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夏目漱石
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題名と冒頭が有名すぎて内容を知らなかった本。評価されている、という先入観をできる限り取り除いて読んでみた。坊っちゃんの江戸っ子気質や、赤シャツ・生徒たちのなんとも日本人っぽい性格が面白い。話としては、気に入らないやつに報復したかったけど逆に追いやられてしまった。まぁ帰るところはあるから最後に殴っとけ。というような小話。フフっとなる。読みやすい本ではあったけど、やはり学がないためか解説みたいなところを読んでも評価されるポイントが分からず。 >> 続きを読む
2017/08/17 by 豚の確認
養老孟司
幽霊現象ではないが、科学を語るクリスマスの話に、新しい明るさをともしたただ、古さを知り尽くしてから、ふるさと日本らしい、輪を気にする先生だ宗教心理の集まりを憂い、若さを燃やす知性がちゃんと新しい社会へエネルギッシュに向かえます >> 続きを読む
2021/02/02 by touzyu
伊坂幸太郎
「春が二階から落ちてきた」この冒頭のフレーズから私の気持ちをぐっとつかんで、ラストに至るまで一瞬たりとも握力を緩めない。それが伊坂幸太郎の最高傑作「重力ピエロ」だ。予言を放つ案山子が登場する「オーデュボンの祈り」でデビュー以来、一作ごとに異なるスタイルの小説を発表し、着実に読者の幅を広げてきていると思う。真っ直ぐで、切なくて、可笑しくて、愛おしくて-----、読んでいる最中にたくさんの感情がわき上がってきて、身もだえさせられるような物語なのだ。舞台は連続放火事件が起きている仙台市。そんな中、この物語の語り部である泉水の弟・春は、兄が勤める遺伝子情報会社のビルが放火の被害に遭うことを予測。街の落書き消しを仕事にしている春は、事件と放火現場付近に残された落書きとの因果関係に気づいていたのだ。さらに兄弟は、落書きが暗号になっているのではないかと推理。癌で入院している父親も交え、三人は暗号解読に挑むのだが-------。そんなストーリーの粗筋を抜き出してみたところで、この作品の真の魅力はみじんも伝わらないと思う。プロットだけで読ませるのではなく、会話や物語の中から浮かび上がってくる、手応えのある確かな感情で読ませるという、この作品はそうした類の小説なんですね。感情がわき出る源泉となっているのが、たとえば人物設定。春は女性ならだれもが振り向かずにはいられないほど端正なルックスの持ち主なのだけれど、性的なものを激しく嫌悪している。というのも、彼は今は亡き母が、連続レイプ犯に犯されてできた子供なのだ。つまり、泉水とは異父兄弟。それでは、さぞかし根性が曲がっているのかと思いきや、全然そうではないのだ。兄弟の父親は、レイプ犯の子を宿した妻を励まし、出産させ、春を我が子として大事に育てたのだし、泉水も春のことが可愛くてならない。そして、春もまた家族に一万メートル海溝よりも深い愛と敬意を抱いているのだ。彼らが交わす会話の醸し出す温かさがまた、この小説の味わいを一層、豊かにしていると思う。「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」「重いものを背負いながらタップを踏むように」「ピエロが空中ブランコから飛ぶ時、みんな重力のことを忘れているんだ」など、別に珍しくも新しくもない単純な言葉の数々が、しかし、真っ直ぐでナイーブで、ユーモアに溢れてはいるけれど、軽くはない語り口によって、読み手である私の胸にすーっと素直にしみこんでくるのだ。病室を見舞った兄弟の前で、父親が春にこんな言葉をかける。「お前は俺に似て、嘘が下手だ」。この一行がもたらす感動は格別で、それまで彼ら一家の物語に一喜一憂していた私の目頭が思わず熱くなりましたね。DNA遺伝子の仕組みや、フェルマーの最終定理、ガンジーの思想、兄弟が幼かった頃に家族で見に行ったサーカスのエピソードなどを、難解さに走ることなく、さりげなく本筋にメタファーとして織り込ませる手際といい、小説としてのうまさも実感できるんですね。ミステリとしての醍醐味にはやや欠けるとは思うものの、青春小説として、家族小説として、これは実に読み応えのある作品だと思いますね。 >> 続きを読む
2019/05/02 by dreamer
司馬遼太郎
長州は、藩主をおきざりにして藩の下層がいっせいに京へむかって暴走し、京における市街戦で木端微塵にくだけてしまった。蛤御門ノ変。この乱戦のなかで来島又兵衛が戦死し、またかれらを制止しようと最後まで努力した久坂玄瑞も乱軍のなかで死ぬ。この間、高杉晋作は獄中。そして英・仏・米・蘭四ヵ国が十七隻の連合艦隊を組んでやって来ると同時に、幕府「長州征討」の報。長州の大瓦解がはじまろうとしていた。時勢が目まぐるしく変わろうとしています。熱くなりすぎて歯止めがかからなくなってしまった過激派の暴走は、長州藩を追い込みます。そんな中じっと身を潜ませ、ひたすら機を待ち、窮地に陥った時に颯爽と現れる。奇才・高杉の窮地を救う判断力と視野の広さに驚嘆。すごく軽い言い方をしてしまいますが、主人公感が半端ない。司馬遼太郎の描く高杉晋作、やはり格好いいです。この巻、外国艦隊との講和の中、租借についての話を古事記・日本書紀を朗読し、日本は一島たりとも割譲しないとする晋作の大演技が書かれています。幕末エピソードの中で一番好きです。 >> 続きを読む
2018/08/25 by あすか
晋作は松陰の死後八年ながく生きた。この八年の差が、二人の歴史の中における役割をべつべつなものにした。(中略)松陰というほとんど無名にちかい書生を、一令のもとに萩からひきずりだして江戸伝馬町の獄舎に投じ、さらには虫でも潰すようにして刑殺するほどであったが、八年後の情勢のなかにあっては、その書生の門人である高杉晋作のために幕軍の牙営である小倉城が攻め落とされ、幕軍副総督小笠原壱岐守長行が城を脱出して海上に逃げ去るという事態になった。「老年」冒頭で、司馬さんはどれだけ時勢がめまぐるしく変わったか書いています。吉田松陰、高杉晋作がどのような中で生きてきたのか、わかりやすく解説されていると思います。長州はもちろんですが、どのような経緯で討幕になったか彼らを追うことで理解することもできました。全体を通すと考えさせられることの多いことばかりでしたが、この巻のほとんどがおうのを連れて逃げている場面ばかりなんですよね。下関開港をはかったために反対世論が殺気立ち、難を避けるため脱藩という流れだったのですが。革命家としてはかっこいいと言ってきた高杉晋作ですが、夫、身内にこんな人がいると嫌だと何度も思いました。愛人と共に逃亡したり、結婚して五年のうち過ごした期間は数ヶ月でしかない夫。うーん。それでも、「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し・・・」の言葉通りの活躍には、高揚感が高まります。うちにある司馬さん本のほとんどは親が購入したものなので、かなり古くなっています。この本の帯も大河ドラマ「花神」原作と書かれています。再読しようと思ったきっかけは、帯に書かれている文章でした。『長州過激派の理論的支柱吉田松陰とその思想の具現者高杉晋作(世に棲む日日)。一介の村医から一躍軍事の天才と謳われた大村益次郎(花神)。北越の麒麟児河合継之助の智謀と胆力(峠)。海内無双の剣士(十一番目の志士)。幕末動乱の世に各人各様の志操で身を処した男たちの生きざまを描いたこれらの著作を土台に壮大な歴史ドラマ「花神」は展開していゆく』全部読みたいと思わせてくれました。幕末を様々な角度から堪能したいと思います。 >> 続きを読む
2018/08/29 by あすか
高嶋哲夫
平行線をたどるような2つの話がしだいに1つになったところで気づけば台風のような激しい渦が広がってとても個人や国では及ばない世界がまわっていた渦中の二人は話が大きくなればなるほど静かに固く結び合っているのがこの大きな渦も、個の集まりでありそれゆえに個は流され、消え行く象徴的な姿だった >> 続きを読む
2019/07/24 by kotori
AllenJames , 坂本貢一
私たちは心の中で考えた通りの人間になります。私たちを取り巻く環境は、真の私たち自身を映し出す鏡にほかなりません。 いろいろな場面で、この考え方を聞きます。 ここが源流なのでしょうか。 >> 続きを読む
2018/04/23 by caelumcafe
森絵都
初読み作家の方だけど、児童文学を書いているらしいとのこと。それにしては違和感ない会話だったが、紀子の小学生から現在までを描くドラマ。ちょっとした言葉尻だったり、おせっかい焼きの友達だったり、思わずこういう奴いるよなと頷ける描写。またある時はケーキ屋のバイトを始めたら、その店の人間関係に巻きまれて、辞め方の投げやり加減の件だったり。エピローグで色々匂わせていた将来のことが分かるが、まあ未来は予測できないものだし、永遠は存在しないからこの世は美しいのだ。 >> 続きを読む
2020/08/10 by オーウェン
東野圭吾
兄弟二人きりの家族。勉強が苦手だったため、進学せず働き、無理がたたって身体を壊してしまい生活するのもカツカツな兄が、母が生前願っていたように、弟には大学に行ってほしいとの思いが強すぎ、大学への資金を得るために強盗に入り、家主と遭遇し誤って殺してしまいます。弟は、兄が重罪を犯してしまったことにより、人生が一変します。周囲の人たちの態度が一変してしまうのです。周囲の人たちの関わりたくない、面倒なことに巻き込まれたくない、という思いは大抵の人たちが持つであろう感情でしょう。当然、弟は進学するどころの話ではなくなってしまい、働く道を選ぶのですが、兄の存在が分かるのではないか、とビクビクしながら生活しています。その後、通信制の大学へ通うことが叶い、さらに全日制の大学への編入が叶いますが、その後も兄の存在が分かるたびに、色々なチャンスが奪われていくのです。「強盗殺人」で重い刑に服することになった兄は、弟に毎月手紙を書くのです。兄は弟のことが心配で、生活が気になっていますが、手紙を受け取るたびに弟は重い気持ちになります。そしてその手紙が原因でさらに弟のチャンスが奪われていくのです。兄には家族に受刑者がいることで、その後ずっと家族に悪い方向に波及する問題を分かっていません。何とも歯がゆくやるせない気持ちになります。これは小説の中での話ではありますが、実際のところ、現実世界でもきっと同じようなものなのでしょう。加害者家族に差し伸べてくれる手など、ほぼ存在しないに等しいのかも知れません。ようやく就職した先の社長が弟に言った言葉が何とも奥が深く、ここまでのことを面と向かって言ってくれる人はなかなか居ないでしょう。兄を恨みながらも、事件のきっかけが例え道を外れていても、自分(弟)のためだったという事実が心を大きく揺り動かし悩む姿に何とも言えない気持ちになりました。やはり著者の作品である『人魚の眠る家』のような、とても重いテーマの話だと思いました。 >> 続きを読む
2019/07/20 by taiaka45
武者小路実篤
高校の頃になんか好きで読んでいた武者小路実篤さん。「劇作家としての才能はあるがコミュニケーション能力に難があり、その割にやたら自尊心が高い不細工目の男が、清らかで美しく、聡明な女の子に自分の価値観を当てはめて崇拝する」という、端から見ていて「うわー」って目を覆いたくなるのが90パーセントです。でも読んでるとそれなりに主人公と一緒にヤキモキしちゃう。あとの10パーセントを楽しみに、一緒になってウジウジして読むのが暗い楽しみです。 >> 続きを読む
2017/10/03 by MaNaSo
さくらももこ
エッセイ三部作完結編。読みやすいので一気読み。文字だけで笑わせるって本当にすごいと思うので文才を少し分けてほしい。人生が珍プレーと言われる(家族談)私だけど、それを人に読ませられるレベルでまとめる能力なんて無い。「グッピーの惨劇」はやらかしてしまった時にいかに誤魔化すかに全精力をかけたり、その誤魔化しのために作った状況に気付いてもらえず自ら第一発見者になったりした過去が蘇ってきて体が火照る。中学生の頃、先生からハムスターをもらえる事になったものの母親になぜか言い出せないままもらい受け、捨てハムスターとして偽装しようと家の前の塀に乗せて置いたのに気付かれず、私が第一発見者のフリをして大芝居をうったのに夕方、その先生から「ハムちゃん元気にしてますか~」と電話があり即バレたあの日は黒歴史でしかない。そのハムスターは家族から溺愛され、バナナチップやらを食べて子孫を残し四年近く生きた。思い出が刺激される子供時代のエッセイがとにかく面白い。子供時代がテーマのシリーズも早く読まないと。 >> 続きを読む
2015/07/20 by きなこ
有島 武郎
妻を失い新しい芸術に生きることを決意した作者が、子に対して綴ったメッセージである『小さき者へ』。 優れた画才を持つも、漁夫として生きざるを得ない青年が夢と現実の狭間で葛藤する様を描いた『生れ出づる悩み』の二篇が収められています。 読み終えて、「もっと早く出会いたかった…」と強く感じた本です。中学・高校位に出会っていれば…今のような愚かな私はいなかったかもしれない…と、後悔です。ただ、『生れ出づる悩み』の大半が漁夫の過酷さについて書かれているので、正直眠くなりました。それを差し置いても、私には名著です。 ”前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。”(『小さき者へ』本文P27より抜粋) ”ほんとうに地球は生きている。生きて呼吸している。”(『生れ出づる悩み』本文p131より抜粋) 私の好きな言葉です。 >> 続きを読む
2014/07/13 by foolman
塩野七生
歴史に名を遺した人の「身近な」人(一部、馬)の独白、という形での短編集です。塩野さんならでは、という感じで、面白かったです。歴史のIFは、無意味ではあっても面白いですよね。にやりとさせられるユーモアは、さすが塩野さん。小説ですが、史実からうまく想像を膨らませているので話に無理もなく、そもそも読者である私は史実をあまり知らないので特に違和感を覚えることもなく、楽しめました。人間というのは1000年、2000年経ってもそこまで変わるものではなく、いるわぁー、こういう人、というのが楽しい。ユダの母親とか。史実を追い求めるのも楽しいのですが、IFを想像するのもまた楽しいものです。歴史上の人物は有名になればなるほどキャラクタが固定されていくので、本当にそうなの?と想像する本書は、読みながら古代のワイドショーを観る気分でした。ワイルドの『サロメ』もちょっと読み返したいですね。あれもワイルド視点の一種のIFですし。 >> 続きを読む
2016/12/13 by ワルツ
宮城谷昌光
宮城谷昌光はつ読み。この小説の主人公は華元(生没年不詳であるが紀元前616~589年頃に宋の名君・文公を助けて活躍)という人物。この華元の一番の功績は、中華の大国である晋と楚の和議を取り持ったことであるが、この小説のメインテーマは華元という人物の人となり。不遇の時代が彼を育てた。謙虚に人の意見を聞く耳をもっている。乱世にして詐術とは無縁にして自らの信念を曲げることない、という生きざま。まわり道をしながらも大きな仕事をはたす。われわれ日本人がしばらく前までもっていた、中国のよき大人のイメージそのままの人物。【このひと言】〇盟ったことを棄てることは、みずからの信を棄てるようなものです。小国である宋は大国を頼るしかありませんが、信を立てなければ、大国に棄てられ、ついには天に棄てられます。〇不遇であることは、人を育てます。わたしが父の歿後すぐに司寇の職を襲(つ)いでいたら、昭公への仕えかたに迷い、それがひけめになって、君を心から補佐できたかどうか・・・〇どのような戦いにも生死がある。戦場にある生死に手心をくわえることはできない。戦場では、ほどよく生きることも、ほどよく死ぬこともできぬ。死が厳粛であれば、生も厳粛である。戦場とは、そういうところだ〇美名と汚名とはわずかな差しかない。〇あと二月、苦しみましょう。苦しむことは、生きているということです。苦しみが終わるということは、死ぬということです。 >> 続きを読む
2017/03/20 by シュラフ
たかのてるこ
最近この著者の本にはまっています。出版順に読んでいなかったので、あぁこれが例のラオス人の元カレかと思いながら読みました。本の中にもありますが、ラオスのことはほとんど知らなかったので、読みながら素敵なところだなぉと感じました。やっぱり旅は場所を見るだけでなく人とのつながりなんだなと感じます。最後の方は遠距離国際恋愛経験者としては泣けました。しかもこの彼がすでに元カレになっていると知っているので、尚更、人の心って難しいと。 >> 続きを読む
2020/07/03 by Mika
都築響一
素晴らしい!!他人の部屋万歳ヽ(≧◇≦)/生身の人間の生活臭漂う写真集人の数だけ部屋がある人の数だけ生活があるインテリア雑誌で見るような部屋でなくそこで生活してる人の部屋その人の性格とか人となりが部屋に表れている。住めば都って言うけど住んでる人には居心地がいいんだろうなぁ…生活感、満載。東京のリアルがここに!!私としては『もう少し片づけたら?』『ゴミなんとかしたら?』って部屋も多々あったけど(笑)私が住んでる訳じゃないのでまぁ…いいか( ´艸`)ムププあとがきを読んだら原書が1993年1993年って言ったら私が息子を産んだ年。確かにカセットテープとかレコードに年代モノのポットに一口コンロとかいっぱい載っていて懐かしいなぁ…って思うのと同時に20年前ってこんなんだった?って驚きが…今はこの写真に載ってる家のほとんど…90%がもうなくなってるって事にも時代の流れを感じる。 >> 続きを読む
2015/04/24 by あんコ
菅靖彦 , MandinoOg
この本は、オグ・マンディーノという作家が、サイモン・ポッターという老人に出会う、この老人はラクピッカーであり、既に廃品になった人を蘇らす方法を教える。この本に出てくる神の覚え書きを読んだあと、この本の題名である『この世で一番の奇跡』の意味を知る。 >> 続きを読む
2017/03/28 by atsu
川端康成
「雪国」って真冬の雪に閉ざされた温泉にて人目を忍ぶ大人な男女の秘め事を通し人生の哀しさを描いているんでしょ?と思ったら全然違いました。季節も初冬、晩春、晩秋と雪は降ったとしても豪雪ではありません。白い世界のイメージはタイトルと冒頭の「雪国であった」の一言による先入観なのでした。「駒子」はむしろおきゃんな女と言える若い女だった事も驚きです。当時の道徳観からいって男側の意識としては18-19歳の女を買うことなどはあっけらかんとした無抵抗なものだった訳なのですね。川端文学は日本文学です。というと当たり前じゃないのと思われるかもしれません。でも日本語で書かれたから「日本文学らしい」とは言えない作家も多いのです。夏目漱石さんは明治の文豪と言われているので、純日本的小説家なのかと思われるかもしれませんが、むしろ漱石さんは英文学のプロなんですよね。そして漢文もとてもお得意なので、日本の古典の血を引いた作家ではないのです。では耽美な文章で知られる泉鏡花こそが日本文学なのかというとそれだけではないと思います。まだ「川端文学」を語るレベルには全くないのですが、きっとこれだけはいえるでしょう。川端の小説には日本の古典的様式と感性が表現されている。と。平安時代にさかのぼれる文学のスタイル、そして歌舞伎などの舞台の形式美。江戸時代に人気を博した物語の省略と誇張表現もきっと受け継いでいることでしょう。直接的表記はあえて避け、大胆な空白と隠喩を用い、注意深い読者にはわかる仕掛けをキーワードにして。自然風物を観察し新しい見方を「発見」するという短歌や俳句の伝統。主人公の目をとおして見える景色のディテールを詳細に描くことで舞台に自分もいるような感覚を得られ、声に出して話される言葉の生々しさをもって、人物のリアリティを生んでいく演劇的手法。「雪国」の駒子、そして「悲しいほど美しい声の葉子」の実在感は何と言っても彼女らの「声」のためにあるのです。その点が他にない面白さを持っていると感じました。「雪国」では物語は時系列に進むのではなく、同じ言葉や文章の繰り返しも多く、決して構成がよくできた作品ではありません。それもそのはず、雑誌で連載のような形で切れ切れに掲載されたものをまとめたものだったのですね。「雪国」を小説として評価するのは難しいです。主人公島村が越後湯沢の温泉芸者の駒子に会うというだけのストーリー。それも3年弱の期間に3回訪れただけの、情が濃いのか薄いのかよく判じかねるふわふわした「恋」のお話。「恋」を口にするのは一方的に駒子だけです。島村はというと「親の財産で」「無為徒食」の暮らしをし、文筆業をしながらぷらぷらできる贅沢な身分の、色白小太りで髭剃り後が青々としているような妻子持ちの男なんですよね。こういう男に惚れる気持ちに自分が全く同感できなのがまず恋愛小説としてマイナス。駒子が15〜16歳で売られた身の上で、島村との情事も19歳から21歳の間のお話であることも、憐れが先に立ってしまって普通の恋のお話に思えないこともマイナス。それでもこの小説が愛されているのは二人の女の強い印象が後を引くからなのではないかしら。私は駒子よりも葉子に心が惹かれましたが、彼女の存在がこの物語に陰影を与えています。情景描写もただの写生ではありません。冒頭の有名な文章に続く列車内の記述は特に魅力的です。このあたりの文学的なすばらしさはdreamerさんのレビューをぜひお読みください。きっとこの小説の香り立つ文章の良さがわかるでしょう。そこで私はちょっと別の見方を最後に書いておきます。「結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている」左手の人差し指が覚えている女って…。「雪国」はエロい小説でした。起きたことを省略せずに、ありのままに映像化したなら、こっちが赤面したくなるような情事のシーンが多々出てきますが、川端は何も書かず、すっとばしています。それでも言葉によってそれは「表現されている」!なんとまあ。読まれて困る日記を隠語で書いてあるのを読み解くみたいですよ。例えば、生理中なので関係を躊躇している駒子にそんなのなんでもないよと事に及んでしまうと、女も体のことは忘れ…。なんてのが、想像できるように書いてあるんですよ。源氏物語とかの古典文学みたいでしょ?ぜひぜひ雪国の一番のエロな表現(しかし上品をぎりぎり壊さない職人芸)を探してみてください。読み取っていただければ川端さんも喜ぶと思います。そしてこれだけではいけない。川端康成をもっと読まないと…。これだけでは全くわからないわね。と思った次第です。 >> 続きを読む
2016/12/21 by 月うさぎ
CapekKarel , 千野栄一
SFの古典とされる戯曲。序幕含め、全四幕。原題はR.U.R(ロッスムのユニバーサル・ロボット)で、ロッスムはロボットを製造する企業名。本書内には、実際に登場人物を演じたらしい役者の古い写真が挿入されている。「賦役=robota(ロボタ)」を元にしたロボットの言葉が生まれた時点でその反乱がテーマだったこと、ロボットが機械仕掛けではなく生物学的人造人間だったことに驚く。解説では、各登場人物名の意味を知る。SFに慣れたいまの目で見るとストーリーに新奇さは感じないが、「ロボットの反乱」のオリジナルを確認できたことに満足した。 >> 続きを読む
2021/01/25 by ikawaArise
ナンシー関
提示されたお題を「記憶だけを頼りに描く」のが記憶スケッチ。全国から届いた記憶スケッチを、ナンシー関が絶妙に評していく。本読みながら涙流して笑いました。特に70歳以上の方が描いたイラストの爆発力が凄い。人間の記憶のなんと曖昧なことよ。落ち込んでいた時に、上司が「笑ったらスッキリするよ!!」と言って貸してくれた一冊です。「笑える気分じゃ……ぶはっ」といった感じでまんまとスッキリしました。ナンシー関さんの、イラストに物語りがうまれるようなツッコミがまた秀悦です。 >> 続きを読む
2013/06/16 by ∵どた∵
出版年月 - 2003年3月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト
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