こんにちはゲストさん(ログインはこちら) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト →会員登録(無料)


(株)国書刊行会 (コクシヨカンコウカイ)

企業情報
企業名:国書刊行会
こくしよかんこうかい
コクシヨカンコウカイ
コード:336
URL: http://www.kokusho.co.jp
      オトラントの城 (ゴシック叢書)

      井出弘之ホレス・ウォルポール (1983/09

      3.0
      いいね! Tukiwami
      • 【すべてはここから始まった】
         いわゆるゴシック・ロマンスの嚆矢とされている作品。
         著者のホレス・ウォルポールは英初代首相であるロバート・ウォルポールの三男(彼の息子のヒュー・ウォルポールも「銀の仮面」などで知られる作家です)。
         自らストロベリー・ヒルにゴシック趣味の城を建築するなどのディレッタントとしても知られます。

         さて、問題は本書です。
         この作品は、この後あまた連なり生み出されたいわゆるゴシック・ロマンスの最初の作品とされています。
         ゴシック・ロマンスとはどんな作品かと言えば、古い城、幽霊、怪奇現象などなどが鏤められた恐怖譚と言えば良いでしょうか。
         その記念すべき第一作が本作なのです。

         粗筋をご紹介すると、中世イタリアにあったオトラント城。
         その城主のマンフレッドは先代城主を弑逆し、城主の地位を僭称する輩。
         病弱な息子を近隣城主の娘であるマチルダ姫と強引に結婚させて城を継がせようとしますが、そこに現れたのが巨大な兜。
         息子は兜に押しつぶされて死んでしまいます。
         「先代城主の呪いだ!」と糾弾する農民姿のセオドア。
         逆上したマンフレッドは、セオドアこそが息子を殺したのだと決めつけ(何とご無体な!)、セオドアを幽閉してしまいます。

         そして、何とか子孫を残さねばとの思いから、正妻ヒッポリタがいるにもかかわらず、彼女と離婚して、息子と強引に結婚させようとした若いマチルダ姫と結婚して子供を作ろうなどと考えます。
         「そんなことは神がお許しになりませんぞ!」と諫める司祭など全く相手にしません。
         そんなことをしているうちに、オトラントの城には様々な怪奇現象が現れ始めます。
         絵の中の人物が絵を抜け出して徘徊する。
         落ちてきた巨大な兜と対をなすものなのか、籠手だけがさまようなどなど。

         今読むとさすがに古色蒼然としている感は拭えませんが、この作品があったからこそ、その後の「フランケンシュタインの怪物」、「ジキル博士とハイド氏」、「吸血鬼ドラキュラ」などの誰でも知っているような作品が生まれてくることになったわけです。
         残念ながら、現在我が国でこの作品はあまり読まれなくなってしまったようですが、歴史的意味のある作品ですので、何かの機会に手に取ってご覧になられるのも一興かと思います。
        >> 続きを読む

        2019/01/20 by ef177

    • 3人が本棚登録しています
      モナ・リザの家政学

      佐々木隆1991/05

      カテゴリー:家政学、生活科学
      5.0
      いいね!
      • 「サザエさん」の磯野家、「渡る世間は鬼ばかり」の岡倉家、小島家は、おそらく最も有名なTV上の家族でしょう。一方はほのぼのしたイメージがあり、また一方はなんとも言えない暗いイメージがありますが、家政学的な立場から見ると、同じものであることが言えます。それを以下に示してみましょう。まず引用したい文章があります。

        『特にサザエさんのお父さんもサラリーマンで、お母さんも専業主婦で、主婦が二人とも家にいる生活は現在の三世代家族でも珍しいと思われます。このフィクションを成立させるために、嫁と姑の対立がない妻方居住という形態をとり、サザエさんが働きに行かないようにするためにタラちゃんは幼稚園以前の年齢に止められているのです。』
          (「モナ・リザの家政学」:佐々木隆・国書刊行会・65P)

         この論考では、サザエさん一家が安定している理由が明解に語られています。このような設定を置いた長谷川町子は、なるほど優れていたな、と思われます。綿密な計算の上に磯野家は創造されたのです。「フネ」は「サザエ」の実母です。嫁・姑の争いは起きません。

         その観点から言えば、橋田壽賀子脚本の「渡る世間は鬼ばかり」の小島家の場合、母の「小島きみ(赤木春恵)」から見ると、頼んでもいないのに来た押しかけ女房である「小島五月(泉ピン子)」は、憎めども憎み足りない相手でしょう。通常の嫁・姑の争い以上のパラレルワールドが、小島家では日常的に繰り返されていたのです。(という言い方をするのは、新シリーズでは、赤木春恵が出演していなかったからです。その代わり、何かと言うと「財産分与権放棄」を言い募る・沢田雅美演じる小姑がいます。ちょっと弱いな。もっとも、「渡鬼」自体は完結してしまいましたが。)

         嫁・姑問題を見事に回避して表面に現れないようにしているのが「サザエさん」、表面に出し、ずぶずぶの泥沼状態になっているのが「渡る世間は鬼ばかり」です。現れかたは正反対とは言え、嫁・姑問題が重要なファクターであるのはどちらも同じです。

         その上に、もう一つの決定的な観点を挙げます。・・・「不倫(浮気)」が描かれているか?ということです。不倫問題は嫁・姑問題とは違い、夫婦である男女当事者間の直接的問題なので、離婚・家庭崩壊に直結しますので、これは深刻な問題です。さて、「サザエさん」の場合・・・「マスオさん」は家と会社の間を往復してキャバレーとかスナックには決して寄らない「いい夫、いいお父さん」です。不倫が取上げられる余地は絶対にありません。むしろ、そのような「いい」ダンナさんを一般に「マスオさん」というくらいですよね。

        そして、これまでの「渡鬼」シリーズを振り返ってみると、意外にも、「渡る世間は鬼ばかり」でも、不倫の話は出て来ないのです。あれほど岡倉家出身の娘たちの夫婦(5組)がいて、気が滅入る話のオンパレードなのに、ただの一件も不倫騒動はありません!!これは驚きです。 これはどうしたことでしょうか?

        思うに、「サザエさん」も「渡る世間は鬼ばかり」も、視聴者に安心感を与えるのが目的で作られているのでしょう。嫁・姑問題については、触れないという選択肢を取るとか、前面に押し出しドラマの「アクセント」に出来たりしますが、家庭崩壊につながる不倫という重いテーマでは、視聴者は安心感が得られないのです。だからこの不倫というテーマは厳重に封印する必要があるのだろうと思われます。賢明な選択です。

        (こう書いてきて、ふと、シリーズの初期、4女の葉子(野村真美)にちょっと不倫っぽいお話があったことを思い出しました。フィアンセ(船越英一郎)の母(草笛光子)に仲を裂かれた葉子、彼が別の女性と結婚後も彼とこっそり恋人感覚で付きあっていたというエピソードですが、これは大事に至らなかったようですので、このまま話を続けます。私の知りうる限り、この一例が例外です。まあ、「渡鬼」では不倫のお話は稀だとトーンダウンしておきます。)

         このように、「サザエさん」と「渡る世間は鬼ばかり」は同じ構造を持ったお話なのです。つまり、家庭崩壊に至るほどの問題、その核心を隠蔽するという点で、同型なのです。物語を演じる主婦と、それを見る主婦の立場と心理は絶対に安泰なのです。「自分の貞淑な妻ぶり」が再確認できますものね。両作品とも、シリーズが長続きする秘訣は、こんなところにあるわけです。まあ、毒にも薬にもならない。

        まあ、お手軽に安心感を得たいという、幼児的な視聴者におもねった作品ですね。両方ともに。このレベルの作品がハバを利かせている限り、日本人の精神年齢も低いままでしょう。家庭崩壊しない範囲でのスリル(ユーモア)を味わいたい視聴者と、それを保証するドラマ(アニメ)。

        「安心感」というのは、ドラマなりアニメなりがシリーズ化するのには不可欠で、ギャグマンガ家としての才能は赤塚不二夫に及ばない藤子不二雄のアニメ(もちろん「ドラえもん」など)が、長期にわたって人気を保っているのは、赤塚ほど過激なギャグで見るものを不安にしないからだと思われます。
        最後に:「わたおに」のプロデューサー「石井ふく子」さんは、常々女優たちに「忍耐」を訓えているそうですが、それは例えば「嫁・姑問題」に耐えて家庭を維持し、ゆめゆめ不倫はするな、との教えに思えてきます。その説教を聞くこと自体、女優にとっては「忍耐」であることを、石井さんは知らないと見えます。

        それにしても、石井ふく子・橋田壽賀子のコンビに頭の上がらぬ女優・俳優の多いこと。それもこれも上記の日本人の精神構造に支えられているのですね。このコンビのドラマが「下らない」とする、私のような視聴者が増えれば、このコンビも芸能界から退場になるのにね。今時、自前のキャラクターで視聴率の取れる木村拓哉とか織田裕二、松嶋菜々子くらいでしょう、このコンビに諂(へつら)わなくていいのは。まあ、諂うものの中では泉ピン子が威張っていますが。
        >> 続きを読む

        2013/08/26 by iirei

      • コメント 18件
    • 1人が本棚登録しています
      夜明け前のセレスティーノ

      ArenasReinaldo , 安藤哲行2002/04

      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!

      • 今回読了した「夜明け前のセレスティーノ」の作者レイナルド・アレナスといえば、本好きには「めくるめく世界」によって、また映画ファンには「夜になるまえに」の原作者として名が知られている、キューバ出身の亡命作家ですね。

        この「夜明け前のセレスティーノ」は、そのアレナスのデビュー作で、寒村の農家に暮らす少年の目に映った世界を、ガルシア=マルケスの「百年の孤独」を彷彿とさせるような、詩的リアリズムにのっとった語りで再構成されている作品なんですね。

        豊饒なイメージの断片の連なりで成っていて、説明できる筋なんてないんですね。
        例えば、こんな具合に----「とっても大きな雲がふたつ、ぶつかりあい、粉々になった。その断片がぼくの家の上に落ち、地面に押し倒した。雲の断片がそんなに重くて大きいものだなんて思ってもみなかった。まるで刃があるみたいによく切れ、そのひとつがぼくのじいちゃんの頭を見事にちょんぎった」

        食べるにも困るほど貧乏で、斧を振り回すおっかない「じいちゃん」が暴君のように一家に君臨していて、「ばあちゃん」は意地悪で、「かあちゃん」も怒ってばかり。
        「ぼく」を取り巻く世界は、とてつもなく悲惨なんだけど、少年の奔放な想像力は現実にくじけない。

        憎きじいちゃんには、何通りもの奇抜なやり方で正義の鉄槌が下され、生活やつれした怒りんぼうのかあちゃんは偽物で、本物のかあちゃんは「ぼく」を膝に乗せてお話をしてくれる。

        そして「ぼく」のそばには、葉っぱや木の幹に詩を書き連ねる従兄のセレスティーノがいてくれて、二人は赤土で作った大きな城でパーティをしたり、夜中に家をこっそり抜け出して、小さな冒険に繰り出したりもする。
        そして、じいちゃんやばあちゃんの攻撃から、互いをかばい合うのだ。

        妖精や魔女とだって話ができる少年の意識は、"夜明け前"の状態だから、祖父母も母親もひとつの像を持たない。
        その時々の気分によって、様々に姿を変える。

        セレスティーノだって、実は未分化な少年の自我が生み出した分身なのかもしれない。
        すべての登場人物は、少年の想像力の中で、いつしか誰が誰との区別を失い、厳しく窮屈な現実は、愉快で伸び伸びしたファンタジーと溶け合ってしまうのだ。

        これは、物語の宝庫としての幼年期を、リズム豊かな文体でイメージ鮮やかに描き出した、神話クラスの広がりと深みを持つ小説なのだ。

        映画「夜になるまえに」を観て、穴の中に取り残された幼児が、土を食べるシーンに「嘘だろ!」と思った人は、是非、この小説を読んでもらいたいですね。

        土喰らう現実が生み出す、想像力の強靭さとしなやかさに驚嘆すること請け合いですから。

        >> 続きを読む

        2018/06/15 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      ラピスラズリ

      山尾悠子2003/10

      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね! Tukiwami
      • 【冬眠者と人形】
         何とも不思議な味わいの作品でした。
         たいへんデリケートな作品です。構成としては5編の中、短編からなっています。

         最初の「銅販」で、この物語全体を見通すような主題が語られているのでしょうか。
         深夜の画廊で何かの物語の挿絵のような3枚の銅版画を目にします。
         1枚目は「使用人の反乱」というタイトル。
         秋の終わりの森の中、荷車に積み上げられた高貴な身分と思われる人達を、その使用人と思われる人達が投げ捨てているように見えます。
         高貴な人達はまだ死んではいないようですが、ぐったりしています。

         2枚目は「冬寝室」。
         六角形の、塔の上の部屋と思われる部屋に男性とも女性とも見分けがつかない人物がベッドに寝ています。
         そのそばには大振りな人形が描かれています。窓の外は冬の景色のようです。

         3枚目は「人形狂いの奥方への使い」。
         幾何学庭園に庭道具を手にした老人と木箱を担いだ旅装束の若者が描かれています。
         山となった落ち葉が焚かれていて白煙を上げているのですが、常緑樹で作られた庭園に何故落ち葉があるのでしょう?

         その後に続く中、短編は、この銅版画のモチーフを基にして語られているようです。
         2編目と3編目はまさにそうで、特に3編目の「竈の秋」という中編ではその城のことが詳しく語られています。
         この描写が、「ゴーメン・ガースト」を彷彿とさせるのですよ。
         ええ、マーヴィン・ピークのあの奇作です。
         あれに近い感覚を味わいました。

         ところが、4編目になると、舞台はいきなり日本に戻ってきます。
         「これは?」とややとまどいを覚えたのですが、これは……人形つながりなのか?
         あるいは、季節の巡りを言いたいのか?

         そしてラストの「青金石」で静かに幕を閉じます。

         余韻の深い作品です。
         まるで夢を見ているような。でも、その夢は決して楽しい夢などではないのですけれど。
        >> 続きを読む

        2019/01/09 by ef177

      • コメント 1件
    • 2人が本棚登録しています
      デス博士の島その他の物語

      浅倉久志 , 伊藤典夫 , 柳下毅一郎 , WolfeGene2006/02

      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!
      • デス博士の島その他の物語 (未来の文学)。ジーン ウルフ先生の著書。私はSF小説が好きで今までたくさんのSF小説を読んできたけれど、こんなに難しくて考えさせられたのは初めて。単純なSF小説ではなくて、奥が深いSF小説を読みたい人には自信を持っておすすめできる一冊です。 >> 続きを読む

        2019/02/10 by 香菜子

    • 1人が本棚登録しています
      日本の女性名 歴史的展望

      角田文衛2006/05

      カテゴリー:系譜、家史、皇室
      4.0
      いいね!
      •  その昔、かなり長いあいだ或る場所に拘束されたことがあって(刑務所じゃないよ)、暇つぶしにプルーストでも読もうと思ったが、やや気乗りしなくてこの本を図書館で借りた。物語を読むというよりは、何か研究めいたことがしたかったらしい。そうして、女性の名前の研究をはじめた。
         わたしの関心事はただ一つ、自分が好きな女性名を見つけることだ。その為に、この本の力を借りて、古代から現代を彩る女性の名前の来歴を、光の上に乗った気分で辿ってみた。残念ながら、名前の歴史性とわたしの好みは無関係だった。唯一の収穫として、植物の名に「子」を加えた名前が好みと判明した。結局、わたしが好きなのは「あかり」と「ゆかり」で、これは今でも変わらない。
         しかし今、とても気になる名前がある。昨年行われた世界バレーを偶然見ていたとき、「迫田さおり」という選手の眼に釘付けになった。こんなこと言うと可笑しいが、ジャンヌ・ダルクと同じ眼をしている気がした。そのうえスタイルもかなりいい。ダンサー好きで有名だった物理学者のファインマンでも、彼女のスタイルを認めるだろう。どうやら話の行き止まりまで来たらしい、素直にペンを置くことにします。
        >> 続きを読む

        2015/01/12 by 素頓狂

      • コメント 1件
    • 1人が本棚登録しています
      ミステリウム

      増田まもる , McCormackEric P2011/01

      カテゴリー:小説、物語
      5.0
      いいね!

      • フーダニットと、ハウダニットと、ホワイダニット。
        ミステリの世界では、たいていの場合、犯人もトリックも動機も明らかにされるけれど、それはお話だからです。

        犯人とトリックはともかく、現実の世界において、動機が白日の下にさらされることは少ないものです。
        いや、動機そのものが存在しないことすらままあるものです。
        世界で起きる多くの出来事は、恐ろしいことに、ただ起きるんですね。

        今回読了したカナダの作家エリック・マコーマックの「ミステリウム」は、そのような動機なき世界のありようを描いて、戦慄的な作品でしたね。

        物語の舞台は、〈島の北部〉にある小さな炭鉱町キャリック。
        周囲を低い丘が連なり、霧に包まれることの多いこの町に、ある日、〈植民地〉から一人の男がやってくる。

        水の循環を研究する水文学者を名乗るその男カークは、町にひとつしかない宿に滞在する。
        やがて、町のそこここで不審な事件が発生する。

        戦死者の記念碑や墓地の墓石が破壊され、強い酸性の液体をかけられた図書館の本は溶け、羊飼いの男が撲殺されたうえ、唇を切り取られる猟奇的な殺人までが起きるのだ。

        そればかりか、まずは動物が、やがて子供たちが原因不明の病に侵されて次々と死んでいき-------。

        大学に通うかたわら新聞社で記者見習いをしている〈私〉が、行政官ブレアの依頼で、それらの事件を取材することになる。
        町の薬剤師ロバートが書いた文書を読み、死の床についている住民たちから話を聞くことで、器物破損や殺人事件の犯人は誰なのか? 町に蔓延する死病は伝染病なのか? 飲料水に毒が混入されたのか? を調査していくのだった。

        だとすれば、犯人は一体誰なのか? そもそも動機は何なのか? といったたくさんの謎に迫ろうとするのが、この物語の骨子なのだ。

        粗筋だけをみると、いかにも順当なミステリだという気がしますが、この小説のタイトルは「秘密」「儀式」といった意味を持つ古いラテン語の「ミステリウム」。
        一筋縄ではいかない小説なんですね。

        語り手の〈私〉と読者である私たちは、はじめ、すべては植民地からやってきたカークの仕業だと疑うロバートの文書によって、キャリックという小さな町を翻弄している事件の渦中へと入っていくんですね。

        つまり、ロバートの誘導によって、ある意味、安心して謎の核心へと近づこうとする。
        しかし、その後、ロバートの幼馴染みのアンナをはじめとする、住民たちへの聞き取りを進めていくにつれ、〈私〉と私たちが抱いていた予断は大きく揺さぶられ、やがて、核心の周囲を回るばかりで、一向に近づけないもどかしさに身をよじることになるのだ。

        その過程で明らかになる町の昏い過去。
        すると、〈私〉と私たちは、溺れる者は藁をもつかむの伝で、今度は過去の因果としての現在の町の悲劇という予断を持つ。

        だとしたら、過去と現在をつなぐキーパーソン、つまり犯人は誰なのか? カークなのか? カークだとするなら、余所者である彼にどんな動機があるのか? 結論を急ぐ〈私〉と私たちを、しかし、アンナはこんな言葉で、さらに混乱させるのだ。

        「真実? 真実を語るのが可能なのは、あなたがあまりよく知らないときだけよ」-------。

        かくして、語り手と読者は二転三転するプロットの果てで、驚くべき"真実"を前に慄然とさせられるわけですが、それが明らかになるまでの過程には、ミステリとしての愉しみだけでなく、文学理論を応用したパロディをはじめとする知的な遊びや、それ自体、短篇小説のように味わえる、おぞましかったり、美しかったりする、たくさんの印象的なエピソードが用意されていて、読んでいて退屈するということがない。

        久し振りに格闘しがいのある、現代文学の愉悦に浸れましたね。

        >> 続きを読む

        2018/06/20 by dreamer

    • 1人が本棚登録しています
      新編バベルの図書館

      富士川義之 , 酒本雅之 , 竹村和子 , BorgesJorge Luis2012/08

      カテゴリー:叢書、全集、選集
      5.0
      いいね!
      •  かつて、国書刊行会から「バベルの図書館」という、J.L.ボルヘス編集による変形版の全集が出ていたことがありました。
         私も何冊か購ったのですが、残念なことに既に絶版。
         あの時揃えておけば良かったと後悔していたのですが、この度新装版として新たに出版されることになりました。パンフレットによると全6冊だそうです。
         その記念すべき第1巻アメリカ編が本書です。
         収録されている作家は、ホーソン、ポー、ジャック・ロンドン、ヘンリー・ジェイムス、メルヴィルです。
         全ての作家さんの前に、ボルヘスの筆による序文がつけられています。
         では、収録作をご紹介しましょう。

         最初は、ナサニエル・ホーソン。「緋文字」が有名な方ですな。
        ○ ウェイクフィールド
         これはまた奇矯なお話で。
         旦那が、何を思ったのか家出をしちゃいます。
         最初はほんの1週間位の軽い気持ちで。
         しかも家出先が自分の家の裏通りという。時々家のそばまで行って妻の姿を見たりします。
         その1週間が1月、1年となり、なんともう何十年も帰らなくなったという、それでも家のすぐ裏に住んでいるという、いったい何なんだこれは?というお話。

        ○ 人面の大岩
         とある村に面した山肌には人の顔に見える大きな岩があったんですね。
         そのかんばせは、とても慈愛に満ち、高徳な印象を与えました。
         村の人達は、その大きな岩の顔が大好きでした。
         言い伝えがあるんです。
         その岩の顔にそっくりな人がいつか村に現れるって。
         その人はきっと世界中で高名な人だろうって。
         そんな岩を子供の頃から見て育った主人公のキモチを描きます。
         ええ、現れたりするんですよ、その岩の顔に似ている人が。
         でもね、ある人はお金の事ばっかり考えているような人だったり……。

        ○ 地球の大藩祭
         何でも燃やしてしまえ~。
         改革派がこの地球を支配しました。
         古くからの因習にとらわれない新しい世界を作るのだと言って、彼らが「悪い」と考える物は全部燃やしてしまえ~です。
         お酒、もう全部無いです。
         煙草も燃やされます。
         文学もダメだそうです。全ての本が燃やされます。
         涙する人もいるのですが、そんなの改革派にとっては知ったことじゃありません。
         どんどん燃やします。
         宗教関係も燃やされます。
         そうやって、これまでの人類の営みのほとんどを燃やし尽くす「改革派」。
         これって、どこかの国の政治にも似ているかもしれないなぁ。

         ポーからは、5編が選ばれています。
        ○ 盗まれた手紙
         名探偵デュパンが登場する推理小説の始祖とも称されている作品。
         さる大臣がとある高貴な方の手紙を盗んで官邸に隠匿しているのですが、警察が密かに徹底的な捜査をしてもどうしてもその手紙を発見できず、デュパンに泣きついたところ、あっさりと取り戻してくれたというお話。
         作中で「地図遊び」について語られているのが印象的です。
         この「地図遊び」というのは、出題者は地図に書かれているどんな言葉でも良いので選んで回答者に示します。
         回答者はその言葉が書かれている場所を見つけ出せば勝ちというもの。
         初心者はなるべく細かい字で書かれた見つけにくい言葉を出題しますが、上級者は○○山脈のように、地図の端から端に渡って大きく書かれているような言葉を選ぶものだとデュパンは言います。
         「その方が断然見つけにくいからさ。」と。

        ○ 瓶の中の手記
         海洋航海奇譚です。
         とある船に乗船していた主人公は、猛烈な暴風に出くわし、数少ない生存者となりますがそれもつかの間。
         もの凄い波に呑まれ、深い海底近くまで船は落ち込んだのですが、その恐ろしく高い波の上にはもう一隻の巨大な船が見えました。
         その巨大な船が落ち込んで行くはずみで主人公は元の船から投げ出されてその巨大な船に乗り移ってしまいます。
         ところがその巨大な船の乗組員達は、目の前にいる主人公に一向に気付かない様子で、彼のことを見ようともしません。
         話す言葉はどこの言葉かも分からず、皆年老いているようです。
         巨大な船は猛り狂う風に翻弄されるように南へ南へと向かい……。
         この物語を書いた時代には、海洋は南極で激しい渦と共に沈み込んでいると考えられていたようです。

        ○ ヴァルドマル氏の病症の真相
         死の間際にある人に催眠術をかけたらどうなるか?というテーマです。
         催眠術はかかるのか?かかったとして死の訪れを遅らせることは可能なのか?そんな疑問からまさに死のうとしている病人に催眠術をかけてみたところ……。

        ○ 群集の人
         群集と孤独をテーマにした作品です。
         一日中通行人を眺めていた主人公は、夜も更けた頃、不思議な老人に興味を惹かれます。
         その老人を尾行し始めたところ、老人は人だかりのある方へある方へと足を進めていくのです。

        ○ 落とし穴と振り子
         これは有名な作品ですよね。
         身体を拘束されて真っ暗な部屋に閉じこめられた主人公。
         この部屋は一体何だ?というわけで、壁伝いに探索を始めるのですが、どこまで行っても広さがよく分からない。
         それはぐるぐる周りをしているから。
         なので、靴ひもを切って目印に置いておきます。
         ようやく何となく部屋の広さが分かったので、今度は真ん中辺りを歩いてみようとします。
         その時、躓いて転んだのがラッキー。
         だって、自分のうつぶせに転んだ顎の先には地面が無いのですもの。
         落とし穴が掘られていたんですね。そこに落ちたら一巻の終わり。
         その後、また眠らされてしまって、今度はベッドのような所に縛り付けられています。
         身動き取れないです。
         で、視線を上に向けたところ、大きな刃が、しゅっ、しゅっと音を立てて左右に振れているじゃないですか! 
         その刃は徐々に下に降りてきます。いずれ自分の胸を切り裂き、内蔵を引き裂くことは必定。
         うわぁ~。というお話。
        >> 続きを読む

        2019/02/11 by ef177

    • 1人が本棚登録しています

【(株)国書刊行会】(コクシヨカンコウカイ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(出版社,発行所)

会員登録(無料)

今月の課題図書
読書ログってこんなサービス
映画ログはこちら
読書ログさんの本棚

レビューのある本