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東野圭吾
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2018/10 4冊目(2018年通算137冊目)。スキー場を舞台にしたサスペンス。スキー場の経営の裏側部分を知ることが出来てその点は良かった。ただし、事件解決までに至る部分が強引というか終盤バタバタした感じがして、一応「大団円」なんだけど読んでいて納得がいかない部分があった。その点は残念。一応シリーズは全部そろえているので、続けて読んでいきたいと思う。 >> 続きを読む
2018/10/15 by おにけん
伊坂幸太郎
殺し屋シリーズ第2弾は、全編新幹線の車内でのみ展開する。子供が重傷を負いその復讐のため乗る木村。その木村を束縛する中学生の王子。そして任務を請け負うため乗り込む双子のような檸檬と蜜柑。更にはツキがまるでない七尾。この5人を主軸に殺し屋たちが社内を行き交う。普通に考えれば一方通行なので逃げる場所などないのだが、そこはアイデアによってユーモラスな殺し合戦が始まる。檸檬と蜜柑の強烈な個性は、まさかのトーマス機関車。そしてサイコパスの権化のような王子もまた強烈。序盤から張られた伏線も最後にはきれいに回収。3作目も楽しみだ。 >> 続きを読む
2018/09/30 by オーウェン
和田竜
戦国時代に起きた“忍城の戦い”をベースにした軽快なタッチの歴史小説。天下統一を目前にし、ノリにのってる豊臣秀吉が小田原攻めで唯一落とせなかった忍城。主人公はその忍城の城主である“成田長親”=“のぼう”だ。“のぼう”は“でくのぼう”の略で、不器用で知謀も武勇もなく大好きな農作業ですらヘタクソな成田長親が家臣や領民からも呼ばれた愛称である。のぼうの武器は人柄の良さだけ。人に好かれるという才能、たったそれだけで豊臣の2万超えの軍勢に農民を含めても3千の軍勢で支城する。何といっても、のぼうを囲むキャラクター設定が魅力だ。豊臣秀吉も周りに恵まれたと言われてるが、のぼうの方もなかなかである。領民以外は全て実在の人物だというのが驚きだ。読後にそれぞれの人物を調べるのも楽しい。小説では表現しきれなかった個々の奥行きが深まる。豊臣軍の指揮者である石田三成が、のぼうの「目もくらむような光彩を放つほどの的外れた大笑の顔」を見た時に、「あけすけな笑顔」を見せる豊臣秀吉とオーバーラップするシーンが印象に残る。良い人間関係に恵まれる器は屈託のない笑顔から育っていくのだと思う。 >> 続きを読む
2019/02/07 by NOSE
村上春樹 , シェル・シルヴァスタイン
--その木は ひとりの少年の ことが だいすきでした。-- 年末、子どもにプレゼントする絵本を探した本屋さんで再会した一冊です。 小さい頃とても好きだった絵本。 今は村上春樹の訳で評判になってるんですね。 絵が、懐かしく嬉しい。 老いた少年が切り株に腰をおろす最後のシーン。心から素晴らしいと感じます。 何もかもを木から持って行ってしまう我が儘な少年、 何もかもを少年に与えてしまう過保護な木、 でも、そんな二人だからこそ、木は切り株になれて、少年は人生に疲れて帰ってきて、最後を共にできる結末。 もし木が少年を厳しくたしなめて何も渡さなかったら、少年が腰を下ろす切り株はできていませんし、何より、人生に挫折した少年が最後に帰ってくる場所にならなかったと思います。 もし少年がお利口さんで優しい性格だったら木は綺麗な大樹のままですが、そんな良い子なら、人生も上手に渡り歩き、孤独と挫折の最後に至ってないように思います。 少年が木から何もかもを強欲に持って行ったのは勿論「望ましく」ないのだと思います。少年に何もかもを無批判に与えた木も、「望ましく」ないのだと思います。 それでも、そんな二つのマイナスのかけ算だからこそ辿り得た一つの幸せの形。 望ましくは無かったかもしれないけれど、間違っては無かったんだ、という嬉しさ。 とても素敵なハッピーエンドと感じます。 親になり、子どもにどう接するかを思う日々の中で、この作品もまた深く参考になります。 何歳になっても、ゆっくり子どもの話を聴いてあげられる親でありたいと、改めて感じました。 >> 続きを読む
2018/01/06 by フッフール
西沢保彦
マンション住まいの女性が、自室で若い男性に襲われるという事件が発生した。彼女の命は無事だったが、その後、県内を震撼させていた連続殺人事件と深いつながりがあることが判明。複数の手掛かりがあったものの、彼女を襲った犯人は見つからず、未解決のまま迷宮入りになってしまった。しかし、ミステリ作家や私立探偵、犯罪心理学者らが集まる勉強会「恋謎会」でこの事件を、秘密裏に再検討することになった。この場を用意した刑事が公開した捜査情報や彼らの推理によって、連続殺人の被害者たちを繋ぐ糸が、次第に明かされていく。だが、事件には思いがけない幕切れが用意されていたのだった-------。この作品は、連続殺人事件のつながりと動機を推理するミッシングリンクもののミステリで、作品の大部分が「恋謎会」の面々による推理で占められる。そして、著者・西澤保彦お得意のディスカッションは、この作品でも遺憾なく発揮されるが、更にそれが、アクロバティックな展開に奉仕するという離れ業を演じていることは驚嘆に値する。その構図の技巧に反して、犯人の動機はあっけらかんとしたものであったが、それは著者の裏テーマとして追求されている、異様な心理の一パターンとみるべきだろうと思う。 >> 続きを読む
2018/12/07 by dreamer
橘玲
「努力してもできないものはできない」なぜなら、身体的特徴と同じように知能も遺伝するし、自分は変えられないからー・・・なんて、夢も希望もないことを、と思うが、それを証明するために様々な調査や文献を引用して、読者が納得せざるを得なくなっている。その量が多く、なかなか結論にたどり着かないが、様々な情報も楽しめた。その残酷な事実を目の当たりにして、さぁ、どう生きていこうか、というのが本書の目的。著者が提案する生き方は、「伽藍(会社などの閉鎖的な組織)を捨ててバザール(グローバルな世界)に向かえ!恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!(得意分野でニッチを見つけよう)」、ということと私は解釈した。これが提案できるのも、現代の「フリー経済」などの経済市場があるからこそで、時代に応じて臨機応変に生きることの必要性も感じた。結局、「好き」を仕事にできる人は生き延びられるということか。でも、当然だが、『「好き」を仕事にしたいのなら、ビジネスモデルを自分で設計しなくてはならない。』。やはり最後は自分で考え自分で行動しなければならない。当然といえば当然である。 >> 続きを読む
2020/05/20 by URIKO
沼田まほかる
猫が好きな人は所々耐えられない部分がありますのでご注意ください。猫好きだけど飼えないな。寂しいって人間だけの感情じゃないよな。以上です。 >> 続きを読む
2021/02/10 by aki
山口幸三郎
視覚以外の五感を失った主人公がさまざまな事件を解決していく。事件の合間に彼の過去が少しずつ解き明かされていくのがとても気になる。 >> 続きを読む
2018/04/15 by 匿名
2019/01/28 by NOSE
村上春樹 , レイモンド・チャンドラー
【ハードボイルドは冷酷非情なんかじゃない】 ハードボイルド物の代表選手と言っても良いフィリップ・マーロウが登場する古典的名作。 数年前、村上春樹さんが新訳を出したことで再注目された作品です。 あらすじは、私立探偵のフィリップ・マーロウは、とあるきっかけから酒に溺れたダメ男と知り合いになります。 余計なおせっかいなのだけれど、見捨てておけなくなったマーロウが彼を助けるわけですね。 その後、時々一緒に酒を飲む仲になるのですが、彼は以前結婚していた大富豪の娘と再びよりを戻して再度の結婚をすることになります。 ところが、その娘が何者かに殺害されてしまいます。 彼はマーロウに国外逃亡の手助けを頼み、マーロウもこれを聞き入れてやります。 警察はもちろん、この逃亡者が犯人と考えて捜査をし、マーロウも彼の逃亡を手助けしたとにらまれて勾留されてしまいます。 ところが、突然、逃亡者が国外で全てを自白する手記を残して自殺してしまったことから事件は終息してしまいます。 彼が殺人犯であるとはどうしても信じられないマーロウ。 しかし、色々な方面から、この件から手を引けと脅されます。 場面変わって、マーロウのもとに新たな依頼が舞い込みます。 ベストセラー作家が新作を書けずに悩んでいる。 しかもその作家は酒浸りになっており、何か悩み事を抱えているようなので、一つその悩みを解決して欲しいとの編集者からの依頼でした。 そんな依頼は私立探偵の仕事じゃないと断るのですが、その後、その作家の美貌の妻から、作家が行方不明になったので探し出して欲しいとの依頼が。行き掛かり上作家を捜すはめになるマーロウ。 その後、この二つの事件が…… というお話。 ハードボイルドは「固ゆで卵」のこと。 情に流されない冷酷非情なタフ・ガイを指す言葉とされていますが、その代表とされているフィリップ・マーロウは、決してそんなタイプの男じゃない。 むしろ、情にもろく、ロマンチストなのです。 どこがどうなってそんな定義に当てはめられてしまったことか(やはり代表選手のリュウ・アーチャーだって決してそんなタイプとは思えないのですが)。 私は、ハードボイルド物はこれまで敬して遠ざけてきたのですが、やはり名作と言われているものは読んでおこうと思い、最近、この手の作品を立て続けに読んでいるところです。 何故、ハードボイルド物を避けてきたかというと、先ほど書いたような定義の登場人物に興味を持てなかったからでした。しかしながら、実際に読んでみたところ、実はそんなことは無いのだということが良く分かった次第です。 >> 続きを読む
2019/06/28 by ef177
乾くるみ
スキー旅行先で運命的な出逢いを果たす僕と春香。幸せの絶頂の中、春香と瓜二つの妹・美奈子が現れる事で性格も生い立ちも正反対な二人に翻弄される物語。二番目の恋、それは嘘と真実に塗り固められた歪な愛。事実は小説よりも奇なりと言う。女性の心の揺れ動きは、自身でさえ制御出来ない。愛を尽くす者、嘘を演じ続ける者、その不器用なまでの真心は、誰かを真剣に愛したいという心から来る物。真実が余りにも残酷だから、優しい嘘で塗り固める。しかし、その行為もやがて破綻する。 安易に恋をすれば、人は強くなれるとは言い切れないのだ。 >> 続きを読む
2021/02/13 by ebishi
O'ConnellCarol , 務台夏子
看板のキャスリーン・マロリーのシリーズよりも、単発作の「クリスマスに少女は還る」で有名なキャロル・オコンネルのノンシリーズの一篇「愛おしい骨」。主人公オーレン・ホッブスが、長年勤めたアメリカ合衆国陸軍の犯罪捜査部を辞め、20年ぶりに故郷に帰って来るところから、この物語は始まる。事件は彼が17歳の時に起きた。その日、オーレンは、2歳年下の弟ジョシュアと森に出掛けたが、戻って来たのはオーレンだけだった。ホテルの女主人のアリバイ証言でオーレンは、容疑を免れるが、事件は迷宮入りとなり、判事だった父親の奨めで、故郷の町に別れを告げたのだった。そんな彼を呼び戻したのは、乳母も同然の家政婦のハンナで、最近になってホッブス家の玄関に、弟の骨が置かれるという怪事件が起きたためだった。彼を脅して利用しようとする保安官を逆に手玉に取り、オーレンは事件を調べ始めるが-------。物語の面白さとミステリとしての興味という、両方のベクトルが存在するならば、この作品は物語の面白さに大きく傾いた作品だ。例えば、骨になった弟が、夜ごとに戻って来るという謎は、摑みとしてこそ魅力があるが、真相はやや尻すぼみだし、真犯人の隠し方にも、もう少し工夫が欲しい。しかし、一方で、物語ることにかけての作者の手腕には目を瞠るものがあり、とりわけ百鬼夜行とでも言いたくなるような存在感を誇る登場人物たちが圧巻だ。一見、奇矯な彼らの言動や行動が、やがて事件のベールを少しづつ剥がしていくあたりも見事で、キャロル・オコンネルという作家のアクの強さが、物語世界を構築する、肥沃な糧になっていると思う。 >> 続きを読む
2019/11/25 by dreamer
恒川光太郎
「牢獄」という言葉の前に「秋の」をつけると不思議な世界の出来上がり。秋の牢獄・・・一体どんなことなのか、読む前は想像もつきません。 この本は「秋の牢獄」「神家没落」「幻は夜に成長する」の中篇3篇から成りますが、どの物語も「閉じ込められる物語」です。と同時に「失われる物語」であり、「選ばれし者の物語」です。 閉じ込められることで失うのは自由という獏然としたものではなく、この3篇の物語では、十一月七日という一日から全く先にも後にも進まなくなりえんえんと、同じ十一月七日を繰り返す、時間に閉じ込められる「秋の牢獄」 ふとしたきっかけで、古い家の家守に指名され、家から出られなくなる「神家没落」 自分の力を持て余すことで、新興宗教の教祖として部屋にとじこめられる「幻は夜に成長する」 外的な要因で閉じ込められるというのは、「外に出られない」「自由に動けない」という不安や「自分のいるべきところへ戻れない」というこわさなのでしょうが、この物語の登場人物たちは閉じ込められることに恐怖を感じてはいません。 家や時間といった外的な要因もありますが「選ばれし者」という自分という内的な自己というものにとらわれるのも「閉じ込められている」のではないでしょうか。 自分の居場所がない人は、どこかに居場所を作らなければならない。 しかし、この物語は、失われる物語でありますがから、何もかも、きっちり納まるということはなくもろく、はかなく、時には記憶から消えていく。そして、又、閉じ込められる為に生きるのか・・・という余韻を残します。 自分というものに自信を失った時、それは一種の閉じ込められた状態ではないでしょうか。 恒川さんの文章は、流れるように、華美に走らない抑制のきいた言葉選びをしています。 誰もがいつでも閉じ込められてしまう可能性があり、実は閉じ込められているのに気がつかないで、生きているのかもしれない、恒川さんの目はそこまで見通しているような気がします。 >> 続きを読む
2018/07/16 by 夕暮れ
坂木司
大好きな坂木司さんのパワフルな女の子が主人公の一冊。シンデレラティースを先に読んでいたのですが、こちらはもう少しお仕事色に社会的要素が強いなという印象でした。そこもまた好きです。また、少しミステリアスなオーナー代理が好み!はっきり何か結末を示すことなく終わっている作品で主人公の成長と沖縄という土地の抱える様々な社会を映し出した作品として十分まとまっているのはわかっているけどいつかオーナーのミステリアスな部分などを明らかにする続編がでるといいなと何年も前の作品に期待してしまうくらい面白かったです。 >> 続きを読む
2017/10/11 by kaoru-yuzu
木内昇
身分制度が廃止になった明治初期。武士だった主人公の心の葛藤が胸を打つ。あれはどうなった?と幾つか分からずじまいなのが残念。 >> 続きを読む
2016/11/17 by がーでぶー
三浦しをん , あさのあつこ , 近藤史恵
NY、東京、パリ。それぞれの都市で開催されるマラソン大会を舞台に、三人の作家がそれぞれの視点で描く。私の趣味は、読書とランニング。体育の授業で走らされていたのとは全く違う、自分のペースでトコトコ走る心地よさに、とりつかれたひとり。フルマラソンを走った経験もあるし、ここ数年、練習日記をつけたり…と、まあどっぷりハマっているのだが、それだからこそ、走る楽しさやランナー心理など、行間をたっぷり楽しんで読んだ。 >> 続きを読む
2015/11/21 by shizuka8
梨木香歩
難しい漢字、カタカナ英語、それに分かりづらい表現、物事や人との関係性などに苦しみながらも何とか完読した。著者はいったいこの小説を通じて何を描きたかったのか疑問に思う。アフリカのウガンダに残る特異な精神世界をことのほか掘り下げようとしているが。 >> 続きを読む
2017/04/27 by konil
桜庭一樹
桜庭さん初読み。女性3代の赤朽葉家の生涯を描くミステリドラマ。初代は千里眼奥様と呼ばれ、人生の終焉が見える特徴を。2代目は暴走族の頭から少女漫画家という転換を。そして語り部になる3代目の瞳子は祖母の遺言で、1人だけ殺したという告白を聞く。つまり初代と2代目はフリであり、3代目にして赤朽葉家の死の探索が始まる。伏線もしっかりと張られてるし、結末にも納得させる一大絵巻堪能しました。 >> 続きを読む
2019/04/05 by オーウェン
高田郁
5巻目三方よしの日が好調なつる屋。これは澪の勝負どころの巻だ。清右衛門との賭けと登龍楼との勝負。そして小松原の御母堂の登場。伊佐三の浮気疑惑。読み応えばっちりすぎる!共に恋する乙女の美緒のいじらしさ。澪の手を怪我した不注意の原因。伊佐三を追うお牧。全て片恋に焦れ、切ない懸想のなせる所業!料理への垂涎もさることながら、こうゆうのがいい!太一を思う、おりょう夫婦。本当に家族って遺伝子だけじゃない。清右衛門の憎まれ口も好き。辛辣な言葉は照れ隠しかと思ってしまう。傑物たる小松原の御母堂は、なんとも格好いい。身分違いであるけれど、小松原と両想いの可能性が!源斉の澪への好意もあからさま。ああ、くすぐったい。 >> 続きを読む
2017/11/11 by ももっち
越前敏弥 , QueenEllery.
【ミステリの古典超名作は再読に耐えられるか?】 本書は、海外ミステリの古典であり、かつ超名作と評価されている作品です。 バーナビー・ロス名義(これがエラリー・クィーンの別名ペンネームであることはご承知のとおり)で書かれた4つの作品(『X』、『Y』、『Z』の各悲劇と『レーン最後の事件』)の中でも最も評価が高い作品であるばかりではなく、これまでに書かれたミステリの中でもトップクラスの名作との評価は揺るがない作品でしょう。 私も中学生の頃この作品を読み、他の同時期に読んだミステリの中には結構忘れてしまった作品も多い中で、さすがにこの作品だけは犯人もトリックもはっきりと記憶している作品でした。 この度、本当に久し振りに再読してみたわけですが、内容を忘れてしまっている作品であればいざ知らず、犯人もトリックもはっきり記憶している作品だと、いかに名作と言えどもミステリは再読に馴染まない、再読してもあまり面白くないのではないかと危惧しつつ読み直してみました。 結論から言えば、全くの杞憂に終わりました。 犯人もトリックも分かっていても、やはり面白く読むことができました。 それだけではなく、犯人等が分かって読んでいるだけに、初読時には気付かなかった(というか無意識に読み飛ばしていた)伏線にも気が付き、結構気を遣って書いているんだなあということが分かったり、あるいは、記憶は確かだと思っていたのに実は正確ではなかったという点もあったりで、結構新鮮に読めたんですね。 それではどんな作品なのかをご紹介しましょう。 事件の舞台となるのは、世間から『Mad hatter』(気ちがいハッター)と揶揄されているハッター一族の屋敷です。 発端は、当主であるヨーク・ハッターと思われる者の自殺死体が発見されたことでした。 毒をあおって海に転落したようで、死体はひどく損傷していたのですが、検死の結果、ヨークに間違いないだろうということになりました。 何故自殺したのか、その理由ははっきりしないのですけれど。 ハッター一族は大富豪なのですが、その一族には忌まわしい血が流れていました。 作中、はっきりとは書かれていないのですが、一族のカルテには『ワッセルマン反応』という項目が記載されていることが書かれていますので、おそらく梅毒という設定なのでしょう。 とにかく、ハッター家の多くの者は、暴君であったり、異常に短気であったり、粗暴であったり、残酷であったりと、奇矯な行動が目立ち、到底まともではないのです。 なので、世間からはアリスに登場する帽子屋をもじって『Mad hatter』(気ちがいハッター)と呼ばれていたのですね。 さて、このハッター一族、当主が自殺しただけでは済まず、今度は自殺したヨークの孫に当たるまだ幼い少年のジャッキーが誤って毒を飲むという事件が起きます。 ヨークの娘のバーバラは、盲聾唖という三重苦を抱えている女性なのですが、母親のエミリーはバーバラを溺愛しており、健康のためということで、毎日決まった時間に必ず卵酒を飲ませていました。 ジャッキーはとんでもない悪ガキなのですが、バーバラが飲む卵酒と知りながら、それを盗み飲みしたところ、卵酒には猛毒のストリキニーネが仕込まれていたため、ジャッキーは中毒を起こして倒れてしまいます(一命は取り留めるのですが)。 何者かがバーバラの殺害を企てた? 確かに、バーバラはその障害のために一族から疎まれていたことは事実でした。 そして、第二の事件が発生します。 バーバラは、母親のエミリーと同じ寝室で、ベッドを並べて寝ていたのですが、ある夜、何者かが二人の寝室に侵入し、エミリーの頭部をマンドリンで殴打するという事件が起きたのです。 エミリーは殴られたショックで心臓麻痺を起こして死んでしまいます。 しかし、何故、マンドリンなどという凶器を使ったのでしょう? 寝室には果物好きなバーバラのためにいつも果物が用意されていたのですが、その中の梨の一つだけから毒物が検出されました。 エミリーは、果物はあまり好きではなく、特に梨が嫌いで絶対に食べないということは一族の者みんなが知っていることでした。 ということは、犯人はバーバラを殺害しようとして梨に毒物を仕込んだのだけれど、それをエミリーに見とがめられたためとっさに持っていたマンドリンでエミリーを殴り、その結果エミリーは死んでしまったということなのでしょうか? しかし、それにしても何でマンドリンなんて用意して毒を仕込みに行ったのでしょう? 警察は上記のような推理から、犯人のターゲットはバーバラなのだから、バーバラに対して殺意を持っている者が犯人だという線で捜査を進めるのですが行き詰まってしまいます。 探偵役のドルリー・レーンは、耳が聞こえない引退したシェークスピア俳優なのですが、彼はもちろん真相にたどり着きます。 しかし、これがとんでもない真相で、レーンもただ犯人を指摘して警察に検挙させれば済むという話ではないと考え、悩みに悩んでしまうんですね。 結局、レーンは、ある出来事を機にこの事件から一切手を引くと宣言し、真相を説明しないままハッター家から去って行ってしまうのです。 もちろん、その後、レーンによって真相が語られるのですが、これは……。 実は、ラストの本当にラストの部分は、どうやら私は勘違いして記憶していたようです。 このラスト、はっきりと説明されずに終わるため、どう解釈するかはもしかしたら読者によって見解を異にするかもしれません。 私は、レーンが……ここは書けないなぁ。 実は、このレーン4部作は、個々の事件ごとにそれなりの結末が用意されているのですが、シリーズ全体の結末として『レーン最後の事件』が書かれているという構成になっているんですね。 そのシリーズ全体の構成もかなりショッキングなものなのですが、でも、実は既に『Y』でも……。 おっと、もうこれ以上は書けません。 いずれにしても本作はミステリ史上に残る超名作であることは間違いなく、海外ミステリを読んでみたいけれど何を読めば良いのか分からないと迷っている方がいたら、本作は絶対に外せない作品です(本作を読むなら、『X』から順を追って『最後の事件』まで読み通すことをお勧めします)。 また、既に読んだという方も、本作は十分再読に耐えるミステリであると思いますので、機会を見て読み直してみるのも面白いと思います。読了時間メーター■■■ 普通(1~2日あれば読める) >> 続きを読む
2019/06/16 by ef177
出版年月 - 2010年9月発行,出版の書籍 | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト
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