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高田郁 (2009/05)
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これは引き込まれる物語だ。ひたむきさと暖かさと切なさに、胸が熱くなる。上方の、料理屋で修行したなら、江戸との嗜好の違いは大変な困難だろう。今の料理の技の礎とも言える、澪の試行錯誤に、つる屋での奮闘に一喜一憂しワクワクする。災害で家族を喪い、恩ある奉公先は焼け出され、頼った江戸の分店は人手にわたり、苦難続きの雲外蒼天の相。才能と努力と根性で切り開く蒼い空への道がなんとも清々しい。ご寮さんや種市との関わりに幾たびも泣きそうになる。生き別れた親友とは会えるのか?小松原?源斉?胸キュンの展開になるか?沢山の人が嵌まってしまう訳だ! >> 続きを読む
2017/11/09 by ももっち
北方謙三 (2001/05)
北方〈三国志〉第1巻「三国志 一の巻 天狼の星」を読了。後漢末期の中国。帝の力が完全に衰え、黄巾賊が全国で蜂起していた頃。劉備は、商人である張世平に頼まれて、賊から馬を取り戻そうとしている時に、関羽と張飛という2人の男に出会います。筵売りとして生きてきたはずの劉備の、あまりにも鮮やかな手腕に惚れ込んだ関羽と張飛は、義兄弟の杯を交わし、いつまでも劉備についていくという誓いを立てることに。3人は、わずか50人ほどの手勢を率いて義勇兵として立ち、曹操や孫堅ら、覇業を志す者たちと出会います。しかし、手柄をたてたにも関わらず、中山国安喜県の県尉という官しか与えられなかった劉備は、しばらくその役を務めた後、出奔。一方、病を理由に官位を蹴り故郷へと帰った曹操、宦官に金をばら撒き、うまく立ち回って別部司馬を、その後、長沙太守を任じられた孫堅と、英雄たちは、それぞれの道を歩き出します。そんな時、霊帝が崩御。薫太后が自殺し、可進が宮中で殺され、宦官の大虐殺が起こる。そして、涼州から出てきた薫卓が、皇子・弁を擁して、一早く洛陽入りし、薫卓の専制政治が始まります。基本的には、劉備が中心として描かれているのですが、場面によって、それぞれの人物の視点に入れ替わるのがいいですね。劉備、関羽、張飛はもちろん、曹操や孫堅、他の人物の持っている世界観もよく分かりますし、1人の人物を多角的に見ることにより、一層深く理解できます。次々に移り変わる視点は、多少めまぐるしくはあるものの、物語全体を掴みやすいのではないでしょうか。「登場人物全員が、それぞれ自分の人生においては主役である」ということを基本に書かれているという印象です。三国志演義では、悪役とされている曹操や呂布すら、1人の英雄として描かれています。特に、この呂布の描かれ方には驚きました。今まで、残虐で粗野な乱暴者という印象しかなかったのですが、この作品では、とても純粋で男気があり、戦うこと体を動かすことがひたすら好きな人物として描かれています。今までの短所が、見事に長所に変じていますね。また、糟糠の妻への想いも、赤兎との繋がりも胸を打つものがあります。美女・貂蝉は登場しません。この呂布は、きっと人気が出ることでしょうね。しかし、三国志で誰が好きかと尋ねられて、呂布と答える人は、誤解を受けそうな気がしますが------。さらに、怒ると見境なくキレる劉備というのも、とても意外でした。劉備と言えば、どこまでも、徳の高い人物のように描かれているのが普通だと思っていたので、このような人間らしさがとても新鮮です。そして、そんなキレそうになった劉備を止めに入るのは、関羽と張飛。劉備の代わりに、外に向かってキレて見せるのは張飛の役目です。これも意外ですね。張飛は、当然のように、淡々とその役割をこなしています。そのような役割を担うことによって、今までの「恐ろしく強いけれど、血気に走った乱暴者」というイメージが払拭され、いかにも味わいのある男として生まれ変わっているようです。しかし、その演技の結果、世間的には劉備が徳のある人物に映るということには変わりないわけで、さすが北方謙三、実に上手いですね。感情の起伏が激しく、頑固でわがまま、しかし、関羽と張飛が惚れこむ、器の大きさを持っている劉備。人一倍悩んだり苦しんだりしながら、大きくなっていきそうな、人間くさい劉備のこれからが楽しみです。尚、物語の中には、有名な「桃園の誓い」は登場しません。義兄弟の誓いは、劉備の家の中で行われます。 >> 続きを読む
2021/05/04 by dreamer
角田光代 (2012/03)
女性がつく主婦業に鬱屈している現代らしい物語。だからこそ女性は働きに出るわけで、欲望や衝動は時に理性の歯止めが利かなくなる瞬間が描かれている。結婚して幸せいっぱいの主婦業をしていた梨花だが、次第に退屈な日々に。働き始めることを決めたのは銀行の行員。そこで顧客の勧誘を受け持ち、次第に仕事は軌道に乗っていく。冒頭から金を持ち逃げしたことを明かしており、いかにしてこのような事態になったのか。大金を見ると夢想するというが、そのまんま行動に移してしまった場合、悲劇しかないことが分かる。ただ反省やその後を見せずに留まっているのは、夢の終わりを見せないためなのかも。ひと時の夢は醒めないでくれと誰もが思うものだから。 >> 続きを読む
2019/09/22 by オーウェン
群ようこ (2011/05)
なんだか最後の最後でじわーときました、私は。これまでバリバリに、しかし派手で接待ばかりの仕事をしてきたキョウコは仕事に対する虚しさからと母親との折り合いの悪さからで、45歳にして実家を出て、れんげ荘でひとり暮らしを始める。無職で、これまでの貯金を切り崩す生活。一見「大丈夫かな?」と心配になる設定だけれど、私はキョウコに一本の筋が通った強さを感じた。きちんと物事を自分で考えて自分で選び取っていく強さ。他人の目ばかりを気にして、他人の価値観で生きる母親と、キョウコは本当にうまく離れたと思う。人生で関わってはいけない人っているけれど、それが身内だと、関わらないでいることは難しい。しかし、この母親はキツイな~。れんげ荘のお隣、クマガイさんと、キョウコのお兄さん一家の地に足をつけたようなしっかりさがまた救われる。もしかしたらキョウコはこのまま、とはいかずにまた働かないといけなくなったりするかもしれないけれど、キョウコなら大丈夫なんじゃないかと思えるラストシーンでした。 >> 続きを読む
2022/01/25 by URIKO
井上荒野 (2011/09)
書店で見かけて気になっており、読書ログのレビューが面白そうだったので、いよいよ読みました。ご飯がおいしそう過ぎて困ります。惣菜屋さんのおばちゃん3人それぞれ事情があって、という話ですが、とてもよかったです。ええ、とてもよかったです!3人の一人の元旦那・白山がかなりの曲者だと思いました。自覚のない罪な男というか、こういうの一番性質悪いですね!悪者になりたくなくて、優しさを振りまいて元妻の気持ちをキープして、今の奥さんと元妻のどちらも苦しめるタイプだ。幼馴染に恋するひとりのかわいらしさは好きでした。うんと年上の女性にかわいらしいも何もないのですが、ツンデレがデレたときの破壊力たるや。しかしこの幼馴染も甘えた坊ちゃんである。もう一人が一番まともなのかと思いきや、彼女も彼女でなかなか。まともな顔をして闇が深いのか。誰もがそれぞれ歴史を持っていて、振り返れば引っ張り出す過去はひとつやふたつじゃ済まないものだなぁ、というのがわかってくるのはハタチすぎてしばらく経ってからです。振り返ることが多いのは基本的にいいことだ、と思います。いい思い出であれ、悪い思い出であれ。年を取るのも悪くはなかろう。60なんて、まだまだこれからですけどね。ちなみに私は、キャベツ炒めは塩派です。 >> 続きを読む
2016/06/05 by ワルツ
湊かなえ (2012/04)
市議会議員の選挙アルバイトを始めたことがきっかけで、議員の妻となった私は、幸せな日々を送っていた。激務にも関わらず夫は優しく、子宝にも恵まれ、誰もが羨む結婚生活だった。だが、人生の落とし穴は突然やってきた。所属する党から県義会議員への立候補を余議なくされた夫は、僅差で落選し、失職。そこから何かが狂いはじめた。あれだけ優しかった夫が豹変し、暴力を振るうようになってしまった。思いあまった私は…。絶望の淵にいた私の前に現れた一人の女性――有名な弁護士だという。彼女は忘れるはずもない、私のかけがえのない同級生だった…(「ムーンストーン」)。湊かなえさんが角川春樹事務所の月刊誌『ランティエ』に2010年から2012年の間に発表した短編を纏めたものです。タイトルをすべて宝石で統一した、それにまつわる物語の数々。短編集としては、珠玉の逸品です。さすが湊さん、ストーリーテラーぶりは抜群で、後半3作はため息とともに読み終えました。素晴らしい出来ばえです。短編7本。前述したようにタイトルはすべて宝石名です。特に印象深かったのは、冒頭であらすじを引いてきた『ムーンストーン』。それから『ダイヤモンド』。愛する美和の為に、高価なダイヤモンドの指輪を贈った古谷治は、レストランを出た瞬間にゴンっという鈍い衝突音を聞きます。足元には、レストランの綺麗なクリアガラスに誤ってぶつかってしまった雀が一羽。後からでてきたオバサン連中に蹂躙される前に雀を救い上げた治は、優しく雀を蘇生させ、ハッと我に返ったその雀はまた慌てて飛び去っていくのでした。治はつつましい暮らしを送っていました。家賃4万円の狭い部屋にひとり暮らし、仕事は薄給の自動車整備工で、楽しみといえば寝る前の安酒での晩酌。そんな毎日を変えたのは、ほんの軽い気持ちで出かけたある婚活パーティーでの運命的な出会い。山城美和は、まさに治の理想の女性でした。パーティーの席上から意気投合するふたりは、すぐに交際をする約束を交わします。聞けば美和は日中は仕事、夜は苦学をしながら栄養士をめざし学校にかよっているとのこと。だから、夜はふたりのデートはなし。「たくさん美味しいお料理を治さんに食べさせてあげたい、それまでの我慢」と言われ、治は苦しい美和の学費を援助してあげることにしたのでした。そして、今日はダイヤモンドの指輪。徐々に具体的に“結婚”を意識し始める治でしたが、ある夜半、ドアチャイムを鳴らす訪問者が。「寂しいから来ちゃった…なんて、ないよな~」と、期待半分で安普請のドアを開けると、そこには見知らぬおかっぱ頭の少女が。「私はあなたに助けてもらった雀です。お礼がしたくて人間の姿になってやってきました」。頭のおかしい女だと思った治は、適当にあしらって帰らせようとするのですが…。鶴の恩返しならぬ、雀の恩返しという設定も愉快です。登場する雀の化身が、湊さんの登場人物らしくなくかわいらしい。茶色いワンピースと黒いズックのおかっぱの少女です。治がたのみごとをすると、胸を張ってニッとわらい、右の親指をグイッと立ててみせる。最後は湊さんらしくダークなラストですが、とてもかわいらしい楽しい物語でした。後半2編だけは連作になっており(『サファイア』、『ガーネット』)、こちらはイヤミス女王湊かなえの面目躍如、因果応報の物語です。『往復書簡』もそうでしたが、意外と湊さんはハッピーエンドがお好きですね。作中は登場人物たちをこれでもかと苦しめますが、読後はとても爽やかで、さて、また次作を読もうか、という気にさせてくれます。人気作家たる所以ですね。 >> 続きを読む
2015/04/03 by 課長代理
小路幸也 (2012/11)
すべてが出来すぎな感のある高校野球小説です。 第一人称者というか物語の語り手がいろいろ入れ替わるのですが、 だれの章でも文章が軽い。 読みやすさを意識したのか、 高校生の語り口を自然に表現したかったのか、 おそらく双方だと思いますがいかにも軽いです。 そのライトさと 現実にはありえない超能力級の身体能力をもった選手の活躍や 彼らの大部分に共通する悲しい過去と それらもひっくるめて守ろうとする大人たちの想い なんかに乗せられて、 あっという間に読み終わってしまいます。 なかなか面白いのですが、 あまりにも軽いので★3つです。 >> 続きを読む
2017/06/29 by kengo
高田郁 (2010/03)
3巻目。佐兵衛の行方探しの進展、野江とのひとときの逢瀬、末松の阿漕で卑小な偽つる家、幼い弟へのふきの思い。もう、読む手が止まらない。佐兵衛失踪の事情が、虚実入り混じるも分かったのは収穫だったが、兎に角、富三に虫酸が走りどおしだった。そのさらに上をいく卑劣漢・末松。どうしたら、ここまで下衆を極めることが出来るのか?一方で、野江と少しずつ縮まる距離、奉公せざるを得ない境遇で懸命に生きる姉弟の絆。困難と人情や愛情の配分の塩梅が絶妙!ご寮さん、種市はもちろん、りうさんの醸すひたすら暖かい優しい、それでいてピリッとした風味も絶佳。駒繋ぎの花の良さがしっかりわかる小松原。ただ会えるだけで、話すだけな二人にドキドキする。いいなぁ。 >> 続きを読む
2017/11/10 by ももっち
高田郁 (2010/09)
5巻目三方よしの日が好調なつる屋。これは澪の勝負どころの巻だ。清右衛門との賭けと登龍楼との勝負。そして小松原の御母堂の登場。伊佐三の浮気疑惑。読み応えばっちりすぎる!共に恋する乙女の美緒のいじらしさ。澪の手を怪我した不注意の原因。伊佐三を追うお牧。全て片恋に焦れ、切ない懸想のなせる所業!料理への垂涎もさることながら、こうゆうのがいい!太一を思う、おりょう夫婦。本当に家族って遺伝子だけじゃない。清右衛門の憎まれ口も好き。辛辣な言葉は照れ隠しかと思ってしまう。傑物たる小松原の御母堂は、なんとも格好いい。身分違いであるけれど、小松原と両想いの可能性が!源斉の澪への好意もあからさま。ああ、くすぐったい。 >> 続きを読む
2017/11/11 by ももっち
高田郁 (2011/08)
6巻目全てが上手くいくことの難しさ。ある面ではいい話でも、他の面では望むとおりにならない。人情や暖かさや、恩義、切望、夢。幸せになる道は、今迄の宝物を手放さないと進めない。本来ならば、幸運とも言える選択肢が、数多のしがらみで選べない、苦悩が充分わかっていても、歯痒くてしょうがない。天満一兆庵の再興にも繋がっていた伝右衛門の誘い。種市、ふき姉弟に願ってもない登竜楼の持ち掛け。迷いを吹っ切ってくれたりう。自らが求め極めたい料理の道は時に澪を助け、時に困難をもたらす。早帆への料理指南から始まる、小松原との縁談。思いが叶うことは、そんな単純ではない。小松原のさりげない求婚と、源斉の消沈。キュン死するかと思った。 >> 続きを読む
2017/11/12 by ももっち
高田郁 (2012/02)
7巻目(ネタバレあり)自ら料理の道を選んだことを小松原に告げる澪。敢えて悪者に徹する小松原の優しさが切ない。自分らしく生きる道を歩く時も、大切なものを諦めねばならない。胸が締め付けられるように辛い。恋に倦み、番付から外れ、料理でも混迷し、憔悴しつつも懸命に奮闘し、新たな味を生み出す澪に追い打ちをかける輿入れの情景。嗅覚と味覚が麻痺した澪の助けに来た又次が、つる屋の面々や客との触れ合いの日々で心が解れていく様が わずかな明るみだったのに、その未来は吉原の火事で焼失してしまった。思う野江を守るために。悲しい。止まらぬ涙が溢れる。 >> 続きを読む
2017/11/13 by ももっち
高田郁 (2013/05)
8巻目激しく降った雨も止み、ようやく晴れ間が見え始めたような心地だった。つる家の一員となった又次の喪失。それぞれの胸中で繰り返される悲しみと思い出。切ない寂寥。皆、面影を抱いて、前を向き進み出すのだ。思いがけぬ太一の才。佐兵衛の行方がようやくわかるも、名も料理の道も捨てる事情が、芳との再会を妨げるのがもどかしい。意に沿わね登龍楼との賭け。澪は何故承知してしまうのか?卑劣な奸計に他ならないのに。そして産み出された鼈甲珠。苛ついた分、澪の啖呵に溜飲が下がる。さらに、なんて嬉しいのだろう!お似合いでは?と思っていた柳吾の芳への求婚。動き出す。明るい方へ >> 続きを読む
2017/11/15 by ももっち
群ようこ (2013/06)
いわゆる私生児として生まれたアキコは母を亡くし、ひとりでサンドウィッチとスープを出すお店をやっていこうとする。建物自体は母が営んでいたお店をそのまま使うものの、母とは全く違うお店を開店し・・・。しまちゃんを雇ってお店を営みながら、母やその知人から聞いた話を元に、父親だと思われる人のお寺に行ってみたり、ネコのたろちゃんが亡くなったり、アキコの日々が続く。父親と思われる人のお寺には兄と思われる住職とその妻がいて、アキコは身元を明かすわけでもなくその寺を訪れ、「兄かもしれない」などと思うところがイマイチ腑に落ちなかったのだけれど、たろちゃんを亡くした辛さを義姉と思われる住職の妻に語ることろで、なんか腑に落ちた。やっぱりたったひとりの肉親の母を亡くし、愛ネコを亡くしたアキコには、そういったことが必要だったのかな、やっぱり淋しいよね、そりゃそうだ、と。続編があるようで、まぁ、そのうち読めたら読もうかな、くらいの読後感。 >> 続きを読む
2022/02/03 by URIKO
高田郁 (2014/01)
道を極める先には数多の到達点がある。柳吾に研鑽を受け洗練した技を得て至高を求める道を行けば、野江の身請けも容易くなろう。澪の自らの道への意固地な拘りに、私などは焦れてしまう。淋しくなるはずのつる家。澪と芳の後任の心強さに安堵し、ふきの料理人としての成長を頼もしく思う。鼈甲珠の商いで野江の身請けは叶うのか。商いの無知を克服し成し遂げねばならぬ澪の先行きが心許ない。佐兵衛を助けたお薗の献身を辛苦を味わったご寮さんがわからぬ訳がない。一家との融和と芳の婚礼。嬉しい。何よりも澪が源斉への思いに気付いたことに感動! >> 続きを読む
2017/11/19 by ももっち
小松左京 (1997/11)
数十年ぶりの再読。Tレックスがこの地を凌駕していた白亜紀から始まり、未来まで十億年もの時間軸を舞台にする壮大な物語。ネット社会も、SNS社会も存在しない半世紀も前に書かれた作品なのに、現代に通じるテーマ性が多角的に描かれているSF界巨匠の創造力の奥域に改めて驚愕。ジョージ・オーウェルの『1984年』と同様に一時代を飛び越えて、未来の人々を刺激して止まない人類の叡智こそ宇宙の神秘かも。初独時は、宇宙の存続を賭けたプログレッシブなタイムトラベラーと、歴史改ざんを阻止するコンサバティブなタイムパトローラの時空を超えた攻防戦という活劇タッチに魅了されたが、年を積んだ今は、さまざまな時代に生まれて消えてゆく人間そのものが星のような宇宙のメカニズムの一片のような哲学的な小説に思えた。 >> 続きを読む
2019/09/21 by まきたろう
北方謙三 (2001/06)
北方〈三国志〉第2巻「三国志 二の巻 参旗の星」を読了。漢の都・洛陽は、焼く尽くされ、董卓は、帝を連れて長安へと遷都。その暴虐ぶりは、一層ひどくなります。王允が持つ密勅を奪い取るように、自ら董卓を討つ呂布。しかし妻・瑶のために討ったにも関わらず、董卓を追うように妻は亡くなり、呂布は、結局麾下の500騎を連れ、王允が治めるようになった長安を抜け出すことに。その頃、曹操は、鮑信の要請に応え、100万をも越えた青州黄巾軍に向かっていた。2万の手勢に劉岱の残兵をかき集め、自ら先頭に立って、夜も昼も執拗に攻め立てる曹操。そして遂に、僅か3万の兵で黄巾軍を下すまでに。孫堅は、流れ矢に当たって戦死、長男・孫策がその跡を継ぎます。劉備は、徐州、予州の賊徒平定で軍功を立て、私心のない徳の将軍として、その名を知られつつあった。孫策は、父・孫堅が発見した伝国の玉璽を渡して袁術から独立。曹操の動きが一番大きく感じられる、この第2巻。第1巻の時から登場していた曹操の間者「五鈷の者」。石岐を頭に5人ずつ5組となって動く集団で、その報酬は、曹操が天下を取った後に、各郡に一つずつ浮屠(仏教)のための建物を建てて欲しいということ。日頃、宗教を嫌っている曹操と、この五鈷の者たちの関係が面白いですね。石岐は、曹操が宗教嫌いだからこそ、一つの宗教にはまりこんでいく危険がなくていいと言います。浮屠という宗教は、他の宗教の存在も認め、ただ心の平安のみを得ようとする宗教なんですね。曹操が、太平道や五斗米道といった他の宗教と手を結んでも、石岐にとっては問題ではありません。それに対し、宗教に関しては理解不能といった態度の曹操。これがまた、曹操という人物像によく似合っていますね。そしてこの第2巻では、「信仰は心の中のものだ。教義を振りかざし、徒党を組み、戦をなすならば、それは許さん。----帰農して、日々の生活の中で、心穏やかに信仰の心を全うするかぎり、邪魔はせぬ」という考えを改めて示しています。袁紹を見限って曹操の元へやって来た荀彧が、とてもいい味を出しています。文官の荀彧ですが、曹操の与えた数々の難題を命がけでこなし、武官以上に男ぶりを上げています。そんな彼と対照的なのは、劉岱の遺臣であった陳宮。彼に関しては、あまりいいところがありません。曹操は、陳宮の能力を認めてはいるのですが、なんとなく織田信長にとっての明智光秀のようなイメージ。しかし実際には、陳宮が曹操を見限った理由が、曹操は「万能の王たらんと望んでいる」ためというのがまた面白いですね。ただ、呂布は、結局、王允に利用されたかのように董卓を討つのですが、王允に関してはどうなのでしょう。呂布側から見ていると、董卓を討つまでの流れはとても自然なのですが、王允側に関しては少々ひっかかりを感じます。それまで足繁く通って来ていたのが、急に使者をよこすようになる場面など、一言、王允の言い訳が入っていれば、簡単に納得できたと思うのですが。 >> 続きを読む
2021/05/05 by dreamer
佐々木譲 (2004/12)
警察小説をまた読むのにまたちょっと覚悟が必要だった。 でも、面白かった!。 たしかに殺人事件は起きるんだけど、強姦殺人とか、子供を殺すとか、そういう私が苦手な部分が無かったのと、どちらかといえば、人間の良心に重きが置かれているので。 組織が一枚岩ではない事が救い。無実の仲間を殺されてたまるか!という気概。長い者に巻かれて、あわよくばおこぼれにあずかろうという人は必ずいるし、自分の保身の為に人を切り捨てる、というのは警察に限った話ではないと思う。隠蔽とか捏造とかも、現実にあり得るけど、それ、おかしいですよね、って思う人も絶対にいるはず。それに立ち向かうのは相当勇気がいるけど、その希望がこの小説にはあった。 もっと色々な見方ができると思うけど、ど素人のただの読者が完全に趣味として読書をする分には、面白いの一言。変なストレスが無く、読み切れた。 >> 続きを読む
2018/05/26 by チルカル
樋口明雄 (2006/08)
20億の現金を積んだヘリが、南アルプスで墜落した。マフィアの幹部で日系中国人の功刀は、ある想いを胸に山へと足を踏み入れる。だが、その後を、殺された部下の敵として彼を付け狙う刑事・尾方と黒社会の殺し屋・揚が追っていた-------。この樋口明雄の「クライム」は、死と隣り合わせの雪山歩行を描いた、山岳小説の思わぬ拾いものの作品だ。これだから読書はやめられませんね。この題名の「クライム」には、犯罪小説と山登りの二つの意味が重ねられていると思う。物語の後半を占める、この著者・樋口明雄の本領とも言うべき、雄大な大自然を舞台にした追跡行は圧巻だ。この作品で描かれているのは、"自己の再生"への切り札として犯罪の道を選んだ人間だ。再生を希求しながら、犯罪の闇に堕ちるアンビバレントな姿には、社会との関係を超えた"個の理念"が凝縮されていると思う。つまり彼らは、現実社会にはびこる無軌道な犯罪者とは全く異質な存在なんですね。この作品は、濃密な犯罪者の心理に踏み込んだ最上のクライム・ノベルであり、一気読み必至のエンターテインメント作品になっていると思いますね。 >> 続きを読む
2018/05/01 by dreamer
群ようこ (2012/04)
母とふたりで生活していた女性が、母の死をきっかけに勤めを辞め、母が営んでいた食堂を改装し、自らのやりたいと思った雰囲気の飲食店を始める。お店を始めたすぐあと、近くで雨に濡れて震えていた子猫を飼い始める。女性が自らの出生や、仕事などで悩みを抱えつつも、周りの人々やネコに感謝しながら、生活する日々のお話です。とても穏やかな空気感の小説でした。 >> 続きを読む
2015/04/18 by いちペン
石持浅海 (2013/03)
就労中の怪我を隠したことで、労働基準監査の視察が会社に入ることに。何とか穏便に済まそうとする社員たちだが、倉庫で過労死のような社員の死体を発見してしまい窮地に。労災の基準だとかがかなり詳細に描かれているが、そこではなく監察官と社員がいかにバレるかどうかの丁々発止が描かれる。社内を見回ったり、社員への聞き込みが、最終的には死体になった社員へと行きつくことに。そしてなぜこうなったのかが推理される。小説としてはかなり地味な部類だが、短くてスラスラ読める中身です。 >> 続きを読む
2018/10/21 by オーウェン
【(株)角川春樹事務所】(カドカワハルキジムシヨ) | 読書ログ - 読書ファンが集まる読書レビューサイト(出版社,発行所)
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