を弾くことを学ぶ。」(アリストテレス) 「何事も無からは生じない」(ルクレティウス) 「昔、ミレトス人は勇敢だった。」(アナクレオン) 「怒りは一時の狂気である。」(ホラティウス) 「喜んだ人は喜びの種を忘れるが、悲しんだ人は悲しみの種を忘れない。」(キケロ) 「われわれは、教えることによって学ぶ」(古代ローマのことわざ) Docendo discimus. 「機会は容易に与えられないが、容易に失われる。」(プブリウス・シュルス) 「生きている限り私は希望を抱く」(ことわざ) Spero dum spiro (息ある間は希望を抱く) 「友よ、われわれはこれまでに不幸を知らずにきた者ではない。ああ、もっと辛い事にも耐えてきたのだ。これにも神は終わりを与えよう。…辛抱せよ、幸せな日のために自重するのだ。」 (ウェルギリウス『アエネイス』) 「人生は人間に、大いなる苦労なしには何も与えぬ」(ホラティウス) 「後の日は前の日の弟子である。」(プブリウス・シュルス) 「幸運の女神は、自分が大いにひいきにするものを愚かにする。」(プブリウス・シュルス) 「私は生きおえた、運命が私に与えた筋道を、私は歩きとおしたのだ」(ウェルギリウス『アエネイス』) 「何を笑うのか?(登場人物の)名を(お前の名に)変えれば、この話はお前のことを言っているのだ。」(ホラティウス) Quid rides? Mutato nomine de te fabula narratur 「遅れは危機を引いてくる。」(古代ローマのことわざ) 「多読より精読すべきだと言われている。」(小プリニウス) 「力があると思うゆえに力が出る。」(ウェルギリウス『アエネイス』) Possunt, quia posse videntur 「喉が渇いてからやっと井戸を掘ることになった。」(プラウトゥス) 「髭は哲学者を作らない。」(古代ローマのことわざ) 「確実な平和は、期待されるだけの勝利にまさり、かつ安全である。」(リウィウス) 「すべての日がそれぞれの贈り物を持っている。」(マルティアリス) Omnis habet sua dona dies. >> 続きを読む
2012/12/21 by atsushi
F.W. ディーキンG.R. ストーリィ
「ゾルゲ追跡」の訳者のあとがきに〈一九四一年夏の日本は、「北進」してヒットラー軍とともにソ連を攻撃するか、それとも「南進」して太平洋で米英と戦うかの選択に最後の最後まで迷っていた。ソ連赤軍の情報将校ゾルゲは彼の諜報グループの全力を挙げて、日本の政界の最上層部から、あるいはいわゆる関東軍特別演習に動員される日本軍兵士たちから情報を集め、南進はほぼ確実という情報をソ連に送った〉ゾルゲの使命は、日ソ戦争を回避することにあり、その情報を彼はドイツの敏腕新聞記者のふりをして集めた。情報提供者の一人には、時の総理大臣・近衛文麿とも親しい、元朝日新聞記者の尾崎秀実もいた。いわゆるゾルゲ事件である。二人のイギリス人歴史家が書いたこの「ゾルゲ追跡」(上・下巻)は、やはり訳者のあとがきによれば、「今では二〇世紀国際政治の一つの重要な特徴であるイデオロギー的諜報活動についての学問的研究として、いわば現代の古典」であるという。だいいち、主人公であるゾルゲ自身が、超一流のジャーナリスト的情報収集力と学者的分析力と鋭い思想性を持った人物だったのだ。しかし、この本は堅苦しい専門書ではなく、読み物としても楽しめる。「東京に落ち着くと、尾崎は毎月、定期的にゾルゲに会いはじめた。二人は、レストランや、時には待合(高級の芸者クラブ兼レストラン)で会った。尾崎はその名前をいくつか取調官に教えているが、そのリストはまるで一九三〇年代のミシュラン東京案内を読むような感じを与える」例えばそれは、目黒の雅叙園や銀座のローマイヤーや、築地の花月といった店だった。ローマイヤーの他に、ゾルゲは、ラインゴールドやフレダーマウスといった店も愛用した。「それは陰気くさいほら穴で、インチキの織物を掛けた汚ない、すり切れた椅子が置いてあった。その店で日本的なところといえば、一人か二人の下等なウェイトレスだけで、いつも客の隣に座り、首に抱きついて、気取ってクスクス笑った。日本人はほとんど誰もそこには来なかった」そして、私は麻布の永坂町にあったゾルゲの家の中にも興味がそそられた。「部屋は日本式であったから、床には一面に畳が敷きつめてあった。ゾルゲは日本の風習に敬意を払って、玄関で靴を脱ぎ、階段とせまい廊下ではスリッパーをはき、畳の上では靴下はだしになった。彼は日本風に、畳の上にマットレスを敷き、小さな丸い固い枕を頭にして眠った」二階の書斎には「本や地図や紙が、一見手のつけようもないほどの混乱を示していた」。本棚には日本の経済書を中心に千冊以上の図書が並んでいた。そして中でも美しくヴィジュアルなのは、警察に踏み込まれた直後の、こういう一節だ。「彼の寝台の傍のテーブルには、十六世紀の日本の詩人の詩集が開けたまま置かれていた」。 >> 続きを読む
2019/11/15 by dreamer
二木真希子 , 上橋菜穂子
どうしても現実(今の日本や世界)とリンクさせて読んでしまう。 バルサやタンダの、冷静さ、人間の可能性を最後まで信じてあきらめない姿勢、大きくて広い心、やさしさ。 「ここに集まっている者は、南部・北部という区別よりも、まず、ロタ王国の臣民ではないのか?」「ならば、なによりも、国を安定させることを第一に考えるがよい・・・・・富をもつ者に、より多くの権力を与えることに、どんな平等があろうか」というロタ国王ヨーサムと王弟イーハンの賢さ。視野の広さ。冷静さ。公正さ。 累進課税?に反対する豊かな南部に住む者たち。北部の老人もかたくなに「穢れた」羊をふやすことに反対する。「おのれの欲望、権力、かたくなな偏見、身勝手さをむきだしにして、はてしなく議論を続ける男たち」と嘆くイーハン。 「惨殺されてしまった者たちの命はかえらぬが・・・」「もう二度とこんなことをおこしてはならぬ」「われらロタ王族は記憶を風化させてしまったわけだ。政と財政だけに全身全霊を注ぐうちに・・・」「これからも、かくじつに子孫に伝えなければな」 「タルのような異族が不幸であることは、かならず、国をゆるがす。彼らを、幸福にせねばならぬと、わたしも思っている。・・・・・・糸を片方にゆらしてはならぬ・・・」 そして「カミサマ」・・・。アスラにとって「カミサマ」とは? アスラは解放されるのか? アスラをつれたバルサは、彼女を救うことができるのか。 ドキドキの「帰還編」に続く。 >> 続きを読む
2013/02/13 by バカボン
「よい人をすくってくれて、悪人を罰してくれる神には、まだ一度もあったことがない。悪人を裁いていくれるような神がいるなら、この世に、これほど不幸があるはずがない。」 「命あるものを、好き勝手に殺せる神になることが、幸せだとは、わたしには思えないよ。・・・・そんな神が、この世を幸せにするとも、思えない。」 「そんな力をもてば、どんな人間でも、かならず、独善的な暴君になるだけだ」 「たしかに、この世には、残酷な人がたくさんいる。そいつらに殺されそうになっている人を見たら、なんとかして、たすけたいと思う。・・・そうできる力があったら、と思う。だけど・・・。むりだよ。人を自由に殺せるような、神の力をもつなんて・・・・どんな心の清い、つよい人だって重すぎると、おれは思う。・・・そんな力で、人を幸せにすることなんて、きっとできないよ。」 人の心の弱い部分(不満、怒り、神や権力に頼りたくなる心)を利用して、アスラの力(恐ろしい神の力)を手に入れ、国を自分の思うようにしようとしたシハナ。ほんとうに巧みで、これでは騙されても仕方ないかも。いや、シハナ自身、神の力さえあればなんでもできる、それがみんなの為になると信じていたのだ。でも、人を殺すことはこれ以上ない不幸。どちらにとっても。人を不幸にすることで、自分が幸せになることは絶対にない。「人を傷つけるということーー人を殺すということ。その意味を実感したときには、もう、なにもかも手おくれなのだ。後悔もなにも、役に立たない。苦悩は一生魂につきまとい、消えることはない。・・・・・人に槍をむけたとき、おまえは、自分の魂にも槍をむけているのだ。」そして神も権力。権力、力では幸せにはなれないのだ。 「この子は、どちらかというと、おくびょうで、こわがりだったよね。それなのに、おそろしい神の力をつかえるようになって、憎しみを思うぞんぶんたたきつける快感を知っても、人を殺すまいと思った。それよりは、神をわが身に封じようとした。・・・そんなこと、わたしにはとてもできないよ。 この子が生きてはいけないなら、わたしなんぞ、とうに死んでなきゃならない。 だけど、わたしの生き死にを、人にどうこういわせる気はないね。 アスラが目ざめるかどうかは、アスラが決めることだよ。」 アスラの魂は帰ってきているのだ。「神」の来訪編と、「魂」の帰還編。よかった! >> 続きを読む
2013/02/14 by バカボン
岩井志麻子
どうしてヒロインは男の幽霊に取り憑かれたのか?…と思っていたら最後の最後で衝撃の結末が。なるほど死の匂いがするわけだ。 >> 続きを読む
2018/01/26 by kikima
川島誠
実は繊細だったりする。もっと書いてくれればいいのに。。
2011/03/29 by yasuo
多島斗志之
心理学を勉強しています。なので、興味を持って読ませていただきました。精神分析を一刀両断しているあたりなど、とても面白かったです。ただ・・・他の方もおっしゃってますが、わたしもやっぱり、「結」に納得できず。恋愛絡めなくてもよかったんじゃ?雑誌連載ものなのかな?尻切れトンボというか、オチがイマイチというか・・・。無理やり終わらせた感は否めません。 >> 続きを読む
2014/01/31 by ともぞう
SchulzCharles M
スヌーピーって文句なくカワイイです!!スヌーピーと聞くとどうしても思い出すのは「ライナスの毛布」。「ブランケット症候群」というのが正式名称?みたいですが、誰にでも有るものなのかもしれませんね。わたしにとってのライナスの毛布はなんだろう?? >> 続きを読む
2012/04/03 by tamo
生垣真太郎
映画編集者のデイヴィッドが眼にした一分足らずのフィルム。そこには、白いドレスを血に染めてくずおれる女が写されていた。女の顏は確かに、B級映画の女王と謳われたアンジェリカ・チェンバースのはずだが、なぜ彼女がこんなフィルムに姿を見せているのか?作り物というには生々しすぎるこの映像は、本当の殺人を写したものではないのか?-------。第27回メフィスト賞受賞作として世に出たこの小説、アメリカを舞台にとり、殺人フィルムにまつわるサスペンスフルな物語を紡ぎ出していくところは、メフィスト賞には稀な洗練された作風ということもできるが、ここにもやはり現代日本の本格ミステリらしさが刻印されていると思う。京極夏彦に代表される、我々の現実認識の危うさを暴こうとする志向がくっきりと表わされているからだ。フレームとは、映画のコマの意味で、映画の観客はコマの外を見ることができないし、編集によって切り捨てられたコマに何が写しこまれているかを知ることもできない。それと同じように、我々の見ている現実の陰にも、不気味に笑う編集者がいるのではないだろうか。そんなことを考えさせる作品なのだ。 >> 続きを読む
2019/01/08 by dreamer
あべ 弘士きむら ゆういち
「あらしのよるに」シリーズの第6弾。メイとガブの物語もいよいよクライマックス。「ひみつのともだち」が秘密でなくなってしまったため、逃避行をするメイとガブ。遥か彼方の山の向こうには、ヤギとオオカミが仲良く暮らしても、何も言われない土地があると信じて。だが、「約束の地」へは、吹雪が荒れ狂う山道を抜けなければならない。その上、ガブを追う、追手も近くまで迫っていた・・・。メイとガブは、それぞれ相手を思うあまり、自分が犠牲になろうとする。そこまで相手の事を思いやる事は尊い、と思う。が、そういう事は、かえって残った方を苦しめてしまうのでは、という気がする。たとえ善意からであっても、残った方は、常に「他に方法はなかったのか」と、自分を責めてしまう事になるのでは?さらに、なによりも相手を孤独にしてしまう。「君のためなら、死ねる」というのは、ドラマの中では、カッコいいし、感動的な場面になる。が、現実では残った方を苦しめるだけにしかならない気がする。(まあ、現実にそんな状況に陥るような事は、まずないだろうが・・・。)メイとガブにはカッコ悪くて、ドラマ的に盛り上がらなくても、違う選択をして欲しかった。それでは物語にならないか・・・。 >> 続きを読む
2014/06/15 by Tucker
山田詠美
10代の頃はこの著者の本をいくつか読んだことがあったのですが、久しぶりに気分転換で選んでみました。基本的に小説などは特別好んで読まないので、個人的には本当にいつも読んでいる本をちょっと横に置いて気分転換という感じで読み終えました。たぶんこういうタイプの話を読むにはちょっと年を取り過ぎてしまったのかな(苦笑)普通に楽しめましたが、それ以上でもそれ以下でもなくという感じなので評価はなしです。 >> 続きを読む
2019/05/12 by Mika
出版年月 - 2003年1月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト
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