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村上春樹
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コレは自分の書架から。双子と同棲する"僕"と鼠先輩(違)のつれづれ。3フラップのピンボール台"スペースシップ"がおかれていたバーをめぐる2元中継スタイル。村上春樹氏のこの作品での洗練度は失礼ながら要約すると和製サリンジャーを気取っているのだと思った。のちのノルウェイの森にまっしぐらだwけっこう好きだ。物語ではなく、文体を味わっていくということが。 >> 続きを読む
2018/07/06 by motti
鼠3部作の3作目です。鼠からの手紙から作品は始まります。どうやら鼠は青森→北海道と転々としているようです。"私"は妻と離婚し、そして耳の美しい新しい彼女が出来ます。ある宣材写真で見かけた"耳"が気になって、その"耳"の人を探してやっと見つけたのが彼女です。ところで、ある日私を訪ねてくる男がいました。そのいかめしい男は私が広告製作に使った写真に写る"背中に星模様の羊"を探してくれといいます。「羊を探せないと君を社会的に抹殺する」みたいなことを言われ、私は仕方なく思い腰をあげてその羊を探すことにします。仕事をやめ彼女と北海道に旅に出ます。上巻はここで終わりです。妻と離婚し、羊を探すため仕事もやめてしまった私ですが、すべての事から解放され、これから羊を探すひろい草原のような空間、つまり希望がみえるようなそんな感じがします。下巻ではどんな展開になるのか、楽しみです。それにしても依頼人の運転手はいいキャラです。私と彼女との3人でのやりとりが面白いです。その一節。"「じゃあたとえばサウジアラビアで作られた車にはアラーが入り込んでいるわけだね」「サウジアラビアでは車は生産されておりません」「本当に?」と僕。「本当です」「じゃあアメリカで作られてサウジアラビアに輸出されて車にはどんな神様が入っているのかしら?」とガールフレンドか訊ねた。むずかしい問題だった。"運転手、私の猫に"いわし"なんて名前をつけたりもして。 >> 続きを読む
2017/12/05 by Reo-1971
吉田修一
たまには薄い本でも読もうかと手にとったのだが、パーク・ライフとflowersの2つの短編が収められている。で、最初のパーク・ライフを読んで、まったりした感じでいいなあと思っていたら、芥川賞受賞作品らしくて、ちょっと微妙な気持ちに。ちょっと調べたら作者は「悪人」を書いた人らしく、確かに聞いたことがある名前だなあ。まあ、読んでよかったのでそれで十分なのだが。 >> 続きを読む
2020/09/14 by 和田久生
角田光代
第132回直木賞受賞作。一児の主婦で就職先を探していた小夜子と偶然出身大学が同じだった女社長葵のダブルキャスト。小夜子は葵の会社に新事業として立ち上げるお掃除代行のスタッフとして入社する。小夜子は人見知りの娘を保育園に預けながら必死に仕事に打ち込む。一方、葵には高校時代友人関係に悩み、親友ナナコとの駆け落ち?をした過去があった。2人がどのような関係になっていくのかが気になって読み進むことができた。それにしても女性同士の関係は何故こうも陰湿感を感じさせるのだろうか。 >> 続きを読む
2017/11/24 by konil
『回転木馬のデッド・ヒート』(村上春樹) <講談社文庫> 読了です。小説ではなく、また、完全な事実だけでもないものを、作者は「スケッチ」と読んでいます。この作品は、小説になれなかった八つのスケッチを集めたものです。読んでみると、「原則事実に即している」とはいいつつ、村上ワールドいっぱいです。どうしてこれが小説になれなかったのか、一読者としては首をひねるばかりです。「スケッチ」だと言われなかったら、短編小説集だと思っていたに違いありません。これらの話が小説にならない、という嗅覚を持っている人が本物の小説家になれるんですね。 >> 続きを読む
2015/10/23 by IKUNO
山田真哉
会計って?会計士って何やってんの?という興味から手に取った本。とても気楽に簡単に、理解できました。特に最初のエピソード、貯蔵品勘定を使うってことを最近知ったばかりで、よくある手法なんだなぁと読みました。エンロン事件の概要も、ざっくり分かった気がするし。会計の取っ掛かりに、ちょうど良いと思います。続きも読もうと思います。 >> 続きを読む
2019/09/20 by 寺嶋文
岩明均
レビュー登録500冊。節目は岩明均氏の「ヒストリエ」。『寄生獣』で知られる作者がデビュー前から描きたかったという古代オリンポス文明を舞台にした歴史漫画。主人公はマケドニアのアレクサンドロス大王に仕えた書記官のエウメネス。第1巻では流浪のエウメネスが故郷カルディアに戻るところから始まる。しかし育った家は焼失。そこから幼少時代の回想へ。史実では出自に不明な点が多いエウメネス。それに対して作者が波瀾万丈の逸話を創造。非常に魅力的な主人公になっています。歴史考証と創作のバランスが絶妙です。文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞など数々の漫画賞を受賞しており(完結さえすれば…)マンガ史に残る傑作であることは間違いなし。歴史好きで未読の方にオススメです。 >> 続きを読む
2015/09/07 by ybook
村山由佳
村山由佳の「天使の梯子」は、「星々の舟」で第129回直木賞を受賞した著者の受賞後第一作であり、デビュー作となった「天使の卵」の続編だ。「天使の卵」では十九歳の歩太が、年上の美しい女性に一目惚れするところから始まる。遠回りしつつも結ばれた二人だが、やがて突然の出来事によって、歩太が彼女を失ってしまうことで終わる。「天使の梯子」は、「天使の卵」から十年後の物語という設定だ。この作品の主人公は、二十歳の大学生・古幡慎一。彼は、かつて通っていた高校の担任の女性と偶然に再会する。その女性というのが、「天使の卵」では主人公の歩太にかなわぬ思いを寄せていた夏姫だ。彼女は、歩太が愛した女性の妹でもあった。憧れの女教師と再会した慎一は、次第に夏姫への思いを深めていく。そんな慎一の一途な思いに夏姫も心を開いていき、やがて二人は付き合うようになるのだが、慎一は夏姫の向こうに、歩太の影を意識するようになっていく-------。この物語の人物たちに共通しているのは、自分にとって大事な人を失ったという、深い"喪失感"だ。慎一は、母代わりに育ててくれた祖母を、夏姫は、姉を、歩太は、最愛の恋人を。特に慎一は、心ない態度をとってしまった翌朝、心筋梗塞で突然逝ってしまった祖母に対し、心の深い部分で自分を責めている。そんな慎一に、夏姫は言う。「誰に何を言われても消えない後悔なら、自分で一生抱えていくしかないのよ」と。夏姫のこの言葉にこそ、十年という時間の重さが感じられるし、この言葉の深さは、読みながら私の胸にずしりと響いてきましたね。夏姫を愛すれば愛するほど、夏姫ごしに見え隠れする歩太の存在に心を乱される慎一。人を好きになることの切なさ、やるせなさを、著者は確かな手つきで鮮やかに描き出していると思う。「天使の卵」から十年。「天使の梯子」は、著者と物語両方の成熟を感じさせる一冊だ。 >> 続きを読む
2018/11/10 by dreamer
小川洋子
【大変デリケートな短編集】 とてもデリケートな作品が収録されている短編集です。 これといったストーリーがあるわけではなく、あるエピソード、時間だけを描いたような作品もあります。 静謐な作品なのですが、そこに垣間見える怖さや不思議さもあったりします。 それでは収録作品からいくつかご紹介。○ 飛行機で眠るのは難しい ウィーンに向かう飛行機の中で、ある女性が男性と隣り合わせの席になります。 男性は、静かな声で「飛行機で眠るのは難しい。そう思いませんか、お嬢さん?」と話しかけてきます。 その男性は、以前飛行機に乗った時に隣の席に座ったという外国人のおばあさんのことを語り始めるのです。○ 中国野菜の育て方 寝室にかけておいたカレンダーの12日のところが○で囲まれています。 何の日だっけ? 夫に尋ねてもそんな印はつけていないし、何か予定があったという記憶も無いと言われます。 彼女は自分で印をつけた記憶も無いのです。 12日になりました。 行商のおばあさんが訪ねてきて、野菜を買ってくれないかと頼まれます。 野菜は足りているんだけれど……。 おばあさんはピンク色のマニキュアをしているのです。 断ったら、何だか風に流されそうになりながら自転車をこぎ出します。 思わず、「少しだけなら買います」と声をかけてしまいました。 おまけでもらったのが、種が入っているという土の塊。 すぐに芽が出てきて、栄養たっぷりの野菜が育つのだとか。 育て始めてみたのですが……。○ まぶた 本土から離れた島に一人で住んでいる中年男性と、本土に住む15歳の少女が関係を持つというお話。 これは、小川さんの『ホテル・アイリス』のもとになった作品なのでしょうか?○ お料理教室 広告で見つけたお料理教室に通ってみることにしました。 あまり流行ってはいない様子で、その日の生徒は自分一人だけでした。 先生は、料理を教えるということもなく、一人でどんどん料理を作っていってしまいます。 そうしているところに、台所の配水管のクリーニングをしますという訪問販売の業者がやってくるのです。 先生は、せっかくだからやってもらいましょうと言い出し、教室の途中だというのにクリーニングを始めさせてしまうという、それだけのお話。○ 詩人の卵巣 一人で外国旅行に出かけた女性が、旅先で雨宿りをしていたところ、少年から「ここの詩人の博物館を見ていきなよ」と声をかけられます。 その詩人のことは何も知らなかったのだけれど、雨宿りの間ならと思い、誘われるままに見学を始めたのです。 切り取ったあるエピソードの中に漂っている感情のようなものを書いているように感じました。 筋立て自体に意味があるということではなく、その時、そのエピソードの中にある何とも言い難い感情のようなものです。 『お料理教室』なんて、ただ教室の途中で業者が来て、台所の配水管のクリーニングをして帰っていくというだけのお話なんですよね。 でも、そこになんだかふわっと空気のように漂っている感情が確かにあります。 そういうものを見せてくれている作品のように感じました。 『中国野菜の育て方』や『詩人の卵巣』は、ファンタジーのような終わり方が用意されている不思議なお話です。 でも、その不思議さを書こうとしたというよりも、やはりその終わりにたどり着くまでの過程のところに漂っている感情のようなものの方に目がひかれます。 何かドラマティックな筋立てや展開を期待されている場合には向かない作品だと思います。 静かな空気感や、密やかな感情、さらさらとした読後感、そんな作品を読みたくなった時に良いのではないでしょうか。読了時間メーター□□ 楽勝(1日はかからない、概ね数時間でOK) >> 続きを読む
2020/03/06 by ef177
本多孝好
side-a,bに話がわかれていて、物語の登場人物達は叙情的だ。aを読み終えたあとの感想としては神秘的で切なく物悲しい。終わりが見えるようだけれど、終わらない空しさを感じる。どうしてかすみはゆかりじゃなく、ゆかりはかすみではないのだろうか。「時計は全部五分遅らせることにしているの。だって、人より、ちょっと得した気にならない?あら、あなたはもう十時なの?私はまだ九時五十五分よって三十分は駄目よ。三十分も遅らせたら、世界に追いつけなくなるわよ。五分くらいがちょうどいいの」bではさまざまな事が裏切られたやように感じた。ゆかりかかすみか、不気味なまでに雲隠れする真実を誰も見抜くことができないのが怖くて、後味が悪く感じました。 >> 続きを読む
2017/04/17 by yuri17
AlbomMitch , 別宮貞徳
素晴らしいです。近年読んだ本の中で3本指に入ると思います。是非とも すべての人に読んでもらいたいです。 本書はALSという不治の病にかかってしまった大学教授と、彼のもとを16年前に巣立っていった著者との再会から始まった「人生の意味」をテーマとした毎週火曜日のディスカッションの集大成です。 著者とモリー先生は「ふたりの最終論文」と称しています。 愛、仕事、社会、家族、老い、許し、そして死そのものにいたるまで、さまざまな題目に対し非常にニュートラルな価値観から講義が展開されます。 そのすべてが とても真っ直ぐで理解しやすい言葉でかたられています。死を真正面から捉えて受け止めたモリー先生のつむぎ出す言葉は心の奥深くに届きます。そして、とても考えさせられます。 オグ・マンディーノが気に入って最近 何冊か読みましたが、人生の素晴らしさや目的、意味をテーマにしていることは同じでも、内容・質はずいぶんと異なります。 オグ・マンディーノの本は優しい言葉と雰囲気でゆるやかに読者の思考を誘導するところがあり、成功を求める価値観がベースにあります。そしてキリスト教色が強くでているものが多いです。 対して、本書はもっと素朴に普段着の文章で訴えてきます。少しでも宗教観ただよう本が嫌いという方にもおすすめできます。 ネタバレはあまりしたくありませんが、本書のことばを少し引用して紹介の終わりにしたいと思います。 「いかに死ぬかを学べば、いかに生きるかも学べるんだよ」 「用意はいいか?するべきことをやっているか?なりたいと思う人間になっているか?」 「文化がろくな役に立たないんなら、そんなものいらないと言えるだけの強さを持たないといけない。自分の文化を創ること」 「ほんとうに満足を与えてくれるものは自分が人にあげられるものを提供すること」 あなたにとって 申し分のない一日 とはどのようなものですか? >> 続きを読む
2015/02/01 by kengo
乾くるみ
10か月前だけ戻れることができる。リピートと呼ぶそれは風間なる人物によって、10人まで過去へと連れていける。大学生の毛利は選ばれたが、半信半疑のまま過去へと。この過去へと戻る行為のためかなりの時間が割かれており、そこにはリアリティが生まれていく。しかし過去に戻ると次々と犠牲者が。果たして犯人は誰なのか。またその裏の真意とは。R10という考えが選ばれた人物の秘密であり、ミッシングリンクのつながりは永遠に人生を続けられるという結論へ。ラストの見解が実に強烈であり、過去を変えようとすればというタイムスリップの掟をまざまざと見せつけられる。 >> 続きを読む
2019/03/11 by オーウェン
荻原浩
「海の見える理髪店」で直木賞を受賞した荻原浩の2004年の作品。若年性アルツハイマーと戦う主人公が一人称で語る物語。日常生活の中で物忘れがひどくなっていくさまや、会社で電話している相手の名前が結局最後まで出てこないなどの描写が切ないほどに伝わってくる。病状の進行を、読者が一緒に見守っているような錯覚に陥る。日を追うごとに日記に綴られる誤字が多くなっていく点や、小説中にて思考を記述するにあたっても同じことを繰り返してしまったりと読み進めていくと見落としかねないような仕掛けも多い。「未払い」だと思い何度も「支払い」してしまう場面でのちょっとした裏切りは読んでいて辛すぎた。細かい描写がリアルで本当に素晴らしい作品だと思います。誰もがなりうる可能性のあるアルツハイマー。身近な人があるいは自分が同じような状況に置かれた時、どう受け入れるのか。団塊の世代、そして団塊の世代を父や母に持つ子の世代にはぜひお薦めしたい傑作。 >> 続きを読む
2016/08/23 by hibiki
神谷美恵子
「哲学は人間がよりよく生きるために生まれた学問です」。先生のこの言葉に、「ナニソレ?」と口を半開きにしたアホ顔の私は、誠に残念な学生でした。父上、母上、こんなおバカな息子に莫大な時間と金を与えてくださったことに今更ながら感謝します。面と向かっては言わないけど。でも、この本を読んでようやく少しわかった気がする。これは、「自分探し」の自己啓発本でも癒やし本でもない。特定の宗教についての本でもない(信仰については著述あり)。でも、手っ取り早く悩みを解決したいと焦ってハウツーを求めることよりも、じっくりと思想することにより心が豊かになることを教えてくれる。50年以上前に書かれた本であるのに、今なお古さを感じさせないのは、生きがいを探すのがますます難しい世の中だからだろうか。 >> 続きを読む
2020/11/21 by かんぞ~
Schindler, S. D , 黒宮純子 , CuylerMargery
しゃっくりがいこつ。マージェリーカイラー先生の著書。悪戦苦闘しながらしゃっくりと戦うがいこつを面白おかしく描いた絵本。がいこつだけれど恐怖心を感じるようなところはなくて、楽しくてユーモアたっぷり。子供たちへの読み聞かせ用に素敵な一冊。 >> 続きを読む
2018/10/24 by 香菜子
ペーター・ニクル
例のアニメ映画に登場したので読んでみた
2018/07/09 by motti
十川信介 , 二葉亭四迷
明治時代に端を発す「言文一致運動」の記念碑的存在、ということで古文を勉強している私は、その言文一致の歴史を知る意味で読むべき作品と思い、読むに至りました。免職になってしまった男、文三と、その叔母、園田家のお政や、従姉妹のお勢、元同僚の昇などの人物を通して描かれる、文明開化後の明治情緒溢れる作品。まず素晴らしいと思ったのが、何よりもその文体・文章です。和歌の修辞技法や英語と日本語の言葉遊びも交え、活き活きと写実的に描写された、東京の下町言葉・江戸言葉によって進んでいく物語の調子は、さながら軽快な江戸落語家の語り口を思わせるようで、「サアそうなると」などという地の文の合間合間に、「トントン!」と扇子を叩きつける落語家の挙動が目に見えるようです。第一篇・第二篇では文体において、例えば「」のカッコ受け(」)がなかったり(そのことでまた独特のリズムが生まれていますが)、地の文で「ト」や「ズット」など、場面の文節でカタカナ語を多様され、軽快な調子であったのが、第三篇になると、文三の置かれた境遇と合わせ、どこか重苦しい調子になり、それは四迷が影響を受けたドストエフスキーなどのロシア文学におけるそれを思わせるようです。文章における創意工夫が多分に見られます。私が思ったのはこの「粋」な江戸言葉を使う登場人物たちの繰り広げる日常劇は、つまるところ注解にも著されている、四迷の談話「予の愛読書」での「人間の依て活くる所以のものは理ではない、情である。情といふものは無論私情の意にあらずして純粋無垢の人情である」と論ずるが如く、四迷はまだ江戸幕府体制の香りが色濃く残る、どこか可笑しい明治に生きる東京人たちの「人情」を描いているのだと思いましたが、解説を読んでみるとどうやらそう単純なものでもないようです。福沢諭吉の「学問のすすめ」に代表される、明治維新の後の、文明開化の風潮にあった日本において「学問」は尊ばれる反面、次第に立身出世のための道具と見なされるようになってきた「学問」への偏重した日本人の「信仰」に、学問を積んでも、本をいくら読めてたとしても免職となって、園田家の人物や、昇との不和を経験する文三をして警鐘を促す側面もあるようです。「一体何のための学問なのか?」 これはそう昔の事とはいえない、日本の近代社会においても根強く残っていた「信仰」のひとつではないでしょうか。いい学校、いい会社、いい家庭に恵まれてこそ、幸福であるといった根拠のない「信仰」、、、題の「浮雲」は、江戸時代以来「あぶない・あぶなし」と訓読されてきた言葉のようで、そうしたフワフワとした、「浮雲」のような価値観に、四迷は「あぶなし!」と、声をあげているかのようです。本作は第三篇で一応のところ「終」とされており、後に続く悲劇的な腹案もあったようですが、作者が筆を投げるような、未完の形で終わった本作「浮雲」は、明治時代の風俗を知る歴史資料でもあり、文学的・国語的にはかなりの挑戦的な試みのなされた「実験小説」でもあり、文明開化後の日本に沸き立った「浮雲」という「魔物」を「あぶない!」と、警鐘を促す思想小説としての側面もある多角的・多面的な作品で、繰り返し読むに値する文学作品のひとつだと思いました。 >> 続きを読む
2018/02/21 by KAZZ
瀬尾まいこ
過去に自殺未遂をした父が突然「今日で父さんを辞めようと思う」と言い出し、教師の仕事まで辞めてしまう。母は自殺未遂の件をきっかけに家を出てしまい、炊事と掃除をしに通ってくるだけ。兄は幼いころから勉強にも運動にも優れて天才と呼ばれたが、あるときから真剣に生きることを辞めてしまった。そんな家庭の、物語の始まりでは中学生の女の子・佐和子が主人公の物語。まさか瀬尾まいこの作品で評価2をつけるとは思わなかった。はじめは短編小説だと思っていて、全4章のうちの第1章を読んだときは、その締めが気持ち悪すぎて寒気がした。上記のような家族設定に加えて、父の自殺未遂の時、母は救急車も呼ばずに呆然としていて、兄は父の死よりもなぜ死ぬのかが気になって救急車を呼ばずに遺書を読んでいた。そんな家族がたまに家族のことを思っている風の、すごくからっぽなセリフを言うのだ。吐き気がした。すぐにこれが長編だと気づいて、瀬尾まいこの作品だから温かい物語になるんだろうと思いなおした。しかし、そうはならなかった。この物語の趣旨はおそらく「崩壊した家庭とその再生」なのだろうが、私にはまだ問題を孕んでいるようにしか見えない。そもそも、どうしてこれが再生したということになっているのかが理解できない。佐和子の家族たちは皆からっぽで、自分も含めたすべてのものがどうなってもいいという人に見える。そして、私にとっての印象は終盤になっても変わらない。「真剣ささえ捨てることができたら、困難は軽減できたのに」という言葉の体現者たちだ。佐和子も一時はそんな家庭が気になったようだが、基本的には受け入れて生活しているようだ。それも私には引っかかるところだが、佐和子には大浦君がいた。だから、家庭がうまくいっていなくともなんとかやってこれた。しかし、逆に言えば家庭がうまくいっていないから家の外に依存対象を作るしかなかったともいえる。それを理解せずに、その責任を負わずに、佐和子を心配するだけの家族の様子は苛立たしい。そして、ほとんど他人のヨシコのたかがシュークリームきっかけで立ち直っていく佐和子も理解できなくなってしまった。ケバくて香水臭くて浮気するやつが本当はいい人なんて夢物語だ。父は「ちゃんと生きなくちゃ」と思ったようだが、自分の気まぐれで家族がどうなったのかもっと重く受け止めるべきだ。や~めた、やっぱりやらなきゃ、なんてフラフラされてたまるか。母と兄に至っては何も変わっていないし、この二人は人の感情がわからない欠陥を抱えている。お参り行っている場合じゃない。佐和子は佐和子で「どんなときだって、私の周りにはそういうものがちゃんとある」なんて言っているが、彼女の周りにいるのは大事な時にそばにいてくれないような人たちだ。ラストなんて本当ににひどい。弟に渡すなんて正気を疑う。人の心があるのか。いいところもあったのだ。大浦君のひたむきさと、その目に映る佐和子の像はとてもかっこよかった。佐和子の真面目さと、そしてそれを美徳とする佐和子の精神に惹かれる大浦君に共感した。なのになぜこうなったのか……。瀬尾まいこの作品には、真面目にやりすぎて躓いてしまった人たちがよく出てくる。瀬尾まいこは教師をやっているし、きっと自身がそういう風に生きてきたのだろう。物語の主人公たちは、どこかで折り合いをつけたり希望を見つけて前を向いて歩いていた。しかし、本作では逃げっぱなしなのだ。私は「真剣さ」は捨ててはいけないと思う。捨てるのではなくて、周りの人の力を借りるとか、もっと違う、別の柔軟なやり方で対応するべきなのだ。そもそも、0か1かの考え方しかできない時点で真剣さを捨てられていない。きっと真面目な人にはそういう生き方は似合わないのだ。だから、瀬尾さんにはひねくれたことをせずに、もっと素直に前向きになれる物語を書いてほしいと思った。 >> 続きを読む
2017/05/06 by しでのん
「僕」の背中に星型の斑紋を持った羊を探す旅。「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」と読んできたけど、まさかこんな結末を迎えるとは。村上春樹の本がただ雰囲気を楽しむだけの本ではないってことがよくわかった。北海道で向かえる衝撃のラスト!「羊」という単語からホンワカしたファンタジーを想像していたけど、全くそんなんじゃなかった。ダークで、怖くて、不思議で、幻想的で、それでいて面白い。そしてちょっと切ない。メタファーと示唆に富んだ作品。噂の「羊男」も登場。「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」の感動にはちょっと足りないけれど、月うさぎさんと同じく、鼠くんに☆5を捧げます。読み終わった今、なんとも形容しがたい気分です。 >> 続きを読む
2014/03/02 by chao
池田真紀子 , DeaverJeffery
【残された時間はどちらのため?】 リンカーン・ライム・シリーズの第二段です。タイトルのコフィン・ダンサーとは、今回のリンカーン・ライムの宿敵となるスナイパーのニックネーム。棺桶を前にして女性と踊る死に神の入れ墨をしていることからそう呼ばれます。 素性は一切不明。プロの殺し屋であり、腕は超一流。過去に警察官が爆殺されたこともあり、警察は仇敵として検挙に全力を尽くします。いえ、検挙なんて生ぬるいし危険すぎる。発見したら即座に射殺するようにとの命令が出ます。 コフィン・ダンサーの今回の標的は、とある重要な容疑者に関し、裁判での証人になることが予定されている3名の男女です。どうやらその容疑者に雇われているらしいのです。 そして、あっさりと証人の一人が飛行機ごと爆殺されてしまいます。 ここでリンカーン・ライムに援助要請が出るのですが……。 証人が証言する予定はあと2日後。それまでの間、残り2名の証人を守りきらなければなりません。 通常、タイムリミットが設定されるのは、警察側であることが多いですよね(監禁されている人質を救出されるために残された時間等々)。ところが本作ではそれが逆転していて、殺し屋側のタイムリミットなのです。 各章には「残り○○時間」とタイトルが振られており、いやがおうにもタイムリミットを意識させられます。 殺し屋は、読者の前には早々に姿を現し、様々な手を使って証人を殺害しようと企てます。 リンカーン・ライムは、例によって徹底した鑑識捜査とプロファイリングにより、殺し屋を割り出そうとし、あるいはその手口を先読みしようとします。 両者の攻防が非常に緊張感を醸し出す作品となっており、ライムの側も何度も出し抜かれますが、殺し屋の方もあやうくライムの仕掛けた罠に陥りそうになり恐怖を感じます。 まさに知恵比べと言った様相を呈してきます。 ここまでが上巻ですが、下巻への期待が増します。 >> 続きを読む
2019/10/25 by ef177
出版年月 - 2004年10月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト
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レビューのある本