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2017年11月の課題図書


10月5日に発表された2017年のノーベル文学賞を受賞したイギリスの作家カズオ・イシグロ氏。
書店では文庫本ランキングの上位を独占し、読書ログでも早速数多くのレビューが集まっています。
今、もっとも注目すべき作家の代表作品。
是非、この機会にみんなで読み、大いに語り合いましょう。

Book Information

わたしを離さないで

4.2 4.2 (レビュー16件)
カテゴリー: 小説、物語
定価: 840 円

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度...。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。

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    レビュー

    すべてのレビューとコメントを開く
    • 評価: 5.0

      面白い!上手い!
      …なんて陳腐な言葉しか言えないのは、この小説が小説そのものだから。
      ジャンルはSFになるのですが、叙述型ミステリーのように、曖昧な語りからだんだん明らかになる真実の重さが読者を圧倒するというタイプの構成なので、ネタバレ一切禁止としたいです。
      なので、あらすじも語れない…。

      回想録の形で描かれているのは思い出の中の自分と親友たちの生きたすべて。
      友人との楽しい思い出、喧嘩やいざこざ、恋や性や勉強や、そんな日常のことが中心ですが、そこにまぎれもなく異質な運命が入り込んでいてなんとも言えない冷気を発しています。

      正直SFとしてはあまりにも異端です。
      通常、技術的に可能でも現在具現化していない科学技術や実存しない社会システムを描く際には舞台を近未来に設定するものですね。
      ところがこの「わたしを離さないで」は2005年に発表されたのに、1990年代末のイギリスが舞台(つまり当初から過去の物語の設定)と明言されています。
      なのに内容がこれですよ!!
      私たちが知っている世界と別の世界がパラレルワールドのように存在しているわけです。
      ファンタジーや空想には到底思えないリアリティをもって。
      科学技術的な部分については全く現実を無視しているのに。

      観たことのある方は映画の「アイランド」を想起してしまうことでしょう。(私はそうでした)
      合理性からいうと「アイランド」式であるべはずなんですよね。
      まずセレブや金持ちのために、というのが現実的な話としてあり得ます。
      時間と莫大な金がかかるのですから。
      大体なぜ彼らを社会に出す必要があるのでしょう?
      何のために彼らが生まれてきたのかを考えればそのまま施設で管理すべきでしょう。
      安全で無害なホームにいることが必須条件なはずです。
      運転とかして事故にでもあったらどうするんでしょう?
      拒絶反応が全く無視されているのもおかしな話ではないですか。


      ここで私がこの小説が「小説そのもの」だといったことを思い出してください。

      要するに合理的説明はこの際、意味がないのです。
      やはり小説とは人間をいかに存在感をもって描けるかに尽きるのではないでしょうか。
      少なくともこの小説は、テーマやプロットがすべてではないことを教えてくれます。


      千路に心が動きました。さまざまな思いが渦巻きました。
      でも決してお涙頂戴ではありません。
      小説世界にどっぷり浸りました。
      文章も語彙も平易で読みやすく(翻訳もとてもよくフィットしています。まるでもともと日本語で書かれた小説のようです)伝わるべきことが完璧に伝わります。
      登場人物に一層深い感情移入ができます。

      余韻のあるラストも素晴らしい。
      読後、私のロストコーナーを探したくて海に行ってしまいました。
      でも晴海公園は立ち入り禁止でした(T_T)
      直後はほかの本を読みたくなくなり、主人公を想い、意識がさまよいました。

      完璧です。

      思えば私たちの生もキャシーとそう大差ないのかもしれません。
      生まれた社会に規制された人生から逃げることはできない。
      いや、逃げられるのに逃げられないと思って日常を過ごしているではないですか?
      「あなたがたは教わっているようで、実は教わっていません」
      これも我々の現実と同じです。

      キャシーは知ろうとしました。
      その先に希望を見出すために。
      出口がない事を予感しつつ、現実を受け入れる為にも知ろうとしました。
      私達もそうあるべきです。
      だから読書があるのです。小説が必要なのです。
      限りある閉ざされた生の中で、人はそれなりに生き、愛し、日々の楽しみや慰めを見つけ、思い出を集め、破れた夢と現実との折り合いをつけて生き、そして死んでいく。

      「おれはな、よく川の中の二人を考える…(中略)…互いに相手にしがみついてる。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。…(中略)…けど、最後はな……永遠に一緒ってわけにはいかん」

      う~~ん。なんだか悲しくなってきたぞ。

      「わたしを離さないで」とは、こんな思いを生む小説です。

      でも決して暗い小説ではないのが、不思議。
      ドラマや映画では多分徹底して「恋愛もの」という演出をしていることでしょう。
      まあそれも間違いではないですが。

      その程度の緩い小説とは思わないでもらいたいです。

      この小説を読んで生まれてしまったこの感情をどうしましょう。この思いは「私」を構成するパーツの一つになってしまいました。
      私はもうキャシーたちとともに育ったヘールシャムの子どもなのです。
      >> 続きを読む

      2017/10/13 by

      わたしを離さないで」のレビュー

    • >読後、私のロストコーナーを探したくて海に行ってしまいました。
      >でも晴海公園は立ち入り禁止でした(T_T)
      >私はもうキャシーたちとともに育ったヘールシャムの子どもなのです。

      この感想というか体験、すごく好きです。

      さてさて映画の方ですが、アンドリュー・ガーフィールドが素晴らしく良いですよ。と言っても原作でここまで大きな体験をされているともしかすると馴染まないかも知れませんが…悪くない映画です。
      監督がミュージックPVを専門にしている人なんですが、それとはかけ離れた映像美があって、原作の霧がかかったような感じをよく表現していると思います。
      >> 続きを読む

      2017/11/20 by lafie

    • lafieさん
      嬉しいお言葉どうもありがとうございました。
      映画のことも教えてくださってとても参考になります。監督はPVを撮っている方なんですね。トレイラーを観ましたが抒情的で上品な映像美が味わえそうです。
      アンドリュー・ガーフィールドもいいんですね!
      彼は「ソーシャル・ネットワーク」でもとても印象的でした。
      原作小説からのイメージだとトミーって外見的には骨太で朴訥なイメージだったんですよ。中身のナイーブさが一見してわからないタイプっていうか。
      ルースももっと現代っ子というイメージだったのですが、キーラの品の良さに見とれてしまいました。これはこれでよいキャストだと思います。映画は映画の表現として楽しみたいと思います!
      そしてSFSFしていないところがきっとイシグロの世界観とマッチしているはずだと想像しています。
      >> 続きを読む

      2017/11/21 by 月うさぎ

    • 評価: 5.0

       現代文学の最高峰……とまでは言えるかわかりませんが、それに近い名山に登頂した気分です。

       物語の内容を全て知った上で読んだとしても、この本を楽しむのに差し支えはない……本書の良さはそういう次元にはないと思うのですが、あまり内容を書きたくはありません。なぜか、これから読む方の邪魔をしたくない、という紳士な気持ちにさせられる本です。

       簡単にいえば、死と苦しみが運命づけられている人々のお話です。しかし、考えてみると、誰しも死を運命づけられていますし、生きることと苦しみは、完全に切り離すことはできません。つまり、この物語は人生そのものを描いているわけです。

       国語の授業のとき、よく「彼はこの時どのように感じたのか?」や「彼女はなぜこのような行動をとったのか?」と問われることがありました。そのような問いとその答えが、本作を読んでいると、どんどん湧いてきます。当時は、「それを考えて何になるわけ?」とか「そんなのは人それぞれでしょう」とずいぶん捻くれていた私ですが、本作を読んで初めてその大切さと楽しさを知ったように思います。

       このような作品は、なぜ本を読むのかという理由の一つを教えてくれるように思います。娯楽として、物語を楽しむのも一つ、たんなる暇つぶしの趣味というのも大いに結構な理由です。それらの理由の中には、学ぶためというのがあると思います。深刻なことからしょーもないことまで、私は日々様々な理由で悩んでいますが、そんな悩みはきっと今まで他の誰かが散々悩んできたものです。なにか考えた時、大抵は同じような思考をした先人がいます。その経験を物語の中から学ぶ、それが本を読む大きな理由のひとつではないかと思います。

       本作の印象はズバリ「静謐」です。始めから終わりまで続く主人公の語りは、常に抑制が利いていて、淡々としています。しかし、そのように静謐さにも関わらず、ひどく心がゆさぶられます。上質な文学作品を求めている方にはおすすめです。


       ここ1週間ほどとても忙しかったです……。本が読めないというのは、私史上かなりの異常事態でした。やっぱりほんの少しでも日々の息抜きは必要ですね。ふう。
      >> 続きを読む

      2015/07/17 by

      わたしを離さないで」のレビュー

    •  カズオ・イシグロさんが「白熱教室」という番組に出演されていました。テレビの前で、必死にノートをとっていました(笑)

       意外にというかやはりというか、しっかりとした理論(哲学?)を基に物語を構築しているんですね。既刊本は全てアマゾンでチェックしちゃいました。むふふ。あ、でも、お仕事で忙しくて…うわああああ、労働いやだあああ(現実逃避)
      >> 続きを読む

      2015/08/31 by ゆうぁ

    • >ゆうぁさん
      『これから「正義」の話をしよう』のサンデルさんや、『21世紀の資本』のピケティさんをシリーズでやってた番組ですね! あのシリーズはたまーにみてました笑

      カズオ・イシグロ流の哲学はぜひ知りたいものです。
      本作を読んでから1ヶ月たちますが、依然『日の名残り』は積まれたままです……。
      きっと積んでいればいつか読むはず笑
      ……時間は限られてますからねぇ(遠い目)
      >> 続きを読む

      2015/09/01 by あさ・くら

    • 評価: 5.0

      提供者の介護人として暮らすキャシー。
      そのキャシーの語りで物語は進む。

      提供者とは何なのか。
      キャシーたちの暮らす寄宿舎のような施設は何なのか。
      そういった疑問をはじめ抱き、ミステリーかとさえ思わせるが、本書はミステリーとして楽しむ読み物ではない。
      最初に抱いた疑問は、すぐに解決する。

      疑問が解決してからは、読者はずっと命に関する問いと簡単には出せない答えとを胸にページを繰っていくことになる。

      医学が進歩すれば、倫理が追いつかなくなることは多い。
      不妊症カップルの代理母や精子提供問題だったり、尊厳死問題だったり。
      死生観や価値観が異なる全てのひとが納得出来る答えは、きっと永遠に見つからない。

      わたしなりの考えはあるが、それをここに書くと招かなくても良い論争を招いてしまうので控えることにする。
      ただ、答えは出なくとも、個人個人で考えておくことは大切なことだと思う。

      読みながら、最後はきっと悲しいものになるだろうとは思った。
      それでも、キャシーたちの幸せを願わずにはいられない。

      未読のかたにはミステリー要素の導入部から楽しんでもらいたいので、言葉を選びながらの文章となってしまう。
      この本を読んで、本当に感じたこと、本当に話したいことが書けないことが大変残念だ。

      表紙絵が何故カセットテープなのかと思ったが、今ならよくわかる。
      そして切ない。

      ページを繰る手が止まらない。
      >> 続きを読む

      2015/05/21 by

      わたしを離さないで」のレビュー

    • arinkoさん

      こういう話は、そのひとの生きてきた中で培う価値観なので、良くて理解出来るくらい、悪かったら掴み合いの喧嘩ですよ。
      わたしは大人のエゴという観点から言えば、親族に頼むも金銭で頼むも同等です。
      大人のエゴの犠牲になる子供に目を向けるひとが殆ど皆無なことに驚きます。
      ですので、考えてみてくれただけarinkoさんは貴重なかたかと思います。
      これを言うと大抵人でなし扱いされますから。
      >> 続きを読む

      2015/05/21 by jhm

    • 課長代理さん
      コメントありがとうございます。

      わたしも常々、生きていることが大切、生きること賛美のような風潮は気味が悪く感じています。
      生きていたらそれでいいのか。死を考えることは罪なのか。
      そんな単純なことではないように感じたり。
      でも、たかが命はちょっとどうかなとは思いますよ。されど命だと思いますよ。
      医学が中途半端に進歩したので、ややこしくなったし、真剣に人間が死ななくなる方法とか考え出しているので気持ち悪いです。
      >> 続きを読む

      2015/05/21 by jhm

    • 評価: 5.0

      本を読んで泣いたのは何年ぶりだろう。

      ずっと前にみた映画版ではもうどうしようもないくらい号泣したけれど、原作を読んでみると映画とは全然違うところで泣いた。
      とめどもなく襲い来る深い深い悲しみは「記憶」とその「傷」によって語られるべきであり、それが遺された者にとって「生きる」ということなのかも知れない。

      この小説は自分にとって、とても大切な作品になりそうだ。

      2017/11/20 by

      わたしを離さないで」のレビュー

    • 人というものが「記憶」の総体なのかもしれない…
      しかし人生を語るとき、それで充分な訳でもない。
      人々の悲しみの記憶はどこへ行くのだろう?
      人間を置き去りにして。

      私にとっても心に刻まれた一冊になりました。
      映画も観てみたいと思います。
      >> 続きを読む

      2017/11/20 by 月うさぎ

    • 月うさぎさん、コメントありがとうございます。人が記憶の総体でありつつ、その中に悲しみの記憶も、傷も涙も持っているのが人間なんだろうなあと思ってます。

      ところで、映画の方も静謐な映像美があってよかったですよ。
      でもやっぱり、キャスとルースのすごく絶妙な距離感とか、そういうのは小説ならではかなあ、と思いました。
      >> 続きを読む

      2017/11/20 by lafie

    • 評価: 3.0

      違和感がずっと残る話だった。
      それが提供者達の自らの生への執着の薄さに対してだと気づいた。
      オリジナルの部品のスペアであることに抵抗は無いのか?
      いくら、洗脳のような教育をされているとしても、クローンの存在を自分達と違うモノとして利用はするが生物としての尊厳は目を背ける者達へ、嫌悪を感じながら、つかの間の人間らしい生活と保護という欺瞞に満ちたヒューマニズムで納得しようとする偽善者達へ、憤りは無いのか?
      キャシーのあまりに抑制され淡々とした語り口に、お願いだから自分達を取り巻く理不尽に怒りを爆発させて欲しいと思った。
      喪失は続く。
      私を離さないででは無い、離れないでと心が叫んでいる気がした。
      >> 続きを読む

      2017/11/04 by

      わたしを離さないで」のレビュー

    • 〉運命を受け入れたクローン達の静かな諦念と、ささやかな足掻きに、不条理を感じ、憤りを覚えた
      私もなんです。歯がゆいというももっちさんの気持ちはとってもよくわかります。
      それが心ある人間の自然の感情ですよね。
      >> 続きを読む

      2017/11/09 by 月うさぎ

    • 月うさぎさん、ありがとうございます。(*´꒳`*)
      少し異端のレビューだったので、そう言ってもらえると救われます。 >> 続きを読む

      2017/11/09 by ももっち

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    ワタシオハナサナイデ 
    わたしおはなさないで

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