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2003年7月発行の書籍

人気の作品

      博士の愛した数式

      小川洋子

      新潮社
      カテゴリー:小説、物語
      4.3
      いいね!

      • 小川洋子の第55回讀賣文学賞小説賞受賞作「博士の愛した数式」を読み終えました。

        交通事故のせいで、記憶の蓄積が1975年でとどまり、以降80分間しか記憶が持続できなくなった数学者の博士。
        家政婦紹介組合から派遣され、博士の身の回りの世話をしている「私」。
        阪神タイガースファンの10歳の息子。

        「博士の愛した数式」は、著者・小川洋子の小説が常にそうであるように、行間から温かみがほのかに立ち昇ってくる、愛にまつわる物語だ。
        でも、それは激しい感情を伴う愛ではない。

        「私」の息子を、頭のてっぺんが平らだから「どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号、ルート」と名づけ慈しむ博士の、幼き者に寄せる無償の愛。

        世界の不思議と歓びと真実を、数字と数式で詩的に表す博士に向けられる「私」とルートの深い敬愛の念。

        博士の記憶が続かないから、毎日、初対面同士として出会い直す三人の間に、それでも蓄積されてゆく礼儀正しくて、しかし少しもよそよそしくない親愛の情を示すエピソードの数々が素晴らしい。

        記憶障害のために、背広のあちこちにメモを留めている博士。
        なかでも、一等大切にされている「私」とルートに関する覚え書き。
        靴のサイズなど「私」やルートにまつわる数字を、素数や友愛数といった"数の概念"で愛情たっぷりに表現し、二人に数字の神秘や美を優しく伝授する博士。

        凄い業績を残しているのに「神様の手帳をのぞき見して、ちょっとそれを書き写しただけのこと」だからと呟く博士の、驕ることのない、控え目で純粋な魂に触れ、そんな博士を全身全霊で守りたいと願う「私」とルート。

        聖家族とでも呼びたくなるような三人の深い心の交流。
        著者は、それを抑制の効いた筆致で描いていくんですね。
        そして、説明を極力避け、その上品な文体ゆえに、逆にくっきりと浮かび上がってくるんですね。

        淡白な交歓の情景の底に流れている、強い絆をもった愛情の気配が-------。

        「不自然極まりない概念を用い、無関係にしか見えない数の間に、自然な結び付きを発見した」という、オイラーの公式に込められた博士の思い。

        それが、読み終えた後、しみじみと胸を打つんですね。
        カラカラに乾いた心に、しっとりと潤いを与えてくれる、そんな作品なんですね。

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        2018/11/11 by dreamer

      • コメント 2件
    • 他10人がレビュー登録、 45人が本棚登録しています
      予知夢

      東野圭吾

      文藝春秋
      カテゴリー:小説、物語
      3.5
      いいね!
      • ガリレオシリーズ2作目。

        1作目にも増して科学的トリックが多くなっているし、湯川が関わる部分も刑事とかなり遜色なくなってきている。

        予知夢や心霊写真。ポルターガイスト現象に火の玉。
        こういった現象に対し、湯川がきっちりとケリをつける解き明かしが見もの。

        5話目の「予知る」が一番印象に残ったが、解明できない謎というのも世の中には溢れているのだと。
        >> 続きを読む

        2018/11/08 by オーウェン

    • 他6人がレビュー登録、 72人が本棚登録しています
      鳥人計画

      東野圭吾

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:小説、物語
      3.0
      いいね!
      • 東野圭吾とスキーは切っても切れない関係。
        なのでこういう物語が出来るのも必然。

        天才ジャンパーの楡井が毒物死を遂げる。
        その不快な死に警察は捜査をし、コーチや選手などの関係者が犯人であると突き止めるのだが。

        実は犯人はかなり早い段階からばらされている。
        でもそれで完結とはならず、見せたいのはその裏に隠されている鳥人計画なるものだ。

        実際海外ではこんなことやっていそうな設定がリアルだし、ジャンプの角度や踏み切りなど細かい描写も多い。
        ラストはある種の含みを残すが、こんな未来は来てほしくないな。
        >> 続きを読む

        2018/08/14 by オーウェン

    • 他3人がレビュー登録、 26人が本棚登録しています
      デッドエンドの思い出

      吉本ばなな

      文藝春秋
      カテゴリー:小説、物語
      4.2
      いいね!
      • 「幽霊の家」は感動作だった!

        2017/03/15 by ふみえ

    • 他3人がレビュー登録、 14人が本棚登録しています
      くらのかみ

      小野不由美

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      3.8
      いいね!
      • 「ミステリランド」という少年少女向けミステリの第1回配本。
        割と早い段階で、食事に毒が入れられる事件が発生する。
        複数人が被害を被るが死者は出ないため、それほど陰惨なイメージはない。
        この後にも何回か事件が起こるが結局死人は出ず、小野不由美が少年少女向けのミステリ作品として配慮していることが伺える。
        この点、麻耶雄嵩は猛省してほしい(冗談である)。
        事件が進むうちに家系図や登場人物が後継者であることの有無や見取り図(お笑いの方ではない)や登場人物のアリバイや事件の時系列などが表として挿入され、非常に親切な作りの小説となっている。
        小野不由美が本当に、少年少女向けに読みやすいよう工夫をこらしていることが伺える。
        この点、麻耶雄嵩は猛省してほしい(重ね重ね冗談である)。
        メインの毒物混入事件のトリックは非常にシンプルかつ効果的なもので、いたく感心した。
        ただ登場人物の一人が事件のラストで「お金なんかたいして必要ではない」と述べ相続を断る展開は、さすがに偽善ではないかと思った。
        映画「タイタニック」でもこの手の「お金軽視」の登場人物がいるのだが、どうにもこうにも僕はこういう人たちが鼻についてしまうのである。
        僕は「ミステリランド」は多分4冊くらいしか読んでいないが本書はその中では最も子供向けに配慮されていて、かつミステリ的にもレベルが高いので、胸を張ってオススメできる作品となっている。
        事実、本作は第4回本格ミステリ大賞の最終候補となっている。
        小野不由美は「十二国紀」が有名だが「黒祠の島」という非常にレベルの高い本格ミステリを上梓しており、本作で本格ミステリ作家としても極めて優秀であることを再確認した。
        >> 続きを読む

        2021/03/19 by tygkun

    • 他2人がレビュー登録、 7人が本棚登録しています
      七度狐

      大倉崇裕

      東京創元社
      カテゴリー:小説、物語
      3.7
      いいね!
      • 大倉崇裕の「三人目の幽霊」に続く、落語界のシリーズ第2弾「七度狐」を読了。

        季刊落語編集部の間宮緑は、編集長の牧大路に言われて、静岡の山奥の杵槌村で行われる、上方落語の名門・春華亭古秋一門会を取材することになる。

        現在、北海道に出張中の牧も、後から遅れて参加予定。
        その一門会は、6代目古秋の引退に伴う、7代目古秋の名の継承、6代目古秋の一言で継承者が決まるという大事な会だった。

        緑は古市・古春・子吉という、6代目古秋の三人の息子たちの最後の通し稽古を見学する。
        三人ともに、甲乙つけがたい名人級。

        しかし、その日の晩、最初の死体が発見されることに。
        そして、折からの豪雨のために道路が分断され、杵槌村は陸の孤島状態になってしまう。

        前作は、落語の世界だけには留まらない、日常の謎の物語を集めた連作短編集でしたが、今回は、落語の世界の中で起きる、落語の世界ならではの物語。

        しかも、陸の孤島で起きる見立て連続殺人事件には、「古秋」という名前を巡る一族のどろどろとした確執、芸への執念が絡み、更には、牧が安楽椅子探偵役もこなすことになるという、本格ミステリの王道をいくような作品なのです。

        前作で登場していた、三鶯亭一門は江戸落語でしたが、今回登場する春華亭一門は上方落語。
        そして、今回重要なモチーフとなるのは、「七度狐」の噺。

        現在では、化かす場面が二つしか語られないというこの噺ですが、その昔は、7度全てが語られていたそうです。
        しかし、長すぎたり飽きられたりしがちなこの構成を、5代目古秋が、見事に復活させる考えを持っていたということで、著者の大倉崇裕による、この新しい演出が、作品の重要なキーワードとなっているのです。

        見立て殺人を扱ったミステリは数多くあれども、これほど物語の内容に密接しているというのは、珍しいのではないでしょうか。
        そして、その内容がなかなか明かされないというのもいいですね。

        思わせぶりなプロローグで語られる、45年前の過去と現在の繋がりも、とても効果的だと思いますし、真相はある程度、見当がついていたものの、それを上回る驚きが待っていました。
        そして、落語の物語らしく、ラストの落ちがまた最高なのです。

        私は「七度狐」の噺を知らないので、2度化かしてみせる、通常語られている噺と、7度化かしてみせる著者の創作の噺、どちらも実際に聞いてみたくなりました。

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        2021/10/27 by dreamer

    • 他2人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      思い出のマーニー

      RobinsonJoan Gale , 松野正子

      岩波書店
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! Moffy
      • (上下巻あわせての感想です)

         この物語はわたしの中では「新刊」でした。
        ジブリアニメの2014年新作の原作がこれ、と聞いて、そういえば読んでなかったなぁ、と思い手にとりました。
        (ジブリは本当に良質の児童文学を知っていると思います)

         この本が出版されたのは1967年なのですが、日本で岩波少年文庫になって出たのが1980年。
        岩波少年文庫を「実年齢で」追いかけていたのは小学校、中学校の時で、まだ日本語には訳されていませんでした。

         学生当時、映画研究会に入っていて、合同サークルだった為、他の大学の文化祭なんかも行ったのですが、そこに「児童文学研究会」を見つけ、おお、こちらでも良かったなぁと思った事を覚えています。
         
         そこで発表されていたのがこの『思い出のマーニー』
        今では、古典なのかもしれませんが、当時は「ええ?新刊かぁ。いつか読もう」で、実際読んだのがずいぶんと遅くなってしまいました。

         なんと言っても、この物語の舞台がイギリス・ノーフォークであることが魅力。
        海に近くて川がたくさんあって、湿地帯がたくさんあるところ。潮の満ち引きがあって、ボートや帆走がさかんな所です。

         大好きなアーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』のシリーズの中で、Dきょうだい(ドロシアとディック)ものというのがありますが、Dきょうだいが、休暇に訪れて帆走を学ぶ場所です。

         物語はアンナという少女が主人公。
        親は死んでしまい、養い親となんだかぎくしゃくしているロンドンに住む子ですが、ぜんそくの治療の為、夏休みを繰り上げてこのノーフォークの村に来ます。

         友だちがいない、というより自分の殻にこもって、全く友だちを作ろうという気がない女の子。
        このノーフォークの湿地に屋敷があって、そこで同じ年のマーニーという少女と出会い、気があい友だちになります。

         しかし、村人は屋敷は誰も住んでいないといい、マーニーの事は誰も知らない。
        秘密の友人ができたアンナですが、どうもマーニーと言う事が食い違うのです。

         時を超えて・・・という児童文学ではフィリッパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』やアリソン・アトリーの『時の旅人』といった
        佳作があるのですが、この物語はアンナの心情、殻にこもって心を閉ざす様子がとても繊細。

         ノーフォークの川や海で、ひとりで何時間も過ごすことができる。
        大人が「かまわないでくれる」ことを望むのですが、それは「気にかけてほしい」の微妙な裏返しの気持です。

         しかし、天真爛漫なマーニーはそんなひねくれたアンナを受け入れてくれる。
        気のあう友人というのは、子供であっても合う、合わないがあるので難しいのですが、アンナはマーニーという少女が大好きになる。

         訳をした松野正子さんがあとがきで書かれている通り、最初の出だしは気難しいアンナのあれこれ、なのですぐには入り込めないかもしれません。

         しかし、ノーフォークの様子が生き生きと描かれているので、その辺は大丈夫なのです。
        アンナは、性根の腐ったこどもではないので、すぐにすくすくと成長するので、安心して読める一冊。
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        2018/06/02 by 夕暮れ

    • 他1人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      出家とその弟子

      倉田百三

      岩波書店
      カテゴリー:戯曲
      3.5
      いいね!
      •  浄土真宗の宗祖 親鸞聖人と
        その弟子達とのやりとりを題材にした戯曲です。
        戯曲ですから台本形式なのですが、
        特に違和感なくスラスラ読めます。
        時代の古さも気になりません。
         
         親鸞聖人の弟子 唯円が書いたとされる
        歎異抄を下敷きにしているそうですが、
        小難しいことは一切かかれていません。
         
         浄土真宗のことは詳しく知りませんが、
        「人を憎むな、自分を責めるな、すべて許して受け入れろ、
        全部を仏様にゆだねるのだ」
        といったことが ひたすら繰り返し平易に述べられています。
         
         そんな親鸞聖人の教えを上手に受け止められず、
        聖人の実の息子や とてもかわいがっている弟子が
        生きていく悩みに打ちのめされているエピソードが物語の中心であり、
        親鸞聖人自身も往生を迎える最後の場面まで
        葛藤をもっていたことが描かれています。
         
         発表当時(大正のころ)には大ベストセラーになったそうですが、
        今読んでも考えさせられるところのある作品です。
        >> 続きを読む

        2018/08/29 by kengo

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      ヨーロッパ思想入門

      岩田靖夫

      岩波書店
      カテゴリー:西洋哲学
      4.0
      いいね!
      • ギリシアの思想とヘブライの信仰(ユダヤ教・キリスト教)を源泉として、ヨーロッパ思想の流れが語られます。

        3部構成で、1部がギリシアの思想、2部がヘブライの信仰、そして3部がヨーロッパ哲学の歩みとなっており、3部では中世から現代までを一気に駆け抜けます。

        この3部がめちゃくちゃ難しい(笑)。

        しかし、飲みこみの悪い私でも、現代哲学がギリシアの思想とヘブライの信仰の礎石の上にあるということだけはかろうじて理解することができ、目から鱗でした。
        恐らく私たちの思考にも影響があるのではないでしょうか。


        印象に残っているのはイエスの有名な説教について書かれているところ。
        自分を愛してくれる人を愛したり、自分をよくしてくれる人によくするのは、善意ではない。そんなことは罪人でもしている。
        お返しを何も期待せずに、善いことをするのが「敵を愛せ」の意味だそうです。

        3部の最後に、レヴィナスの思想の背景にはこういったヘブライ信仰があると。
        彼の著作をぜひ読んでみたいと思いました。

        ちなみに、巻末の読書案内には、『倫理と無限』がレヴィナス哲学へのもっともやさしい入り口として紹介されています。
        >> 続きを読む

        2014/11/04 by でま!

      • コメント 2件
    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      幽霊刑事

      有栖川有栖

      講談社
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! ooitee
      • 上司の経堂課長に人気のない海岸に呼び出され、「すまん!」という言葉と共に射殺されてしまった刑事の神崎達也。
        彼はふと気が付くと、なんと幽霊になっていたのだ。

        自分で見た自分の姿は、半透明。
        しかし、自分の母親や妹、同僚であり婚約者同然の森須磨子の目の前に現れても、誰一人として気配すら感じてくれないのだ。

        ただ一人、神崎に気が付いたのは、イタコの血を引くという後輩の早川。
        殺されて1ヶ月が経過しようとしているのに、未だに経堂は全く疑われてもいないどころか、見当違いの捜査活動が続いているのを見て、神崎は苛立ってくる。

        何故、自分が経堂に殺されなくてはならなかったのか、経堂の言葉にはどういう意味があったのか。
        神崎は、早川の力を借りて、自ら捜査に乗り出すことに--------。

        幽霊が探偵役になるというのは、まるで西澤保彦や山口雅也が得意とするようなシチュエーション。
        今までにも、このような設定の例はあると思うのだが、有栖川有栖が独自のルールを敷き、それに則って物語を展開しているところが、実にいいですね。

        幽霊になってしまうことのメリット、デメリットも、作品の中で十分に生かされていると思う。
        そして、主役はその幽霊なのですが、上司に射殺された男の幽霊とはいえ悲壮感はほとんどなく、それどころか、普段、実際に生きている人間以上に存在感があるんですね。

        誰も聞こえないのに、巧みに合いの手を入れながら、時には愚痴をこぼしている姿は、コミカルで面白く、また哀愁も漂っている。
        この辺りは、さすが大阪人の感覚と言うのか、有栖川有栖らしさが現れていると思いますね。

        ラストシーンは、言ってしまえば、まるで予想通りの展開なのですが、これがなかなか感動的。
        この余韻がなんとも言えず良いですね。

        元々は、推理劇の台本として書かれたものを、書き直したということで、映像的にもアピールする愉しい作品ですね。

        >> 続きを読む

        2021/04/25 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 6人が本棚登録しています
      マルドゥック・スクランブル the third exhaust-排気

      冲方丁

      早川書房
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね!
      • 【全編を貫く『卵』のイメージ】
         さて、『スクランブル』の第三巻に当たる『排気』は、カジノ・シーンの大詰めが描かれます。
         カジノ・ハウス側との勝負となったブラック・ジャックで、バロットは手練れのディーラーを次々と退けていきます。
         その勝負の過程がかなり詳細に描かれるのですが、非常に緊張感溢れる描写であり、ともするとだれがちになりそうな場面なのに、しかもかなり大部のページを割いているにもかかわらず、一切中だるみ等することなく描き切った筆力は大したものです。

         そうして、物語はバロットとボイルドの最後の決戦へとなだれ込んでいくのですが、こういった戦闘シーンは、まるで高速のアニメでも見ているかのようなスピード感と十分な迫力で描かれており、かつ、大変ビジュアルなのです。
         文章でここまで書き切るというのも相当な技量だろうと思います。

         この『スクランブル』には、全編を通じて『卵』のイメージが潜ませてあるように感じます。
         バロットを殺そうとした、カジノの経営者であり、自身ディーラーでもあり、マネー・ロンダリングを重ね、少女たちを惨殺し続けてきたシェルは、もちろん『殻』です。
         脳から記憶を抜き取られた、中身の無い殻というわけですね。

         ヒロインのバロットは、作中でも解説されている通り、アヒルの完全に孵化していない卵を使った料理の名前です。
         それは未熟さの表象か、あるいは、卵を破って出てくることができないまま殺されてしまった雛の姿を象徴しているのか。

         知性を持ったネズミ、万能武器のウフコックは、フランス語で『半熟卵』の意味です。
         ウフコックの良心を、煮え切らない心と表現したものでしょう。

         ボイルドもそういうネーミングなのかもしれません(作中ではそうとは書いていませんが)。
         つまり、半熟のウフコックと対極にあるゆで卵。
         もっと言えば『固ゆで卵』をイメージしたネーミングなのかもしれません。

         もちろん、ドクター・イースターだってそうです。
         イースター(復活祭)には卵がつきものでしょ?
         ドクターの役どころは、ボロボロにされてしまうバロットやウフコックを復活させること。
         壊れてしまいそうだったバロットの心を修復することなのですから。

         第二巻の再読を含めて、この度『スクランブル』を通読してみましたが、大変に力のこもった、非常によくできた作品だと感じました。
         こういう派手な戦闘シーンがあるようなSFを好まない方も多いのかもしれませんが、そこだけに目を奪われて本作を回避してしまうのは大変もったいないことです。
         本作には、ウフコックに代表されるような、良心、信託、成長といったナイーヴな要素もふんだんに含まれているのですから。

         そして、何度も書きましたが、カジノ・シーンの緻密な、しかもスリリングな描写は是非一読していただきたいと思うのです。
         これだけの場面を描き切っている作品はそうざらにはお目にかかれないと思います。

         さて、マルドゥック・シリーズですが、シリーズ第三作の『マルドゥック・アノニマス』も全巻買い揃えてありますし、シリーズからのスピン・オフ作品(?)も買ってあります。
         今回は、図書館から借りてきた本を思いの外早く読み終えてしまい、他に読む本が枯渇してしまったことから、温存していた『スクランブル』を読んでしまったわけですが、また、そんな事態が起きた時のために、未読のマルドゥック・シリーズは大事に取っておくことにしましょうか。


        読了時間メーター
        ■■      楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK)
        >> 続きを読む

        2020/09/25 by ef177

    • 他1人がレビュー登録、 4人が本棚登録しています
      あ・うん

      向田邦子

      文藝春秋
      カテゴリー:小説、物語
      4.0
      いいね! tadahiko
      • テレビだか映画だかで、ちょこちょこ見ていた作品。
        今回しっかりと読んだ。
        こういう話だったのか。

        なんか話が断片的に進むのは、テレビの脚本がベースで書かれているから?

        女性(向田邦子)からみた男の友情、または今どきで言えばおっさんずラブに萌えている感じでしょうか。

        水田が惚れた女だから好きなんでしょうよ。
        水田がいなければ、好きにならないよ。
        せっかく向田邦子が素敵な男女の三角関係を描いたというのに
        冷ややかに読んでしまった。
        >> 続きを読む

        2019/12/30 by 寺嶋文

    • 他1人がレビュー登録、 8人が本棚登録しています
      蹴りたい背中

      綿矢りさ

      河出書房新社
      カテゴリー:小説、物語
      3.6
      いいね!
      • 圧倒的に好き。
        著者のルックスとか賞とか関係なく好き。
        文体とか観点とかがシビレる。

        話題になっちゃって、これ以降の作品の文体から「らしさ」が消えてしまったのが本当に残念。
        >> 続きを読む

        2016/02/09 by W_W

    • 他1人がレビュー登録、 16人が本棚登録しています
      あなたが世界を変える日 12歳の少女が環境サミットで語った伝説のスピーチ

      ナマケモノ倶楽部 , Cullis-SuzukiSevern

      学陽書房
      カテゴリー:公害、環境工学
      5.0
      いいね! tamo sayaka
      • 1992年のブラジルのリオデジャネイロで開催された国連の地球環境サミットで当時12才だったセヴァン・カリス・スズキ先生が子供の環境団体の代表として地球環境問題についてスピーチした内容とその背景をまとめた良書。たった12才で世界の人たちの共感を得るようなスピーチをして、世界の環境問題への関心を高めることに成功したなんて心から尊敬。もちろんセヴァン・カリス・スズキ先生個人の才能や努力もあるだろうけれど、12才の女の子に地球環境問題を真剣に考えるきっかけや環境を与えた周りの大人たちもすごいと素直に思う。 >> 続きを読む

        2017/09/18 by 香菜子

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      過ぎ行く風はみどり色 (創元推理文庫)

      倉知 淳

      3.5
      いいね! ooitee

      • 今回読了したのは、連作短編集「日曜の夜は出たくない」でデビューを飾った倉知淳の第一長編「過ぎ行く風はみどり色」。

        猫丸が今回訪れたのは、後輩の方城成一の実家であった。
        半ば勘当状態の成一だが、祖父の兵馬が胡散臭い霊媒師を信心していると聞いて心配になり、久々の帰宅とあいなった次第だ。

        成一は、彼を兄と慕う従姉の左枝子や妹の美亜、家政婦のフミたちから温かく迎えられたものの、祖父との和解を果たすことはかなわなかった。

        兵馬は、密室状況にあった屋敷の離れで殺害されてしまったのだ。

        霊媒師が予言したように、事件は神霊の仕業なのか?-------。

        超心理学に関する蘊蓄は詳細を極めつつ、随所に皮肉がまじる。
        もっとも、著者の倉知淳は、オカルティズムを声高に弾劾するわけではなく、猫丸先輩の口舌は、妙に滑稽味を帯びているのだ。

        著者もまた、猫丸と同じく「その興味の赴くところ、とりあえず首を突っ込んでみないと収まらない性格」なのかも知れない。

        著者のオカルトへの"ひねくれた愛好"は、渋谷で霊感占い所を営む辰虎叔父を探偵役に据えた連作短編集「占い師はお昼寝中」や、電波妄想ミステリ「壺中の天国」といった作品にも結実していると思いますね。

        >> 続きを読む

        2018/11/10 by dreamer

    • 他1人がレビュー登録、 3人が本棚登録しています
      放浪息子 (1) (BEAM COMIX)

      志村 貴子

      4.5
      いいね!
      • とにかく痛くて、切ない。
        男の子だ、女の子だってこともだけど友人関係とかの。
        両親や家族がやさしくてホンワカしてくれるのがイイね。
        無償の愛情ってやつだな。
        >> 続きを読む

        2018/07/30 by motti

    • 他1人がレビュー登録、 2人が本棚登録しています
      大学・中庸 (ワイド版岩波文庫)
      4.0
      いいね!
      •  一般に出回っている大学・中庸は朱熹の注釈に基づいたものを使用しているが、ここでは朱熹の注釈によらない、すなわち朱熹の思想の入っていない古い読み方を中心に扱い、参考として朱熹の序文、読み方を掲載している。

         もともと大学・中庸は埋もれていた書物であるが、読んでみればなかなか良いことが書いてある。これを朱熹が広めたいと考えたことは理解できるし、序文からもその思いは伝わってくる。しかし朱熹の注釈を読むと理と気の考え方を広めるために大学、中庸を利用したともとらえることができてしまう。ここが注釈の危ういところで、難解な文章の理解のためには注釈が必要であるが、そこに注釈を付ける者の思想が入り込む余地があるともいえる。ただ、朱熹の場合はこだわりのポイントがわかりやすいので、そこにさえ気を付けて読めばよい。

         大学では学ぶことの意味、心構え、そもそもなぜ学ばなければならないかが述べられている。上に立つものに向けて書かれたものであるのだが、学ぶという行為そのものに対する指針を示すものであるため、立場によらない普遍的な内容となっている。一方で中庸は「誠」を説いたものといえるが、自然や宇宙のありようと誠を結びつけているところに難解さがある。ただ、丹念に読んでいけば言わんとすることは伝わってくる。

         なぜ学ばなければならないか、学ぶということはどういうことか、どう学ばなければならないかという忘れがちなことを思い出させてくれる。朱熹ではないが、このようなものが埋もれているのは確かにもったいない。学ぶということの大切さを伝えるためにも、漢文の授業を通してでもよいので公教育の場で扱うべきだと思う。
        >> 続きを読む

        2019/06/30 by 夏白狐舞

    • 1人が本棚登録しています
      思い出のマーニー〈下〉 (岩波少年文庫)

      ジョーン ロビンソン

      4.8
      いいね! Moffy
      • やっぱりこの作品はとても素晴らしい!^ ^
        人と人とのつながりを教えてくれる、とても暖かい本です。

        今自分が不幸だと、愛されていないと思っていても……決してそうではないと思う。
        いつも知らない所で、たくさん愛をもらっている。感じないのは、自分がそれに気が付いてないだけ。
        マーニーは「第二のチャンス」を決して失ってはいなかった。
        時と場所を越えて、寂しさで心を閉ざしたアンナにありったけの愛を届けた。
        アンナが後になって友達が出来たのも、ミセス・プレストンに心を開き始めたのも、明るい子になったのも……それはきっとマーニーの愛のおかげだった。
        人の思いと愛情って、本当に不思議。
        >> 続きを読む

        2017/09/04 by Moffy

      • コメント 2件
    • 4人が本棚登録しています
      彼のバターナイフ (角川文庫)

      内田 春菊

      4.0
      いいね!
      • 男性に知っておいて欲しいと思ったこと

        女をフェラチェオ好きにするのは相手の男の態度次第。
        カノジョの女友達に手を出そうとするとカノジョに連絡がいく。女友達の間にも友情はある。
        コンドームを使うのは避妊のためではなく性病予防のためでもあり、自分がカノジョから病気を移される可能性もある。カノジョが自分以外の男とヤっていないという確証はないのだから。
        >> 続きを読む

        2017/08/20 by kikima

    • 1人が本棚登録しています
      機動戦士ガンダムthe origin

      安彦良和

      角川グループパブリッシング
      カテゴリー:漫画、挿絵、童画
      5.0
      いいね!
      • ガルマは坊や。マクベ登場。アムロは木馬を飛び出す。セイラさんそわそわ。

        2016/06/25 by aya5150

    • 2人が本棚登録しています

出版年月 - 2003年7月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト

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